H32・H34の両部隊で構成されるクーデター艦隊の司令官プラト少将。激烈な性格の烈将として知られており、穏健派の多い第八艦隊の中では異色を放っている。宇宙海賊からの攻撃で戦闘不能になった自艦から乗員全員を退艦させ、自ら舵を握って宇宙海賊の旗艦に体当たり攻撃を行って沈めたことは、今や伝説の一つとなっている。そんな烈将のプラト少将だが、その性格からは想像できない威力偵察に、ルーデンドルフ艦隊司令部は手を焼いていた。
「今度こそ、全力を挙げて斬り込んでくるのではないか」
と身構えて守りに徹してしまう。すると、プラト艦隊は、そんなルーデンドルフ艦隊をあざ笑うかのように、すぐに撤退してしまうのだ。今回も、プラト艦隊は威力偵察を仕掛けてきた。
「左舷10時の方向に敵艦隊。急速に我が方へ接近中」
戦艦“ダーラン”の艦橋で情報長が叫ぶと、艦内は一気に緊張の渦に巻き込まれた。相手は烈将の誉れ高いプラト少将。軍人の本懐を遂げるには最高の相手だ。よほどのことがあっても冷静さを保つG13部隊司令官のセネル准将だが、高揚する自身の心を抑えることはできなかった。
「司令長官閣下の作戦に従い、我が艦隊は敵クーデター艦隊を迎撃する。総員、第一種臨戦態勢!」
「はっ」
セネルの命令をうけ、作戦参謀が各艦に伝達を始めた。セネルの命令は続く。
「全艦、敵艦隊へ向け最大戦速で突撃する。突撃準備、はじめ」
「取舵。総員、急加速に備えよ」
戦艦“ダーラン”の航海長が叫ぶ。G13部隊は、旗艦“ダーラン”を先頭にして突撃を開始した。これまで防戦一方だった火星共和国軍艦隊が、思いもよらぬ攻勢に出てきたので、クーデター艦隊は動揺したようだった。
「敵艦隊、我が艦隊の射程内に入りました」
砲雷長が報告を上げた。それに応じてセネルは厳かに下命した。
「総員、対艦戦闘用意!全艦、撃ち方始め!」
「主砲、斉射。撃て!」
セネルの命令を受け、戦艦“ダーラン”艦長ヴォルティ中佐が絶叫した。G13部隊の艦艇はクーデター艦隊目掛けて、ビームやミサイル、砲弾をぶちかました。クーデター艦隊も応戦を始め、クーデター艦隊のビーム砲撃が何度も“ダーラン”をかすめた。それでもセネルは、更なる前進を命じる。
「怯むな。撃って撃って撃ちまくれ」
「敵との距離が遠すぎる。もっと速度を上げろ」
G13部隊による攻撃の圧力に抗しきれず、前進するクーデター艦隊の速度は鈍った。時間とともにクーデター艦隊は停止し、やがて後退を始めた。それに追いすがるG13部隊。攻撃開始から二時間ほどが経過した。丁度この頃に、クロノス第二港湾は一通目の通信文を受け取っている。情報参謀からクーデター艦隊との距離を確認したセネル司令官は、次の命令を出した。
「各艦のモビルスーツ部隊、出撃準備」
「はっ」
セネルの命令が、パイロットたちが詰める待機所に伝達された。
「モビルスーツ隊、発進準備急げ」
「準備が整った機から順次出撃せよ」
G13部隊の各艦からは、ミサイルとビームがひっきりなしに斉射されている。クーデター軍はG13部隊の肉薄攻撃に押され後退を続けているが、それでも懸命に応戦を続けている。G13部隊がクーデター軍との距離を縮めていることもあって、これまでかすっていただけのお互いが繰り出す拳が、次々と相手の懐に突き刺さっていく。
「駆逐艦“サーベ”に直撃弾」
G13部隊旗艦“ダーラン”で悲鳴が上がると同時に、“ダーラン”の右翼に展開している“サーベ”が大爆発を起こして轟沈した。その轟沈と同時に、
「H32部隊の駆逐艦2隻が爆沈!」
との報告も入る。さらに、
「H34部隊の軽巡洋艦“デルベント”に、本艦の攻撃が命中。“デルベント”左舷に爆発を伴う火災を確認」
G13部隊の攻勢に押され、クーデター軍の被害が膨らんでいる。だが、これは一時的なものに過ぎない。ロニーから説明を受けているセネルは、そのことを心得ていた。
「まだまだこれからが正念場だ。攻撃を強化して相手に考える隙を与えるな」
「モビルスーツ隊の出撃準備が整いました」
セネルの号令を受け、作戦参謀が報告を上げる。セネルは立ち上がって指揮棒を振った。
「モビルスーツ隊、順次発進せよ。モビルスーツ隊の射出を各砲座に通達」
「了解」
セネルのモビルスーツ発進準備命令から一時間が経過した頃、彼我の距離が、モビルスーツの機関出力でも相手に届くほどにまで縮まっていた。セネルの出撃命令は、絶妙なタイミングだった。防戦一方になっているクーデター艦隊は、モビルスーツを発進させるタイミングが遅れた。G13部隊のモビルスーツが全機発進した頃も、クーデター艦隊はまだモビルスーツを出撃させていなかった。
対艦戦を想定して、G13部隊のモビルスーツ隊は全機ビームバズーカを装備している。寸法と質量が大きくモビルスーツの機動性を著しく損ねるが、威力は絶大だ。クーデター艦隊に接近して、次々にビームバズーカを撃ち込む。撃沈、大破したクーデター艦隊の艦艇名が、G13部隊旗艦“ダーラン”に告げられる。モビルスーツ隊によるクーデター艦隊への攻撃が始まってから、一時間以上経過した。セネル艦隊の優勢が続いていたが、セネルの表情は険しいままだった。
「H32の“ニガマ”は、まだ沈まんのか!」
ロニーがセネルに説明したクーデター艦隊の行動予測は、こうであった。これまで消極的だった共和国艦隊が突然積極的に迎撃を始めたので、予想外の行動に不意を突かれたクーデター艦隊は、G13部隊による攻勢が、火星共和国艦隊全軍によるものか、G13部隊独断によるものか、様子を見るために後退をする。もし、全軍によるものであれば、数で著しく劣るクーデター艦隊は撤退を余儀なくされる。だが、実際は第二任務部隊による単独行動なので、G13部隊以外の火星共和国艦隊は動かない。共和国艦隊全軍が動かないことを確認したクーデター艦隊は、数で劣るG13部隊の殲滅のために攻勢に転じる。
クーデター艦隊を攻勢に転じさせないためには、H32部隊旗艦“ニガマ”を撃沈させることが重要だ。旗艦が沈めば、H32とH34の両部隊を統合する要がなくなるので、組織的な抵抗が困難になる。セネルは、是非とも旗艦を撃沈したかった。だが、
「敵艦隊の防御陣が厚く、突破できません」
「敵艦隊、モビルスーツの射出を始めました」
「敵艦隊、前進を始めました」
G13部隊が制宙権を確保し、クーデター艦隊のモビルスーツ射出を妨害してきたのだが、クーデター艦隊は犠牲を払いながらも多くの艦艇からモビルスーツを射出させた。G13部隊は戦艦を擁しているとはいえ一個戦隊にすぎず、クーデター艦隊は二個戦隊。G13部隊によるモビルスーツ隊の攻撃が始まって二時間が過ぎた頃には、これまで攻勢であったG13部隊は、徐々にクーデター艦隊に押され始めていた。
「右舷被弾」
敵重巡洋艦の主砲が、戦艦“ダーラン”に突き刺さる。戦艦は装甲が厚いので小破に止まったが、クーデター艦隊は落ち着きを取り戻しつつあるようで、その射撃は正確さを増していっていた。モビルスーツ同士の接近戦も、重装備のセネル部隊の方が不利だった。
「味方モビルスーツの損耗率、30%に達しました」
「駆逐艦“コルベ”撃沈」
味方に不利な情報が、G13部隊旗艦“ダーラン”にもたらされる。もはやこれまでか、とセネルが思ったそのとき、敵味方を問わずに全艦のメインモニターが切り替わり、ある人物を強制的に映し出した。
「火星に展開する全ての艦船に告げる。私は、火星自治共和国軍第二任務部隊司令長官ロニー=ファルコーネである。我々は、クロノス宇宙ステーションの全機能を完全に掌握した。第二港湾は徹底的に破壊され、クーデター艦隊の帰る港は、もはやこの世には存在しない。クーデター艦隊は、速やかに武装を解除して降伏せよ。繰り返す、プラト艦隊は速やかに武装を解除し、我が軍門に下れ」
仮面の士官が厳かに宣言した。それを受けてか否か、クーデター艦隊は前進を止めた。いや、前進する部隊と後退する部隊が現れた。指揮系統に混乱が生じた。敵がさらけ出した隙を、セネルは見逃さなかった。
「全艦、敵艦隊へ向け一斉砲撃。撃て」
一隻の宇宙戦艦と二隻の宇宙巡洋艦、三隻の駆逐艦を中心とした大小11隻の艦艇が、ありったけのビームとミサイルをクーデター艦隊に浴びせかけた。クーデター艦隊の混乱は更に拡大した。そこに、
「クロノスの方向から、大型艦一隻と多数のモビルスーツを確認。味方です」
戦艦“ダーラン”は歓声に沸いた。第二任務部隊の完全勝利は、もはや疑いようが無かった。