機動戦士ローガンダム   作:J・バウアー

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PHASE 1(4)制圧

「第二港湾は徹底的に破壊する」

 ロニーの決意は宇宙戦闘母艦“ヴィーザル”の総員に徹底された。“ヴィーザル”の主砲以下全ての砲座から、そして“ヴィーザル”の左右に展開するモビルスーツ部隊から、間断なくビームやミサイル、砲弾が撃ち込まれる。第二港湾は、サンドバックにされた無防備に立ち尽くす瀕死のボクサーのように滅多打ちにされ、至る所で爆発による閃光が放たれていた。

「もう、“アプカル”の来援は必要ないだろうな」

 その様子をロニーは、宇宙戦闘母艦“ヴィーザル”の司令官席で眺めていた。各所で引き起こされている爆発の閃光が艦橋内を点滅させる。そこに、第二任務部隊参謀長のカタリナ=トスカネリ中佐がやって来たので、ロニーは彼女のほうを振り返った。

「本艦とG13部隊の中間地点で待機しているルッカ大佐に連絡。アプカルは至急、G13戦隊の援護に向かうように。そして、ラモン大佐に連絡。ヴィーザルは攻撃を強化して第二港湾の破壊を徹底。クロノス宇宙ステーション本体の占拠に当たるように」

「了解しました。ところで、ラモン艦長から問い合わせが入っています。第二港湾から脱出する、敵の救命艇が多数あるようですが、いかが致しましょうか」

「着の身着のままで逃げ出す連中なんか放っておけ。ただ、こちらに投降する連中がいたら、みんな受け入れてくれ。くれぐれも、投降者保護プログラムの実施を疎かにしないように」

「了解しました」

 カタリナは敬礼を施すと、自分のデスクに座って受話器を掴み、“ヴィーザル”と“アプカル”の艦長に司令長官の指示を伝えた。“ヴィーザル”の司令部エリアにいるのは、ロニーとカタリナの二人だけだ。作戦参謀のハムザは、ロニーからの別命を受け“アプカル”に乗り込んでおり、この場にはいない。

 やがて、“ヴィーザル”による苛烈なる攻撃により、第二港湾は三つに引きちぎられ、中心部にあるエネルギー貯蔵庫に攻撃が引火した。巨大なヘリウム爆発が何発も発生。総攻撃から1時間もしないうちに、クロノス宇宙ステーション第二港湾はこの世から消滅した。

 一連の作業を済ませたカタリナは、受話器を置いてロニーの方を振り返った。

「ロニー提督。ひとつお尋ねしてもよろしいですか」

「私に答えられることであれば、いいよ」

「ありがとうございます」

 優しく答えてくれたロニーの瞳をじっと見て、カタリナは一呼吸を置いた。

「第二港湾をこんなに徹底的に破壊することに、何か訳があるのですか」

「そうだね。理由は二つかな」

 カタリナの疑問に、ロニーは淡々と答え始めた。

「一つは、宇宙空間でのクーデター軍の拠点を消失させること。第二港湾が消滅したら、今後クーデター軍は宇宙空間で軍事活動ができなくなるばかりか、情報収集活動も著しく制限される。極端な話をすれば、我々共和国軍が宇宙空間で何をしても、クーデター軍は分からなくなるというわけだ。さらに、クロノスはクーデター軍の拠点であるウラノスの表玄関になっているから、ここを押さえられてしまったらクーデター軍の経済活動は著しく制限されるだろう。それともう一つは、プラト艦隊に修復不可能な心理的敗北感を与えること。プラト艦隊とは戦力が拮抗しているので、まともに戦ったらこちらも相当な被害を覚悟しなければならなくなる。それは、できるだけ避けたい。短期間で勝敗を決するためには、相手に巨大な心理的ショックを与える必要がある。それには、第二港湾を徹底的に破壊することはうってつけだ。たとえ満身創痍で勝ったとしても、帰る場所が無い。これは相当応えるはずだ」

「下手に占拠でもしてしまったら、プラト艦隊が全力で取り返しに来てしまいますよね」

「そうなったら、こちらも相当の損害を覚悟しなければならない。我々には、クロノスのために割く労力はない。クロノスよりも作戦の第三段階の方がはるかに大事だ」

「作戦の第一段階成功に貢献したセネル艦隊と“アプカル”に、休息をお与えにはならないのですか」

「休息は与えるさ」

 ロニーは意地悪そうに口元を緩ませた。

「ただ、与えるとしても、睡眠込み一日が関の山だね」

「それは短いですね。ハムザ少佐あたりが、三次元フットサルができるくらいの休日をよこせと言いそうですけど」

「前半戦くらいはできるだろ。まぁ、それよりも」

 ロニーは、司令官席の肘掛けに肘を乗せ、顎を右手に乗せた。

「クロノスの制圧に、どれくらいの時間がかかりそうだ」

「そうですね。閣下のご希望は、どれくらいですか」

 カタリナは笑顔で、さりげなく問いかけに対して問いかけで答えた。上官に対して失礼極まるのだが、ロニーは気にも留めていないようだった。

「そうだな。半日で制圧、睡眠込みで一日休息、制圧後の残務処理で一日を過ごしたら、すぐにでも火星に降下したい」

「せっかちですね。プライベートをのんびり過ごされる閣下とは思えませんわ」

「私は、自分に甘く人には厳しいんだ」

「それは前から知っています。何の前触れもなく、いきなり枢密院本会議に出席させられた経験がありますから」

 真正面からじっとカタリナはロニーを見詰めた。思いがけない反撃を受けて、ロニーは司令官席で仰け反った。

「そんなに恨まんでも。たかが数人しか出席しない会議じゃないか」

「たかがって。そう思っているのは閣下だけだと思いますわ」

「まぁ、それはいいとして、火星の衛星軌道全域に宣言を出すから、準備を始めてくれないか」

「了解しました」

 カタリナは笑顔で敬礼を施し、この場から退出した。カタリナの後姿を苦笑しながら見送ったロニーは、連鎖爆発が続く第二港湾の残骸に再び視線を移した。

 

 第二港湾の完全破壊を完了させた宇宙戦闘母艦“ヴィーザル”は、宇宙ステーション“クロノス”に通信を送った。内容は、こうであった。

「宇宙ステーション“クロノス”は、20分以内に本艦入港の誘導を始めよ。20分を1秒でも遅れることがあれば、我々に敵対する意思があるものと見做し、速やかに制圧行動を開始する」

 通信文の原稿は、第二任務部隊司令長官のロニーが直々に作成した。操艦エリアに降りてきたロニーとカタリナを出迎えたラモン艦長は、ロニーから手渡された原稿を見て苦笑いを浮かべた。

「これでは我々は、ひ弱な市民を恫喝する悪の手先みたいですな」

「ひ弱な市民の皮を被ったクズどもだ。帝国主義の原理で動くクズどもの手先には、これでも手ぬるいくらいだ」

 ロニーは手厳しく断じた。

「まぁ、見ているといい。おそらく20分もしないうちに、クロノスからの誘導があるはずだ。被害者ぶった抗議をセットにしてね」

「万一に備え、白兵戦部隊の出撃準備をしましょうか」

 ラモンがこう提案したが、ロニーは手を振って拒絶した。

「不要だ。それよりも、“クロノス”管制センターの運営に責任を持つ課長級以上を全員拘束するので、その準備に当たるように」

「名簿もないのに、どうすれば」

 このラモンの疑問を受け、ロニーは口元を緩めた。

「誘導灯がともったら、管制センターの課長級以上の職員全員に、我々の出迎えに来るよう命令を出せばいい」

「それだけで大丈夫ですか。我々の命令を無視するかもしれません」

「それはない。我々と敵対した第二港湾がどういう運命を辿ったか。連中はその一部始終を間近で見ているからな。もし命令に従わなかい奴がいたら、そいつにも第二港湾と同じ運命を辿らせるだけだ」

「悪の手先どころか、悪の帝王みたいですな」

 しかも、旧世紀に流行った映画みたいに仮面と兜を被っているから、ロニーの悪者ぶりに拍車がかかっているなとラモンは思った。そんなラモンの憂慮なんか路傍の小石だと言いたげに、ロニーはつぶやいた。

「まぁいいさ。クロノスごときに恨まれようとも、私の知ったことではない。クーデター軍に対して積極的ではなくとも第二港湾の利用を容認した時点で、連中は我々に対して罪がある」

「了解しました」

 ラモンはロニーに敬礼を施すと、部下に指示を与えた。

 

 ロニーが予測した通り、布告の16分後にクロノスからヴィーザルに対して入港の誘導連絡が入り、一時間もしないうちに管制センターの責任者は全て拘束された。管制センターの一室を管制センター所長の取調室にして、ロニーは拘束された所長と向き合った。

「不当な拘束だ。速やかに我々を解放するように要求する」

 所長には恒例の手かせ足かせ口かせの三点セットが施され、椅子に座らされていた。良く言えば恰幅のいい体形、そして脂ぎった顔、黒い豊かな頭髪はポマードで固められた、40代中頃の中年男性だ。所長は大声でロニーのことを糾弾した。

「許可もなく第二港湾を破壊するばかりか、何の罪もない我々を拘束しクロノスを不当に占拠するとは、貴様は神にでもなったつもりか。いずれ政府が、貴様の暴虐に対して罰を与えるだろう。覚悟しておくのだな」

「言いたいことはそれだけか。下らんことをピーピーさえずりやがって。見苦しいにも程がある」

「下らんことだと。貴様は民主主義、法治主義を何だと思っているんだ。貴様のやっていることは、法治主義に対する反逆だ」

「法治主義?馬鹿かお前は」

 ロニーは仮面越しに冷たい視線を所長に突き刺した。

「法治主義を絶対のものとするためには、一つだけ条件が必要だ。それが何だか分かるか」

「法治主義は、何の前提もなく絶対のものだ。条件なんかあるか」

「そんなことを言っているから、お前は馬鹿なのだ」

 ロニーは嘲笑した。

「法治主義は、平和な状態でなければ成り立たない。究極の非日常である戦争状態となったら、そこにあるのは弱肉強食の原理だけだ。弱者は強者に生殺与奪の全てを握られる。ここクロノスは、クーデター軍と我が火星自治共和国軍との戦争の前線となった。その時点でクロノスには法治主義は存在しない。戦争の結果、我々が勝利した。敗者のお前たちをどうするかは、勝者である我々が決めることだ」

「そんなのは詭弁だ。貴様の詭弁なんか世間で通用するか」

「世間?何だそれは。世間とは何かを具体的に説明してくれないかね」

 ロニーは再び嘲笑した。

「法治主義を絶対のものにしたければ、死に物狂いで平和を守らなければならない。戦争を容認する奴は当然として黙認する奴も、法治主義を放棄したに等しい。戦争中にも法と良心があるなんてたわごとを夢想主義者どもが主張するが、それこそ詭弁だ。自らの生存権を守るために戦うならば、負けて全てを奪われ殺される覚悟をするのは当然だ。そんな覚悟もないのに、流れに流されるがまま戦争に引きずり込まれ、その結果負けて全てを失ったとしても、誰も同情なんかしやしない。開戦を決めた敗戦国の政治指導者は、より罪が重い。頑張りましたが駄目でしたという言い訳は、一切通用しない。何故なら、戦争を起こしたことで人命と財産を毀損した責任があるからだ。戦争によって人命と財産を毀損した責任は、弱肉強食の原理に従って敗戦国の政治指導者が背負うのが当然だ。平和を維持することもできず、戦争で勝つこともできない無能者の負け犬のくせに、権利だけはいっちょまえに要求する政治指導者どもなんぞ、くそくらえだ。ふざけるのも大概にしろ。お前たちは、クーデター軍に第二港湾を提供して我々に敵対した。お前たちは負け犬であるクーデター軍の一員だ。それを自覚しろ」

「我々は武器を持たない一市民だ。クーデター軍にどうやって立ち向かえばいいんだ」

「そんなの、責任者であるお前が考えることだ。私がお前に教えてやる義理はどこにもない。もし思いつかないのなら、さっさと辞表を書いてここから立ち去ってしまえばよかったのだ。責任を果たすこともできないくせに、責任者なんかを引き受けてしまった自業自得だ。せいぜい檻の中で、地位に固執したことを後悔するんだな」

「……」

 ロニーに断罪された所長は力なく俯き、黙り込んだ。

 

 宇宙ステーション“クロノス”の制圧は、半日もかからずして完了した。制圧を見越していたロニーは、ナイツェル財務卿に依頼して管制官や技師を、セラフィン内務卿に依頼して保安警察隊を連れてきており、管制業務と治安維持に当たらせることにした。やがて、宇宙戦艦“ダーラン”から通信が入ってきた。

「司令長官閣下にご報告申し上げます」

 宇宙戦闘母艦“ヴィーザル”操艦エリアのメインスクリーンに、敬礼を施しているG13部隊司令官セネル准将が映し出された。ラモンに代わって艦長席に座るロニーが答礼の手を下ろしたのを確認したのちに、セネルは敬礼を止めて言葉を続けた。

「宇宙空母“アプカル”の来援を受け、プラト艦隊の重巡洋艦2、軽巡洋艦3、駆逐艦3の撃沈に成功しました。逃亡した駆逐艦二隻については、追跡をしましたが取り逃がしてしまいました。申し訳ありません」

「重巡二隻撃沈ということは、旗艦“ニガマ”も沈んだのか」

「はっ」

「よくやってくれた。ありがとう。貴官を含めた皆の働きぶりについては、軍務卿にしっかり報告しておく」

「もったいないお言葉。光栄の極みでございます」

「“アプカル”を含めたG13部隊は、ダイモス駐留基地で休養をとったのち、作戦の第三段階に移る。私の命令は、作戦参謀のハムザ少佐に伝えてあるので彼の指示に従い、ルッカ大佐と協力して部隊の運用に当たるように」

「了解致しました」

 セネルは敬礼すると、メインモニターから姿を消した。セネルの姿が消えると、ロニーは艦長席で思いっきり伸びをした。

「制圧も完了したし、我々も休養に入るか」

「そうですね。一仕事終えて腹が減りました」

 ロニーの言葉を受けて、ラモンがじっとロニーを見つめた。

「いい年したおっさんに見つめられても、ぜんぜん嬉しくないんだが」

 ロニーは困惑した声を出す。それを受けて今度はカタリナがじっとロニーを見つめた。

「私だったら、いかがです」

「カタリナ中佐、ちょっと困るよ」

「私に見つめられるのは、そんなに迷惑ですか」

「いや、そういう意味ではなくてね。えーっと、どう言えばいいか…」

 カタリナに迫られたロニーは動揺して言葉がつまり、何やらごにょごにょ言い出した。武闘派で鳴る地球連邦軍統合参謀本部次長エンテザーム中将を相手にしても全く動じないロニーが慌てふためく姿を見て、カタリナはくすくすと笑い出した。

「仕方がありませんから、特上フィレステーキで許してあげますよ」

「と、特上…か。中佐がそれでいいのなら」

「高くつきましたな、閣下」

 ラモンが笑声を上げた。

「次は、私にもお願いしますよ。フィレステーキ」

「ラモン大佐は、ご自分の財布で食べて下さい」

 あっさりとロニーに願いを却下されたラモンは、自分の額をぴしゃりと叩いた。

「それは残念です。ですが、ネメシスへ帰った際には、ル・モンドのランチを楽しみにしていますよ」

「…うっわーっ。そうだった」

 地球連邦軍第三総軍総司令官代理大将に任じられた直後にラモンと約束したことを思い出し、ロニーは頭を抱えた。その様子を見て、ラモンとカタリナは笑い出した。作戦の第一段階は終了し、“ヴィーザル”は第二段階に移るまでのちょっとした平穏に包まれていた。




とりあえず、PHASE 1が終わりました。

戦闘描写って難しいです。
うまく書けないというか
何というか…

これから戦闘シーンが増えていくのに
こんな弱気ではいけないのですが…

さぁ、PHASE 2がんばるぞ~
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