機動戦士ローガンダム   作:J・バウアー

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PHASE 4(1)進発

 第二任務部隊司令長官ロニー=ファルコーネ中将は、宇宙戦闘母艦“ヴィーザル”の応急修理に割ける期間を1ヶ月と限定したため、大破したモビルスーツ射出カタパルト2本の修繕とモビルスーツの補充は見送られることになった。

「ヴィーザルの艦載機が少なくても、作戦に支障をきたさない」

 ロニーがこう断言することには理由がある。アルセイス会戦で奮戦したセネル准将が指揮するG13部隊がいることも重要な要素だが、それだけではない。太陽光集光ミラーの調整を行っていた宇宙正規航宙母艦“アプカル”が、衛星軌道上での任務を終えてカドモス=シティに降下し、ロニーの下に合流してきたからだ。

「これは、すごいな…」

 広大な空間に整然と並ぶモビルスーツの大群を見て、“ヴィーザル”艦長のラモン大佐は嘆息した。彼は、ロニー司令長官、カタリナ参謀長、セネル司令官、そして長官付のジーナ曹長とともに、“アプカル”のモビルスーツデッキを訪れていた。彼らを迎えたのは、“アプカル”艦長のルッカ大佐と作戦参謀のハムザ少佐である。

「“アプカル”はモビルスーツの収容に特化したフネですので、空間のほぼ全てがモビルスーツのために用いられています。武装はいくつかの機銃座しかありません。大型の正規航宙母艦の数は極めて少ないので、驚かれるのも無理はないかと思います」

 直毛の金髪をエアコンの風にたなびかせながら、ルッカ艦長が解説を始めた。一年戦争時に活躍したペガサス級をはじめとした宇宙戦闘母艦の類は、これまで数多く作られてきた。フネ単体の戦闘能力及び防御力、モビルスーツの収容力、兵員収容力、そして航行能力。ペガサス級は拠点制圧用として開発されたため、防御力と兵員収容力に重点が置かれていた。本来収容されるはずの1個連隊が配置されなかったため、ホワイトベースは多くの難民を収容することができたと言われている。のちに製造されたアーガマ級は強襲用にシフトしたため、防御力と兵員収容力を削ってモビルスーツの収容力と航行能力が増強された。その後、宇宙空間での艦隊決戦用へとシフトしていき、フネを大型化して戦闘力とモビルスーツ収容力を上げていった。これまで数多くの戦闘母艦が作られてきたのだが、モビルスーツが宇宙空間での戦闘の主役になったにもかかわらず、モビルスーツの収容力に特化した正規航宙母艦はほとんど作られてこなかった。量産型モビルスーツを生産するだけで精一杯で、正規航宙母艦を作る予算がなかったことが要因と言われているが、それよりもジオン公国が誇った超弩級正規航宙母艦“ドロス”が、大した戦果を上げることもなく撃沈されてしまったことが最大の要因といわれている。モビルスーツの収容力を大きくすると、自重が大きくなりすぎるためフネの足が遅くなり、小回りも利きにくくなる。防空能力も低く装甲も薄い。そこを狙われて袋叩きにされてしまうのだ。ゆえに、正規航宙母艦の開発は進まなかった。だが、数多くの巡洋艦や駆逐艦に守られていれば、数多くのモビルスーツを収容できる正規航宙母艦は巨大な戦力になる。そのため、各艦隊司令長官が直接指揮する戦隊に1~2艦だけ配備されるようになった。そのうちの1艦が“アプカル”だった。

「ヘリウムⅢを原料とするモビルスーツの燃料だけでなく予備の部品も数多く搭載しなければならないばかりか、モビルスーツの整備兵も数多く揃える必要があるため、他のフネに比べて戦闘力や防御力だけでなく航行能力も格段に落ちます。このフネのモビルスーツ格納庫は壮大で圧倒的ですが、それはこのフネの弱点でもあるのです」

「だから、このタイミングで降下してきてもらったんだよ」

 ロニーは口元から白い歯を見せた。

「アルセイスでクーデター軍の大規模な戦闘部隊は消滅した。G13部隊と“ヴィーザル”に守られた“アプカル”を叩けるほどのまとまった戦力は、今のクーデター軍にはない。今こそ、クーデター軍の本拠地であるウラノス=シティを叩いて内戦を終結させる好機だ」

「ところで、そのウラノス=シティは現在どのようになっているのですか?」

 セネル准将が尋ねた。アルセイス開戦前、ロニーは48時間以内にウラノス=シティを完全破壊すると宣言していたのだが、あれから三週間以上経った今でもそれは実行されておらず、第二任務部隊麾下の八個師団に包囲されたままとなっている。アキレウス駐屯基地は第26師団のアーミル大将に占領され、共和国軍の現地司令部になっている。空の玄関口であるクロノス宇宙ステーションはロニー司令長官に奪われ、陸路も発電施設も上下水道もライフラインは全て八個師団に押さえられてしまったため、ウラノス=シティは孤立無援の状態に陥っていた。

「八個師団が築いたバリケードから外へ出るには1ヶ所だけある検問所を通らなければならないのだが、そこは徒歩でなければ通れない。搬出車が通れないので、生活物資の搬入どころか、ごみを出すことさえもできない。当然、上下水も止まっている。医薬品の搬入もできないので、衛生状態は極限まで悪化している。あらゆる物資が不足しているので、略奪が横行して治安も悪い。ウラノス=シティを見限って、市民の脱出が後を絶たないらしい」

 腕を組んだロニーがセネルの疑問に答えた。ロニーが八個師団の各司令官に訓示したのは、以下の3つだった。1つ、ネト将軍指揮下のクーデター軍をウラノス=シティに追い込むこと。2つ、4個師団でクーデター軍を牽制し、残りの2個師団で速やかにバリケードを築き、最後の2個師団でアキレウス駐留基地とウラノス=シティのライフラインを制圧すること。これまでの作業を72時間以内に終えること。3つ、八個師団が互いに他の師団の動向をチェックし、朝晩必ず第二任務部隊司令長官に報告すること。72時間以内に作業を完了させられなかった場合、及びそれぞれの報告や、監視衛星による部隊動向の画像と食い違いがあった場合は、謀反の疑いありとして連邦軍統合参謀本部に報告した上で懲罰の対象とする。たったこれだけだった。第42師団のベルトラン中将が「逃げ道を塞がれた」と言ったように、特に3つ目の訓示が8人の師団長には応えたようだ。時間制限を設けられてしまったので、8個師団は皆、寝る間を惜しんで作戦を立案して実行に移した。

「これは、あまりに酷なのではありませんか」

とカタリナは言ったのだが、ロニーは笑って否定した。

「命がけで優勢なクーデター艦隊と戦ったG13部隊の苦労と比べると、大したことではない」

 確かにそうかもとカタリナは思った。ウラノス=シティにいるクーデター軍の勢力は4分の1の2個師団しかいない。正面決戦になったとしても戦力差が著しいので、首脳陣が戦死するという可能性はほとんどないと言っていい。

 ロニーからウラノス=シティの現状を聞いたセネルは、顔をしかめた。

「ウラノス=シティの住民を、そこまで苦しめなくてもよかったのではありませんか」

「ふむ。セネル准将は優しいな」

 ロニーは口の片端を吊り上げた。

「私は、ウラノス=シティの住民に退去を勧告した。それでも残ったということは、クーデターを支持して共和国に敵対したと言っていい。敵愾心を持つ人間に情けをかけると、必ずどこかで裏切る。敵愾心は徹底した弾圧でしか挫けさせることはできない。武器を持たない人間には、武器を用いずに弾圧する。それには、兵糧攻めが効果的だ。ただし、敵愾心が挫けた人間には寛大に接する。だから、検問所を設けて脱出できるようにしたのだ」

「……なるほど。だったら、このまま兵糧攻めを続けてもいいのではありませんか」

 セネルの疑問に対し、ロニーは頭を振った。

「ここまで耐え忍んだ連中は、そう簡単には屈服しない。今こそ一網打尽のときだ。これより速やかにウラノス=シティへ侵攻、武力で以って敵対勢力を壊滅させる」

 ロニーの宣告を聞き、この場にいる皆が固唾を飲んだ。

 

 “ヴィーザル”の応急修理が完了した。外壁はきれいになったが、当初の予定通りモビルスーツ射出カタパルト2本は破損したままである。それでもロニーは、引き続き“ヴィーザル”を旗艦にして座乗する。

 出立に先立ち、ナディア=レスコ主席がロニーたちの見送りに訪れた。軍幹部だけが入室を許されているロビーで、ロニーはナディアを出迎えた。

「アルセイスでの勝利、おめでとうございます」

「ありがとうございます」

 ロニーは敬礼してナディアの労いに答えると、話を続けた。

「この戦いでクーデターは鎮圧され、自治共和国政府が火星を司る唯一の政体となるでしょう。ところで」

 ロニーは、一旦間を取った。息を大きく吸い込み、呼吸を整える。

「連邦軍に、何か動きがありましたか」

「…特に何も報告は届いていません」

「連邦政府から、何らかのコンタクトはありましたか」

「こちらも、特に何もありません」

 どういうことだ。ロニーは不審に思った。アルセイス会戦で共和国軍が大勝利を収めて、はや1ヶ月。クーデターの鎮圧は、もはや時間の問題だった。そうなると、連邦政府は火星自治共和国に対し、何らかの動きを見せるはずだとロニーは思っている。

 もし、火星自治共和国と友好関係を築きたいのであれば、内務省が自治権に関する事務レベル協議を持ちかけてきてもおかしくない。流通経済省や宇宙開発省も何らかのコンタクトを取ってくるはずだ。

 逆に、連邦政府が火星直轄統治にこだわっているのであれば、内乱が終結する前に火星へ介入しなければならないので、遠征軍の編成を脇目も振らず急ピッチで進めなければならない。脇目も振らずに急ピッチで進めると、隠密性が蔑ろにされるので、必ず動きをキャッチできるはずだ。

 それなのに、連邦政府からのコンタクトも、連邦軍に動きも見られない。ということは……。ロニーは別の可能性があるのではないかと思ったが、それを今尋ねてもロニーにとって何の意味もないから、とりあえず脇へ置くことにした。

「そうですか。それでは、引き続き情報収集を宜しくお願いします」

「分かりました」

 ナディアの表情が、複雑なものになった。

「ところで、ロニー顧問官の処遇についてですが…」

ナディアは一旦口を閉ざした。なぜ、ここで口ごもるのかロニーは不思議に思った。あれだけルーデンドルフが明言したくらいだ。何の権限もない窓際で一生飼い殺しにするつもりなのだろう。クーデター軍との戦いで大きな功績をあげた人物に、死刑宣告をするのが精神的につらいのだろうな。ロニーは自分でも驚くくらいに冷静に思ったのだが、ナディアから告げられた言葉は、意外なものだった。

「いまだに結論が出ておりません。急ぐべきなのは十分に承知しているのですが、今しばらくお待ち願いませんか」

「はぁ。それは別にかまいませんが」

 受け入れ先が決まらないのか。よほど自分は厄介なのだろうなとロニーは心の中で毒気を吐いた。表面上はその毒を完全に封じ込んで、笑顔でナディアに応じた。

「とにかく、現在頂戴しております第二任務部隊司令長官としての職務を全うするよう、全力で取り組む所存です。それでは、そろそろ出立の時間ですので、失礼をさせて頂きます」

「ご武運を祈ります」

「ありがとうございます」

 ロニーはナディアに敬礼した。ナディアは自分を糾弾している人物の一人だとロニーは思い込んでいるので、果たして誰の武運を祈っているのだろうかと訝しがった。




やばい。書く時間がない。
あともう少しなのに!

更新間隔がどんどん長くなり、
申し訳ございません。

これからも気長に待っていただけますと
幸いです。

これからも宜しくお願いします。
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