機動戦士ローガンダム   作:J・バウアー

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あとがき

 機動戦士ガンダム(以後、ファーストと表記)、そして機動戦士Zガンダム(以後Zと表記)は、私の子供心に巨大な衝撃を与えた。主人公そして主人公を取り巻く仲間たち、それが広い世界へと旅立っていく。これだけだと、ガンダムシリーズ(以後、ガンダム作品と表記)以外の作品にも見受けられる。私にとって、ガンダム作品が他の作品と一線を画す点といえば、主人公を取り巻く大人が遠くにも近くにもたくさんいる、ということだった。ファーストでいえば、パオロ艦長やワッケイン司令、さらには遠征軍の総指揮を執るレビル将軍。敵陣営でも、ジオン公国の公王であるデギン、そしてギレン総帥など、枚挙にいとまがない。それぞれが、それなりの権力を持ち人々に影響を及ぼしている。RX-78を操って夥しい戦果を挙げるアムロですら、一年戦争を遂行する地球連邦軍の戦局のごく一部にしか影響を与えない。その全体を指導しているレビル将軍って、すごいな。おっそろしく強いエースパイロットのシャアでさえも、ドズル中将やキシリア少将に頭が上がらない。大人ってすごいな。と子供ながらに思ったものだった。

 少しずつ成長して中学生の頃にZが始まった。主人公が所属する組織は世界的大企業が組織したもので、地球連邦軍の過激派組織と戦っていた。正規軍とガチで戦う軍隊を組織できるって、世界的大企業ってすごいな。と子供心に思っていたのだが、大学生になって様々な書物を読み、歴史や人間社会について勉強していくと、おかしいのではないかと思い始めた。企業というものには、古今東西問わず共通する点がある。それは、企業はあくまでも利益を上げることが目的だということだ。おっそろしく高額であるにもかかわらず破壊されることが前提となる戦艦やモビルスーツ、そしてそれらを運用する多くの将兵に企業が多額の投資をするなんて、ありえないのではないかと思った。戦艦やモビルスーツ、軍人に投資して、いったいどれだけの利益を上げることができるのか?平和なんて金額で表すことができない。社会貢献事業の一環としての救助活動だったら、レスキューに特化した部隊を作ったほうが効果的だ。企業が自らを守るため?それだったら携帯火器を持った特殊部隊を編成するだけで十分であり、艦隊なんて仰々しいものは不要だ。アメリカの軍需産業も、自らが製造した製品を各国政府に販売するだけで、自ら原子力空母や戦闘機を保有して運用したりしない。F-15にしろ、イージス艦にしろ、それらは全て国家が組織した軍隊が持っている。そう思うと、世界的大企業が軍隊を組織したという解説書の説明に対し、疑問がふつふつと湧いてくるのだった。

 地球連邦政府とは何ぞや?

 たどりついた疑問がここだった。大学生の頃は、成立からファーストに至るまでの地球連邦の歴史について空想することが多かった。その頃によくある説明が、地球連邦は国際連合から発展して成立したということだったが、これにも違和感があった。

 ならば、誰が地球連邦を作ったのか?

 導き出した結論が、この物語のプロローグだった。いまや帝国主義的侵略は絶対悪なので、必ず失敗する。だから冷戦時代の米ソは、第二次世界大戦以降領土を拡張していない。ソ連はアフガニスタンに侵攻したが、自国に取り込むことはできなかった。せいぜい衛星国に仕立て上げ裏から支配するのが関の山だ。ゆえに古代ローマのような超大国が地球を統一するということはありえない。国際連合が発展するというのもありえない。既存国家が自らの主権を投げ出して国際連合という他者に委ねるようなことは、ありえないからだ。プラトンの「国家」ではないが、国家にも個人が持つ「人格」のようなものがある。主権を投げ出すということは、自分自身を失うことに他ならない。もし日本が国際連合に主権を投げ出したらどうなるか。主権国家「国際連合」の法律により、言語は英語か何かに統一され日本語は禁止、自動車は左側通行、サービス込み料金を廃止してチップ製を導入など、日本的な慣行や考え方は否定されるかもしれない。そんなことを日本人は受け入れられるだろうか。とうてい受け入れられないだろう。実際、アメリカはユネスコを脱退したし、WHOだって批判にさらされており、今や存続が危ぶまれている状況だ。国際連合は、あくまで加盟している各国が主体であり、国際連合事務局は加盟国に従属する存在に過ぎない。以上のことから、各国が主権を国際連合に返上することはないし、国際連合事務局が、加盟国から主権を取り上げることもできないので、国際連合からの発展で地球連邦政府が設立されることはありえない。とすれば、現在存在しない何らかの機関が、組織的膨張を続け、資金力を背景に強引に成立させたと考えるほかに、地球連邦政府は設立し得ないのではないだろうか。

 続いて、地球連邦政府成立後の世界について述べる。一年戦争が始まるまで、犯罪者や経済的弱者が地球から追い出されて嫌々宇宙へ出て行ったという説があるが、それにも疑問がある。過去を見てみよう。イギリスの植民地として出発した、二つの国を例として出したい。一つは、流刑地としてスタートした。そこそこ発展して今に至る。そしてもう一つ。そこは、希望とフロンティア精神に満ちた移民が、国を切り開いていった。その国はやがて、世界を席巻する巨大国家にまで発展した。さて、宇宙世紀に話を戻そう。宇宙移民の一部はやがて、ジオン公国を設立させ、有史以来最強の地球連邦政府と覇を競うまでに発展するが、ネガティブ思考の棄民がそこまでの力を持つことができるだろうか。どう考えても、希望に満ちたフロンティア精神を持つ移民でなければ、そこまでの力を得ることはできないと思う。ゆえに、宇宙世紀の初期は、希望とフロンティア精神に満ちた移民の力で経済的に飛躍的な発展を遂げていった、という設定にすることが妥当であると考えた。多くの成金を生み出した好景気の後に金融恐慌、そして太平洋戦争という破局に至る。これと同じ流れが、宇宙世紀でも起きたと考えられる。

 そしてジオン公国の成立。有史以来最強の地球連邦政府と、真正面から対決することができた国家。こんな国家を成立させることができるのは、並外れた政策実現能力を持つ実務者以外には、ありえない。フランス最強時代を作ったナポレオンも、ソ連を世界有数の巨大国家に育て上げたスターリンも、奇跡的な復興でアメリカ合衆国を勝利に導いたルーズベルトも、いずれも徹底した実務者だ。過激な思想家ロベスピエールや、理想論にしがみつき世情を見誤ったトロツキーや、消極的で凡庸な政治家フーバーでは、成し遂げることができなかった。ゆえに、サイド3をあれだけの国家に育て上げたジオン=ズム=ダイクンも、徹底した実務者である必要がある。だが、ジオンをいきなり政治家にしてしまうことは、以下の二点で困難だった。ひとつ。彼を有力な政治家にしてしまうと、一年戦争なんかを引き起こすことなくジオンが独立してしまうこと。地球連邦政府で最大派閥を率いる首相とコンタクトが取れる立場であれば、水面下の取引だけで事が解決してしまう恐れが十分にある。一年戦争のような大規模な破壊が起きる前は、好景気であるはずがない。不況下で連邦政府の勢力が衰えていれば、大英帝国の末期のように支配地の独立ドミノが起きてもおかしくない。連邦政府の中枢に影響を与えるような実力者であれば、これと同じようなアクションを各サイドや地球上の各州政府で起こし、大規模な破壊を伴うことなく連邦政府を空中分解させてしまう可能性が大いにある。すると、ガンダム世界を成立させる一年戦争を否定しなければならないという、パラドックスが起きてしまうのだ。それともうひとつ。そこまでの実力がない政治家だと、サイド3であれだけの熱狂的な支持を取り付けることが難しいということ。サイド側に寄り過ぎると、連邦政府に対抗馬を立てられ、選挙に勝つことができず政治家になること自体が困難だ。連邦政府側に寄りすぎると、サイド側の反感を買って民衆の支持を得にくい。従って、ジオンをいきなり政治家にすることは難しいと諦めた。それならいっそのこと、彼を地球連邦政府最大の組織である宇宙開発省の官僚にしてしまい、連邦政府の利益になりつつサイド3の民衆にも支持される政策を実行して、文句の付け所のない実績を確立させたほうが、辻褄が合うのではないかと考えた。しかし、政治官僚個人だけでは、世の中は動かない。表と裏から支える人々がいなければ、選挙に立候補して勝利することは不可能だ。特に裏で動くフィクサーの存在は、絶対に必要だ。そのフィクサーがデギンで、ジオン亡き後、表の顔であったジンバ=ラルとの暗闘に勝利して公王となった。こう考えると筋が通るのではないかと思った。

 それから、ティターンズ。ただ、エリートを集めましただけでは、あんな傍若無人な振る舞いをすることはできない。何の罪もないかなり上の階級の士官を、ただ気に入らないという理由だけでぶん殴るカクリコンなんか、ナチスの親衛隊員ですら真っ青だろう。こんなことが許されるということは、何らかの法的根拠がなければありえないし、そして人類に貢献したという確固たる多くの実績が必要だ。法的根拠として非常事態対処法という法律を勝手に作らせてもらった。実績については本編で語らなかったが、ティターンズが成立してからの数年間は、多くの人々に支持される実績を数多く作っていたに違いない。そういう実績を作っていた人物の代表が、Zで登場したアジス中尉だろう。

 ゆえにエウーゴの成立は、ティターンズ成立の後になる。ティターンズが変質して権力志向に傾いてから出来上がったと考えられる。前にも述べたが、多くの軍艦を擁する組織を企業が持つことはありえない。必ず政治が関わる。メラニー会長の上に連邦軍の有力者がいる。アナハイムに軍が便宜を図る代わりにエウーゴの面倒をみてくれ。というバーターが成り立っていたと考えるのが自然だ。こんな取引が出来るのは、軍人ではない。軍人最高位である統合参謀総長のさらに上、省庁を従える最有力な議員でなければ不可能だ。そこで連邦政府の高官ジョン=バウアーを宇宙開発省=軍機省閥の領袖である上院議員という位置づけにして、エウーゴを成立させたという設定にさせてもらった。世界中の治安を預かる内務省の伸張を善しとしない宇宙開発省=軍機省。この二者が堂々と対決してしまうと、地球連邦そのものが瓦解してしまう。内務省も、宇宙開発省=軍機省も、それは望んでいない。内務省も、宇宙開発省=軍機省も、地球連邦政府という巨大なメカニズムを使わないと自らの勢力を維持できないことを知っているからだ。内務省はティターンズを、宇宙開発省=軍機省はエウーゴを隠れ蓑にして戦った。こうすると、ティターンズもエウーゴも、それぞれ国家予算を背景とすることができ、多くの軍艦やモビルスーツ、そして多くの軍人たちを擁することができたという説明がつく。さらに、ジョン=バウアーがエウーゴの影の支配者であるという設定にすれば、戦後エウーゴの大半をロンド=ベルに転属させることができるし、さらにロンド=ベルが軍内部で一目を置かれる存在になったという説明もつく。

 あと、アクシズだが、これは本編で匂わせただけで終わったので、気付いた読者の方は少ないかもしれない。通常核パルスエンジンでの航行では、木星に辿り着くまで多大な日数を要する。ゆえに船団の数は多くなる。多くしないと、地球圏へ安定的に木星資源を供給することができないからだ。火星軌道から木星軌道までは非常に遠いので、その中間地点であるアステロイド=ベルトには多くの船団が立ち寄り、補給を受け娯楽に興じただろう。木星船団が落としていったお金で、アステロイド=ベルトは大きく栄えたと思われる。シルクロードの中間地点、東西の要衝バグダードみたいなものか。ゆえに金が余っていた。余った金は様々な分野に投資される。その投資先の一つが、アクシズだった。アステロイド=ベルトにやってきたアクシズはまず、警備員か何かの形でアステロイド=ベルトの地方政府に入り込む。地道な活動で徐々に信頼を得、地方政府上層部と接点を持つ。上層部との信頼関係が確立できたら、投資話を持ち出す。ミネバを擁立してサイド3を独立させ、連邦との取引で得た利益をアステロイド=ベルトに還元させる、とでも言ったのではないか。特に産業も何もないアクシズが何故、あれだけ多くの戦艦やモビルスーツを開発、製造することができ、大勢の将兵を養うことができたのか。それらの資金の出処が、資金力のあるアステロイド=ベルトの地方政府だと考えれば、筋が通る。きっと、アクシズへの投資が失敗に終わったとしても、当時のアステロイド=ベルトの地方政府は、痛くも痒くもなかっただろう。

 ここから先は、ほとんど検証していない。申し訳ないが、貴族やら宗教、イデオロギーやらは、現代社会に似つかわしくない。血統を無条件にありがたがるなんてことは、ありえない。政治家一族だからという理由だけで首相が絶対的に支持されることはないし、いくら法王が偉大な人だからといって世界の大統領になれる訳ではない。共産主義のようなイデオロギーが世界を席巻することもないだろう。ゆえに貴族やら宗教、イデオロギーやらが多数出てくる作品には、興味がもてないので検証していない。現代以降は、徹底的なリアリズムと、あらゆる宗教にも共通する普遍的な道徳、この二つの軸の上にバランスよく乗っかった立法主義に基づいて運営される以外ありえないと思っている。

 こうした背景を下にこの小説を執筆することにしたのだが、当初の目的は、良識ある大人たちが試行錯誤して、よりよい世の中にして行こうとしている話を展開することだった。年月を経るに従って、世の中は必ず良くなる。たとえ一歩下がっても二歩進む。これが私の考えだ。長い年月がかかったが、普通選挙を実施する立法国家に限って言えば、暴虐な支配者層の圧政に国民の大部分が苦しむということはなくなった。だが、それでも完全ではない。それを何とかしようとする大人たちは数多くいる。それを描きたかったのだが、そうすると主人公のモデルは、G河E雄D説のY・W提督に行き着いてしまった。そしてその被保護者のモデルは、強化人間の女性をごちゃまぜにしたもの。フォウのような強化人間の女性がY・W提督に庇護されたらどうなるだろう。そしてY・W提督にシャアのような立場を与えたらどうなるだろう。そういう実験をしてみた。結果、Y・W提督もどきはパイロットとして全く活躍せず、最後はIローン要塞のような勢力均衡点に腰を下ろす結果になった。権力志向のない英雄は、勢力均衡点でしか生きられないと思う。漢の上将軍であった韓信は、楚・漢が勢力争いをしている間でのみ重宝され、劉邦が中華統一を為したあとは没落し、クーデターを起こそうとしたが失敗して処刑された。主人公が自ら生き永らえることを考えたのなら、地球と火星の勢力均衡点に行く以外に方法がないと思った。被保護者はY・Mのように優秀じゃないから、フツウの子になった。私自身は、この結果に満足している。ただ、要らん話を多く書きすぎたと思うので端折りたい。終了まで時間をかけすぎたので、矛盾しているところも数多くある。時間があれば改訂したいが、おそらく無理だろう…。

 話は変わるが、ガンダム作品の多くは、子供向けにしているせいか、有力な大人のほとんどが無能で性格が悪い。有能であったり、人が良かったりする大人の多くは、無力だ。だが、ファーストでは、有能で性格の良い有力な大人が、数多く登場していたと思う。ワッケイン司令は、自らの力不足を嘆きつつも、主人公たちに対し無償で最大限の支援をしてあげていた。ティアンム提督は、ソロモン戦勝利のために自らの命も惜しまなかった。悪の親玉だったデギン公王でさえ、国の行く末に悩み、公王の立場からすれば格下の一介の軍人に過ぎないレビル将軍との会談に、恥を忍んで臨もうとしていた。ランバ=ラルについては語るまでもない。素晴らしい大人はたくさんいる。君たちもそういう大人になって欲しい。そういうテーマを持つガンダム作品が他に出てきてもいいのではないか。個人的にはそう思っている。

 創造意欲を掻き立ててくれたガンダム。こういう偉大な作品に巡り会えたことに感謝するとともに、世界がこれからも平和であることを祈りつつ、ペンを置くことにする。これまで長文駄文にお付き合い下さり、まことにありがとうございました。


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