4月14日
非番の日に何するか。地上勤務だったらネットサーフィンしたりオンラインゲームしたり、外出したりできるが、あいにくと宇宙空間を爆走する軍艦の中なので、個人でネットを使うことはできないし、外出しても外は宇宙なので何もない。その結果、やれることは限られてくる。トレーニングルームに行って汗を流すか、図書室に行くか、部屋に籠って私のように日記を書いたり、ラジオを聴いて競馬などのギャンブルに興じるか、やれることは限られてくる。ギャンブルといっても、ネットは使えないし艦内に場外馬券場があるわけでもない。せいぜいカードゲームくらいしかできないから、やる人も少ない。必然、アウトドア派はトレーニングルームに、インドア派は図書室へ行く。
映像ソフトでも借りようと思って図書室へ行くと、副長を見かけた。学生時代にはバスケ部でセンターを務めていたらしく、背は高いしガタイもいい。トレーニングルームではなく何で図書室?と思ったので、気配を消して副長の様子をうかがう。すると副長は、異世界もののアニメをいくつか借りて出ていった。見た目で人の趣味は分からないものだ。私も副長が借りたものと同じものを借りた。話が合えばいいが。
4月15日
昨日借りたアニメを見たのだが私の趣向とは合わず、開始10分もせずに寝てしまった。副長と話を合わせる作戦は大失敗。よく寝れたからヨシとするか。
今日は私が舵を握る日。引き継ぎを受けた時に何も問題なかったと聞いたが、一応計器類をチェック。これまでたどったルートと到達時間を確認、ほぼ予定通り。艦長や副長からダメ出しを受ける心配はなさそうで、一安心。次の当番へ引き継ぐまで、何も問題なかった。うん、平和が一番!
4月18日
軍医による定期健康診断を受けた結果、運動不足気味だと告げられたため、勤務後1時間の運動を義務付けられてしまった。嫌だなあ。トレーニングルームの設備を使っての運動って面白くないんだよねえ。ずっと昔から基礎練習というものが大嫌いだった。そのお陰で、そこそこ運動神経がよかったにもかかわらず、学生時代の部活でめぼしい成績を残したことがない。今日はランニングマシンで休憩をはさみながら1時間程ランニング。とても、つまらなかった。サボるいい口実、ないものか。
4月19日
今日の運動はウォーキングということにして、艦内を散歩することにした。しばらく歩いて居住区のあまり人がいない場所をフラフラしていると、窓辺で缶コーヒーを片手に星空を眺める中年男を見かけた。機関長だ。機械油にまみれた作業着を着ているのは、機関科員と整備科員だけ。機関長は髭を蓄え年期の入った肌をしているから、部屋で胡座をかいてドブロク飲んでるイメージ。あまりにも意外だったから、つい声をかけてしまった。
「無数の星々を眺めていると、人々の生活を思い起こすんだよね」
笑顔で機関長の目尻に深くシワが入る。無数の星のそれぞれで、目に見えないけど惑星やら衛星やらがその周りをまわっている。人それぞれにも、目に見えないが親や子、兄弟姉妹がいる。自分達はそういう人たちの生活を守る役割を持っているのだということを、星空を見ることで改めて思い出しているらしい。機関長にこんな哲学的な側面があったとは。見た目で人は判断できないものだ。
4月20日
味をしめて今日の運動もウォーキングということにして艦内の散歩をしたのだが、今日は特にめぼしいことがなかった。機関長の真似をして缶コーヒー片手に窓際で星空を見る。天の川がある方向に銀河系の中心部があるようだが、あんなに星が密集しているところって、どんな感じなんだろうか。あっついんだろうな。まだ火星には地球のような人口が密集している大都会というものがないから、イマイチよく分からない。人でゴミゴミしているのって、あまりいい気分がしなさそう。適度な距離感って大事だよね。
4月22日
ついに小惑星帯が近づいてきたので減速に入る。それにしても、いくら時期がよかったとはいえ1ヶ月かからずに着くとは、熱核クローム航法というのはスゴい。針路を変更、惑星の公転方向と逆向きする。このために一昨日からシミュレーションを何回もしてきた。艦長立ち会いのもとで舵を握り、無事に作業を終了させた。あとは、エリアベータ近郊に到達したときの接岸までの航行作業のみ。
「小惑星帯から木星へ行っときは急加速かけての強行軍だったから、あれはしんどかった」
と艦長はしみじみと語っていた。ウチの艦長は理解のある人でよかったと私もしみじみと思った。さあて、エリアベータとはどんなところかな。楽しみだ。
つづく…と思う。