火星軌道上には、たった一つだけスペースコロニー群がある。火星地球化計画を実行する作業員たちが暮らすために作られたコロニー群で、五基のスペースコロニーで成り立っている。二基が居住及び食料品製造用、一基がエネルギー製造及び貯蔵用、残る二基が惑星改造に必要な工業製品製造用である。惑星改造が進んで地上での生活が可能になると、手に職を持つ多くの人々が火星の地上へと降り立った。結果、コロニー群には地上に降りることのできない人々(職からあぶれた人々や社会から取り残された人々など)だけが残った。コロニー群の人口は急激に減少し、官憲の多くが火星地上へ移ったこともあってコロニー群の治安は悪化。中には商船を襲って積荷を強奪して生計を立てるものも現れた。そうした盗賊どもは数十名から数百名の徒党を組んでいる。宇宙に出るためには船が必要で、商船を襲って積荷を奪うためには宇宙空間での機動性に優れるモビルスーツが必要だ。宇宙船の整備や操縦をするもの、モビルスーツのパイロット、強奪した積荷の管理や売買をするものなど、役割を分担する必要があるからだ。サウリも、そうした盗賊家業に身をやつして暮らす一人だった。
「獲物がたった一隻でやって来たぞ」
宇宙船“魅力的な浮気妻”号の操舵室でレーダー索敵をしているイディが、傍で食パンをかじっているサウリに声を弾ませて言った。火星でクーデターが発生してからというもの、極端に商船の出入りが減ってしまっており、サウリたちは飢えた鮫のように宇宙を徘徊していたので、獲物という魅力的な言葉に心が躍った。
「どんなフネか分かるか」
「うーん、まだだいぶ遠くにいるから、どんなフネかまでは分からないな」
「こんだけ稼ぎが減ってしまったのだから、軍艦相手だろうと一仕事しないとな」
このサウリの言葉に、“魅力的な浮気妻”号の船長であるウェイは声を荒げた。
「正規軍相手にムチャされると迷惑だ」
「今更尻込みするなんて、怖気づいたのか。軍のおぼっちゃまパイロットなんか、百人来ても怖くないね」
「フン、少しばかりモビルスーツの腕前がいいからって調子に乗ってると、痛い目を見るぞ」
「ありがたいご忠告だが、あいにく聞く耳持たないね。俺は一人でもあのフネを仕留めに行く」
こう宣言すると、サウリは操舵室から出て行ってしまった。モビルスーツデッキに行くことは明らかだ。ウェイは、右手で自分の亜麻色の髪をかき回して一つ舌打ちをすると、船内放送のマイクを掴んだ。
「サウリが獲物を仕留めに出るつもりだ。全員、戦闘準備!ひと稼ぎ始めるぞ」
「おおーっ」
乗組員全員が歓声を上げた。おだやかな船内が一瞬でせわしくなる。整備士は搭載されているモビルスーツの点検、パイロットはパイロットスーツの装着、船の砲撃手は実弾装填の確認、などなど。操舵手が船速を上げ、ターゲットへと急速に近づいていく。近づくにつれ、彼らの獲物がどういうものであるかが分かってきた。イディは、獲物の正体に気付いて顔面が蒼白になった。
「せ、船長…ど、どうしやしょうか?」
「一体なんだ」
「狙ったフネだけど、とんでもないバケモノだ。全長が500m以上もある巨大戦艦だ」
「なっ、なんだとお」
船長は目を剥いた。彼らが襲う軍艦は、せいぜい全長100mにも満たない駆逐艦や軍用輸送船くらいだ。だいたい、300mを超える重巡洋艦なんぞ見たことすらない。それが、連邦軍でも最大クラスの大型戦闘母艦なんて、相手が悪すぎるというものだ。
「まるで話にならん。引き返すぞ、野郎ども」
「ふざけんな。今更引き返せるか」
モビルスーツデッキにあるマイクを掴んで船長に抗議したのは、サウリだった。
「一匹のアリが巨像を倒すということわざもある。あんなデクノボー、俺一人でつぶしてやる」
「やめろ、サウリ!」
船長の制止を振り切り、サウリは愛機に乗り込んで出撃した。過去のモビルスーツの残骸をかき集めて出来上がっているサウリの機体は、なんとなく旧ジオン公国軍のゲルググを髣髴とさせる。サウリの愛機ロズリンはふんだんにバーニアを装備させているので、推進力や機動力に富む。そんな機体を自在に操れる自身の腕前もあわせ、ロズリンは連邦軍のジェグナ程度なんか一対一どころか複数現れても倒せるとサウリは自負していた。
全面スクリーンの前方に、巨大戦艦の姿が遠目に見える。拡大してみると、純白の貴婦人のように見えた。こりゃお宝満載だなとサウリが短く口笛を吹いたとき、巨大戦艦のカタパルトから一機のモビルスーツが飛立つのが見えた。そのモビルスーツは、身を翻してこちらに向かってくる。
「おっ、この俺様と一騎討ちしようなんて、生意気だな」
と思ったのも束の間、そのモビルスーツは、サウリのそう像をはるかに超えるスピードで接近してくるではないか。
「なんだ、こいつは」
サウリは、慌ててライフルを構え、向かってくるモビルスーツにビームを放つ。射撃にも自信があるサウリのビームは、向かってくるモビルスーツに命中した…かに見えた。だが、敵モビルスーツは直撃する直前に身を躱したのだ。
「なんだと」
サウリは慌てた。今まで、こんな躱され方をした経験は一度たりともなかった。ビームの発射速度を考えると、撃つ直前に身を翻さないとあんな躱し方はできない。あのパイロットは俺の思考を読んでいるのか?考えを巡らしたのはほんの一瞬だったのだが、気付いたときには敵モビルスーツの接近を許してしまっていた。
「うわっ」
反射的にライフルを手放してビームサーベルの柄を掴んで相手に斬りかかる。だが、すでに時遅し。振り上げる前に敵モビルスーツの斬撃が飛んで、ロズリンの右腕が切断され、宇宙の彼方に飛び去っていく。
「こ、こいつは…」
背中に冷たいものを感じたサウリは、敵モビルスーツの姿をまじまじと見た。この顔、見覚えがある。カラーリングは異なるが、一年戦争の頃、敵のジオン公国軍が白い悪魔と畏敬の念を込めて蔑んできた連邦軍の旗艦モビルスーツ
「ガ、ガンダム…か…」
そうつぶやいて覚悟を決めたとき、全身に強烈な衝撃が走った。
「ぐわっっ!」
サウリは分からなかったが、ローガンダムが拳を振り上げてロズリンに強烈なストレートパンチを見舞ったのだ。ローガンダムは更に三発ロズリンにぶち込んだ。あまりの衝撃に、サウリは気を失いそうになる。そんな中、ロズリンに通信が入ってきた。
「いきなりライフルを撃ち込んでくるとは、無礼な奴だな」
「…お、女…か……」
なんとか気を奮い立たせ、サウリはロズリンの身を翻させて逃走に移った。逃げてもすぐに追いつかれて斬り殺される。と思ったのだが、ガンダムは追ってこなかった。
「俺なんか、眼中にないという訳か。くそったれ」
しばらくすると、サウリの目前に“魅力的な浮気妻”号が見えてきた。安心したサウリは、機体を停止させるとそのまま気を失った。
サウリの攻撃を難なく撃退したジーナは、ヴィーザルの後部カタパルトから帰還した。ローガンダムをモビルスーツハンガーに固定させ、コクピットハッチを開くと、顔見知りが顔を出してきた。モビルスーツが全機発着するような状況でない限り、モビルスーツデッキ内は空気で満たされている。
「ご苦労さん。怪我はなさそうだな」
「私は大丈夫。ただ、ガンダムの方は拳を少し傷めたと思う。パベルさん、あとよろしくね」
「コブシ?何でそんな場所を」
「喧嘩すると、拳くらい傷めてしまうものでしょ」
「さっきのは戦闘じゃなくて喧嘩だったのか。あきれたものだ」
パベル曹長の感想に笑顔で答えたジーナは、コクピットから飛び出した。モビルスーツデッキは外部の環境すなわち宇宙空間と同じ状態なので、無重力である。ジーナは宙に浮いたまま対岸のスロープに飛び移った。そこには、青色を主体とした連邦軍の制服を着ている三十代前半の士官がいた。短めのくすんだ金髪とサファイアブルーの瞳を持つ優男で、やわらかい表情をしている。その士官にジーナは敬礼をした。
「スナイ少佐。単独出撃の許可、ありがとうございました」
「なーに。君がどれくらい戦えるか見てみたかったから、丁度良かったよ。あんだけ動けるとは大したものだ。艦長が君にガンダムを任せる訳がよく分かった」
スナイは、ロニーとロニーの直属であるジーナを除くヴィーザルの全モビルスーツを束ねる機動大隊長である。従軍してからずっとモビルスーツのパイロットで、第七艦隊勤務が長い。海賊相手の実践を数多く経験しており、エースパイロットが持つ独特の余裕が漂っている。スナイにも専用のモビルスーツ“マリウス=ゼータ”が与えられている。この時代では珍しい変形機構を備えていて、かつてのゼータ=ガンダムのような戦闘機のようなウェイブ=ライダー形態に変形できる。
スナイは笑顔で言葉を続けた。
「近いうちに、君と模擬戦をしてみたいものだ。相手になってくれるか」
「それは光栄です。是非」
「その時は、お互いジェグナでやろう。君の腕とローガンダムの性能を一気に相手にするのは、荷が重過ぎる」
「そんな。ご謙遜を」
「謙遜ではないさ。ご苦労さん。ゆっくり休めよ」
「ありがとうございます」
立ち去るスナイにジーナは敬礼すると、パイロットスーツを脱ぐために更衣室へと向かった。単独出撃だったので更衣室内には誰もいない。パイロットスーツを脱いだジーナが手に取ったのは、軍服ではなく高校の制服だった。ジーナはヴィーザルの乗組員になっても高校を中退せず、普通科から通信科に移って勉強を続けている。これは、ロニーことトオルの強い要望によるものだった。
「せっかく同世代の友達ができたんだ。友人関係を半年やそこらで終わらせてしまうのは勿体無い。どういう手段を使ってでも学校を続けるべきだ」
死の淵から生還したトオルはこう言うと、ジーナの下宿探しを始めようとした。それをジーナは慌てて止めた。
「あたし、一人暮らしなんてできない」
「なら、学生寮でも探すか」
「知らない人と暮らすなんてできない」
「なら、私が会社勤めしていたときの同僚だった事務員の人の家はどうだ」
「誰かに気を遣って生活するなんてできない」
「まったく、わがままだな。私は軍艦に乗って火星から出て行くのだから、仕方ないじゃないか」
「だったら、私もトオルさんと一緒に軍艦に乗る」
「軍艦に乗ったら、高校に通えないじゃないか」
トオルと一緒にヴィーザルに乗り込むことをジーナが頑として譲らないので、困り果てたトオルはアリップの代表であるナディアに相談を持ちかけた。アリップの組織力を使って、通信での高校通いができないかと。通信科への転属ではなく自分の足で高校に通う普通科に通信で教育を受けるなんて前代未聞だ。あまりに荒唐無稽な話をトオルが真面目に熱心に願い出てくるものだから、ナディアは根負けしてしまい、四方八方手を尽くしてジーナの通信での普通科通いを実現させたのだった。
高校生の制服姿で颯爽と歩くジーナは、もともと容貌が端整であることも手伝って行き交う軍人たちの視線を集める。そういう軍人の一人がジーナに声をかけた。
「これから、お勉強か」
「そうですよ、ハムザ少佐。少佐も一緒に勉強しますか?」
このようにジーナに切り返されたハムザは、苦笑いを浮かべた。
「うれしいお誘いだけど、我らが大佐殿が、とっても面倒な宿題をお与えになってくれたものだから、これから艦橋へ行かなければならないのさ。花の学校生活、楽しんできたまえ」
「はい。ありがとうございます。それでは、またあとで」
手を振って立ち去るハムザを笑顔で見送ると、ジーナは自室へ向かった。ジーナの自室は曹長という身分からするとやや広い。勉強するのだから本棚や机が要るだろうということで、トオルが準備をしてくれたのだ。ヴィーザルの居住空間には重力がかかるように設計されているので、勉強するのに不自由は感じない。ジーナは、勉強机に置いてある大きなモニターの電源を入れた。映し出されたのは教室の授業風景だ。教室のジーナの席に置いてあるモニター付きカメラからの映像で、マウスパットを動かすと360度辺りを見渡すことができる。ジーナはマウスパットを動かして、右隣の席にカメラを向けた。そこには、セミロングのくすんだ金髪の女子生徒が座っていた。
「ジーナ、もう大丈夫なの」
女子生徒がモニターに映っているジーナに囁きかけた。彼女はジーナと同じ裁縫部の部員で、モニター付きカメラの運搬をしてくれるジーナの親友だ。ジーナは照れくさそうに笑った。
「リンダ、心配かけてごめんね。だいぶ元気になったから」
「体、弱いのだから、ムチャしちゃダメよ」
ジーナは病室から授業を受けているということになっている。敵襲などで授業中や部活の時に席を立たなければならないときは、発作がおきたことにしてモニターの電源を切ることにしている。まさかガンダムのパイロットをしている軍人で、しかも強化人間であるなんて公表できないので、苦肉の策だった。
授業が終わると、リンダが裁縫部の部室までカメラ付きモニターを運んでくれた。その道中、リンダがモニターに映るジーナに話しかけた
「ジーナが制服オタクだったなんて、知らなかったわ。あのデザインした制服、自分で着るつもりなの」
「…まぁ…ね。だって、格好いいんだもん」
「でも、あのヘルメットと仮面は作るの難しいよ。最初にデザインした連邦軍の制服のほうが作りやすいと思うけど」
リンダが真面目にアドバイスをしてくれたのだが、実はヘルメットと仮面は既に出来上がっていて別の人が身につけているよと答えてしまいそうになる気持ちを、ジーナは一生懸命押さえつけた。
「そうね。退院したらすぐに作りたいから、その時は手伝ってね」
「もちろん。こっちがお願いしたいくらい。色違いで、お揃いのを作ろうね」
裁縫部の部室は、もう間近だった。
学校活動を終えたジーナは、夕食を摂るために食堂へと向かう。乗組員全員を収容できるように設計されているため広く作られているが、機関科が四交代勤務であることと、科によって食事の時間がずれていたり、自分で自由に時間を設定できたりするので、食事を摂っている人はまばらだ。航海が長期に亘るため食材が絞り込まれており、提供されるメニューは定食一種類だけ。カウンターで食事を受け取ると辺りを見渡す。いくつかのグループに分かれて食事を摂っている人たちの中から、ジーナは見知った顔を見つけた。くすんだ金髪を短く刈り上げ、老年に差し掛かりそうな容貌ながらも鋭い眼光、がっちりとした体型、そして彼の持つ肩書が人を寄せ付けない雰囲気を醸し出している。彼の周りは空席だらけなので、ジーナは彼の真向いの席に座った。
「ここ、いいですか」
「ああ。構わんよ」
そう言うと、戦艦ヴィーザル副長であるラモン中佐は、フィレカツにフォークを突き刺して口の中に放り込んだ。適度に咀嚼して飲み込む。
「ご活躍だったみたいだな。お疲れさん」
「ありがとうございます。相手が一機だけだったので、ほっとしています」
ジーナはスープカップを手に取った。その様子にラモンは目を細めた。
「大した損傷もなく、すぐに戻ってきたと聞いたぞ。すごいじゃないか」
「まだまだです。武器を使うつもりなかったのに、ビームサーベル使っちゃいました」
「なんにせよ、ケガもなく無事に帰ってきたが何よりだ。学校はもう終わったのか」
「はい。でも宿題があるので、早く片付けないと」
「戦艦に乗りながら学校生活ができるなんて、考えもつかなかったな。ある意味、ジーナのことがうらやましいよ」
「ラモンさん。学校、行きたかったのですか」
ポテトサラダを頬張るジーナは、驚いた表情をした。ライ麦パンを手にしているラモンは苦笑した。
「そんなに意外かな。今ではこんなだけど、中学までは成績優秀だったんだ。ただ、親が事業に失敗して借金だらけでね。現金収入が必要だったから、中学卒業と同時に軍隊に入ったんだ。ありがちな話だけどね」
「へぇっ。今でもそう思っているのですか」
「そうだな。ひと段落ついたら、大学に行きたいね。機械をいじくることが好きだから、機械工学を学びたい」
ラモンはライ麦パンをちぎって、口の中に放り込んだ。
「学ぶ機会というものは、いつでもあるようで大人になるとあまりない。せっかく大佐が用意してくれたんだ。学校生活、存分に味わうといいさ」
「はい」
ジーナもライ麦パンを手に取った。
食事を済ませたジーナは、大浴場へと向かった。司令官室、参謀長室、艦長室には風呂が備え付けられているが、それ以外は大浴場で日頃の垢を落とす。ジーナが入浴した時、先客はたった一人だった。
「今日は、ネメシスの仲間によく会う日だなぁ」
とジーナが思うように、先客は船務長のカタリナ中佐だった。
「あら、いらっしゃい」
「どうも」
気恥ずかしそうにジーナは答えた。湯船に浸かっているから分からないが、カタリナは胸は豊かで腰はくびれてスタイルがいい。あまりに女性的で、すらっと少年のような体形の自分としては気後れしてしまうのだ。そそくさとシャワーを浴びるとジーナも湯船に入った。
「肌がきれい。若いって、いいね」
ジーナの肢体を見てカタリナがつぶやく。予想外の感想を耳にしてジーナは驚いた。
「カタリナさんのほうが、きれいじゃないですか。私なんて、胸小さいし」
「ジーナのほうが、足は長いし細くていいじゃない。体のことを気にし始めたら、きりがないわよ」
「…そうかもしれませんね」
「自分の嫌な部分って、自分でも気付くし他人がとやかく言ってくるけど、自分のいいところって意識しないとなかなか見つからないものよ。だから、寝る前に自分のいいところを見つける習慣をつけたらいいと思うわ。そうすれば、昨日よりも自分のことを好きになれると思うの」
「はい。ありがとうございます」
「…偉そうなこと言うけど、これって前に見たドラマの受け売りなんだよね。なるほどなぁって思ったから実践しようとしたんだけど、なかなか見つからないわよね、自分のいいところって」
カタリナはくすくすと笑った。普段はメガネをかけているので分からないが、カタリナは相当美人だとジーナは思う。美人でスタイルが良くて仕事もできて、それでいてとっつきやすい人柄なんだから、浮いた話の二つや三つあってもよさそうなのに。
「カタリナさんって男の人にもてそうなんだけど、いい人いないのですか」
「えっ」
突然の直球勝負を受けてカタリナはあわてた。
「もう、この子ったら。残念ながら今はいません。そろそろ現れてもいいのにな、白馬の王子様が」
「カタリナさんも憧れているんですか、結婚に」
「そうねぇ。一人でいるよりも相手がいた方が楽しそうじゃない。一緒にお気に入りのドラマを見るのが夢かなぁ」
ぼーっと想像を膨らませているカタリナの顔を見て、この人ってこんな表情もするんだとジーナは思うと同時に、つい一年前の自分からは全く想像できないくらい穏やかな時間を過ごしているなと、しみじみと感じたのだった。