「あの...何故千聖さんとイヴさんがここに?」
リサさんの策略のせいでキックターゲットをやらされるハメになった俺の前に、パスパレメンバーである2人が現れた。
イヴさんの事はあまり分からないが、千聖さんは運動が苦手な筈なので、やりに来たという訳では無いだろう。
「さっきまで此処でロケがあったのよ。ほら、このキックターゲットのイベントは今日からでしょう?それに合わせたらしいわ」
「あ~成程!カメラがいるとは思ってたけど、2人が居たからあんなに人が集まってたんだ!」
「もしかしてリサさん、あわよくば俺をテレビ出演させようとか思ってました?」
「面白そうだしね!」
満面の笑みで親指を立ててくるリサさんに若干ジト目で睨みつけるが、本人はあざとくテヘッと舌を出す。
そんな表情に少々イラっとしたが気を取り直し、千聖さんとイヴさんは何をしているのか聞いてみる。
「今は休憩中なので、千聖サンと一緒にショッピングをしてるんです!」
「ショッピングと言っても、ウィンドウショッピングだけどもね。そう言えば、さっき私たちはロケをしていたと言ったでしょう?ロケの内容としてはキックターゲットの解説なのよ」
「解説とか正気ですか!? だって千聖さん運動は全然ムグッ...!」
`全然出来ないじゃないですか`と言い切るよりも早く、リサさんの手が俺の口を塞いだ。
プライドの高い千聖さんを煽らせまいとしたリサさんだったが、最初の時点で既に煽り成分はたっぷり。
リサさんの気遣い虚しく、千聖さんの顔には若干の青筋が出来ていた。
先程まで笑顔だったイヴさんも苦笑いである。
「ハハハ...千聖ちゃん?」
「大丈夫よリサちゃん。私は大丈夫よ。えぇ、落ち着いているわ」
流石、幼いころから役者として活躍している千聖さん。
この程度では崩れないらしい。青筋を出しながらも、笑顔だけは保っていた。
「ところで、お2人はなぜこちらへ?」
場の空気を変えようと思ったのか、それともただ純粋に気になったのか、イヴが俺たちがここへ来た理由を尋ねてきた。
キックターゲットの列に並んでいる時点でこれをやりに来たのは明白だが、それよりも俺がやることの方が気になったらしい。
「リサさんに無理やり連れてこられたんですよ」
「なっ! 雅人了承してたじゃん!」
「俺が了承したのはショッピングです!」
「2人とも、周りの人の目があるんだから、そこまでにしなさい」
今度は俺とリサさんが言い合いになりそうになった所を千聖さんが治めた。
「さっき私とイヴちゃんが最後に解説したのが誠さんだったかしら。彼、今日初めてパーフェクトを出していたわね」
「ハイ! 誠サンは現役だとおっしゃってました! やはり日本のスポーツ選手はすごいです!」
「フィンランドの人にサッカーを褒められるのは嬉しいけど、やっぱりあの人はすげーや...」
「あら? さっきまで意気込んでいた貴方は何処へ行ったのかしら?」
先程の仕返しとばかりに俺を煽ってくる千聖さん。しかし、こればっかりは反論できないのだ。
「雅人の気持ちも分かるよ~。アタシ一回だけ隣子と一緒に試合見に行ったことあるけど、隣子が惚れるのも分かる気がする」
「いえ、白金さんが惚れたのはたぶんそこじゃないとは思いますけど、俺とは比べ物にならないのは確かですね」
「彩ちゃんや美結ちゃんから貴方のことはよく聞くから、この町じゃ敵無しだと思ってたわ」
「あの2人は何を言いふらしてるんだか...」
あの妹(バカ)と姉(純粋)が自分のことを大げさに周りへ伝える姿が容易に想像できる。現に、中学の2年の頃は特にひどかった。
妹が小学生に、姉が3年生に俺のことを広めるため、近所の小学生からは尊敬のまなざしで見られ、逆に3年生(主に部活の)からは、先程の誠さんも含め練習中に明らかな威圧を感じさせられていた。
「でも、雅人サンがボールを蹴る所、私は初めて見るので楽しみです!」
「気になるでしょ~? 楽しみにしといて!雅人なら絶対パーフェクト出してくれるから!」
「あらあら。期待大ね、雅人」
「はぁ...もう逃げられそうにない」
「ルール説明をさせていただきますね。制限時間は無しで、3回ミスしたらそこで終了です。16枚抜くとパーフェクトになるので、ぜひ頑張ってください!」
「は、はい...///」
現在俺は、キックターゲットに参加する人たちが準備を行う控室にいる。
具体的にどんな準備を行うかというと、先程のようにルール説明を受けたり、必要な人は靴を貸出し用の運動靴に履き替える。
だが、自分が普段は着慣れていない靴でボールを蹴るというのはかなり難しい。
幸い俺は元から運動靴だったために心配はいらない。
問題は目の前にいる女性スタッフである。アルバイトをしているのか、女子大生と思われる。
スタイルも抜群で、営業スマイルだとは分かっていてもドキッとしてしまう。
そのせいか、俺は最後まで中々スタッフの顔を見ることが出来なかった。
「では、失礼しますね!」
「あ、ありがとうございます...」
やっと会話が終わり、スタッフは次の挑戦者のもとへと向かった。
緊張感から解放され安心してはいるが、内心もう少しちゃんと会話をしたかった感もある。
「LINE交換しとけばよかった...イタッ!」
「鼻の下伸ばしすぎ、きもい」
「蘭! 何も叩かなくたっていいだろ!? てか、何でお前がここにいるんだよ!」
そう、何故か俺の隣にいるのは先程まで一緒にいたリサさんや千聖さん、イヴさんでもなく、蘭なのだ。
千聖さんとイヴさんはロケの続きがあるため、仕事場もとい、キックターゲットの解説所に戻っていった。
リサさんはと言うと、蘭を発見した途端、ちょっと用があるといって下の階にいってしまった。
あれ?リサさんが誘ったんだよね?何で俺放置されてるの?
「私がここにいちゃいけない?」
「いや、そうは言ってないけど...ん?」
いきなり現れた蘭の格好をよく見ると、服の裾や上着が少し乱れており、顔も心なしか火照っているように見える。
これはもしかして...
「ほほぉう...」
「何...?」
とある事を察した俺は、にやにやとした表情を蘭に向ける。
蘭はと言うと、いきなりにやけ顔を向けられたのが気に食わないのか、拳に力が入っていた。
あんまり煽るとグーが飛んでくるので、手短に済ませよう。
「ここに来るためにかなり急いでたんだな、蘭。そんなに俺がボールを蹴る所が見たかったのか?」
「な、何言ってんの!そんな訳ないでしょ!!」
口では否定しているが、表情がまさに図星だった。
元から少し赤かった顔が、羞恥で更に赤くなっていく。
「ま、暫くサッカーから離れてたし、蘭が俺のプレーを恋しくなるのは分かゴフっ...!」
「それ以上喋るなら、今度は顔面行くから」
「ごめんなさい...」
真正面から解き放たれた拳は、見事俺の鳩尾に命中し、痛みに耐えきれずその場に崩れ落ちる俺。
その横には指をポキポキと鳴らし、追撃準備満タンの蘭がいた。
「それじゃあ、カメラが回ったらインタビューをするから、答えてちょうだいね」
前の参加者の挑戦が終わり、次は俺の番となった。
「はぁ、分かってはいたけど...、まさか本当にインタビューとかあるんですね」
「当然じゃない。それと、オンエアするかもしれないから、はきはきと喋るのよ?」
「え、待ってください。これ私も映るんですか?」
千聖さんから取材の事について話を聞いていたのだが、どうや映るのは俺だけではないらしい。
「雅人だけじゃ絵面的に厳しいから、蘭ちゃんにもお願いするわ。でも心配しないで頂戴。主に受け答えをするのは雅人だから」
「なら、大丈夫です」
「あの、地味に傷ついたんですけど」
「それじゃあ二人とも、所定の位置に着いて頂戴」
千聖さんに言われるがままに段取りが決まり、取材が始まろうとしている。
俺と蘭は勿論、テレビ番組の取材を受けることなんか初めてなので、緊張を隠せずにいた。
気晴らしに辺りを見回すと、千聖さんとイヴさんがスタッフの人と最後の打ち合わせを行っていた。
少し視線をずらして気を紛らわそうとすると、ちょうど俺と蘭が同じところを見た。
そこには、スマホをこちらに向けながらニヤニヤとしているリサさんが...
「「は!? あの人何やって...!」」
「それでは始めまーす」
俺と蘭が驚くのと同時に、スタッフさんが撮影をスタート、リサさんは持っているスマホをタップしておそらくだが動画を撮り始めた。
「それでは、次のサンカシャの人にインタビューしてみましょう!こんにちは!」
「「こ、こんにちは...」」
イヴさんがマイクを片手にこちらへとやってきた。いまだに俺と蘭の緊張は和らいでおらず、かなりガチガチである。
「つかぬことをお聞きしますが、お二人は恋人同士ですか?」
「「!?」」
イヴさんの思いがけない質問により、俺たちは硬直してしまう。
だが、もうすでにカメラは回っているため、ここで変に間を開けるわけにはいかない。
「いえ、幼馴染です。今日はたまたま一緒に買い物に来てたんですが、面白そうなイベントがあったので参加してみました」
「成程!お二人は幼馴染なんですね?では、今回のキックターゲットに対する意気込みを教えてください!」
会話の内容が突然180度変わったことにさらに戸惑ったが、なんとか表情は笑顔を保ちつつ質問に答える。
「昔サッカーをやっていたので、パーフェクト目指して頑張ります」
「すごい自信ですね!お連れさんからは何かありますか?」
俺の方へと向いていたマイクは、隣にいた蘭の方へと向けられた。
戸惑いを見せた蘭は、少し考えた後に衝撃の一言を発した。
「もし達成できなかったら、駅前の限定パフェを奢ってもらいます」
「え? ちょっと蘭? あのパフェいくらすると思って...」
「これは失敗できませんね!では、早速始めてもらいましょう!」
「はい、オッケーです」
スタッフさんからのオッケーを貰った俺たちは、ひとまずその場を離れ、キックターゲットを行うフィールドの中へと向かった。
その道中...
「なあ蘭、さっきの冗談だよな? テレビを盛り上げるために言ったんだよな? 流石に行列で3時間かかるうえに2000円もするパフェを奢らせるなんてこと...」
「嫌ならケーキバイキング3時間」
「パフェより高ぇじゃねぇか!」
「でもテレビで言っちゃった以上、今更撤回なんて出来ないから」
こいつ、もしかしてこれが狙いか!
テレビで言ってしまえば、それを見た人たちが証人となる。
つまり、蘭と俺の共通の友達がそれを知ってしまえば、俺の逃げ場は無い。
「ごめんなさい雅人。最初は私が担当だったのだけれど、イヴちゃんがどうしてもって...」
あの会話の流れをイヴさんが作ってしまったことに申し訳なさを感じたのか、移動の最中に千聖さんが俺の所へと謝罪へ来た。
「千聖さんは気にしないでください。イヴさんも悪くないです。あのエセロッカーがあんなこと言うから...」
「もしもしモカ? 今から雅人がキックターゲットやるんだけど...」
「待って蘭、モカと俺の間に勝手な約束させようとしてるだろ!? 悪かったって!今度ライブのチケット売るの手伝うし、雑用もやるから! お願いだからモカにだけは!!」
「分かった。言ったからには、ちゃんと約束守ってよ?」
勝ち誇ったような顔をする蘭と、項垂れる俺。
そんな俺たちを見ていた千聖さんは、呆れたような顔をしつつ、どこか安心しているように感じた。
最近ぐだぐだになってる感が否めないです...
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