お家に帰ろう   作:睡眠人間

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初投稿です。至らぬ点がございましたらどうかお教えください。物凄く助かります。



2026/03/06追記
pixivに転載しているものの方が修正されていてかなり読みやすくなっています。そちらで読むのをおすすめします。
https://www.pixiv.net/novel/series/7275309


彼らが師を共にするまで
拾われた子


私は困っていた。

寒いし行く道はないし帰る場所もわからなくなってしまったから、この先どうすればいいのかわからなかった。

途方にくれた私はトボトボ歩いていて、疲れてしまったから座り込む。

 

どれほどそうしていたか覚えていない。

いつのまにか雪が降っていて、あまりの冷たさに手が悴んだ。

辺りが白色で染まる中、影が差し掛かって顔を上げると、優しげな男性が此方を見て微笑んでいる。

その男は一言二言言って傘を差し出した。

防寒もなにもしていない私の代わりにその男は雪に降られる。

吐息が白くなり消えゆく様は寒そうだ。

ていうか、気にしなくていいのに……。

けれど何も入れてないお腹は空腹を訴えた。

ぐるるる……と結構な音を立てて。

くそ、こんな時ぐらい我慢できなかったのか。

 

男はまた柔く笑うと懐からおにぎりを取り出した。

食欲に勝てなかったので奪うようにしてそれを頬張る。

 

うん、おいしい。

なんだか無性に泣けてくる味だった。

男は私が食べ終わるまで待つと頭に手を乗せる。

雪が乗ってて冷たかったろうに、ゆっくりと髪を梳くように撫でられて、この人への警戒心は消えた。

 

「今までよく頑張りましたね。さあ、帰りましょう」

「………どこへ?」

「決まっているでしょう。お家にですよ」

 

そう言って歩き出すこの人はまるで私がついて行くのを信じているようだった。

少し悩んだけれど、他にする道もない。

この人は私に居場所を与えた。

何よりおむすびくれたし。

 

私の手を握ってくれた暖かさは、じんわり心を溶かしていった。

 

 

ーーーーー

 

 

どうも、雪子です。

吉田松陽に拾われてから数週間が経つ。

あ、名前ね。

彼がつけてくれたよ。

あの日雪が降っていたから、ゆきこ。

安直だけど気に入っている。

 

私がいるところだけど、松陽が開いている私塾に住まわせてもらっていた。

何もしないのもあれだから、勝手に炊事掃除洗濯をやっている。

よくわかんないけど、やり方は覚えていた。

 

ここは辺境な村で松下村塾に通う生徒は貧しい子どもたちばかり。

私のようなものは誰一人としていない。

 

「洗濯物畳み終わったよ、松陽」

「ありがとうございます。いつも手伝ってくれて感謝していますよ」

「いいの。働かざる者食うべからずって言うし」

 

今日も元気よく学び体を動かした子どもたちを見送ってから、二人だけでご飯を食べる。

きちんと食べ物を飲み込んでから松陽は口を開いた。

 

「もうこの生活には随分慣れましたね。どうです、そろそろ授業に参加してみませんか」

「えーやだ」

「即答ですか。何が嫌なんです?」

 

苦笑しながら聞いてきたので、指折りして数えてみる。

 

「騒がれるのがいや、うるさいのがいや、賑やか過ぎるのがいや、静かじゃないのがいや、あとは……」

「全部一緒じゃないですか」

「まとめるとそうなる。てか習うなら剣のほうがいい」

「それはどうして?」

 

だってカッコよくない?

読み書き計算は普通にできるからそれは学ばなくていいのだ。

だめ? と首を傾げてみると松陽は笑顔を崩さない。

あなたの手の内は見透かしていますよ、と無言の圧力をかけてくるものだから、今日も今日とてすごすご項垂れるしかない。

くそう、どうして剣を握らせてくれないんや。

私が女だから?

いや、松陽は性別だけであれこれ言う人じゃないしな……

 

「女の子なんですから、もっと淑やかなものを習ってはどうです?」

「裁縫とかお琴とか? うーん、生活に要るものは学びたいけど、お琴か……使い所無さそう」

「使い所とかそういうものではありません。教養は大事ですよ」

 

うへぇ、松陽が退いてくれない。

というか誰が教えてくれるの、まさかの松陽?

 

「違います。少し歩いた所は此処よりも栄えていますから、きっと教えてくれる先生がいらっしゃいますよ」

「ふーん。ま、考えとく。食べ終わったら流し場に置いといて」

「わかりました。気が向いたらいつでも言ってくださいね」

 

食事が済んだあと、カチャカチャ音を立てて食器を洗う。

さっきはああ言ったけどできればやっぱり剣を習いたいなぁ。

道場で稽古をつけてるとこ、こっそり見たことあるけどすごかったし。

あんな風に強くなれたらカッコいいよね。

お琴とか弾いて何になんの、心の平穏が戻るとか?

淑やかさなんて毛ほども持っちゃいないし、私にそういうのは似合わないんじゃなかろうか。

だからなのかなぁ、習わせるようにしたのって。

 

二人分だけだったのですぐに終わってしまった。

寝床に入り少し考えてみる。

多分松陽は私が子どもでなくなった先のことを言っているのだろう。

女は侍にならず大人しく殿方の妻として収まるべきなのだ。

裁縫もお琴も生花も、踊りや三味線だってその為の習い事。

剣なんぞ所詮……

 

嫌な記憶が蘇ってきそうで、私はぎゅっと目を瞑り布団を頭までかぶる。

朝になったら考え事なんて忘れていた。

 

 

ーーー

 

 

松下村塾は平穏な日々を迎えていた。

松陽が教える侍の道や未来への希望溢れた言葉は、いつだって自由で面白そう。

先生、各々が思う侍になっていいんですよね?

だったら私は剣の使える侍になりたいんですけど。

あ、まだだめですかそうですか。

そろそろ出発しなきゃって?

わかりましたよ行けばいいんでしょう。

 

ため息を大袈裟について家屋をあとにした。

子どもたちの楽しげな笑い声が聞こえてきて、余計に足を重くする。

私は今からお稽古だよ。

 

「こんにちは雪子ちゃん。今日も頑張りましょうね」

「はい、がんばります……」

 

結局松陽に言い負けて習い事がスタートしたのだ。

なんなの、舞なんて覚える意味ある? 料理はむしろ習えて嬉しいけどさぁ……。

そんなどこかのお偉いさんに怒られそうなことを思う。

でも言わなきゃやってられませんよ、と布に針を刺したところでドシン、ドシンと重い足音が。

来たな、と背筋を伸ばして姿勢を正す。

にこりと鉄壁の笑顔を貼り付けて、奴に備えた。

 

「将来素敵な殿様に嫁ぐ淑女の皆さん? 花嫁修行は進んでますか?」

 

ババア……間違えたこの太ったいかつい女性が机と机の間を行き来しながら威圧してくる。

怖え。めっちゃ怖え……。

教科書片手に立つのは松陽も同じことだけど、この人がやるとあら不思議。殺意しか湧かないわ!

 

「雪子さん? 手元が震えていますよ。そんなものではまっすぐに針が通らないでしょう」

 

やめろ近づくなお前声でかいんだよ!

なんて言えるわけもなく、にこりと笑って流す。

松陽もよくここを選んだものだ。てかなんで通えてるの? 周りお嬢様だらけよ?

身分不詳の私がいるのって……そんな疑問は後日解決。

 

「おや、おはようございます。雪子が世話になってます」

「いえいえ! そんな全然! とてもいい子ですわね〜!」

 

あのババア、松陽の挨拶に頰を染めてクネクネしていた。

木の陰から見ていた私は絶句。

おのれババア、お前さえ折れていなければ私が花嫁修行なんぞする必要はなかったというのに……。

 

 

そんなこんなで数ヶ月が経つと、私は立派な淑女に………

 

……なっているわけがなかった。

 

「雪子、また君はサボって……」

「もうほとんど内容終わったも同然だから。別にいいでしょ? あれ以上あそこにいても何にもならない」

「そりゃあ料理の腕前は上がりましたし、掃除は完璧ですし裁縫も上達しましたけど……」

「生活に役立つものはだいたい身につけたよ」

「おまけに作り笑いも上手くなっちゃいましたか」

 

にこりと笑うと松陽はやれやれ、と苦笑い。

否定しないってことは諦めたってことだ、やったね!

 

「私はここにいるから、花嫁修行なんていらないの」

「そう言わないでください。雪子が嫁にいくなんて先が長い話ですけど。ですが、嫁に、ですか……」

 

口を閉じると瞳を遠くへ向ける。

何を見ているのかわからなくて、なんだか不安になった。

袖を引っ張り顔を近づけはっきりした口調で言ってやった。

 

「松陽、私が大人になるまでいてね」

 

目をパチクリさせたあと表情を緩めた。

サラサラの髪を撫でると松陽は顎元に手をやって。

 

「そうですね。どう成長するのか楽しみですから」

「ん。そうして」

 

甘えてしまっているなぁ、と自覚しつつもやめなかった。

どうにも居心地が良かったから。

……だから、私と同じようなのが増えるとどうにも落ち着かないのである。

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