お家に帰ろう   作:睡眠人間

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平穏な毎日
一応女の子


刺すような厳しい太陽の光が柔らぎ、遠くの山々は鮮やかだった緑を失いつつある。

松陽に拾われてから何度目かの秋がやってくる。

このまま引っ越しをせずに過ごせるだろうかとか、平和すぎてつまんないから面白い事起こそうかなとか、取り留めもない思いが浮かんでは消えていく。

 

すっかり冷めてしまった緑茶を啜ってぺらりと薄っぺらい紙をめくる。

近くで子供達が授業を受ける声を聞きながら、また次の(ページ)に。

 

あのお嬢様学校とか言われてた塾に通わなくなった。ものすごく幸せだ。しかしまた別のとこに行かされているのではない。つまり暇だった。掃除とか色々してても暇だった。そこで思い至ったのが読書である。

 

近所の方からいくつかお借りしたものをじっくり読む。けどそれだけじゃつまらないから、為になる情報を書き出す。娯楽本とかも面白いが、生活の役に立つものも重宝していた。食べられる山菜、野草の種類、食糧難にあった時の対処法からサバイバルの仕方とか……ご飯関連なのは否定できない。

随分前から奥様に聞いてきた美味しいレシピも記したそれは、ちょっとした料理本になっている気がする。

 

最近は漬物に凝っている。あれは美味い。塩でも(ぬか)でもなんでもいい。とにかく漬物は美味い。白米とセットだと完璧。

私の中で今の流行りはそれだ。この前は煮付けだった。んでそん前は肉じゃが。吉田家の食卓に並ぶものは全てが私の手作りーーまああの三人に手伝わせてはいるのだがーーだから、私のはまった料理が出てくる。

 

で、次に来そうなものと言えば……

 

「甘いものだ、甘いもの」

 

背中にどすっと体重をかけられた。一瞬ひやりとしたが、相手が銀時なのもあって平静は崩れない。正座して読んでいた私は前のめりになり、苛立ちで本がぐしゃりと潰れた。

休み時間になったようで子供達が庭先で遊ぶ声がする。

 

「知るか」

 

上体を起こし銀時に全体重をかけると、今度は銀時が体躯をくの字に曲げた。

 

「へぇー作れる自信ないんだー、へぇー」

「んな見え見えの挑発にのるか。諦めなよ」

 

全くその気がないとわかると背中の温もりが消える。銀時が横に転がり、私は頭を打った。やべ、とか聞こえたから逃がさないように銀時の足を掴む。

 

「だいたいお前だってやろうと思えばやれるでしょ。自分で作れば?」

「嫌に決まってるだろ、面倒くさい」

「なんでお前が面倒とか言ってるのに私がしないといけないわけ」

「雪子が作ったやつ食べたい」

 

こういう時だけ(おだ)てやがって…….。

足を抓って痛がる様を確認すると手を離した。

 

「桂に言ったら。あいつも料理上手じゃん」

「武士にふさわしくないとかで断られた」

「あっそ。なら私も無理」

「そういえば松陽も食べたいって言ってたんだけどなァ……」

「え、そうなの? なら作ろっかな……ってなると思う?」

 

松陽は食べたいものを私に伝えてくるから、本当に甘味が欲しかったら言ってくるはずだ。もしそうなったらすぐに作るよ?

けど言い出したのは銀時だし……ねぇ?

奥の手も通用しなかったので教室に戻ってくれるかと思ったら。

 

「あま〜い砂糖たっぷりの小豆とか食いてーなァ……。おはぎとか団子とか……」

「甘味屋さんにでも行けよ」

「お小遣いちょうだい」

「この前あげたでしょう」

「もう無くなった」

「じゃあダメ」

「チッ。そんなんだからケチとか陰で言われんだよ」

「ほっとくと使いまくるからでしょ? お前将来お金貯められないね、断言できる」

 

うんうん頷いていると、縁側から歩いてきた高杉がドン引きしていた。

あ、二人とも寝っ転がったままだった。

 

「……オメーら何やってるんだ?」

「ちょっと聞いてよ高杉く〜ん、このケチ女がさァ」

「高杉くんじゃねェよ。それに雪子はケチなんかじゃない、ドケチだ」

「オメーもしばかれたいのか? お?」

 

高杉くんは真顔だからボケなのか本気なのか判断がつかない。

というかなんなの二人してケチって。

五人で暮らしていけるように家計簿つけて毎日ギリギリにやり繰りしてるのは誰だっつーんだ。そもそもお小遣いやってるだけでも喜べよ。私なんか無いんだぞ。

 

姿勢を正して読書を再開する。

銀時の甘味への情熱を語られた高杉は、襖に寄りかかって腕を組む。

 

「後先考えずに金を使うからそうなるんだ。つーか銀時、お前に貸した金返せ。お小遣い一ヶ月分」

「あれ奢りじゃなかったの?」

「は?」

「え?」

 

あかん、これもう集中できないやつや。

高杉のどんどん眉間の皺が酷くなっていってるからね。こちらに飛び火する前に退散すべく高杉と入れ替わりで部屋を出た私に、子供達が遊ぼうと声をかける。

 

「雪子ねーちゃん、おままごとしよー」

「ちょっと今忙しいんでな。またの機会に」

「えー? この前もそう言ってたよ」

 

そうだっけ。

銀時とか高杉とか桂とか……あとは脳みそ筋肉じゃねェのってぐらいバカな男子達は置いといて、私は基本的に子供が苦手なのだ。

だから稽古の他で誘われると断っている。

苦手なのは特に赤ちゃんと女の子。潰しそうで怖い。

あんな、庇護欲をそそるっていうか? 小さな生き物と自分は根本的に違う気がするからかな。

あとは……

 

「かわいい着物、泥んこまみれになってるよ」

「あっ……どうしよう雪子ねーちゃん」

「………」

 

うるっとした瞳で上目遣い。きゅっと袖をつまむあざとい仕草。

 

「はぁ……わかった。綺麗にしてあげるから、私の着物に着替えておいで」

「ありがとうっ」

 

ぱっと花が咲いたような笑顔を見せると、トテトテと中に戻っていった。少しすると、地味ーな色した着物をまとい出てくる。

そしてそのまま泥んこ遊びをし始め……あぁ、私の普段着が泥に塗れていく……。

 

「……はぁ」

 

私らしくないなんて重々承知している。

銀時たちが汚してきたらテメェで洗えと一蹴するのに、女の子だったら自ら働こうとすることとか。

真っ赤な布地に付いた泥を落としながらも、ため息は抑えられない。

 

例えばの話だ。

突然私が可愛らしいお着物で自然な笑顔を浮かべていたらどうだろう。

あいつらは可愛いと言うだろうか、いや正気かと疑うに違いない。

今までそういったものに興味を示したことがないからなー。着物もご近所さんからもらったお下がりだし。男物も持ってたし。

 

おめかしする道具なんか一つも収められちゃいない箪笥に視線を向け、ちと想像してみた。

艶やかに伸びた長い髪に簪を差し、お気に入りの柄の傘を持った女の子。

間違っても大人をぶん投げたりはしないお淑やかな女の子。

……うん、誰?

顔あたりに靄がかかった正体不明の女の子を頭から追い出す。

 

あいつらと暮らしていくってなったときに決めたんだよね。女の子らしさとか捨てるって。つーか身につかないから諦めようって。

 

なのに今更。

 

「かわいい女の子になりたい、か……」

 

そっと胸にしまい込む為に囁いて、汚れた手をぎゅっと握った。




うわぁ雪子さんが女の子になりたがってるよ……どうしようフラグ立てちまったぜ!!
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