お家に帰ろう   作:睡眠人間

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投稿の間が空きましたね、お久しぶりです。


紆余曲折

「こりゃ〜さすがのオジさんも鳥肌立っちゃうぜ。なんつー危ねェもんを作ってんだか」

 

一筋の光は刹那の間に敵艦に巨大な穴を開け、墜落させた。あまりの破壊力にスイッチを押した松平でさえしばらく唖然としてしまう。

これで松平の任務は終了したのだが一向に退却の指示が出される気配はなく、なんだかよからぬことを企んでいるような横顔を朧は見やる。

 

「どうした」

「コレ、もう一回ぐらい発射してもいいかな」

 

元々攘夷志士どもを一息に排除するために遣わされた舟だ。多少天人軍に被害が出ようとも戦争終結へ着実につなげられる。そんな建前があり、本音はもう一度見てみたいだった。

しかし朧は許可を出さない。

 

「なんだい兄ちゃん、いつのまにかどっかに消えた獅子喰いが死ぬのを恐れてんのか? 大丈夫大丈夫〜当たんないよ」

「根拠のない話だろう。……いや、あやつがどうなろうとも私には関係のないことだ」

「それじゃ殺したくない攘夷志士がいると? まさかねぇ」

 

勝手に推測し出した松平から視線を外し、朧は複数のモニターを食い入るように見つめた。

激しい炎を撒き散らす墜落船、周囲を駆け回る攘夷軍と天人軍、そしてとある集団が目に留まる。統率性のない格好をした者達が縦横無尽に戦場を走っていた。

……なんだあれは。朧が目を細めたその先で、先頭を行く白い男は天人と刃を交えた。

 

 

「そこをどけえええぇぇぇ!!」

「ばっ、銀さん! 不用意に突っ込まないでくださいよ!」

 

まったくあの人はと地味な眼鏡をかけた青年、志村新八が呆れたように呟く。ようやく掴んだ記憶と同じ強さが眩しかった。

そうだ。僕はずっとあの人の生き様に憧憬を抱いていたのだと思い直す。改めて伝えるなんて照れ臭いし、きっとからかってくるだろうから言ってあげないけれど。

木刀を強く握りしめ、新八は白い背中をがむしゃらに追いかける。すると並ぶようにして赤いチャイナ服を身につけた神楽が上空から舞い降りた。数人の天人に鋭い一撃を見舞い、番傘に仕込んだ銃弾を浴びせる。

 

「置いてけぼりになんてならないアル!」

 

五年分成長した彼らの姿をしっかりとその目に収めて、銀時は荒々しい笑みを形作った。

 

「あらあら、随分と楽しそうですね」

 

淑やかな声に釣られて見れば、薙刀を武器にした志村妙がにこやかに微笑んでいる。本来の色を取り戻した髪を靡かせ強かに戦っていた。

彼女の周囲では左目に眼帯をつけた柳生九兵衛が頼もしい仲間とともに天人を倒していく。

 

「はっ。お前こそ病み上がりのくせに元気そうじゃねーか」

「あいにくどこぞの大魔王さんが勝手なことしでかしてくれたんですよ」

「そうだぞ。銀時、お前がいたから妙ちゃんはあんなに……」

 

思い出されるのは白い彼女が涙を流す光景。まるで前世の記憶であるかのように、それぞれの胸に傷跡を残していた。

久兵衛は覚悟を決めた声音で銀時に言う。

 

「今度妙ちゃんを泣かせてみろ。僕達の前から姿を消してみろ。絶対に君を許さないからな」

 

そして刃を敵勢に向ける。しかし流れるような剣さばきが繰り出される前に、天人軍にクナイの雨が降り注いだ。

やってのけた二人の女性はひらりと着地する。凛とした立ち姿に神楽は嬉しそうに名を呼んだ。

 

「さっちゃん、ツッキー!」

「いつまでほっつき歩いておる。ここは引き受けた。さっさと行きなんし」

「銀さん。……無事に帰ってきてくれたら、また変わらない姿で迎えてあげるわよ」

 

己の顔も見ずに告げられた言葉に銀時は静かに頷くと、新八と神楽を連れて走り出した。普段なら……いや、前であれば二言三言さらに会話を続けられそうだったが、そうもいかなかった。

 

「まったく……本当にバカな奴じゃ」

「いつでもあの人はそうだったわ……」

 

愛しい人の帰りを待つのは、もうやめにした。

自分達が迎えに行くのだ。だから笑顔で見送ってやろうとしたのに、こうも涙が流れてしまうとどうしようもない。

ああ、でもよかった。あの人が、万事屋がまた元のように笑い合っていて。

猿飛あやめと月詠は涙し、お妙と九兵衛は顔を見合わせると微笑む。どうやら帰ってきたのは銀時だけじゃないらしい。

 

「みんな……おかえりなさい」

 

 

「銀時様、少しよろしいでしょうか」

「たまさん!」

 

戦うカラクリ家政婦、そして時間泥棒の正体であるたまが三人に合流した。その表情は硬く、銀時達はどうしたのかと首を傾げる。

躊躇うような間を空けて囁いた秘密は。

 

「……本当なら、あなたは死んでいるんですよ、銀時様」

「……………」

「あなたは確かに攘夷戦争時代のあなたを殺し、この世界を救った。それ以降銀時様の存在は消え、みなさんの記憶から坂田銀時という存在も失われてしまった」

 

未来の彼を知る者は自分だけだった。故にたまに残ったデータでみんなを過去に来るよう説得させ、本来あるべき光景を映像として伝えたのである。

彼らの衝撃は凄まじかっただろう。なにより攘夷戦争時代に友を失った桂小太郎の動揺たるや見ていられなかった。

 

やがて彼らは決心する。

失った時を取り戻そうと。

 

「そうして私達は未来から過去へやって来ました。ちょうどあなたがあなたを殺す前に」

「だからマダオがいたのかよ………って、そうか……じゃあ、」

 

俺のいない世界だったら、雪子は生きていたのか?

 

フラッシュバックする、意識の底に沈んだ記憶。

ふとした瞬間に思い出す。どうしたって二度と交わらない道を突き進んできた俺達の後悔を。この手を濡らした血と冷たくなっていく体を。

 

動きの止まった銀時を不審に思って、新八はそっと名前を呼んだ。

 

「銀さん……?」

 

銀時は呻くように声を漏らした。

どちらにせよ、たまの口ぶりからして雪子のことは知らないだろう。であれば新八や神楽を始めとしたかぶき町の面々もわからない。

唯一の例外は幼馴染である桂だが、その彼は遠くで部隊を引き連れて戦っている頃だろう。

 

未来の雪子のことなど誰も知らない。

 

けれどこの時代の雪子は生きている。

ならこの先は? 俺は、もう一度───

 

「銀ちゃん!」

 

神楽の声にはっとした。

新八も神楽も心配そうな顔をしている。

 

「大丈夫ですか、顔色が悪いですよ」

「ああ、平気だ」

「嘘アル。暗い顔してたネ」

 

じっ、と視線が送られて銀時はたじろいだ。

非難しているわけではないが、どうして隠すのかという意味が込められていて。あー……と間を持たせるように言葉で埋める。

 

「わぁーったよ。俺達が帰って、それでもお前らが覚えてたら話すよ」

「……絶対ですからね」

 

へー、へーと鼻くそをほじくって流した銀時は、いくらか余裕を含んだ面持ちでたまに向き直った。

 

「で? わざわざ俺が一回死んでるってこと伝えて、何が言いてーんだ」

「私がみなさんをここに連れてきた、それよりも前に。………どうやら誰かがタイムスリップしたようなんです」

「は?」

「源外様がおっしゃっていました。(完成品)の前に試作品として作られた時間泥棒。今回は性能アップのための単なる練習台でしたが……そんないつどこに飛ばされるかもしれない失敗作を、誰かが奪っていったと。私がタイムマシンだからか魘魅と交戦するよりも前の過去が変わっていることがわかりました。ですからあなたとこの時代のあなたは、全く違った過去を歩んだと思われます」

 

銀時は半ば思考停止状態だった。

けれどたまはさらに言葉を重ねる。

 

「あなたは五年後の銀時様を殺し、過去に飛んだ。そして十年前の銀時様も………。そんな私達からすれば未来と、何者かが書き換えた過去が現時点で重なりつつあるんです」

 

たまはぐっと距離を詰めた。

 

「お心当たりはございませんか。あなたのように、過去に飛んで未来を変えようと足掻いた者がいるんです」

「たま、いきなり何言い出すアルか! ごちゃごちゃでよくわかんないヨ」

「えっ……と、つまり、タイムマシンは二体あってその内の不完全なほうを使って誰かが過去を書き換えた。完成品のたまさんと僕達、そして銀さんがやって来たのは、その書き換えられた過去ということ……?」

 

混乱する二人をよそに銀時は驚愕に目を見開いた。

 

 

「……雪子、か………?」

 

 

名前を呼ばれた気がして雪子は長髪をなびかせて振り返った。しかし視界に映るのは奇妙な援軍が天人と戦っている様子で、なんだったんだろうと首を傾げる。

 

「雪子!」

 

しかし確かな声で叫ばれて、その人物を視認すると雪子は驚いた。今朝見た顔と似た顔がそこにいたからだ。

 

「ヅラ……? いや、え……お前なんで。つかその格好は? なんか顔違くない?」

「当然だろう。雪子の知る俺よりも十五歳年上だからな」

「何言ってんの??」

 

ヅラこと雪子の幼馴染である桂は彼女の若々しい顔立ちに否応無く攘夷時代の雪子なのだと認識する。

自分の欲しいままに周りを振り回している、愉しそうな雪子だと。

 

彼は二つの未来を知っていた。一つは本来の、銀時が世界を滅ぼし雪子も死んだ未来。一つは銀時が攘夷時代の銀時を殺し雪子が生きた未来。これが桂がその身に受けた人生だ。

どちらにせよ悪夢のようだった。大切な人達を亡くし、護りきれず、仲間は心も散り散りになって、自分を何度も何度も呪った。

 

しかし……ではこの未来はなんなのだろうか?

銀時は救ってみせる。いないはずの雪子が何故ここにいるかわからないが、もしかしたら───……

 

桂は頭を振る。

未来の雪子の選択を間違っていると断ずることができなかったのは自分だ。ならば俺だって、やつらを救うために汚くなってやろうと。

 

理知的な眼差しで桂は話した。

 

「落ち着いて聞いてほしい。俺達は十五年後の未来からやって来た。魘魅を倒し、白詛が世界に蔓延するのを防ぐために」

 

なるべく未来の情報は伏せ、話せる限りの情報を伝える。だというのに途中から雪子は顔をしかめて、聞いているのか聞いていないのか微妙な態度をとった。

 

「あー、もうそこまででいーよ。信じるから」

「信じてくれるのか?」

「うん。だって変わらないでしょ? お前が本当にヅラなのか別物かとかどうでもいいし。使えるやつはこき使ってやるだけ」

 

飄々としながら雪子はさらに続けた。

 

「つか魘魅の弱点がどうたらとか知ってんだけど。とっくの前に」

「何っ!? いつからだ?」

「いつって……お前達と戦う前に、松陽が書いた本と一緒に届けられたんだよ」

「先生が書いた本……一緒に? いや、待て、そもそも俺達はあの日を迎えるまで再会しなかっただろう」

「はい?」

「いやだから……」

「待て。………どういうこと?」

 

ちぐはぐな会話に苛立って雪子の声音が低くなっていく。桂もまた動揺していた。自分が歩んだはずの過去が変わっていたのだ。

 

「先生が書いてくれた留魂録。そのおかげで私も朧も、生き方を変えようと戦った。だから……仲直りっつーか。………あらためて言うと恥ずかしいな」

 

最後の方は小さくて聞こえなかったが、聞き流せるはずのない話に桂は詰め寄った。

 

「朧? 仲直り?」

「そっちはどうなの? ちったぁ情報提供しろよ」

「こちらでは……仲直りなんて、させてもらえなかったよ」

 

そう。と雪子は興味なさげに呟く。

ならあの女は……と思考に耽る。

 

どういうことだ? 桂は考えた。

この様子では教えてくれないと長年の経験から知っている。だから今ある情報を元に推測するしかないのだが、あまりに過去が違いすぎる。……いや、だからか。

 

「まさか……そんな」

 

過去が書き換えられている?

未来の自分達が過去に来た影響か? ならばどうして魘魅と戦う以前の過去も変わっている。俺達よりも前の時点に飛んだやつがいるのか。攘夷時代に何があったかを事細やかに知っていて、かつ松陽先生や朧とも交流を持つ人物が。

 

そんなやつはたった一人しかいない。

 

「……あいつ、銀時を救おうと一人で……」

 

なにが知らないだ。なにがどうだっていいだ。

誰よりも銀時が死んだことを悔やんで、なにも護れなかったと傷ついていたというのに。

 

雪子は一人で全ての前提を覆してのけたのだ。

それとも、雪子だからこう言ったほうがいいのか。

 

「雪子、お前はいつだって引っ掻き回してくれるな……」

 

未来の雪子は過去に飛び、魘魅の情報を伝えた。それを知った過去の雪子はやつらを倒そうと本来の道をこねくり回してくれた。

宇宙船なんてものを遣わしたのも彼女が原因だろう。まさか警察庁長官だったこの時代の松平片栗虎がいると、誰が予想できようか。特に敵対する幕府の武装警察どもは笑えるぐらいに驚いていた。

 

「ねえ、どういうこと?」

「すっかり変わったと思っていたのに、結局お前が変わっていなかったということだ」

 

銀時が救った未来と、雪子が変えた過去。

それらが交わるは、現状()

 

「今を救うために行こうじゃないか」

「……あんたに言われなくても」

 

煌めく刀身が姿を現し遠くの燃える墜落船を睨む。

雪子と桂は笑みを浮かべると、大地を蹴った。

 

 

「なんだったんだ、さっきの大爆発は! おかげでお妙さんと離れ離れになってしまったじゃないか!」

 

轟いた巨大な爆発のあと、万事屋の部隊は離れてしまった。そのせいで愛するお妙と引き裂かれたなんて言い出す真選組局長の近藤勲を、呆れたように見てタバコをふかした副長の土方十四郎は空を仰ぐ。

 

「しっかしこの時代のとっつぁんがここにいるとは」

「ああ……相変わらずだったな」

 

今頃武州で竹刀を振っているだろう自分達に将来かなり苦労させられるぞ、と念じておいた。

 

周囲を見渡した山崎はバズーカを担ぎ直して言う。

 

「近くに桂率いる攘夷軍もいますが、今や仲間ですし……どうして攘夷志士やってんですかね。俺達」

「攘夷戦争末期と言やナマツバもんの大物志士がゴロゴロしてるのに。斬ってもいいよなァ、まずは土方てめェだァ!」

「あっぶねェな! 敵あっちだろーが!」

 

土方が怒りの形相で墜落船を指差す。しかし色素の薄い髪を揺らすと沖田総悟はきょとんとする。

 

「いつだって俺の敵は土方さんただ一人でさァ」

「斬り殺されたいのか、あぁ?」

「やめろ。トシ、総悟」

 

近藤がさすがの風格でたしなめる。

 

「しかしこの時代ならばあの伝説の英雄、獅子喰い殿にもお会いできると思ったんだがなぁ」

「ああ……あの性別も容姿もあやふやなやつですか。そんな人、本当にいたんですかね」

「どれもこれも攘夷志士の残党の戯言じゃねェのか」

 

近藤の独り言を拾った沖田と土方に、そうかもしれんなと笑いかける。

 

獅子喰い。

幕府の、特に武装組織ではよく名のあがる存在だ。

獣のような強さで圧倒し、獅子喰いのおかげで攘夷志士は急速に数を減らしたとまで言われている、幕府の英雄だ。

しかしある時に忽然と姿を消した。

それ以降表舞台に一切姿を見せず、獅子喰いの消息は不明となっている。だから獅子喰いの正体を探ろうにも、攘夷志士の戯言や恐れで使い物にならない元幕軍から聞かねばならない。そうなれば必然と噂は肥大化して、その真実はどうにも覆い隠されたのだ。

 

正体を知っていると思われるのは、同じく攘夷戦争末期に活躍した攘夷四天王の面々だろうが、一人は討死、一人は全く別の道を歩み、二人は攘夷志士を続けていたため、まったく明かされなかった。

 

「ま、いないかもしれない人を探そうとしても時間の無駄だ。俺達は魘魅を倒さにゃならねェ」

 

真選組はぐっと表情を引き締めて、近藤の言葉を耳を傾けた。しかし続けられたはずの声は上空から響く低音に覆われてしまう。

 

『お〜い死にたくねェやつはさっさと退きな。もう一発撃つぞ』

『やめておけ。地上の天人軍にも被害が出るぞ』

 

続いた男の声に、あの松平をたしなめる奴がいたのか! と真選組が驚愕する。だが当然のように松平は言った。

 

『ここで魘魅と攘夷志士を一掃すれば、これから生み出される悲劇だって減るだろ。兄ちゃん、覚えときな。多少の犠牲があったとしても救わなきゃならねェことだってあるんだよ』

 

どうやらエネルギー装填はまだ済んでいないようで、スイッチが押される様子はない。

しかしいつ発射されるかわからない以上、戦場から離れるべきだ。

 

「とっつぁん、俺達もここにいるからやめて!!」

「意味ねーよ近藤さん。この頃は知り合ってもいねェんだから」

「わかりました、ここは撤退しましょう土方さんを置いて」

「なんで土方さん置いていかれなきゃならねーんだ!」

「つーかそれで魘魅倒したら俺達が過去に来た意味は!?」

 

てんやわんやと騒ぎ出す真選組。すぐ近くにいたため桂率いる攘夷軍も合流し、みっともなく軍艦を見上げて制止を呼びかける。

 

すると怒号のような声音で集団から駆け出した者がいた。

 

「ざけんな、私の獲物を一匹残らず焼き払うつもりかよ!」

 

未来からやってきたメンバーで最年少の神楽と同等くらいの年齢を思わせる顔立ちに、真選組は目を見張る。

この時代の者だろう。攘夷志士だろうか。こんな若い女性がなぜ戦場に?

そんな疑念などどうだっていい雪子は軍艦を睨むとすすきを踏み散らして行く。凄まじい速度で戦場を駆け上がるその後ろ姿に、何かを感じ取った沖田は唇を舐めた。

 

「ありゃ只者じゃねぇです。旦那と同じ……いや、それ以上の強者だ」

「なに! あんなに清楚な顔をしたお人がか?」

「じゃあ、あれが獅子喰いだと?」

 

しかし自分も感じた異様な気配に、土方は自分の判断を正しいと思う。肯定するように桂が頷くのだからなおさら腹が立つが。

 

「さあ貴様ら、幕軍の英雄である獅子喰いに続けええぇぇぇ!!」

「いやなんで攘夷志士の桂が言うの!?」

 

山崎が声を張り上げるが、拳を突き上げた味方の雄叫びに掻き消された。

 

 

「賑やかになったわねぇ」

 

全てが見渡せる丘に立ち、外套を纏った女は戦場を見下ろした。だいぶ戦局も動き、あとはいかにして軍艦が地上を破壊する前に魘魅を倒せるかが肝となっている。

 

「行かれるのですか」

「役者はまだ揃っていないでしょう? それにこんなお祭り騒ぎに参加しないわけにはいかないもの」

 

女はフードを被っていなかった。その代わりに大きな番傘を差して光を遮っている。

 

「そもそもあなたが指定通りに飛べばここまで時間がかからなかったのよ。このポンコツ」

「申し訳ありません。何ゆえ不良品ですので」

 

ほこりの溜まった倉庫で眠らされていた中から連れ出した、布を被せられた失敗作。予想外に有能でポンコツな時間泥棒だ。

 

「……まぁいいわ。おかげで私が死ぬ未来は変えられたから」

 

まさか旅行記を渡しただけでこうも過去が変わるとは。

 

瞼に浮かぶは、もうずっと前のように思い出す桂との会話だ。どうやって突き止めたのか、転々としていた塒を訪ねて銀時を救うだの言ってきた。

 

『知らないわよ。死んだ者は帰ってこない。それが当たり前でなくて?』

『救う方法があるというのにか』

『………帰って』

 

その気がないとしるや桂は酷く悲しそうな表情を浮かべる。

 

『お前には、失望した』

 

「ああもう、ムカつくわね」

 

むしゃくしゃした気持ちは天人どもにぶつけよう。闘志を膨らます女に向けて時間泥棒は腰を曲げる。

 

「いってらっしゃいませ、雪子様」

「……いい加減それ取りなさいよ」

 

ぽつねんと取り残された人型の機械はやがてゆっくりと頭部のカメラを引き抜く。すっきりとした気持ちのいい日差しが滑らかな糸を黄金に輝かせ、好青年然とした笑みを照らした。

 

「じゃあ、俺もそろそろ行くか」

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