お家に帰ろう   作:睡眠人間

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前回の続きです。


可愛い子には旅をさせよ

ズリ、ズリ……と足を引き摺るようにして正門を目指す銀時。

力の抜けた両腕と全体的に薄汚れた姿も相俟って、本当に行き倒れそうな童のようだ。

門番の男どもは銀時に気づくと、さっと腰にぶら下げた刀に手を添える。その挙動からして刀の扱いに慣れていることがわかる。まあ当然といっちゃ当然だろう。こんなとこにいるおっかないオッさんたち、普通である筈がない。

 

「貴様、何者だ!」

「ハラ減って、死にそうだ……。頼む、食いモンを………」

「……見たところ山に迷い込んでしまった、哀れな孤児とでもいうやつか。どうする、一応捕縛しておくか」

「そうだな。一匹小汚ェガキだけだ、大した価値にはならんだろうが、小銭くらいにはなるさ」

 

はい、アイツら悪党決定。しかも相当ヤバそうだと確信。アタリハズレでいうと一等賞を引き当てた感じ?

つか早速ピンチなんだけど。銀時、お前捕まってどうすんだ。

門番係が人を呼んだからすんなり裏口から入ることができた。蝋燭で灯された程度の明るさだったので、薄暗い。それでも窺える部屋の様子は、外観よりもよっぽど綺麗だった。

この建物は大きいのだろう、半分以上を鉄格子で区切られているのにさほど窮屈さを感じない。幸い何故か木箱が大量に置かれていたので身を隠すのには困らなかった。床には木材が敷き詰められていたが長年の劣化か、あるいは何者かの抵抗によってズタボロだ。

 

ふむ、中に5人、外に3人。全員武装済みか。

もしかして国家転覆を目論む攘夷志士とかそんなやつ?

 

木箱の陰に潜んで、仄かなオレンジ色が照らす牢屋の中に視線を走らせ、息を呑んだ。老若男女の人間たちが、縄で手首を拘束された状態で牢屋に入れられていた。皆一様に言えることは、その顔に絶望のみが浮かんでいることか。あまりの光景に硬直していると、男が口を開いた。

 

「今回の仕事も楽だったなァ。あとは木箱に詰めて売り飛ばすだけだ」

「あの役人どももイカレてるぜ。攘夷志士が人売ってんのをしょっぴくどころか買い取ってんだからよォ」

 

その後も能天気に会話を続けた奴らによれば、そいつらは人身売買をするクズ野郎だった。あの口ぶりからして何度も仕事をしてきたらしい。役人、つまり政府の人間が絡んでいるのはその実績からなのだそう。だったら人数が少なくないか? と思わなくもないが、奴らが組織の中でも下位に所属しているからだろう。もし上の立場の者であれば、こんな山奥に引きこもっているのは変だ。それに野郎どもの仕事は、山奥に連行されてきた村人たちを木箱に詰めてクソ役人たちに売ること。運び屋みてェなもんか。クソが。

 

とんでもねェとこに紛れ込んじまった。銀時は大丈夫だろうか、と刀を強く握った。不安を搔き消す為に必死に考える。

 

奴らの目的は人間を売ること。押し込める為の木箱を破壊し捕らわれた者たちを解放すれば阻止できる。

しかし私たちの目的は救出じゃねェ。あの人たちを助けるのではなく、悪党どもをブッ潰すのである。それが強さへの経験値にちったァ足されるだろうから。けど……

 

『君は君の思う強さを目指してくださいね』

 

孤児を二人も引き取った優しい松陽なら、この状況を見過ごさない。

ならば松陽の弟子である私は……、

……………。

……やるしかねェか。少し気になることもあるしな。

 

脳内で目標を銀時救出から人質救出に塗り替えて、仄暗さにも慣れてきた目で観察する。

私が見つかったら全てパァだしね、慎重に、慌てずに。銀時はまだ外で暴れてはいないようだが、それも時間の問題。

人質たちの拘束を解くには縄を切るしかない。その前にあの牢屋を開けなければならないので、その鍵は一体どこに。あ、あった。クズ野郎どもの中でもリーダークズ野郎の男が持っている。離せや。

あいつらが気づかないうちに後ろから襲っとくか。5人いるけど、まあなんとかなるでしょ。

 

ゆっくりとした歩調で近づいて、まずは1人目。銀時から受け取った刀を鞘に収めたまま、跳び大きく振り下ろす。クズは呻き声を上げて倒れた。

 

「何奴!」

「テメェらに名乗る名なんてねェよ」

 

一瞬の動揺をついて側にいた2人目の顎を柄頭で突き上げる。ゴキッとか骨が折れる音がした。

1秒にも満たない時間で2人を伸した私に、残る3人は警戒心を強める。

 

「目的は何だ! 誰の差し金で来たッ」

「別に? 強いて言うならくるくる天然パーマのクソガキを助けにな」

「そんなやついるかァ!」

「いるわァァァ!!」

 

元気な声は上から降ってきた。天井を見上げると、銀時が3人目のクズの顔を踏みつけるようにして落っこちてきた。いつの間に入ってきたんだろう。地に足を着けた銀時は、正門を開いた。眩しい光が差し込み、門番係だったクズ野郎たちが地に伏せている光景が目に入る。

 

「待たせたな。外の連中は終わらせてきたぜ」

 

それ男として? なんか股間を抑えてるように見えるんだけど。まさかの金的攻撃してきたの?

男じゃないから痛みはわからないが、浪士達の血の気がさっと引いていた。想像したんか。

 

「なんだ、捕まってなかったの。残念だな……良いサンドバッグが出来たと思ったのに」

「ああ? どーゆー意味だコラ。あんくらい余裕なんだよこっちは。オメーはどうした。怖くて震えてたのかよ」

「震えてねェよ。あれ見てみ」

 

くいっと顎で方向を指すと、銀時は突然の乱入者に驚いている奴隷一歩手前の人々を見て、そういうことかよと苦い顔をする。

 

「めんどくせェところに来ちまったな俺達は」

「でしょ。私、中々嗅ぎつける能力あるよな?」

 

預かっていた刀を投げると片手で掴んだ銀時。そして鞘から抜かないで、残る2人に構える。え、やっぱり斬らないの銀時。もうひのきの棒でよくない?

 

「じゃあ、これよりも変なの嗅ぎつけられても困りますし? ちゃっちゃかやってやるか」

「だな」

「お、おい待てガキども! 俺たちが誰を相手に仕事してんのかしってんのか!? あのーーー」

「クッソどうでもいいんだよクズ野郎!!」

 

渾身の右ストレートが野郎の急所を直撃。泡吹いて倒れたので懐をあさくれば牢屋の鍵が手に入った。全く強くなかったし、戦闘も楽しなかった……訂正、すっきりしたな、うん。けど汚ェもん殴っちまった。あとでよく手を洗わなくちゃ。

銀時も敵を刀もといただの棒で叩きつけ、意識がないことを確認。

こうして悪党どもはたった2人の童によって倒されたのだった。

 

「あ……あなたたち、一体何者なの?」

「ただの迷子ですよ」

 

鍵を外して捕らわれた人々を解放すると、たくさんのお礼を言われた。うーん、ちょっと複雑な気持ち。銀時は鼻ほじりながらあァだとかへェだとか雑な返事をしてた。

この人たち、攘夷浪士に攫われてここに幽閉されていたんだと。近くで捕まった人もいれば、遠くから連れてこられたのもいる。帰り道まで世話するつもりはないが、果たして大丈夫なのだろうか。

 

攘夷浪士どもを拘束しようとするので少し待ってもらい、リーダー野郎の上半身の着物を剥いだ。背中を確認するが期待していたものはない。一応他の野郎どもの背中も見たけど、やっぱりない。そんなもんか。

 

「なにやってんだオメーは」

「気になることがあってな」

「ふーん。オッさんの裸が? 趣味悪ィな」

「違うっつーの」

 

怪しむ銀時の視線を無視した。

全員を縄で拘束し牢にぶち込んどく。敵が完全排除されたとあって、みんなの顔に生き生きとした笑顔が戻っていた。

 

「役人どもめ。俺たちを買い取るだって!? 許さねェ!」

「だがこの地域の役人とは限らないんじゃないか?」

「そうかもしれない。浪士たちの話だと、ここから何日もかかる場所で売られる予定だったみたいだし」

「あのままだったらどうなっていたことか……」

「ほんとに助かったわ。ありがとう」

 

そんな感じの感謝の言葉を言われていると、ガタイのいいおっちゃんが元気よく頷く。

 

「あんたらは命の恩人だ! 何か礼をさせてくれ!」

「んー、じゃあ農家の人いる? 私たち、今度この辺りに引っ越すんだけど、食料が欲しいんだよね」

「それだけかい? いくらでもやるよ。無くなったらいつでもおいで」

「うちも手伝うわ。どれだけあげても足りないくらいだもの」

 

よし。これで食料不足にはならないぞ。1人ほくそ笑んでいると、銀時がドン引いていた。んだよ、文句あんのか。7割ぐらい私の腹に収まるだろうけど、一応お前の分も入ってんだからな?

 

だんだん話が展開していくうちに、松下村塾に子どもを通わせたいだの、行く宛のない人は一緒に働こうだのといい方向に向かっていく。数日捕らわれた間に仲間意識が生まれたようだ。

しつこいと思うぐらいいっぱいのありがとうをもらってから、私たちも漸く松陽がいるだろう公園を目指す。ちゃんと道の分かる人に聞いたので、迷わず歩いても疑問に思われないのである。

 

「銀時さ。なんで刀を鞘に収めたまま使ってたわけ? 刀の意味なくね?」

「斬らねェって決めたんだよ」

「それはどうして?」

「あ? あー……それはなー、使わなくても勝てるからだ」

 

銀時はきっと言おうとしていた言葉を飲み込み、まったく違うことを口にした。言いたくないからじゃなくて、まだ言う時じゃないのかなーと勝手に自己解釈したので、それ以上は聞かないでおいた。

 

銀時もそうやって、私が引いた境界線を踏み越えない。ただギリギリのラインに突っ立って、自分から歩み寄るのを、やる気のない顔して待ってくれているんだと思った。

公園に着くと、桜がはらはらと散っていくなかで松陽が一人待っていた。よかった、そこにいてくれたんだ。

走り出した背中を銀時が思いつめた表情で見ていたのを、私は気づかなかった。

 

「松陽! ごめん何時間もいなくなって」

「心配したんですよ。一体どこに行ってたんですか。というかその汚れはなんですか」

「山で道に迷ってた」

 

松陽は土だらけの私と銀時を見ると、大きくため息を吐く。そして人差し指を立て、やっぱり笑顔でお説教をする。

なんかその声を聞くのを久し振りに感じて、ぼけーっとしていたら話を聞いてないと思われた。解せぬ。




これで引っ越してもご飯に困らないね!
雪子は自分の為なら手段を選ばない女です。ちょっとした優しさを持ち合わせていても自分の為に使います。がめつい。
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