お家に帰ろう   作:睡眠人間

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前の2話分を若干修正しているのでそちらを先に読んだ方がいいです。


お仕事

 翌朝、銀時に叩き起こされた新八と神楽は、昨夜訪れた雪子が営む小料理屋に再び来ていた。理由は至極簡単、昨日の電話の依頼がここだったからである。

 

「ケッ。やけにすんなり引き下がったからなァんかあるとは思っていたが、こんな面倒くせぇ仕事を押し付けやがって」

「なんかバタバタしてましたね、雪子さん。あと追加の依頼もされましたし……」

 

 新八が手に握るのは雪子に託された買い物リストだ。ずらりと並ぶ文字列に気が遠くなる思いがしたが、冷蔵庫の中を空っぽにした一因でもあるので何も言えない。

 その代わりに主な原因である神楽にジトッとした目を向けた。

 

「神楽ちゃんがあんなに食べるからだからね」

「どんどん食べていいって言ったのは雪子アル。というかリストの半分は酒だし銀ちゃんが悪いネ!」

「ハァン!? 俺そんな飲んでねーし! 手当たり次第開けたけど飲み干したのはアイツだろーが!」

 

 依頼人のせいという結論に至るも本人はいないのでどうしようもない。

 万事屋の3人は肩を落として蔓が這う鬱蒼とした外観の家を見上げると、ようやく作業に入った。

 

 

 

 同時刻。江戸の治安を守る武装警察、真選組局長である近藤は走っていた。その後を追うのは副長の土方で、二人は全速力で廊下を滑り進む。

 

「急に電話してきて『5秒で来い、でないと撃つぞ』って酷くない!? 攘夷志士と遜色ない横暴っぷりだよアレ!!」

「グダグダ言ったって意味ねーんだから走るしかねェよ近藤さん! どうやら俺たちァまたとんでもねー仕事を任されることになりそうだ」

 

 長ったらしい廊下を走り指定された部屋に着くと勢いよく襖を開けた。近藤が謝罪の言葉を口にする前に、その頰を掠めた弾丸が背後の壁に穴を開ける。

 

「遅せぇな近藤……お前いつ俺を待たせるほど偉くなったんだ……?」

「と、とっつぁん……急に呼び出しといてそりゃねーよ。……すまねぇ。それで、そちらは?」

「チッ。……まぁ入れ。今日は合同任務を言い渡す為に呼んだのよ」

 

 部屋には既に2人の人物が座っていた。

 

 1人は白髪に人相の悪い男。松平の挙動は関心外なのか目もくれず資料を読んでいる。並々ならぬ気配を漂わせており、やはり只者じゃないと土方は睨んだ。

 もう1人は艶やかな髪と端正な顔立ちの女で、面白そうにこちらを観察している。

 

「悪りぃな、ウチのもんが」

「構わん。座れ」

 

 松平の言葉をばっさり言い切った男の隣で女は嫋やかな仕草で着席を促す。場が場ならデレデレするほどの美女だが、ここには仕事に来ている。

 

 毅然とした態度で近藤が男と対面するように座り、土方は倣って女の正面に座った。にこりと微笑む姿は一般人にしか見えないが、この場にいる以上それは異端だ。

 

「あー、お前らは初対面か。こいつらは……」

天鴉(あまがらす)局長、朧」

「同じく副長の雪子と申します」

 

 武装組織『天鴉』。攘夷戦争終結後に成り立った将軍直属の護衛組織で、どこから掻き集めたともしれない暗殺術の達人で構成されており、人数は少ないが実力は確かだ。主に将軍護衛の任を頂いていて、他には指名手配犯や超危険攘夷志士の逮捕等の仕事を引き受けている。

 ……という資料だけの存在が実在していたことに驚きを感じながら、近藤と土方は自己紹介をする。

 

「初めまして。私は真選組局長の近藤勲で……」

「副長、土方十四郎です」

 

 二人が資料を手にしたのを横目に、警察庁長官松平片栗虎は厳かに口を開いた。

 

「んじゃ始めんぞ。攘夷志士の中でもちょ〜〜危険とされる男、桂小太郎と高杉晋助が江戸に来たという情報が入っている。江戸の治安、将軍様の命を守る二つの組織のおめ〜らには、連携してこれに対処してもらう」

 

 

 

「あー腰痛ェ……おいもう休憩しようぜー。どんだけ草むしればいいの。もう手から青臭い匂いしかしないよ」

「まだ初めてちょっとしか経ってないでしょ。雪子さんのお店なんだから、銀さんが一番しっかりしないとダメじゃないですか」

「アイツだからこそやる気になんねーの」

「……それは、まあ、そうですよね……」

 

 新八が微妙な顔をしてそっと顔をそらすので、銀時は、ん? と一抹の不安が頭によぎった。

 

「だって、昔、一緒に暮らしてたんですよね……?」

「あん? そうだけど……え。何、なんか勘違いしてねーかお前」

 

 肯定した。年頃の男女が一つ屋根の下で暮らしてたって認めた! 嘘だ、嘘だよね神様。どう考えたってありえないでしょ。僕は認めませんよ! このまるでだらしない男、略してマダオの銀さんに、あんな美人で料理が上手くて優しい人が。僕は認めない!!

 

 新八は拳を強く握って熱くなるも、一方で、そうか、とも思った。よかったとさえ思った。フラフラしているようで芯のある男が、一生を添い遂げる覚悟で共に暮らしていた人がいたんだ。カレンダーに赤丸つけてウキウキして。帰ってくるのを心待ちにするくらい大事な人がいたんだ。

 昨日の雪子の言葉が、新八の勘違いを加速させる。

 

『このバカさ、誰かが帰る場所にいないとふらふらって消えてっちゃうから』

 

 それは、まるで自分が帰る居場所ではなくなったような口ぶりだった。

 

「いえ僕わかってますから。爛れた恋愛しかしてきてなさそうだと思ってたのが、嘘だったってだけなんで。やっぱ銀さんも人の子なんですね。別れた人がいつまでも忘れられないんですね」

「何ぼそぼそ言ってんだァ? おーい新八クン? こっち見よっか?」

 

 なんてことを話しながら草むしりを再開してしばらく経つと、リアカーに大量の食糧を乗せた神楽が帰ってくる。

 

「待たせたな! ちゃんと買い物リスト通り買ってきたヨ!」

「神楽ちゃん、その手に持ってるものは何なの?」

「肉アル」

 

 がしっ!! 頭を掴まれてもなおモッチャモッチャ肉を食らう口を止めない神楽に、銀時はブチ切れた。

 

「おめー何食ってんだアァァ!! それっ、おま、えええぇぇぇぇ!!?」

「銀ちゃんなんで焦ってるアルか? いつでも食っていいって言ったのは雪子アル。心配することはないネ」

「心配しかねーんだよ!! それタダって言った!? 一言も言ってないだろ!!? 後で金巻き上げられるの誰だと思ってんだ!!!」

「大丈夫アル。優しいからきっと許してくれるヨ」

「アイツに優しさなんてものがあったらこの世界はもっと平和だよ!!」

 

 またギャーギャー騒いでるよ。苦笑して食料を冷蔵庫に詰めていく新八は、帰るまでの過程で神楽が食べてしまったものをリストアップするという配慮を発揮していた。

 

「えーと、あとは……ん?」

 

 キィィィィィィッ!!! 突然甲高いハンドルを切る音がして、ドカンと大きな衝撃が店を襲う。壁に穴が開き、綺麗に磨き上げられた床に破壊された木材やらが無造作に散らばった。パラパラと天井から破片が落ちてきて、店内にいたぎょっとする新八と真っ青な顔をした銀時の目が合った。

 

「……な、なっ、何ですか!? 事故!? 大丈夫ですかちょっとォ!!?」

「ウ……、スンマセン、昨日からあんま寝てなかったもんで」

「テメー何してくれとんじゃアア!! 勝手に店に穴開けやがって!! これ誰の責任にされると思ってんだああああん!!?」

「銀さん、怪我人相手にそんな!」

 

 バイクが店に突っ込んで来たらしい。運転手の胸倉を掴み容赦なく揺さぶる銀時は今までに見たことのない必死の形相だった。新八が慌てて止めに入る。

 

「こりゃひどいや。神楽ちゃん救急車呼んでくれる?」

「救急車ャャァアア!!」

「誰がそんな原始的な呼び方しろっつったよ」

 

 神楽の大声にいくらか冷静になった銀時は、店内に散らばった破片と埃とたくさんの手紙を見つけ、まあカタギなら諦めがつくだろうと思うことにした。そう思わないと今すぐここから逃げ出してしまいそうだったからだ。

 

「アンタ飛脚か。届け物エライことになってんぞ」

「こ……これ、これを俺の代わりに……届けて、くだせェ」

 

 曰く、大事な届け物らしく届け損なったらクビになってしまうらしい。

 

 その大事な荷物とやらを銀時に託して意識を失った飛脚に、万事屋の三人は顔を見合わせた。

 

 

 

 

「天鴉、か……。あんな噂ばっかで得体の知れない連中と手ェ組むなんて、松平のとっつぁんは何を考えてんだか」

「そんなに不安にならなくてもいいんじゃないか? 同じ将軍様と江戸を護る武装組織同士、仲良くしようじゃないか」

「不安じゃねえ。これは警戒だ。……近藤さん、アンタも知ってるはずだ。天鴉といや、幕府を傀儡にして裏から実権を握ってる天導衆と……」

「あら。そんなに我々が気に入らないのですか?」

 

 会議が終わり、近藤と土方が廊下を歩いていると曲がり角から姿を現したのは、今まさに話をしていた天鴉の副局長だった。局長の朧とやらはどこに、という土方の視線を察した雪子は、松平殿とお話を。と微笑み交じりに口にする。

 

「今回の件は将軍様に直接被害がいく可能性が低いとはいえ、今後もそうだとは言えません。これから協力して江戸守護の任に当たらねばならないこともありましょう。だから松平殿が招集をかけたことくらい、おわかりではないですか?」

「で、す、よ、ね! ほらぁ雪子殿がこうおっしゃってるんだ。トシもそうピリピリすんなよ」

「……おう」

 

 近藤が肩を優しく叩くが、どうにも気に食わねえ女だ、と土方は警戒心を強くする。

 

 にっこり。邪気の欠片もない張り付けた笑み。優しく穏やかな声色。刀を帯刀しているのが不自然で仕方がないほど、その女の一般人然とした振る舞いは見事というほかない。局長の朧など、どう見てもカタギじゃない見目をしているくせに。

 だというのに刀をきちんと振るえるのかさえ怪しい細い体には、微塵の隙も見つからなかった。剣を交えずともわかる圧倒的な強者の圧に、初対面のときは刀に手をつけそうになったのだ。真選組副長を名乗りながら、一人の女の僅かな圧に気圧された。これが一番隊隊長だったらどうなっていたことか。

 

「それに、我々は真選組を信頼していますよ。此度の事件もあなたたちだけで解決できてしまうのでは?」

「えっ、そうですかね!? 俺たちだけで行けますかね!?」

 

 ……まあ表立って争ったって利益はない。女も真選組のことは一目置いているようだし、何事もなく協力体制にそれっぽい動きを見せたら……。

 

「いけますいけます。あんな小物、ウチが動くまでもない。おたくらにお似合いじゃないですか」

 

 ふっ、と雪子は鼻で笑った。

 

「ああん!? てめぇ今なんつった。真選組が小物だって言いたいのかァ?」

「そう聞えてしまったなら謝りますけど……。残念ながら天鴉は将軍様の護衛で忙しくしており、手が空いてる者はとんといないのです……。ね? そっちで処理してくださいよ」

「嘘をつけェ!! そんなこと言って真選組の裏をかくつもりなんだろ。そっちがこっちの案件に手ェ出してきてんの知ってっからな、今まで見ないふりしてやっただけだからな!?」

「それはアンタらがゆっくりしてるものだから。そっちこそこっちの管轄に割り込んでますよね? バズーカだのあんぱんだの、被害報告が絶えないとウチの局長が嘆いていたんです。どう責任とってくれます??」

「まっ、まあまあ、二人とも落ち着いて……」

 

 近藤が仲裁に入るもお構いなしに副局長同士がバチバチ火花を散らす。土方の中で天鴉への不満がすべて雪子に一極集中した瞬間であった。

 

 別に雪子だって悪気があったわけではなかったのだ。ただただ、なんとなく、焚きつけたほうが面白そうだなーと思っただけで。それに自分たちはそのテロリストどもと知り合いどころか身内である。身内同士で争ったところで茶番でしかないだろう。そんなのつまらない。その結果だ。

 あとこの瞳孔かっ開いたV字頭、どうにもからかいたくなってしまう。ちょっかいをかけたくなってしまう。

 どこぞのバカのアホ面がふと頭に浮かぶ。

 

『——に続き今回卑劣なテロに狙われた戌威星大使館。幸い死傷者は出ていませんが……』

 

 開かれた障子の隙間から臨時ニュースが流れてくる。

 

「ほら、そうこうしているうちにテロが。こんなところでのんびりしていていいの? おまわりさん」

「おめーもおまわりさんだろうが」

『あっ新しい情報が入りました。監視カメラにテロリストと思われる一味が映っているとの情報が……』

「あーあ、おたくの監察は何やってるのかな? メディアのほうが先に犯人見つけちゃってるよ。放送しちゃってるよ」

「山崎には奴らの拠点を抑えさせてんだよ」

『あ~~~~バッチリ映ってますね~~』

「そんなのできるわけ、が………」

 

 雪子の調子よく回っていた口がぎこちないものに代わり、ひくりと笑顔が引きつった。不審に思う近藤と土方の目線は、雪子の視線が固定されたテレビへと向かう。

 

 そこにテロリスト犯として映っていたのは、クソ真面目な長髪男ではなく、今朝会ったっきりの万事屋の三人衆だった。

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