お家に帰ろう   作:睡眠人間

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プチ同窓会

「バッチリ映っちゃってますよ。どーしよ姉上に殺される」

「テレビ出演! 実家に電話しなきゃ」

 

 戌威星に爆破テロをけしかけた凶悪犯としてテレビ放送されているのを目の当たりにし、新八は現実に絶望し神楽はウキウキした。

 

 草むしりに没頭していた万事屋のいる小料理屋に突っ込んで来た飛脚に託された大事な荷物というのは、なんと爆弾だったのである。届け先の住所は戌威星大使館。爆弾が爆発し戌威星の天人に捕えられかけたところを救ったのは、指名手配の攘夷志士、桂小太郎だった。

 

「こんな状態の僕らかくまってくれるなんて。銀さん知り合いなんですよね? 一体どーゆー人なんですか?」

「ん〜〜テロリスト」

「はィ!?」

「そんな言い方はよせ」

 

 銀時のテロリスト呼ばわりに憤慨した桂が襖を開いて部屋に入る。

 

「この国を汚す害虫、天人を討ち払い。もう一度侍の国を立て直す。我々が行うのは国を護るがための攘夷だ。卑劣なテロなどと一緒にするな」

 

 攘夷とは二十年前の天人襲来の時に起きた外来人を排そうとする思想である。高圧的に開国を迫ってきた天人に危機感を感じた侍は、彼らを江戸から追い払おうと一斉蜂起して戦った。

 しかし天人の強大な力を見て弱腰になっていた幕府は、侍たちを置き去りに勝手に天人と不平等条約を締結。幕府の中枢を握った天人は侍たちから刀を奪い、彼らを無力化した。

 

「その後主だった攘夷志士は大量粛清されたってきいたけど……まだ残っていたなんて」

「どうやら俺たちァ踊らされたらしいな」

 

 銀時は桂の仲間たちの中に店に突っ込んで来た飛脚の顔を見つけると、その言葉に桂は頷いた。

 

「ああ。汚い手を使おうとも、俺はこの腐った国を立て直す。銀時、再び共に剣をとらんか。白夜叉と恐れられたお前の力を貸してくれ」

 

 銀色の髪に血を浴び、戦場を駆ける姿はまさしく夜叉。天人との戦において鬼神の如き働きをやってのけ、敵味方から恐れらた武神。それが坂田銀時という男だった。

 

「……銀さん、アンタ攘夷戦争に参加してたんですか」

 

 新八は銀時と初めて会ったときのことを思い出す。廃刀令のご時世に木刀をぶら下げ、侍というにはあまりに荒々しく、しかしチンピラというにはあまりに真っすぐな目をした男だった。普段はグータラしていて真摯とか実直という言葉からかけ離れた存在だが、強さと己の胸に掲げた信念だけは確かな男だった。

 

 何かあるとは思っていたが、まさか白夜叉と恐れられていたなんて。

 

「俺たちの戦はまだ終わってなどいない。貴様の中にとてまだ残っていよう。国を憂い共に戦った同志たちの命を奪っていった、幕府と天人に対する怨嗟の念が」

 

 桂や銀時が攘夷戦争に加担したのは連れ去られた家族を取り戻すためだった。しかし戦争を通して、生き永らえて桂が気づいたのは、幕府は腐り侍の誇りなどとうの昔に失せていることだった。

 加えてまだあの二人は幕府に、天人に、世界に囚われている。命を賭して護られてきた弟弟子だからこそ、今度は兄弟子どもを護らなければならない。桂が未だに攘夷志士として倒幕を企んでいるのは、国と家族を憂いてのことだった。

 

「お前の力が必要だ。テロリストとして処断されたくなければ俺と来い。かつては志を共にし、国相手に戦ったはずだろう」

 

 かつての盟友にここまで言われて、銀時はどうするのだろう。再び攘夷志士に戻るのだろうか。そうしたら万事屋は? どうなってしまうんだろう。

 

「……ヅラ、俺はお前に言っておかなきゃならねーことがある」

「ヅラじゃない桂だ。一体何だ」

 

 不安げに新八と神楽に見つめられる銀時は大きくため息をついて、シリアスな雰囲気を保ったまま言い放った。

 

「お前が俺たちに寄こした飛脚、バイク事故らせて雪子の店に穴開けてたよ」

「………マジで?」

「マジで」

「………」

「………」

「すいやせん桂さん……何が何でも爆弾を渡せって指示だったので」

 

 飛脚の男が肯定し、桂の死と銀時の生が決定した。

 

「いやああああぁぁぁ!!!! 死にたくない!!! お前何てことしてくれてんだあああ!?」

「えっだって命令のためなら多少の犠牲は致し方ないって桂さん言って……」

「言ってない、言ってないよ!!? 俺は銀時のやる気を引き出せと言ったんだ、誰も雪子の()る気を引き出せって言ってないだろうがあああああ!!!!」

「助かったぜヅラ、お前が原因じゃなけりゃ俺の首は危なかった。まっ、せいぜい残された少ない人生を国だなんだのために使うことだな」

「ぐっ、誰か! 今すぐ修理に行け!! 証拠隠滅しろオオォ!!」

 

 何この人。突然真面目でお堅い雰囲気をかなぐり捨てて喚き散らす桂に、新八はしらっとした目を向ける。ていうか雪子さんって何者なの。銀さんだけじゃなくて桂さんとも知り合いなんだろうか。でも銀さんと桂さんは攘夷戦争に参加してたわけで、そしたら雪子さんは……? 新八の中でさまざまな憶測が駆け巡る。

 

「あ、あの……銀さん、桂さん。お取込み中のところ申し訳ないんですけど、雪子さんとはどういった関係で……?」

「どうもこうもあるか!! 俺たちは昔から奴の奴隷として耐え難い辛苦をともにしてきた。あの家では奴がルール。逆らう者は容赦なく足蹴にし、あらゆる権力を一人占めにして高笑いするような女だった……」

「ヅラァ、お前はまだ気に入られてたからいいだろ。まだ人として扱われてたよ。俺なんか、俺なんか……お前が転がり込んでくるより前から女王に従う下僕にしか見られてなかったよ……」

 

 昔の記憶を思い出してしまったのか、頭を押さえて苦しむ二人に新八の頭はさらにこんがらがった。

 

 あれ、銀さんと雪子さんて一緒に暮らしてたんじゃなかったの? 桂さんもそこにいたのか。……え、どゆこと? 奴隷? 女王? 下僕? 童貞には刺激的なワードが飛び交い、この二人の悶える様子から、新八の身に雷のような発想が落ちた。

 

 まっ、まさか……まさかああぁぁ!? 

 

 あ~ん♡ というお色気の効果音と共に、その光景が思い浮かぶ。辺りはピンクや紫の怪しい光に当てられて、そこかしこに大人なオモチャが転がっている。意味ありげに並べられた三枚の布団。鞭、手錠、ろうそく、三角木馬。極めつけに天井にぶら下げられた二人の逞しい男と、その間で妖し気に微笑む美女……。

 

「な、なんてことだ……あんな優しく清楚な人にそんな裏が!? うう……最高だ……じゃなくて、これからどういう目で見ればいいんだ! というか職場の上司の爛れたプレイ知りたくなかったよ、最悪だよもう!」

「銀ちゃん、新八がなんかブツブツ言ってるアル」

「ほっとけ。今はンなことに気ィ使ってる暇なんてないらしい」

「来たか」

 

 いつの間にか復活した銀時と桂の視線の先、襖が蹴り破られ、佩刀した黒い制服に身を包む男たちがなだれ込んでくる。

 

「御用改めである、神妙にしろテロリストども!!」

「真選組だ!! 逃げろオオォォ!!」

 

 武装警察真選組。反乱分子を即時処分、まあ交通整備だの将軍護衛だの幅広く活動し同時にその野蛮さから疎まれたりなんだりしている警察組織である。

 一人残らず討ちとれという副局長の命令を遂行すべく追いかけてくる彼らと命がけの追いかけっこが始まった。

 

 

 

 

 それよりも少し前のこと。店周りの掃除と買い物を依頼したはずの万事屋が、どういうことか爆破テロリストとしてテレビに映っていた。わけがわからない。わからないが、依頼を放棄しなければならないほどの何かがあったに違いない。

 

 雪子は全力ダッシュで自分の店に帰った。何も知らなかった小さな自分が、もし夢が叶うならと憧れていた大事な店に。時折家族だけで酒を酌み交わすことができるもう一つの家に。

 

 そしてその大事な店に、それはそれは大きな穴が空いているのを目の当たりにした。

 

「……。………何があったかなんてしらないけど」

 

 穴空けた奴殺す!!!! ギラギラに輝く殺意の目がぎょろりと動き、テロリストどもが居る池田屋を血眼で捉えた。

 

 

 

 

「くっ、ここまでか……」

 

 真選組に追い詰められ、十五階のある部屋に立てこもる攘夷志士どもと万事屋一行。襖の向こうからは真選組の声が聞こえてくる。桂が懐から爆弾を取り出し、真選組を追い払おうとするのを止めたのは、沖田のバズーカによってアフロになった銀時だった。

 

「もうしまいにしよーや。てめーがどんだけ手ェ汚そうと、死んでった仲間は喜ばねーし時代も変わらねェ。これ以上うす汚れんな」

「うす汚れたのは貴様だ銀時。武士たるもの、己の信じた一念を貫き通すものだ。……それに知らないわけではあるまい。あの者たちが未だ護りたくないものを護り続けていることを。……今度は俺たちが護る番だろう。違うか、銀時」

 

 いざというときにキラめく瞳が真っすぐ桂の目を射抜く。

 

「命張るなら俺は俺の武士道を貫く。俺の美しいと思った生き方をし、俺の護りてェもん護る。……だから、俺ァ俺のやり方で護るよ」

 

 その言葉に口角を緩めた桂が目を閉じ、想いを口にしようとした時。ピピッと軽快な電子音が響いた。

 

「銀ちゃん、いじくってたら変なスイッチ押しちゃったヨ」

 

 その手には時限爆弾。全員が勢いよく部屋を飛び出し、銀時は神楽に押し付けられた爆弾を真選組に処理してもらおうとするも誰も取り合わない。

 そうこうしているうちに残り時間がどんどん減ってくる。

 

「誰かこの爆弾止めてくれェ!!」

「銀さん窓、窓!!」

「無理もう死ぬ!!」

「銀ちゃん、歯ァくいしばるネ。ほあちゃアアアアア!!」

 

 神楽が番傘をバット代わりにして爆弾と銀時へ目一杯振り抜くと、窓を割った銀時が上空に向かって振りかぶる。

 

「ふんぐっ!! いっけエエエエエ………ありっ?」

 

 しかし、指が滑って手中から爆弾がこぼれ落ちた。その時、銀時の世界はスローモーションで動き出す。指先から離れていく爆弾。割れた窓からこちらを見下ろす新八と神楽。落下時の浮遊感が加速し、空が遠くなる。そして、

 

「見ーつけた」

「あ!?」

 

 落下の浮遊感が消え、聞き馴染んだ声と腹に腕を回される感覚。やばいマズイ死ぬというあらゆる感情は雪子の手に握られた爆弾に消えていった。

 

「それ爆弾!!!」

 

 銀時が抱えられたまま指さして叫ぶのと同時に、天高くに放り投げられた爆弾が爆発する。やがて爆煙が消えてすっきりすると、垂れ幕に掴まる雪子と腕に抱えられて手足をぶらんとさせる銀時が見えた。

 

「なんで今日一日で爆破テロリストになって爆弾処理に失敗してるの。なんでアフロなの」

「全部ヅラのせいだ!! ほらアソコ! 屋上からヘリでずらかろうとしてんの!!」

「お。懐かしい顔だ。……ところで私のかわいいかわいい店にドでかい穴が空いてたんだけどどうして??」

「それもヅラのせいだ!!! お願いだから早まらないで!!! 聞いてくれよ、あいつァ……」

 

 久しぶりに見る友の顔は相も変わらず賑やかで生き生きしている。さっきまで言い合いしていた二人だったが、だんだん顔を寄せ合って何やら相談しているようだ。

 

『美しく最後を飾りつける暇があるなら、最後まで美しく生きようじゃねーか』

 

 攘夷戦争時代の友の言葉が蘇る。

 

「フン。美しい生き方だと? アレのどこが美しいんだか。……だが昔の友人が変わらずにいるというのも、悪くないものだな……」

 

 などというイイ感じのことを言ってうやむやにして去ろうとする桂だったが。

 

「おい何いい顔してどっか行こうとしてんだヅラ」

「ヅラじゃない桂だ! …………あっ」

 

 つい勢いで振り返ってしまった桂の頭を掴み、雪子はにっこり微笑む。昔と変わらない悪魔の笑み。後ろでは銀時がニヤついた顔で鼻くそをほじっている。

 

「久しぶり。元気にしてた? 100%元気よね?? だからウチの店を壊したのよね??」

「イダダダダダダダダッ!!! 痛い、痛いぞ雪子!! 頭割れる……っ!」

「まだこっち帰ってきてから松陽も朧も招いてないんだけど。なんで地球に戻って二日目で店壊されなきゃいけないのかな。ねえ」

「わ、悪かった……! すまない、謝るから許してくれエエェ!!」

 

 心の底からの謝罪に雪子は頭蓋骨を砕こうとしていた指を解放する。するといきなり登場した女に驚いた硬直から解かれた桂の部下が、刀を抜いて雪子に向けた。

 

「桂さんから離れろ! ていうかどこから現れた、ここ最上階なんですけど!?」

「んなもん壁伝いに走れば登れるでしょ」

「登れるわけねーだろうが!!?」

「うるっせーな。できてんだからウダウダ言うな」

 

 めんどくさい顔をした雪子が鯉口を切ると、キン、とわずかな金属音がして、部下たちの刀が破壊される。抜刀の瞬間さえわからなかった。目にも止まらぬ速さで全員の刀を折ると、雪子はしっしと手で追い払う仕草をする。

 

「さっさと行きな。あとで弁償金払えばいいから。そろそろ真選組がやってくるよ」

「……わかった。……全員ヘリに乗れ! ここを離れるぞ!」

 

 部下たちに退避を指示した桂は最後に雪子の愉快そうな目を見つめる。

 

「俺は必ず国を立て直す。それまで待ってくれるか」

「ハイハイ。いくらでも待つから。はよいけ」

「うむ。弁償金はその時にな! ふははははは!! さらば!!」

「は? あっおい!!」

 

 ヘリに乗り込み颯爽と空の彼方へと消えていく桂を見送り、雪子は舌打ちをした。

 

「アイツのせいで店壊れるわ仕事増えるわで、しばらく帰れそうにねーし。…….いつか本気でしょっぴいてやる」

 

 さて、とドタバタ足音が近づいてくる扉に向き直る。

 

 十年ほど前に一度戦場で見たことのある連中がぞくぞく集まってきている。次はどんな奴が来るかなとワクワクして、雪子は外面の笑みを貼り付けた。

 

「待て桂アアアァァ!!」

「あっごめんなさーい、銀時(一般人)を人質にされてたんで逃げられちゃいましたー」

「お前なんだかんだヅラに甘くね??」

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