お家に帰ろう   作:睡眠人間

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使えるものは何でも使っとけもったいないから

 列車の中は異様な空気が張り詰めていた。といっても機関部から切り離されたここは単なる処刑場で、処刑人は人を斬ることに天賦の才を与えられた沖田と雪子、罪人は裏切り者どもである。

 呼吸を合わせ一斉に切りかかった彼らは一太刀で細切れになり、物言わぬ肉塊となった。特別綺麗でも汚くもなかった車内が血に濡れ、赤く染まる。警報音が鳴り響き、照明に当てられたそこは地獄さながらであった。

 

「これでお掃除は済みましたわ」

 

 良家の淑女のような仕草で頬に手を添え、ふうと息を吐く。沖田が警戒しながらそれを見ていると、雪子はぺちりと頬を叩いた。

 

「あークソッ、出てくんなよな妖刀風情が」

「戻った。ホント何なんですかそれ」

「妖刀の呪いってか? んなオカルト私に向けんなっての」

 

 その手に握られた白く美しい刀が血に濡れている。ぼたぼたと滴り落ちる赤が血溜まりを作り、幾人もの血を吸って歓喜しているようだった。女の放つ気配と相まって霜が降りるように冷たい圧が肌を刺し、沖田は震える。

 

「さっき言ってた、えーと裏切り者を粛清するってやつ」

「真選組局中法度第二十一条、敵と内通せし者、これを罰する」

「それそれ。それで考えるなら、この者たち……つっても死んでるけど。こいつらも伊東も罰されるのかな」

「局長暗殺まで企てたんです。切腹は免れないでしょうね」

 

 鬼兵隊と手を組み、真選組を内部から崩壊させようとしている。真選組結成以来の大事件だ。多くの死傷者を出している以上、反逆者筆頭の伊東の死は確定事項である。

 

「私も切腹を言い渡されたりするのかね」

「……さァ。局中法度は真選組の鉄の掟。外野を縛る法じゃねーんで」

「そ。じゃあ心置きなく、殺し合いができる」

 

 濃厚な死の気配に体が勝手に負けを認めそうになった。しかし同時に、頭の奥がカッと熱くなる。それは紛れもない期待だった。

 ようやくこの女と、殺し合いができる。

 互いに握られるのは真剣。皮膚に突き立て、肉を切り、骨を断つ。命を奪う武具である。

 

 けれど戦いを始める前に、確認しなければならないことがあった。

 

「もう一度聞きます。アンタは、そっち側でいいんですね」

 

 目的はわからないが、元々雪子が伊東と手を組んでいたことは知っている。沖田も伊東を利用して、土方から副長の椅子をひったくったのだから。

 けれど、こうして近藤に直接被害をもたらした伊東を許すことはできない。沖田は伊東を裏切った。そして雪子もまた、伊東に裏切られ、刺客を差し向けられたのだ。まあ全て殺してしまったのだが。

 

 雪子と伊東の関係は断たれた。それでもなお、沖田に刃を向ける理由はなんだ。

 

「同じことを言わせないで。私にも目的があってね」

「天鴉が真選組を潰すことですかィ?」

「組織は関係ない。私の個人的趣味で伊東についただけさ」

「悪趣味」

「どうとでも言え」

 

 この女が何を考えていようと、真選組の反乱に天鴉副長が関与したのは事実。そこを……いや、そういう政治方面に向いている人材は真選組にはいないのだった。

 

「向こうはアンタのこと用済みのつもりらしいですぜ。山崎を殺したってのも、それを口実に天鴉を叩く算段だったんだ」

「だろうね。ま、無駄だろうけど……」

「無駄?」

 

 そのくらいのことで雪子は、天鴉という組織は、潰れない。名を変え組織員を変え、素知らぬ顔をして天導衆に仕えるだろう。

 伊東は天導衆の本当の恐ろしさを知らない。世界の仕組みを理解していない。己の渇きを満たすことに執着するあまり、世界の真髄たる現実が見えていないのだ。

 

「伊東は鬼兵隊も利用する策を立てている。が、その前に伊東ごと真選組は崩壊すんの。私はその導き人」

「……真選組が、崩壊」

 

 こつ、と床をヒールで叩く。先の戦いのせいで窓が割れ、ビュウビュウ耳障りな音がした。死体だらけの列車が揺れて、ずるりと落ちた肉だるまに目もくれず、鬼が佇んでいる。

 

「お前が仕掛けた爆弾とは比にならない量の爆薬が、この先の鉄橋に仕掛けられている。列車がそこに差し掛かった時、車両ごと爆発! 中にいる人は助からないでしょうね」

「……! 近藤さんが!」

「ぐずぐずしてたら死ぬ。……急いだ方がよろしいのではなくて?」

 

 近藤を先頭車両に移動させても無駄だった。否、真っ先に爆弾の被害を被る先頭車両こそ危険である。

 大将の身を危ぶみ扉を目指す沖田は、ついに覚悟を決めた。

 

「いつかアンタと剣を交える日を心待ちにしてました。……でも、俺ァノらねェ。んなことより大事なことがある」

 

 男は、真選組一番隊隊長、沖田総悟。真選組の剣として、魂を守る気高い侍である。

 

「てめーが邪魔だ、道を開けろォォ!!」

「精々楽しめると良いのですけれど」

 

 衝突、閃光が迸り、瞬時に止む。

 接近を必要最低限に留め、沖田は徹底して雪子と距離を取るよう意識した。

 この女が夜兎であることは疑いようがない。弱点であるはずの日光を嫌っていた記憶がないのが引っかかるが……彼が敵視している夜兎の少女に瓜二つの気配を感じるので。

 

 であれば接近戦は敗北を意味する。鍔迫り合いは刃の寿命を縮めるだけ。腕でも掴まれたら骨ごと砕かれる可能性がある。そうやって殺された元隊士たちの二の舞にはならない。

 

 弱冠十八歳にして真選組イチの剣士となった沖田の功績は、その才覚によるところが大きい。経験が浅い分、敵をよく観察し、生まれ持ったセンスと残忍な思考が、若さを上回る才能を開花させたのだった。

 

 身を焦がす熱がどこまでも身体を突き動かす。思考は止まらず一瞬一瞬が遠かった。

 相手が狂気的に笑んでいる。

 無為なことに脳のリソースを割く余裕はないようだ。全身に満たされた神経が最適解を選び抜く。ならば、それに従って、この刃を振るうのみ!

 

「───セイッ!」

「ハァァアア!!」

 

 気合が喉から搾り出され、白銀と真紅の輝きが交わった。それは刹那のことで、火花を残して両者は次の行動に移る。

 あまりに速すぎて、常人には何が起きているのか理解することすらできないだろう。

 

 柳生戦の戦いで学んだ沖田は徹底して回避を選ぶ。長く雪子の力を受ければ、押し切られて終いだろう。ある程度の距離を取りつつ(といっても一車両分の空間しかないので心許ないのだが)、時折攻撃に転じ、時間を稼いでいた。

 

「くっ……せめて先頭車両に追いつければ」

 

 今は戦うこと以上に優先すべき事項がある。近藤の保護だ。

 本気で戦えばこの列車ごと無事では済まない。沖田は戦闘を避けたかった。

 

「妖刀に取り込まれてんなら、戦いを拒んだりしねーんですか」

 

 前に話した時と随分違う好戦的な性格は、雪子本来の気質を思わせる。そもそもヘタれたオタクと確信した土方と違って、雪子の妖刀がどんなものか沖田は知らない。

 真面目で謙虚そうであったが……それと戦闘は違うのだろうか。

 

「ふふふふ、何をおっしゃいますの。不要なものは処分しなければ。でないとワタクシ、旦那様に叱られてしまいます」

「旦那様いないでしょアンタ」

「それもそうでしたわ」

 

 おほほほとお上品に微笑みながら、クナイを正確に投げてくる。トトトト、なんてリズミカルにコンマ数秒前まで頭があった空間を鋭く穿つのだからゾッとする。

 

「んぐっ」

 

 ついには隊服の上着の裾を貫かれてしまったので、瞬時に上着を脱ぎ、通路を滑る。シャツとベストだけになった沖田が咄嗟に顔を上げれば、音もなく接近した雪子の掌が腹を目掛けて突き出された。発勁の構えである。

 

「フッ!」

「ッ、おえっ」

 

 衝撃のまま後ろに吹き飛ぶと、胃の底から迫り上がった血液を吐き出す。何かが頭に触れたと思ったら元隊士の死体だった。誰のともしれぬ血をシャツが吸い、肌にぴたりと張り付く。濃厚な鉄の匂いと生温かい肉が不快だった。

 今のは体術か何かだろうか。刀を振るしか能がない自分には判別がつかないが……。

 

「ワタクシとの勝負に集中して下さいまし。でないと殺してしまいますわ」

「どっちみち殺されんじゃねーか。付き合いきれねェ!」

 

 ガタンガタン、列車が揺れる。さらに後方の車両に移動することも考えたが、近藤のいる先頭車両から遠ざかることは避けたい。

 口元を拭い、思考を巡らす。どうすればこの女から逃げられる。どうすれば……。

 ゴギャ!! 嫌な音がして、視界が翳る。すぐ横に逃げた沖田は瞠目した。

 

「おいマジかよ! イカれてんだろ!」

「ぅおらッ!」

 

 腕力に物を言わせて座席を引き抜き、容赦なく投げてきやがった! 天井に嵌め込まれたライトが遮蔽され、チカチカと瞼を刺激した。

 連続で放り出される物体を避け、その代わり雪子との距離を詰める。近づくように進路を狭められていると気づいた時には、互いに攻撃範囲内にいた。

 

 雪子と沖田の視線が絡む。

 握った刃を振り抜き、相手の意識外を狙う。

 

 微笑む雪子は柄を押し、黒い液体が刃先から飛び出した。

 

「んぎゃぁぁぁぁ!!」

 

 突き刺すような刺激が目玉を襲い、視覚を奪われた沖田はバランスを崩して倒れた。痛い。痛い。とんでもなく痛い。目潰しか!? 液体が目に染みてもがき苦しむ沖田は、垂れた液体が舌に触れて驚愕する。

 

「しょうゆ!?」

「妻ですもの、調味料くらい常備しておりますわ……っと!」

「ガハッ!!」

 

 蹴り飛ばされたと理解したのは、壁にめり込むほどの衝撃を食らった後だった。先頭車両側の扉に背中を強打し、息が詰まる。そのままズルズルともたれかかるようにして座り込んだ。

 その首元に冷気を感じ、どうにか目を開けると、刃を突きつけられていた。

 

「……アンタに負けるのは、これで二度目か」

「いいえ? こんなの戦いですらない。沖田様は本気ではありませんでした。近藤様を守ろうと焦っていらしたもの」

「わかってんなら邪魔すんな」

「うふふふ。どうすれば本気の沖田様ともう一度戦えるのかしら。近藤様を殺せばいいでしょうか?」

 

 ギリと歯噛みする沖田を冷淡に見下ろす。

 その眼差しは間違いなく人殺しの目だった。

 

「……よぉーくわかった。アンタを止めるには死ぬ気でいねーといけないってことが」

「本気を出してくださるの?」

「ああ。お望み通り……こっからは本気だァァ!」

「面白い……。ええー!?」

 

 ヒョイと割れた窓から脱出しようとする沖田に、まさか逃げようとするなんて思っておらず、雪子は間抜けな声を上げる。

 

「爆弾の話が本当ならてめーと戦り合ってる暇はねェ。つーことで、あばよ」

「お待ちになって! 沖田様、よくこの状況下で逃げられますわね!? ワタクシを放っておけば近藤様は無事ではいられませんのよ!?」

 

 蜂蜜色の髪が激しく靡き、血の色の瞳がきょとんとまたたく。

 

「アンタに殺られる前に近藤さんを避難させます。このまま爆発に巻き込まれて大将共々死ぬのは真っ平御免なんでね。死ぬならアンタだけで死ね」

「どの道、この速度で走り続ける列車から飛び降りて無事でいられるわけがありません。戻って来なさい! コラ、聞いていますの! コラー!」

 

 雪子の声を振り切って、沖田は凄まじいスピードで走る列車の車窓から飛び降りた。

 ヒュウウ。一人になった雪子はしばらく無言で固まった後、沖田が飛び出したその窓へ急いで駆け寄る。それが罠だった。

 

「沖田様っ!」

「やーい引っかかってやんの」

「あっ!?」

 

 ボロボロになったパトカー……土方と万事屋が乗って来たそれに飛び移った沖田が、人を馬鹿にした満面の笑みでバズーカを構えている。

 

「死ねぇええええ雪子ぉおおお!!」

「ァァァアアアアア!!」

 

 ドォオウウウン!! 近距離でぶっ放されたロケット弾を躱す時間はなく、モロに直撃し大爆発が起きた。炎が爆ぜ、硝煙が立ち昇り、列車自体が大きく揺れる。あわや脱線するかというところだったが、辛うじてレールから外れることはなく、速度を落として列車は進む。

 

 運転なんてしたこともないのにパトカーの運転手を任され、必死こいて走らせていたところ、突然沖田が飛び乗って来たと思えば、列車にむけてバズーカを撃つという衝撃的な光景に、新八は口をあんぐり開けた。

 

「……えっ、ちょ、ええええぇぇぇ!! 沖田さん!? アンタなにやってんですか!」

「今雪子がいたアル! 雪子が!! モロに食らったアルゥ!!」

「アレは伊東と手を組み真選組局長を暗殺しようとした敵だ。敵は排除すんのが俺の役目」

「雪子を殺すなクソ野郎ゥゥ!!」

 

 神楽に胸ぐらを掴まれ、沖田は神楽の腕を掴んで対抗する。普段通りのケンカに発展しそうなところを、収めたのは銀時だ。

 

「やめろ! こんな時に! それに雪子は殺されてねーよ……横見てみろ」

「ヨコ?」

 

 風で煙が吹き飛び、メラメラ燃え盛る炎の中でゆらりと動く影がある。それは幾本もの手足を生やしたシルエットで、まるで地獄の底から化け物が這い出たようだ。

 冷や汗を流し、沖田が唾液を飲み込む。

 

「……あの女。隊士の死体を盾にして、被害を最小限に留めやがった」

 

 盾にされ、爆撃を受けた死体からは骨と臓物が見えた。化け物が歩くたびに肉塊はずり落ちて、最後の一人が血の池に堕とされると、最高に愉しそうな顔が炎に照らされる。

 

「そう。どうしてもワタクシと戦いたくないの。なら致し方ありませんわ。近藤様を殺し、無理やりにでも沖田様の本気を引き出すだけ……!」

「なっ、なんですって!」

「まさか、本当に雪子は……っやめるアル!」

「一発じゃ足りねーか! だったら!」

「やめろクソサド!!」

 

 バズーカを構え直した沖田が引き金を引くも、カチカチと虚しい時間が過ぎるだけだった。弾切れである。沖田は舌打ちをして万事屋の面々に吼えた。

 

「誰だ調子こいて乱発した奴は!」

「俺だわ」

「旦那ァ……これでうちの大将がやられたら覚悟してくださいね。おいチャイナ娘! てめーの傘貸せ!」

「貸すわけねーだろが!! ……雪子ォ! 止まるアル! ゴリラを暗殺したって雪子の手が汚れるだけネ!」

「とっくに汚れ腐ってんだろーがあの女はよォ……」

 

 先頭車両が近づいている。窓に顔をくっつける位置で近藤が何事か叫んでいるのが見えた。雪子が先頭車両に移るのも時間の問題だろう。

 

「土方さん! 耳塞いでないであの女を止めっ……き、気絶してる……」

「土方くん、さっきの雪子の姿見て声もなく意識失ったからね」

「こんな時に何やってんだアンタは!」

「ぐぇっ! く、首を絞めないでくれ……!」

 

 本気で言葉をぶつける沖田。のらりくらりと上司をおちょくる普段の姿からかけ離れた形相に、土方は首を絞められながらも、目を逸らせずにいた。

 

「妖刀が何だ、んなもんに飲み込まれるような奴じゃねーでしょうが! このままくたばっちまうくれェなら、俺がその首もらいますよ。聞いてんのか土方ァ!」

「ぁ……ァ……」

「お、沖田さん! 本当に土方さんの首がもらわれそうです!」

「俺は真選組の勝利を切り開く最初の剣。アンタは真選組を護る最後の剣なんだ。片方が欠けちゃ真選組は立ち行かなくなる。そう言ったのはアンタだろ! 真選組副長、土方十四郎!!」

「すごく良いこと言ってるんでしょうけど、沖田さんの手で最後の剣折れそうです!」

 

 はあ、はあ、と肩で息をする沖田の手の力が弱まり、解放された土方の視線が横にずれた。息を吸って、あまりのプレッシャーに呼吸が止まる。

 化け鴉がいた。バズーカの攻撃によって破れた上着が、鴉の羽のようだった。

 

「近藤様より先に、土方様を消せばいいのかしら。ちょうど足手まといのようだし」

「雪子」

 

 落ち着いた声色で名を呼ぶ銀時を一瞥もせず、パトカーに飛び乗った雪子は土方目掛けて刀を振るう。

 キィン! その刃を押しとどめるのは紫色の薄汚れた番傘だった。ドス黒い瞳と澄んだ青目がかち合う。

 

「させないアル。もうこれ以上、雪子に誰かを傷つけさせない……!」

「……なぜ神楽様が止めるの? 前に申し上げたでしょう。ワタクシは血と戦いを好む夜兎であると。いい加減理解しなさい」

「オイオイ新八くん、話に聞いてたのと違うんだけど? 口調が変わっただけで言うことやること全部雪子まんまじゃねェか」

「う、うぅん……僕も驚いてます。前に会った時はあんな感じじゃなかったのになぁ」

 

 時折本来の土方が出てくるも、徹底してヘタれたオタクの土方。同じように魂を食われたはずの雪子だって、徹頭徹尾おかしな性格になっているはずだが。

 

「ワタクシは神楽様が思うほど良い奴じゃない」

「知ってるヨ!」

 

 悲痛な叫びだった。不自然に大きな隊服の袖から覗く手首が異様に細く、番傘を握りしめた手が震えていた。

 後方車両と並走していたパトカーがついにレールの上に乗る。キィィィと耳障りな音を立てて車両同士の間に挟まり、進む。

 

「でも、でも……雪子が傷つく姿は見たくないヨ」

「おかしいことをおっしゃいますのね。ワタクシが傷をつけているのよ、こんな風にね!」

「やめろォォォオオ!!」

 

 攻撃を避け、いよいよ迫っていた先頭車両の扉に狙いを定めると、雪子は力を込めた手のひらを突き出す。

 バァアアン!! 衝撃音を轟かせて扉ごと壁が吹き飛んだ車両の中、近藤が混乱と不安を綯い交ぜにした色を浮かべている。

 

「て、てめーら……」

「なんかお前暗殺されそうになってるらしいな一丁前に」

 

 銀時が相変わらず力のない声で言えば、近藤の目線がそろりと横に動く。扉を破壊し、車両へ飛び乗った暗殺者を真正面から見据えた。

 

「ワタクシの任務は……列車に乗せたままにすること……」

 

 譫言のように呟いて刀を握り直す。この場で一番薄汚れた女の出立ちに、どれだけの隊士たちが犠牲になったかを理解した近藤は目を瞑る。

 何かを悟ったように優しい顔だった。

 

「……やってくれ、雪子殿」

「近藤さん!?」

「なあ万事屋よ! 俺からお前たちに依頼したい。遺言と思ってくれていい。……トシと総悟を連れて、このまま逃げてくれ」

 

 く、と眉間にシワを寄せ、それでも宇宙のように広い懐が損なわれることはなく。

 

「全車両に告げて欲しい。今すぐ戦線を離脱しろと。近藤勲は戦死した。これ以上仲間同士で殺り合うのはたくさんだ。……俺ァ大馬鹿野郎だよ」

「本当に、いいんだな?」

「ああ、構わない」

「近藤さっ……」

「違げーよ。てめーに聞いてんだ、雪子」

 

 静かな面持ちで銀時は言葉を重ねる。

 血塗られた唇が歪む。




どうやって収拾をつけたらいいんだこれ
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