Fate/Imaginary Fragment 作:パックスX
空物語 こよみキル<中>
祖ノ伍
学習塾跡……は既に焼失し消失しているので、ミスドにて忍野と向かいう。
貝木といい忍野といい忍といい、ミスドになにか縁でもあるのだろうかとも思うが、今は気にしない事にしよう。
「さて阿良々木君、元気してたかい? ツンデレちゃんとは仲良くしてるかい?」
「ああ。一度別れたけど老倉……幼馴染のおかげでどうにかよりを戻したよ。それに大学にもちゃんと通ってるしな。それより忍野? 久しぶりの再会は嬉しいけど、どうにしてこの街に戻ってきたんだ?」
そう、これが最大の疑問であり、今回の議題である。
僕はてっきり忍野はもう二度とこの街に戻ってこないと思っていた。再開するとしても、それはどこか知らない場所の果ての時間で、何食わぬ顔で再開するもんだとばかり思っていた。
「そうだねえ……置き土産の処理、とでも言うのが正解かな」
「置き土産?」
全くもって心あたりがない。
思いつくのは千石撫子の一件だが、あれは貝木泥舟により決着が付き、忍野が関わった怪異談については、そのおおよそが何らかの形で結末を迎えている。
「阿良々木君が思っているのとは、ちょっと違うと思うよ? 少なくとも今回は怪異の問題ではない。少なくとも今の段階ではね」
忍野はドーナツを一口頬張ると、説明を始める。
ちなみにもう一人の忍野こと忍は脇でバクバクとゴールデンチョコレートを食している。
「僕が去った後、阿良々木君になにがあったのかは臥煙先輩におおよそ聞いてるよ。今回はその総決算……というよりかは幕を下ろしに戻ってきたんだ。僕も寝城にしていた根城こと学習塾、あそこがちょっとした特異点になりつつあってね、このままだと
――学習塾跡
僕が吸血鬼と共に地獄のような春休みを過ごしていた時から関わる建物である。
確かにあそこには鬼、蟹、猿、虎を初めとし多くの怪異が訪れ、現れ、最後には虎の影響で燃え崩れ落ちた。
確かに北白蛇神社ほどでないにしろ、何か異常をきたしてもおかしくはない。
「大体の理由は分かったが、面倒な場所っていうのはなんだ? それとあの「両儀」さんとどういう関係があるんだ? 怪異の専門家かなにかか?」
「焦るなよ阿良々木君。一つずつ答えていくとも。ま、面倒な場所っていうのはこっちの事情さ、阿良々木君には”今は”関係ない。それと両儀さんだが、彼女は怪異の専門家ではない。そうだね……彼女は魔眼を持つ」
「魔眼? あのゲームとかに登場する?」
「そうだ。この世にはいくつか魔眼と呼ばれる特殊な力を持つ人間がいるが、その中でも彼女は別格の「直死の魔眼」と呼ばれるものを持つ。簡単に言ってしまえばモノが持つ死を視覚情報として捉えられる能力だ」
死を視覚情報として捉える。
なるほど、納得がいった。忍とのペアリングは切れる事がある。つまり消せる、死に近い概念がある。そして吸血鬼。吸血鬼は決して不死身ではなく、死がある。むしろ吸血鬼ほど殺せる方法が知られている存在というのも珍しいだろう。これは吸血鬼の殺し方に新しい項目を加えなければいけないのかもしれない。
すると今までドーナツを貪り食っていた…話を聞いていた忍がやっと話に入ってきた。
「なるほどのお、直死ときおったか……カカッ! どこぞの真祖の姫が最近東の地で果てたと噂を聞いておったが、その時も同じような名を聞きおったわい」
「ああ、確かにあの一件も直死の魔眼に関わる事件だったはずだけど、あっちの事件には両儀さんは関係無いさ」
もっとも、知り合いで関わっていた人間はいるみたいだけどね。と付け足しながら二人は話す。
どうやら僕が知らない所で、知りえない所で様々な事が起こっているようだ。
「でもそれなら心渡とかでどうにかならないのか?」
「断言しよう。無理だね。確かに怪異は関わっているが、特異点となりつつあるのは怪異ではない、もはや概念に近いものだ。心渡じゃ無理さ。まぁ阿良々木君にも立ち会って貰うよ。見て貰えれば、大体理解できるだろう」
「分かった。僕もあの場所に思い入れが無い訳じゃないからな。最期を見届けてやるよ」
「そうこなくっちゃ。じゃあ阿良々木君、明日の午前2時、草木も眠る丑三つ時にまた会おう」
空の境界 終幕破音 story in night
「それで忍野、昼間の奴は……阿良々木とか言ったっけ? あいつは”何”だ。影に化物飼ってる人間なんて初めて見たぜ」
時刻は0時
和服と長いその髪をビル風に靡かせながら、隣にいるアロハの男、忍野メメに問いかける。
「阿良々木君は人間じゃないさ。言うなれば人間に限りなく近い吸血鬼、といった所か」
「へぇ……今まで胡散臭い魔術師やら、起源覚醒者とやらとは出会ってきたが、吸血鬼は初めてだな」
「まぁ彼の場合は特殊さ。お互いを憎み合い、殺し合い、最悪の方法で救われ、結局今の形に収まっている。ちょっかいを出したい気持ちもわかるけど、今はそっとしておいてはくれないかい? 下手をすれば人類が滅亡しかねないからね」
そう、それは冗談でもなんでもない。
何か一つ歯車がズレれば、この世界は滅んでいた可能性だって、全く別の未来へと駒を進めていた可能性だって否定できない。そう、例えば蝸牛の少女が救われていたら……
「分かってるって。これでも一児の母なもんでね、世界の滅亡なんて望んではいないよ。今回の一件も橙子の奴がいなければ、決して交わる事の無い話だろ」
「そうだね。まあ僕としては、怪異談の幾つかで事が収まるというなら文句のつけようが無いさ。両儀さん、任せたよ」
空物語 こよみキル<後>
祖ノ陸
念の為、忍に血を吸ってもらってから学習塾跡へと向かう。
忍もちゃっかりと僕の背中に引っ付いている事から、何らかの思う事があるのだろう。
……ただの興味本位かもしれないが。
到着すると、そこにはやはり変わらずアロハの忍野と、日本刀を携えた和服姿の両儀さんが立っていた。
なんというか…両儀さんには勝てるビジョンが浮かばないのは何故だろうか。
それにどことなく全盛期の忍に声が近いような……おっといけない、余計なことを考えている場合ではないのだ今は。
「さて、阿良々木君も着いた事だし、始めようか」
忍野は何かお札を手にし、呪文を唱え、お札が光りだすと同時に何もない虚空へとお札を投げる。
するとだ、お札は何もない虚空にて止まり、後ろの空間に何かが姿を現す。いや、もともとそこにあったが目に見えていなかったモノが見えるようになったのだ。
「まぁ、あれが今回の元凶というやつだ。さっさと片付けて…」
忍野の言葉が途切れる。
目線の先には可視化した概念の塊のようなもの。だが、何かが違う。
概念に善も悪も無いはずだ。だが、あれは違う。そう感覚が訴えかけてくる。
刹那の出来事だった。可視化かした概念の塊からなにかが僕をめがけて攻撃を仕掛けてくる。腹に攻撃が当たり、口からは血をまき散らす。骨が何本か持っていかれが、忍に血を吸っていてもらった為、すぐに元通りになるだろう。
だが、アレは攻撃を止めない。いや、何かを狙っている。僕ではなく、この場で狙われるものといえば……忍しかいない!
「忍!」
「分かっておるわい!」
忍は急いで僕の影に飛び込む。
忍野も緊迫した声で叫ぶ
「両儀さん!」
「あぁ、分かってる」
彼女は月光の下、優雅に佇み、そして日本刀を構え、まるでその姿からは想像出来ない勢いで概念の塊へと向かい飛び出す。
「直死――死が、俺の前に立つんじゃない」
一閃
それだけで、事は終わった。
概念の塊はまるで最初からそこに存在しなかったかの様に消え去っていた。
なるほど、これが「直死の魔眼」の能力というやつなのか。
正直僕が仮にそんな能力を持っていても、もてあますどころか、死が見えてしまうなど発狂物だろう。恐らく彼女も何らかの方法で生活を送っているのだろうが、感服だ。
其ノ漆
「おい忍野、橙子やお前から聞いていたのと話が違うぞ。危険性は無いんじゃなかったのか」
そう、ある意味この概念の存在はかつて見た「くらやみ」に近いと思っていた。
だが、くらやみは自然現象に近い世界の修正力そのものであったのに対して、こちらは偶発的に誕生した存在に近い。意志などは持ち合わせず、ましてや忍を狙う理由がわからない。
「こればっかしは完全に想定外のイレギュラーだったよ。僕としても可視化後は何事もなく両儀さんに切ってもらうだけで終わるだけだと考えていた」
忍野をもってしもイレギュラーだというのか。
「間違いないのは”何者”かが意図的にしろ無いにしろ、この特異点に影響を与えたのだろう。全く心当たりは無いが……とりあえずこの件はこちらでどうにか探ってみよう。今はこの件が解決できた事を喜ぼうじゃないか」
イレギュラーは起こったが、本来の目的は達成できた。
今はそれを喜ぼう。
「だな。ありがとうございました、両儀さん。おかげで助かりました」
「礼は要らないよ、俺はただ依頼をこなしただけだ」
「だとしても、助けてもらったのに変わりはありません」
「ふっ。まるでおまえ幹也みたいだな」
両儀さんが、ぽつりと言葉をこぼす
「幹也?」
「俺の夫だよ。子供が生まれてからは落ち着いたが、昔は後先考えず誰かのために事件に首を突っ込んで厄介な事態に巻き込まれていたもんだ。お前もそういう口だろ?」
「えぇ、まあ」
驚きである。僕のような奴が他にもいたというのも驚きであるが、目の前の女性が子持ちの人妻だったのが驚きである。
美しい女性ではあるが、どこか孤高の存在というイメージがあったが、まさか子供までいたとは。別にその夫が羨ましいとは思わないが、果たしてどのようにこの女性をおとしたかというのには興味がある。
思い切って聞いてみよう。
「どういう経緯で結婚とかされたんですか?」
「あ?」
怖い。凄く怖い感じで睨まれた。
具体的には選択肢を誤ると首と胴体が漫画のごとくサヨナラしてしまいそうな予感すらしている。
「い、いえ。僕も将来結婚したいなーと思っている女性がいるもんで、普段結婚された女性なんて自分の母親以外と会わないので少しきになって」
これは本当である。漠然とではあるが、ふとした時に恋人であるひたぎと結婚したら……などと妄想する事はあるし、今は学生という身分だが、将来ちゃんと収入を得られるようになったらいつかは……という気持ちが僕の中には確かに存在する。
「俺の話なんて参考にならないと思うぞ。殺しと血と、死と陰謀と……そんな話だよ。お互い失ったものもあったが、それでも得られたものも大きかった。詳しくは語る気も無いけどな」
どうやらその幹也という男性は、経緯も中身も違くとも、僕と同じで少なからず厄介事に巻き込まれ、色々見て来たのであろう。だが、彼女の言う得たものが大きかったというのに間違いは無いだろう。
先ほどのような斬れる刃のような表情と視線は無くなり、どこか満足気に、穏やかな空気になっている。恐らくその表情は、普段家族にしか見せない母親としての、女性としての顔の一端なのだ。
「そうですか……ありがとうございます。僕も僕なりに頑張ってみますよ」
「そうかい。じゃあ、今度こそ俺はこれにて失礼させてもらうぞ。報酬とか事後処理とか、そこらへんは全部橙子にでも放り投げておいてくれ」
じゃあな
とそういう彼女は月の光の下を歩いて去っていく。
現代の日本にはとても異質的な恰好ではあるが、まるで映画のワンシーンを見ているような感覚に陥る。
「お疲れ様阿良々木君。とりあえず僕は明日まではちょっとした事後処理でこっちにいるから、僕にまた会いたくなったらまたこの学習塾跡にでも来てくれ」
「分かったよ忍野。とりあえず今晩はいったん帰らせてもらうさ」
そう言って僕は足を進める。
あの両儀さんが帰る場所があるように。僕もまた、両親や妹たちの暮らす、今の僕の帰る場所が、この街にはある。
空の境界 終幕破音 End of story
「お帰りなさい、式」
事を終えたその日の夜に両儀の屋敷へ帰ると、幹也がいつもと変わらぬ優しい表情で出迎えた。
「ただいま、幹也」
幹也と娘の3人で夕食を食べ、広い浴場で汗を流してから二人で縁側に座り、お茶を飲みながら今回の出来事について話していた。娘の未那は既に眠りについており、二人だけのゆったりとした時間が流れていた。
「そんな事があったんだ。僕としては吸血鬼とか怪異とかは興味深いけど、話を聞く限り関わらない方が良さそうだね」
「ああ、今回ので実感した。魔術師とかの連中も大概だがあいつらはまだ”人間”だ。だが怪異は”人”では無かった。普通に見えて、全く普通じゃなかったよ」
「でも僕としてはそんな事よりも、式が無事にちゃんと、帰ってきてくれた事が一番嬉しいな」
昔から変わらず本音を隠しもせず口にしてくる幹也に、式は年甲斐もなく顔を赤くしてしまう。
そんな幹也の事を愛おしく思い、彼の体に自身の体重を預ける。
「俺も……私も幹也がいるから今の私があると思ってるし、大切な娘も産まれた……こんな今の生活を手放したくは無いし、一生続けたいと思ってるわ」
「そう言ってくれて嬉しいよ。僕も式を、一生
お互いの言葉にお互い顔を赤くし、穏やかに笑いあう。
「ねえ幹也、まだ眠くない?」
「うん、まだ眠くないけどどうして?」
「男なら察しなさいよ
――今夜は、優しくしてくれないかしら?」
「――うん、わかった」
春の訪れを予感させる風は流れ、夜は更けてゆく――
空物語 こよみキル<結>
其ノ捌
今回の事件……というよりも終幕のオチ。
両儀さんの一閃により、無事学習塾跡は、文字通り学習塾跡になったらしい。痕も残さず、址へとなった。
その後家へと帰り、僅かな睡眠をとり、日が昇る頃に再び学習塾跡へと足を運んでみた。
するとそこには言った通り忍野メメの姿があった。両儀さんの姿はなく、どうやらちゃんと事は終わったのだと実感する。
「やあ阿良々木君。別れの挨拶でもしに来てくれたのかい?」
「ああ、ひたぎの家に向かう途中にだけどな」
お互い積もる話はあるが、交わす言葉は少ない。
僕たちの関係はそれで良いのだ。
日がいつもと変わらず街を照らし始める。
普段早起きをしない僕はあまり目にしない光景で、ちょっとした感動を覚える。
「さて阿良々木君、今度こそ本当にお別れだ。恐らく僕はもう二度とこの街を訪れる事は無いだろう」
「分かってるさ、そんな事」
「だろうね。
じゃあボクはここらへんでお暇させてもらおう。また生きてればいつかどこかで会う事もあるだろう」
「だな。その時にはせいぜい土産話の一つや二つ出来るようにしておくさ」
「楽しみにしてるよ。
……それとあの委員長ちゃんだけど、彼女の事は気にしていた方が良いと思うよ」
委員長ちゃん……つまりは羽川の事だ。
羽川翼。僕の恩人であり、同級生であり、今は世界中を巡り、世界から注目されている人間だ。
和製ジャンヌ・ダルクなどとも呼ばれ、メディアでも多く取り上げられている。
「なんでだよ?」
確かに羽川は地雷原に赴いたり、とても一般人では入れないような国へと来訪したりしているが、平和活動については尊敬したい位に活躍している。
「きっといつか分かる時が来るさ」
忍野は朝日へと向かうように足を進めながらそう言った。
「彼女は『本物の化物』にいつかなるよ」
忍野メメは、いつもと同じ口調で、そう呟いたのだった。
阿良々木暦がその言葉を理解するのは一年近く後である。
そして、羽川翼との『結』末を、『結』別を迎えるのは、まだしばらく先の話しだ。
未物語/the future of Avalon
化物語×Fate/Grand Order
「僕が背負えるのは、吸血鬼と、愛する嫁と、これから生まれてくる命くらいなもんだよ。人類なんて、とても手には負えない」
「先輩と阿良々木先輩の違いですか? ……価値観や考え方など色々ありますが、一番は心の差、でしょうか」
「カカッ! 人間の敵であるはずのこの儂が、まさか人間を救う手伝いなどさせられるとは……馬鹿にも程があるわい」
「阿良々木君、君は人間とはなんだと思う?」
「全く、暦はいつまでこんな事を続けるのかしら? 私と、これから産まれてくる子の事を見捨てて死んだら、人類滅亡ルートまっしぐらだから覚悟しておきなさい」
その旅路は、未来の為の物語
...To the infinity future
両原作者とも色々文体とかに特徴があるから混ぜるのが大変だったし全く上手に表現出来なかったのが後悔