不老不死の少女は友達を作りたい 〜目指せ脱ぼっち〜   作:ふなや

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※拙作ですが、どうぞ。



第1章『月の都』
第1話「轗軻不遇の少女」


 ある密室。

 

 その光が遮断された部屋には、血糊が付着した器具が散乱しており、腐乱臭が立ち込めている。

 

 思わず吐きそうになる、鼻腔を刺激する血腥さだった。

 

 不規則にばら蒔かれた臓器や肉塊は暗紅色を帯びて化膿し、粗雑に爛れ、そして古びた血が変色しているせいで原型を留めてはいない。

 

 幾十、幾百、幾千もの人体実験の痕跡が、その凄惨な情景を顕著化していた。

 

 そう、その部屋は即ち、拷問部屋──。

 

 散在する歪な器具を見れば、誰彼構わず嫌でも分かってくるだろう。

 鉄の処女、三角木馬、凌遅刑。

 そう言った、苦痛を浴びせる為に作られた拷問器具らは、恐怖を煽るかのように所狭しと置かれていた。

 何の用途に使うのかと、聞きたくもない代物ばかりであり、また、年季の入った罅や錆は悠久の時間を遂げてできたものだろうと窺えることが出来た。

 

 

 さて。

 そんな惨たらしい拷問部屋の中央に、ある銀髪を靡かせた少女が一人。

 手枷と足枷が装置された審問椅子に腰掛けており、猿轡を被せられている。

 厳重な設備なだけあって、脱出経路を見出すために試行錯誤するも非力な少女ゆえか徒労に終わるだけであった。

 それに、幾千もの蓄積された生々しい傷跡は、華奢な少女にとって生命力を削減され、脆弱の兆候を見せている。

 

 このままでは、いずれ時間の問題──。

 

 そう思うのは、至極当然だった。

 しかし、その少女は死なない。何をされても死ななかったのだ。

 例え、素粒子を全て消滅させられても、宇宙空間に放り込まれても、灼熱の太陽に飲み込まれても、その少女は必ず死なないのだ。

 何事も無く、血液や肉の皮、爪の垢さえ元通りに再生される。

 

 そう、その少女は『蓬莱人』という不老不死の種族であり、忌み子として讒謗(ざんぼう)されていた。

 

『蓬莱の薬』と呼ばれる禁薬を服用をした極刑から『月の都』の都心部の投獄に永遠という名の幽閉をされている。

 実質『蓬莱の薬』は永遠の苦しみと穢れを発生させることから服用は禁止とされている。

 少女にとっては不可抗力であったのだが──と、見苦しい言い訳は当然のように流され、周囲からは忌避され、侮蔑され、嫌悪されている。

 それ程の禁則を犯したから。

 不甲斐ないが、罰は受けなければならないと、少女は深く項垂れる。

 

 しかし、少女以外にも一人、投獄に幽閉されている人物が居た。

 床に寝そべっいる、傲慢そうな小柄な女性である。

 蟾蜍(ヒキガエル)に似た容姿と言えば分かりやすいだろう。

 と言っても、美醜の差を比較すれば間違いなく美だ。

 まるで、醜すら烏滸がましいほどの美麗さを誇っている。

『月の女神』と謳われる女性なのだから、それはもう筆舌に尽くし難い。

 

 

 そんな拷問部屋に二人蟄居。

 何処と無くシュール感が溢れるのだが、ここでは誰も口は挟まないだろう。

 幾百年かを数えるのも億劫な程、辛酸を嘗めさせられているのだから。

 笑談というものは遥か遠くへと忘却してしまっている。

 

 と言っても、小柄な女性は如何なる罰も与えられていない。

 彼女は『月の女神』と称されるのは伊達じゃない程、玉兎の支配者である名誉な功績を持ち、しかも脅威な力を保有していることから不動の地位を確立している。

 しかも、禁薬を服用したその厳罰を足したとしても、その偉大な功績の前では意も介さないだろう。更に力まで抑制しようとするならば周囲に甚大な被害が齎すのは想像に容易い。

 ならば、最低限のマナーだけを遵守してもらい、ある程度自由の身にもらった方が『此方』も安堵できるものである。

 しかし、本人が物好きなのか、自らの意思で投獄に居座った。

 悲愴が漂うその面影には、罪を償わなければならない使命を抱かせているような、過去に囚われた末路、がヤケに似合う風貌を見せていた。

 凡そ、それが原因だろうが、その漠然たる真相は誰にも分からない。

 

 

 ──という悲劇的な諸事情のもと。

 

 犬猿の仲ほどでは無いが、二人はそこはかとなく相容れないせいで異質な空気を纏っている。

 不穏でもなく、不気味でもなく、まるで時が止まったかのように静謐な時間を過ごしているような。

 口に出すのも躊躇う。

 しかし、小柄な女性は、寝惚け混じりな声で少女に話し掛けた。

 

「・・・・・・・・・お主、これで何千回目?」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 少女は押黙る。

 猿轡のせいで顔色は窺えれない。

 まるで、死体のように静止を保っていた。

 だが、心の琴線に触れたのか、気迫篭った返事をした。

 

「・・・・・・あ"?・・・なに"?」

 

 非難混じりの、ピリピリとした声。

 露ほどの悲痛さも感じられない。

 まるで、拷問など児戯に類する行為だと言っているかのような。

 強がりでは無く、そのようなは圧迫感を漂わせていた。

 

「・・・・・・し、失言だったな。すまない」

 

 小柄な女性は、心情を逆撫でしてしまったと謝意を表し、それと同時に思わず後退る。

 少女の声色を察してか、温厚だった昔日の面影はないと確信する。

 それは、拷問を受けたゆえか、最近は性格が歪んで狂暴性を増しているように見えた。

 猿轡越しだが、きっと中の顔は蟒蛇すら恐れるだろう。

 

 と言うより、そもそもの話なのだが、この少女は“話せる”時点で常軌を逸した異端であり、堅牢無比な精神面を持ち合わせていると言える。

 当然だろう、何千何万の苦渋を浴びせられているのだから。

 

 簡単な話、常人ならば、藁にも縋れない状況下の中で必死に拷問を耐え続けなければならないし、もはや肉体的にも精神的にも只では済まなくなる。

 それも、人形のように生気は伴わないはずだ。

 生きる屍と化し、死よりも残酷無欠な苦悶で息絶えることは目に見えている。

 

 しかし、少女はそうならなかった。

 肉体面、精神面が突拍子に強靭なのか、それとも不老不死の作用なのか。

 少女の相識か『蓬莱の薬』の製作者に聞かなければ、全容は明らかにならないだろうが、例えそれでも欠片ほどの精神は決壊するはずなのだ。

 

 不老不死な少女であれど、食事、睡眠はきちんと取るれっきとした人間だ。

 不老不死ゆえに、死生観や価値観の相違のズレは多少変わってくるが、それを差し引いたとしても一般的な人間であると言える。

 

 しかし、そう、人間という生物は精神面が脆い。

 それはもう、砂上の楼閣に等しい。

 精神が追い詰められれば、人は簡単に自殺するし、発狂、錯乱、心神喪失にだってなる。

 ほんの些事な切っ掛けでも、天秤に掛けた精神は平衡を保てなくなるのだ。

 その人間にとって必需である感性は、少女にとってもしかすると必要性が無く、そしてそれこそ、もはや耐えに耐え抜いた心身の平衡を保てなくなり、精神の範疇を越えたゆえに体現した形而上の存在なのかもしれない。

 

 それは、彼女しか知る由もないだろう。

 覚妖怪を連れて来れば話は変わるかもしれないが。

 

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

 そして、再びの沈黙。

 場に静寂が訪れ、不穏な空気が支配する。

 しかし、この慣れた空気は二人にとって気不味いものではなく、馴染み深いものだった。

 暇潰しの会話らしい会話など一切せず、ただただ普段通り沈黙を押し通すだけだ。

 寧ろ、会話する方が稀である。

 長い時では、一年。最高で五年ほど。

 

 人間にとって弛み無い時間だが、不老不死にとっては瞬きに等しい短さだろう。

 必ず死なない彼女等にとって、永遠を生きるというのはそれほど須臾なのだ。

 

 そして再び会話が訪れるまで、あと何年か、それとも何日か。

 気紛れ且つ楽観的な不老不死には、もしかすると会話が訪れることなく永遠の時を経るのかもしれない。

 送る月日に関守なしとは、不老不死にとって適当な言葉だと実感が湧くことだろう。

 

 無論、二人にとってどうでもいいことこの上ない。

 今日も今日とて、暗澹とした日々を過ごしていくだけなのだから──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハローエブリワン。

 今日も燦々とした素晴らしき一日が訪れたよ。

 玲瓏たる月影が私の素肌を清らかに、そして爽やかに照らし私の気分も最高潮だ。

 

 さて、こんな最低で最高な日には外に出ないと勿体ないし、何をしようか。

 友達と鬼ごっこ? それともおままごと?

 両方とも天啓を得たかのようなワンダフルなアイデアだったのだが悲しいかな。私ってここ数百年ぼっちなのだ。

 

 ならばどうするか。

 ここは不甲斐なくも仕方なく、冷酷無比な現実を受け入れて独りで遊ぶに限るしかないだろう。

 

 しかし再び問題発生。

 手足両方とも拘束されて、尚且つ何かを被せられているのか視界が暗転としている。

 数回「これは夢だ」と思って目蓋を開閉しても、何事も変わらずにいつも通り(・・・・・)の視界に戻るだけであるし、普段通り(・・・・)に華奢な体躯は動かない。

 

 そして、ここで私は悟る。

 

 

 

 ・・・・・・嗚呼ジーザス、私が一体なんの罪を働いたのかと。

 

 

 幾星霜の時を経た今、私は追求したい。

 慈悲深き神よ、私の哀れな願いはただ一つだけ、それもほんのちょぴりな哀願を成就してくだされば私はそれで満足なのです。

 

 そう、それはボッチにして最高最大の夢であり、泡沫のような淡い一炊の夢なのだ。

 あらゆるボッチが悉く挫折感を味わって、そして出不精になり、もはや心の中に巣窟するパンデモニウム──。

 

 そう、その残酷な悲願こそが・・・・・・。

 

 

 

 

 この憐憫な私に友達を恵んで下さい!!!

 

 

 そう、たったそれだけで良いんですよ。

 なのに、なのに私の儚き願いは一向に成就されない。

 何で? 一体私が何をした? 前世でほんの些細な悪事を働いたことが要因なのか?

 

 確かに、前世の私はちょっと荒れていた。

 と言っても、前世の記憶は朧気だ。思い出せる範囲なら、友達の鞄に淫猥なグッズを入れたり様々な種類のジュースを混合して友達に飲ませてぶっかけたりしたことだ。

 まだ友達の枠内なら許容出来る範囲である・・・と思いたいけど私って録なことやってねぇわ。

 

 しかし、神の悪戯か、それとも神の気紛れか。唐突に安眠から目が覚めるように目蓋を開けると見知らぬ光景であったのだ。

 

 え・・・何このテンプレ・・・。

 

 そう感嘆するも束の間、気づけば某CMより長いお付き合いをしてしまった訳だ。

 しかも前世の生より何十倍も。

 

 ぶっちゃけ意味が分からん。

 プラトーンのシーンを無意識に演じてしまいそうだ。けど、気づけば多分だが、この少女に憑依したことが原因なのかもしれない。

 確信はないが、この体になってから時間の進み具合が突発的かつ飛躍的に格段された。

 

 そして、ここで懸念事項が湧くのも当然だと言える。

 そう、殆どの日本人が根付く平和主義な私が拷問などに耐えられるだろうか。

 

 

 答えは断然ノーだ。

 多分一日も耐えられないし、耐えられたとしてもいずれ心が堰を切ったように崩壊してる。

 自虐的だが私の精神は非常に脆い。

 キツイことがあったりしたら現実逃避したいし、目前に吊るされた欲があれば犬みたいに縋り付く。

 そんな私が何故、悠久の時間を耐えることに出来ているのか、それは後述の通りだ。

 

 

 

 謂わば痛覚麻痺と言えばいいのだろうか。

 

 恐らく、憑依する前の本体である少女が拷問を耐えに耐え続け、痛覚が麻痺してしまったのだと憶測を建てている。そして私が本分になっても本体はそのままなので感触はあれど痛覚は無い。

 

 憶測なだけで正解ではないだろうが、妥当な線は通っているはずだ。現実的だと思うし。

 根本的に間違っていても、この華奢な体に刻まれまくった幾千もの傷はその証拠を大いに表している。

 ちょっと見るに堪えない無惨な傷痕だけれど・・・・・・何回も見れば人は慣れるものだとつくづく思う経験である。

 

 そして、この体は殺されれば元通り復元するし、例え馬鹿で間抜けな私でもここまで来れば察することは容易い。

 

 あーこれ不老不死だわ、と。

 

 あまりにも楽観でスッと腑に落ちた感覚だったが、人間の本性にして人類最大の夢である不老不死になって喜べばいいのだろうが私の心は暗雲の如く晴れやしない。

 

 何故なら、死ねないのだ。

 

 無限すら容易に超越する時間を過ごさなければならないし、例え苦悶を上げるほどの苦しみを味わっても決して死ぬことは無い。

 

 そして、いずれ地球も太陽も消滅する運命。

『星』も生命であり、最期は必ず訪れる宿命を背負っているのだ。

 

 そんな永遠の命がある不老不死が、居場所なんて存在するだろうか。

 否、する訳なかろうコンチクショウ。

 宇宙空間に放り出されて無限の時を一生過ごさなければならないのは目に見えている。

 それこそ、私の未来の生涯だろう。

 絶望過ぎて何も言えねぇ。

 

 

 しかーし。

 ここにして一縷の希望があったりする。

 それは、この世界が『東方Project』という妖怪が跋扈する摩訶不思議な世界であることだ。

 拷問を仕切り行う執行官が、偶に愚痴を吐く「綿月豊姫」とか「綿月依姫」「稀神サグメ」のキーワードに疑念を抱いたのだ。

 というか確信している。

 此処で居候をしている「嫦娥」という美貌を持つ女性も、原作では名前だけ登場して詳細はハッキリしていないけれども辻褄を確認すると得心がゆくのだ。

 

 まぁ、真実を知って欣喜雀躍、狂喜乱舞したいのはやまやまであるが『東方Project』の舞台である「幻想郷」には結局は行けなかったりする。

 

 悲しい。それはもう滂沱の涙を跳躍して滝の涙ぐらいに悲しい。

 

 しかし、私は諦めたりする弱い女ではない。

 絶対「幻想郷」に行ってみせる。

 それはもう、どんな手段を行使してでも。

 知人以上友達未満の嫦娥には申し訳ないが、もしかしたら逃走を図る口実によって罵詈雑言を吐かれるかもしれない。

 しかしそもそも、何故か嫦娥は私に対して一歩身を引いていると言うか、刺激を与えないような素振りをしてたりする。

 理由は定かではないが、態々私から「友達になって下さい!」と上目遣いで土下座しても露骨に顔を顰めて逆効果しかならないだろう。

 それ以上に顰蹙を買うかもしれない。

 

 だからそう、私は、こんな場所からさっさと脱獄して「幻想郷」で友達を作りたいし、少なからず希望はあると思っているのだ。

 

 まだまだ恒久的な話だが、それでも絶望的な運命はいずれやってくるし、煩悩を働けば後先は楽なことだろう。

 

 しかし、仏陀は仰る。

「無間地獄に死はない──不老不死こそ最大の責苦である」と。

 

 清々しいほど鮮烈にお先真っ暗。でも、行動で示せば幸福が待ち侘びている道筋は幾らかある筈・・・・・・だと思いたい。

 多岐に渡らなくとも、ハッピーエンドルートは確保したいと思うのは当然だし。

 因みにトゥルーエンドは許容範囲。バットエンドは普通に論外。

 

 ホープを持つことは、不老不死の私にとって甚だ重要であること。そして、これから歩む開闢は序盤に過ぎないのだ。

 

 改めて、不老不死という存在は『恐怖』以外何者でもないと、時代の趨勢に恐れを抱いた。

 

 憂鬱が溜まるばかりだわー・・・・・・。

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