不老不死の少女は友達を作りたい 〜目指せ脱ぼっち〜 作:ふなや
どうも、久方振りでございます。
あれから数年経った。
今日も今日とて、私の不遇な状況は健在である。
さて。
私の冗漫な話を聞いて、さぞ悲哀や同情の念を抱いたことだろうが、別に現段階、不幸に陥ってるわけでもないのでアンニュイの人生を謳歌している。
しかし、せめてもの食事や日光浴をしたいと思うのは人間の性だろうか。
まぁどうせ無理だから黙認するけど。
憑依した当初は、血飛沫の感覚に粟立ち、意味不明な状況に慟哭し嘆いたことだったが、今や黄昏れる余裕すらあったりする。
あの頃の私は若かったよ──と、老輩じみた言葉がついつい漏れてしまいそう。
まぁ、心の中で呟くだけだが。
思わず口が滑ってしまったら、きっと嫦娥に揶揄されてしまう。
そして、当の本人である居候の嫦娥は、相も変わらず怠慢そうに惰眠を貪っている。
時折に「ふわぁ〜」とか「ふにゃ〜」と、涙目ながら可愛いらしい欠伸をして凄く微笑ましい気分になるが、如何せん、現在の私の状況から双方の視線を去来すると羨望と嫉妬が相剋して複雑な気分になったりする。
勿論、嫦娥も私と同様に、不遇な環境と何ら遜色はないのだが、ある程度の自由と不自由ではかなり違うのだ。
正直言って、めちゃくちゃ羨ましい。
ちょっと立場を逆転して欲しい。
一日。いや、半日だけでも。
椅子に座りっぱなしも結構、体に負担が掛かるから腰骨とか歪むんだよね。
拷問プレイ(受け)の玄人の私が言うんだ、間違いないわい。ほっほっほっ。
・・・・・・・・・ゴホン。
まぁ私の小さな願い事はさておき。
一応、前々から『脱出計画』するに当たっての目論見は図ったりしているのだが、進歩は芳しくない。って言うか無理難題すぎる。
設備が厳重なだけあって、出入口に鉄鋼の閂が掛けてあったり、壁の隅に監視カメラが装着していたりするので行動も何も状況が詰んでいるのだ。
ちょっと心が折れそう。ってか寸前。
千古不易このままかと想像すると、身の縮む思いが募ってしまう。
そんな生涯、絶対に嫌に決まっているが、兎にも角にも焦って愚行を重ねてはならないのは承知の上かな。
監視が著しく弱まった時、逃走を実行するに限るが、そんな千載一遇の状況など訪れる訳もないし、例え脱出できたとしても途中で身を確保されてしまう未来予想図は想像に容易い。
そもそも、この密室から出ることすら怪しいのだが、実は痛覚麻痺であるこの華奢な体躯は予想外に膂力があり、四肢を切断できたりするので一応は絶体絶命の窮地では無いので安堵できている。
切断しても、元通り再生されるしね。
いよいよ人間離れの体と思考になってきたような実感が湧く。
さて『脱出計画』は一旦後回しにしておくとして。
ところ変わって今度は『時系列』の話に移るのだが、これも難航を極めていたりする。
拷問を仕切り行う執行官──下卑た笑みを浮かべる男の月人が、僥倖にも様々な情報を饒舌に喋ってくれるのだが実はコイツ、下層部の人間なのだ。
有力な情報など仕入れている筈もなく、無益な愚痴ばかりペラペラ喋るだけなので何の役にも立たない。
正直、上層部の奴等と盥回しをしてもらえば、甘味な有益情報を仕入れるかもしれないと期待を寄せていた反面、非現実的な規定なのでもはや諦念を抱いている。
歯に衣着せぬ物言いで暴言を浴びせば、もしかすると嫌気がさして退職するかもしれないけど。
なんか我ながら素晴らしき考えだ。
希望的観測に過ぎないが、やってみる価値は十分にありそうかな。
取り敢えず『脱出計画』と『時系列』の話を纏めると、今のところは双方とも机上の空論であり、大凡の時代も明細不明である。
もしかすると「幻想郷」がとうに消滅していて、近未来的な時代に発展しているのかもしれないし、それこそ神話時代にタイムスリップしているのかもしれない。
あまりネガティブ思考に偏ってはいけないが、ある程度の現実を受け入れる覚悟は必要となるだろう。
「紅魔郷」とか「妖々夢」辺りに「幻想郷」へと赴きたいが、それは運が良すぎるし強欲というものかな。
しかし、禍福は糾えるもなんとやら。
不幸に思った神が同情して、私の祈願が成就されるかもしれない。
あまりにも非合理的だが。
しかし、前世の私は、神の概念という存在を信仰するどころか信憑性すら皆無だったのだが『東方Project』の幾許の神が群雄割拠する世界に生まれ落ちた今だからこそ、私は帰依することが出来て謹厳の精神を心掛けていることを優先しているのだ。
手のひらを返す現金なヤツ──と、実際その通りなのだが、そもそもとして人間なんてそう言う生物だろう。
やらない価値は全く以て無いだろうし、寛容な神もある程度許容してくれる・・・・・・と思う。
口から出た災いで、逆鱗に触れてないことを願おう。
トラストミー。
まぁ、見たこともない神に信仰する云々の前に、取り敢えずは行動を起こすべきなのは確実だろう。
一応、私は無宗教なのだし、それこそ本当に手段が皆無と判断したら最終手段として縋り付くことにしよう。
結果は変わらないかもしれない──と言うよりもはや濃厚なのだけれど。
さて。
ここまで長たらしい話を述べてきたが、もう推察の通り、私は暇で暇で暇で暇でしょうがないのである。
大事なことなので四回言いました。
暇を潰すために嫦娥に話そうとするも、察知機能が備えているのか自然と畏まれるし、機嫌を取るような素振りをしたりする。
一々、私から無理矢理話しかけても、相手に不快な思いをさせるし今後の関係に亀裂が生じるかもしれないだろう。
現状維持のままが最適で最善だと思う。
そして、そうなってくると、私は暇潰しの手段が全て消え去ってしまう。
放心状態をいつまで維持できるかと謎の競技に獅子奮迅するも当然に飽きてくるし、空想の物語を描いて世界を救う王道ストーリーを想像させるも虚無感が猛烈に湧いてくるし。
実際問題、やることが無い。
これは現在進行形で一大事件である。
不老不死に娯楽と好奇心は必要不可欠なのだ。
それが無くなってしまえば、不老不死は不老不死でいられない。
哲学的だが、要するに、精神が崩壊してしまうという道筋に繋がってしまう。
それは絶対あってはならない。
生憎、私は『東方Project』の原作知識があるので、知的好奇心は熾烈の如く旺盛だ。
キャラクター全員に会うまで私は諦めん。
まぁ、記念すべき一人は幾百年と同居しているのだけど。
流石に三桁を超える年月を一緒に過ごしていれば情も冷めるだろうよ。
それとは裏腹に、気安く話し掛けるぐらいの友誼には進歩したけどね。
「嫦娥〜」「なんじゃい、我が愛しの娘よ〜」ぐらいまで発展したかったけれど、現実は非情というものである。
あ、因みに執行官は友達候補にいれてない。
あんな必要以上に体を触ってくる穢らわしい存在且つゴキブリ並に生理的嫌悪が生じる下卑た笑みを浮かべられたら、不思議と顔が引き攣ってしまうのは必然だろう。
学校のクラスでは陽キャラ的存在だけど、裏では全員に散々陰口とか叩かれてそうなタイプだ。
きっと此処でもそうなのだろう、ご愁傷様である。
「─────ゎ─った、分かったよ。今月分も宜しく頼むぜ、へへ」
そして、噂をすればなんとやら。
執行官の御出座だ。
こちらへ向かう途中に誰かと話していたのか、一旦区切りを付けると話題を中断し、鈍重そうな扉をガタンと開けて鍵を閉める。
そして、大儀そうな足音を立ててこちらへやって来る。
「はぁ、ったく、毎度毎度、お前のその仏頂面な顔を見てると腹が立つなぁ」
なら来なければいいのに。
そう苛々が抑えられないように私の目前に立つと、私の顔を想像して鬱憤が溜まったのか、被せられた猿轡を乱暴に脱着する。
そして、挨拶替わりに──。
あ、ちょと待──
「フンッッ!!」
視界が鳴動した。
痛覚が麻痺しているので現状確認が遅れたが、恐らく、一瞬視界の端に映った拳が頭部に殴打したのだろう。
それと同時に遅れて「ゴキッ」と、首の骨が折れる音が、真実を躍如するかのように木霊する。
「へへ。その美貌を歪める背徳感、やっぱ堪らねぇぜ」
「・・・・・・・・・・・・」
そして、毎度の如くこの科白を並べる。
もはや日常茶飯事である。
何千回、何万回この科白を聞かされただろうか、もっと他のボキャブラリーは無いのか。
無いんだろう、無いんだったな。
幾百年経ってもお前は能無しなのか。
「さて、今日はコレを使うか・・・・・・ぐへへ、お前が助けを乞う姿が目に浮かぶぜ」
「・・・・・・・・・・・・」
いや、そんな嗜虐的な顔をして恐怖を抱かせるようそばたてても、私は痛し痒しも無いんだけどね。
実際コレとは、拷問器具の一種である『ファラリスの雄牛』と異称されるもので、形容は中が空洞の雄牛の像であり、その腹の下で火が焚かれる仕組になっている。
真鍮は黄金色になるまで熱せられ、中の人間を炙り殺すという類を見ない残酷な処刑装置だ。
まぁ、私にとっては鼻くそホジホジしたりオナラを放く余裕すらありますけどね。
絵面を想像すればかなりシュールだ。
ちょっと下品だが、それぐらい退屈って事。
「ほら、とっとと立て、そして跪け」
「・・・・・・・・・・・・」
そして催促するように、私の頭を鷲掴む。
目前の男は圧死させるかのように腕力を込めているのだろうが、正直、私は何処吹く風だ。
頭が凹む感覚だけが残る。
徒労に終わるだけなのに、こいつはいつになったら気付くのだろうか。
多分、嫦娥は百年前に気付いてる筈だ。
「何ボーとしてやがる。テメェは俺の言うことさえ聞いていればいいんだよ」
「・・・・・・・・・・・・」
へいへい。
私が黙ってることを良いことに好き勝手命令しやがって。
実行に移さばいいんでしょ、実行に移せば。
だからさり気なく
はっ倒すぞ。
「・・・・・・・・・チッ。感度がねぇのか知らねぇが、こういう時も役立たずだな」
「・・・・・・・・・・・・」
言うことが最低極まりないぺドフィリア。
しかし、痛覚が麻痺した影響か、感度も鈍くなっているのは不幸中の幸いだったと思う。
こいつに思うがまま弄ばれるのは流石に嫌悪感が滾ると言うか、御免蒙りないのだが、流石にこの状況が毎度続くなら堪忍袋の緒が切れてしまう。
嫦娥も絶対零度の如くに侮蔑の視線を向けているし、あんな目で見られてしまったら新たな性癖に目覚めてしまいそうになる。ってかなりそう。
あれ、私も大概な気がしてきた・・・。
「ほら、さっさと中に入れ。お前の絶叫する声が楽しみだぜ・・・・・・へへ」
にしても、こいつはイイ趣味してる。
私の血飛沫が舞う度に、昂奮の雄叫びを上げて拷問の熾烈を極めるのだから精神疾患者なのかと本気で疑ってしまう。
って言うか重度の疾患者だろう。
やばい時は「
まぁ、即座に嫦娥が幇助してくれたお陰で事なきを得たが。
感謝してもしきれない。
恩を返したいが、その日は来るのか分からないな。
因みに「これ」は「これ」である。余計な詳細は省くとしようか。うん。そうしよう。
「ッチ、愚図かお前は。さっさと入れってつってんだ」
そして、私が思い耽ていたせいか、苛々とした声色で無防備な背中を蹴飛ばし、前屈みに『ファラリスの雄牛』の中にへと落ちる。
あまりの慈悲の無さに文句を一つ二つぶつけてやろうと思ったが、それを嘲弄するかのように突如として暗黒の視界が烈火に包まれた。
篝火のような生易しい音は消えて、轟々とした灰燼に帰す猛烈さが耳に反響する。
それを現実付けるように、素肌が一瞬にして黒焦げに染め上げて爛れ、それを再生と焼却を反復した。
視界は鮮血の如く真っ赤である。
無論、これは私の血ではなく、猛炎だ。
大凡の温度は二千度を優に越しているだろう、普通に体が灰塵になりかけてるし。
因みに『ファラリスの雄牛』の詳細を補足しておくと、雄牛の頭部は複雑な筒と栓からなっており、苦悶する犠牲者の叫び声が、仕組を通して本物の牛の唸り声のような音へと変調されている。
曰く、これは執行官の言であるが私は別段、苦しくとも何ともない。
轟々と木霊す音が耳に響くだけである。
まぁこれが熟練の慣れというやつだ。
常人には分からない。
しかし、そもそもなのだが、何故、私は拷問など受ける必要があるのだろうか。
憑依する前の本体の少女が重罪を犯したのか、はたまた忌み子であったのかは全く以て無知だが、密室に隔離してまで拷問をする浪費は無い。
普通に投獄に幽閉しとけば済む話じゃね。
そこまで嫌われているのか私は。
いや、まぁ、情報源など皆無だから分からないのは当然なのだが、延々と拷問を行う必要性など感じられない。
永遠の命だぞ、死なないのだから人件費諸々を削減して幽閉しとけば手間など掛からないだろう。
もしかすると、人体実験の研究材料としてレポートを纏めているのかもしれない。
不老不死の臓器は一般の人間と比較してどうとか、日々苦痛に耐える時の精神の安定感はどうとか。
それなら嫦娥も拷問しろよって話なのだけれど、どうやら嫦娥は上層部並の権力を保有しているらしい。
自らの意思で此処に居座り、永遠の贖罪を受け入れているのだとか。
ちょっと良くわからない。
それとは裏腹に、私は一介の非力な少女であり、差詰め権力などありはしない。
日々、拷問を受けるだけの蛻けである。
そして、いざとなったら公平関係有無に断罪も容易く、宇宙の彼方へと漂流物として流される運命も十分に有り得るだろう。
それと嫦娥曰く『月の都』の権力を担う賢者達が、互いに下衆の勘繰りを働かせ瓦解寸前まで陥っているらしい。
そして『月の都』の僭主である
・・・・・・うん、政治関係は小難しくあまり理解できないな。
私を巻き込まないで欲しいと願うばかりだ。
少し話が逸れてしまった。
あらゆる物事を考えても、結局のところは結論に至らない。
まずは『脱出計画』についての目論見を図るのが最優先事項だ。
政治関係とか知ったこっちゃない。
そっち方面はそっちの関係者達で解決するべき。
私は無関係を突貫する。
・・・・・・しかし、何でだろうか、政治に関わる臭いがプンプンするのだが・・・・・・余計なフラグを立ててしまったのかもしれない。