不老不死の少女は友達を作りたい 〜目指せ脱ぼっち〜 作:ふなや
──さて、時間軸は少々異なり。
彼女は聡明だった。
彼女は清廉だった。
彼女の頭脳は鬼才であり続けた。
月の都建造において、月の都の始祖である月夜見に最も頼りにされており。
月の使者のリーダーとして長年働き。
量子印などの、現在でも本人以外作製不能な技術を独自開発。
月の公転周期をずらす、太古の月と地球を複製して経路を入れ替えることで月と地球の行き来を不能にする、といった天体規模の特殊な術をも操る、その『月の頭脳』と称される貴人は。
単独で名誉ある功績を凄烈に築き上げ、年の耄碌を感じさせないほど依然として学問に造詣が深く、その神すら凌駕する才色兼備は他の追随を許容しない圧倒的な存在感を漂わせていた。
あらゆる物事、不変の真理の理解者にとって、八面六臂である彼女の右に出るものは絶対的に存在しないことだろう。
年の功によるノウハウも卓越なものであるが、なによりその頭脳明晰は人類にとって早過ぎていたのだ。
───そう、それは正しく降誕である。
しかし、彼女は『月の都』を排撃した。
月の賢者として教育係を任命していた主人の一人、今では『永遠と須臾の罪人』と謂れているが、その地上へ流刑に処された人物と主従関係を結んで逃走を図ったのだ。
禁忌である『蓬莱の薬』は永遠の罪だ。
それを服用した重罪は計り知れないのだが、何を血迷ったのか、その禁薬を自らの意思で服用し、蛮族が徘徊する穢土で生活すると寝返ったのだ。
こればかりは『月の都』の僭主である月夜見も驚愕を隠せない。
猶予が過ぎ、刑期を終えた主人を送迎するだけと思っていたが、まさか月の使者を皆殺しにするとは一抹も露ほども考慮していない。
月の道具と云えば表現が悪いが、実際その通りである彼女は恭順の意を人一倍に見せていた信用度があったので寝返るなど全く以て突拍子もないことだった。
そして、それと同時に期待を裏切ったせいか、はたまた信頼感が崩落したせいか、或いは両方か。
月夜見は怒髪天を衝くほど怒り狂った。
確固に結ばれた信頼関係ほど、容易く崩れさる喪失感と湧きたつ激憤は無い。
それは、心を強烈に打ちひしがれるものである。
しかし、その信頼関係の差違は月夜見の勘違いであり、彼女にとってその程度の関係に過ぎなかったという証明を示唆に表していた。
それを心中に密かに理解していた月夜見は、事実を受け入れようとしなかっただけに過ぎなかったのだ。
そう、要するに、面従腹背の関係。
彼の底意に渦巻くのは、憤懣、喪失、悔悟。
その裏切った起因により、あらゆる負の感情が攪拌した月夜見は長年培った精神の亀裂が生じ始めていた。
それは神の存在意義として消滅に導くもの。
それを解消するため自ら奮起を促して、彼女の要因となった根源を熟考するも、裏切った真実が認容できないゆえ呆然とした思いが募るせいかそれらしき元凶は思い浮かぶことすら儘ならないし、そもそも喪失感と遣る瀬無い気分のせいで堕落した日々が続くばかりであった。
懊悩たる思いをしても現状は変わらない、逆に自分がポジティブに変わらなければならないと分かっていたが、深意に僅かな希望を寄せていたのだ。
きっと戻ってくれると。
話せば分かると。
そんな期待に溺れた彼は、傍から見ればまるで獲物を睨むような般若の形相であった。
腐心ゆえに澱んだ瞳孔は、自然と畏怖を周囲に与えていたのだ。
その姿を目にする賢者達はそれと同時に戦慄し、月の使者達は今後に心配を抱いた。
ここまで君主が感情を露わにするなど、生涯一度も拝見したことなかったからだ。
常時は凛々しい御尊顔をしており、我が物顔で発言する態度を振舞っている。
そんな傲岸不遜な彼に反感を買うのは当然のことなのだが、カリスマ性と栄誉ある実績が相俟ってか存分に行使する政治に民は不満や危惧は抱いていない。
それは彼の実績を冒涜する行為に値するし、厚顔にも相当するから。
例え一抹の心配は抱いたとしても、月の民は彼の崇高な実績と政治運動の働きに一役買って信託を寄せていたのだ。
安寧秩序の生活はもはや当然の事であり、内憂外患には至らない平穏を保ち続けていた。
ただ。
梯子を外された月夜見が憂いを抱いている。
それだけの事だった。
しかし、ある日、事件は起きた。
月の賢者の一人である貴族、それなりの権力者が、秘匿していた彼女の子供を発見したのだ。
しかも『蓬莱の薬』を服用させたのか、不老不死である銀髪の少女を。
その少女は感情の起伏が激しかった。
それはもう、楽しい事があれば笑う、悲しい事があれば泣く、嫌な事があればむくれると、無邪気な子供と同じように。
更に、その少女は神童でもあった。
その類まれない圧倒的な美貌と叡智は息を呑むほどであったのだ。
と言っても、その容姿は異質である。
遺伝情報の欠損なのか、病的までの白磁な素肌をしている。アルビノというやつだ。
しかしながら、その完璧に整った顔貌は不思議と忠誠心を植え付けるものがあり、教祖的存在を大いに上回るカリスマ性を発揮していた。
それと同様に、その知性が溢れる瑪瑙の瞳孔は、人々を魅惑に陥れるには十二分過ぎていたのだ。
どんな“男”と同衾すれば、こんな異端児が生まれのかと疑問が湧いたことだったが、あの美しい彼女ならば不思議ではないと左程重要視はしなかった。
彼女ならば、その神異の能力『あらゆる薬を作る程度の能力』で、どんな荒業も成し遂げる確信があったからだ。
彼女にとって、宇宙の真理も、不可解な現象も意のままに解き明かすかもしれない。
それもまた、この少女にとっても可能な存在なのだろう、しかし、月夜見はその利便性を良しとしなかった。
裏切った彼女の面影が重なったのか、それとも瓜二つまでの姿に憎悪が湧いたのか、鬱憤が溜まっていく月夜見は腹癒せに拷問をさせると決断した。
無論、独断である。
それと同時に、確証のない噂を民達に浸透させた。
曰く、穢れた愚息であると。
曰く、罪深き忌み子であると。
曰く、リーサルウェポンであると。
所謂プロパガンダというやつである。
所詮は月夜見の八つ当たりに過ぎない。
神の存在意義を一時的に現状維持するためには、彼女の子女に対して鬱憤を晴らす対象は適確であると言えたのだ。
しかし、少女にとっては不遇以外の何者でもないのは確かだ。
幾重となる拷問と精神的苦痛を浴びせられ、少女は理不尽な境遇に滂沱として泣き喚いた。
それはもう、慟哭と比較にならないほど涙腺が決壊して、名も知らない“生みの親”に対して腸が煮え返るほど怒り狂った瞬間であったし、暗澹たる未来に一色の絶望顔にと変貌を遂げていたのだった。
例え驚異の目を見張る神童であったとしても人間の感性と左程は変わりないのだ、拷問の苦痛など耐え難いに決まっているし、頓智が効くおかげで現状認識は嫌でも頭にスッと入る。
その無垢な笑顔が穢されたかのような姿に見ていられない嫦娥は、渦巻く激情を押しとどめて当の本人に代理して訴訟したのだが胸糞悪いことに月夜見は聞く耳を持たなかった。
それなりの権力は有していても、月夜見の政権にとっては意も介さないからだ。
情状酌量の余地も無いのだから、状態は正しく最悪である。
しかし。
その反発を幾度と繰り返す二人だったが、ある日、何の前触れもなく
それは忽然と、凶兆も無く。
そう、少女が豹変したのだ。
それはまるで、悪魔が憑依したかのよう。
悪神に入れ替わったように
それなりの温厚だった少女が、虚無感を漂わす無表情をするようになり、しかし不思議ながら寒気がするほどの禍々しい存在に変貌したのだ。
少女にとって、喜怒哀楽という言葉は消失し、不吉を漂わすだけの歪な存在に成り果てた。
嫦娥も心配が募ってただけに、会話する限り精神の亀裂が生じていないと杞憂に安堵を吐くが、ここまで豹変させた己の不甲斐無さに自己嫌悪が増して沈痛していた。
日々の愚痴を聞き、無責任だが拷問に負けるなと熱意を鼓舞させ、かなり友誼を深めていた筈だった少女がまさかここまで変貌を遂げ沈黙するなど想像もしていなかったからだ。
しかし。
少女の胸中にある感情は誰も知らないことだろう。
(早く友達を作りたいなぁ・・・)
威圧感を与える仏頂面をしながらそんな風に思っていることは、頭を絞るほど悩ましても誰もが結論を出せ得ないことだし、例え思いついたとしても拷問を受ける悲惨な待遇なゆえ「いや、ないな」と自嘲で終わる結論に至ることが当然だろう。
勿論、嫦娥もその結論である。
そう。
少女はお転婆になった。
それだけしか変わっていなかったのだ。
▼
『月の都』に広がる林立した中華街。
その都心部の多重塔の大広間に、幾十人もの賢者達が集まっていた。
豪華絢爛とは言えないが、それなりの気品ある和室は非常に悠長なもの。
そこに無精髭を生やした老輩、精悍な若輩、器量のよい女性。そういった権力を担う老若男女の賢者達が、今宵の集会を鬼気迫る表情で待ち望んでいた。
文面的に見ればさぞかし重大性ゆえ緊迫感を漂わせているように見えるだろう。
しかし、第三者から見れば、この空気は最悪以外の何者でもなかった。
何故なら、彼、或い彼女らは、笑顔を装いながら表面的な社交辞令を交わし、此処に居る全員を敵視してるゆえ強迫観念を強いられているのだから。
言うなれば、醜悪な政権争い。
しかも、此処に集結する大半の賢者達がそうだ。
油断を垣間でも見せてしまえば、ある陰謀詭計で権力が失墜、もしくはヒエラルキーが陥落してしまう可能性が十二分にあるし、謂れなき
もはや蝸牛角上の争いである。
しかし、その権力が失墜した後日に待ち受けている処遇は、民からの謂れなき糾弾と、それによって拍車を掛けた公開処刑だ。
要するに、穢れと同等の意味を持つと言われる『死』が待ち侘びているということになる。
私益も当然のことだが、そういった理由で政権争いを繰り広げていた。
それに伴い、全般の生物がそうなのだが、古代から生きる月人は『死』という固定概念を恐れた臆病な種族であった。
それを他者より蛇蝎の如くに忌避する月人は『死』は穢れそのものだと経験から周知していたので賢者達は陰謀家になる手段を選ばざる得なかった。
余談になるが、元来、生物に寿命という制約などはなかった地球は、往代から闘争は根絶せず続き、海の蔓延る生命は自身を育んだ海を穢した。
勝者は地上に進出したが、今度は他者を食料とする為の壮絶な抗争となった。
ある者は闘争の無い世界を求めて飛翔し、またある者は帰巣本能が芽生えたのか海に戻った。
こうした生物の血塗られた歴史が地上に『穢れ』を生んだのだ。
その古代に生きていた月人だからこそ、本能的な『死』の恐怖心を覚えているので何が何でも死にたくはなかったのだ。
『死』と同等の意味である『穢れ』に染まりたくない一心に。
そんな厭世的な月人は、生に縋りつく執着心はあらゆる生物にとって随一だろう。
そもそもの話、禁忌である『蓬莱の薬』を服用すれば簡単に済むのだが、大前提として『蓬莱の薬』は重罪であり穢れそのものだ。
服用する物好きはまず存在しない。
生命は存在自体が穢れなのだが『蓬莱の薬』を服用せずとも澄みきった
態々、永遠の命を入手してまで不名誉と重罪を課せられ流刑に処されたくは無いだろう。
さて。
勿論、我先にと先手を取ろうと陰謀を諮る賢者達が大半なだけあって、少数だがこの内政を改善しようと意気込む者もいる。
しかし、大体が身柄を死守することで精一杯であるし、その措置を快く思わない者も少なからず存在したので手も足も出ない現状であった。
その状況に歯噛みする少数派の二人──綿月姉妹は、笑顔を装う賢者達を睨みつけながらこの腐敗した政治をどう回復するか思案をしていた。
手っ取り早いのは『戦闘要員兎達』の戦術指南という権力と『地上往来の経路と使者兎の先導』という強大な二つの権力の乱用であるが、それを行使すれば此方の立場が危うくなるし、権威を失う結果に繋がってしまうことだろう。
綿月家そのものである『地上の監視』という立場を行使すれば何分安全を図れると踏んでいたのだが、そもそも前提条件として地上に関係することだけの経緯だけであった。
内政では例外規定の範囲になるだろう。
ならば『月の都』を守衛する立場にある権力を行使するのが何より最適なのだが、僅か二人だけの力など上層部の賢者達にとっては赤子の手を捻る程度にしかならない。
実際問題、何も手が付けられない。
(・・・・・・何より今の状態では、墜落した月夜見様も当てにならない、サグメ様の『口に出すと事態を逆転させる程度の能力』が何より手っ取り早いけれど・・・)
綿月姉妹の姉である豊姫は唸る。
舌禍をもたらす女、と異称される『稀神サグメ』は月の民の一人であり、その中でも重要な地位に着任している神霊だ。
何より、その地位が認知された一番の理由はその神すら凌駕する能力であろう。
自身の思うが侭に事柄を運ぶことが可能であり、まさに世界の行く末を変動させる協力無比な力だ。
しかし、それとは裏腹に、その能力の使用を誤ればあらゆる事象を歪ませることになる。
運命など抽象的な不動の事柄に能力を使用してしまえば、もはや世界の時空を歪んでしまうと言っても過言では無い。
使い方一つで世界が脅威となり得るのだ、国の手許に置いておくのは当然だと言えるし、能力の汎用性の高さに国は重宝していたのだった。
しかし、それには多分の欠点があった。
汎用性の高い強大無比な能力には変わりないのだが、あまりにも形容し難いほどの強大な力ゆえ自身の抑止力では制御が出来ないのだ。
そして、とても使い勝手が悪い。
逆転したい事態に深く関係のある者に向かって言葉を発しなければならないし、事態が逆転を催すには何らかの要諦が必要であり、サグメ自身が話しかけた者を事態逆転の基点としなければならない。
更に言えば、能力の発動は本人の意志と関係なく、ただ言葉を発しただけで事態を逆転させてしまうのだ。
他にも様々な規定はあるのだが、これ程までに制限が科せられた能力に辟易してしまうのは当然の結果だろう。
当の本人であるサグメも、無口を突貫しているため気楽に話せないでいたし、どのような形で事態が反転するのか不明瞭であるため後先を良く熟考して発言していた。
だから、豊姫は唸った。
同じく少数派のサグメの能力を発動すれば、この醜悪な政権争いに終止符を打つことができるかもしれない。
善政を奪回することができるのだ。
しかし、それは最終的な『結果』でしかなくて、幾分の道筋を辿る『事態』は物事の成り行きを指す。
つまり、現在の状況を逆転させることになる。
するとどうなるか。
最終的な『結果』は不明確だが、必ずしも善政に著しく変貌するとは限らない。
逆に、更に内政が悪化するかもしれない。
ただ『事態』を逆転するだけで『結果』は逆転しないのだから。
(何より不安要素が大き過ぎる。ならやっぱり、地道に回復していくのが妥当・・・だろう・・・。はぁ、胃痛薬が欲しくなるわ・・・)
豊姫は内心に溜息を吐きながら、空虚をぼんりやり見つめて今後の方針に最優先事項を選定する。
その選定から、綿月姉妹の師事として剣術を学んでいた師匠の近況報告を最優先の処理とする。
それは重大のある報告だからだ。
そう、近々、穢土から数多の妖怪が『月の都』の技術を略奪しようと意気込んで襲撃して来るのだ。
しかし、師匠の報告を受けなくとも、遠方にある場所の『静かの海』から澱んだ穢身を感知ができるゆえ、その報告は余計なお世話と子供の扱いな文面にムッと眉を顰めてしまうものだった。
もう何億と生きているのだからと、師匠の性格から察するに冗談な報告に苦笑を零してしまえざる得ない。
しかし、報告の文面を目で追跡しながら真摯に感受していくと、最後の行文にだけ真面目な字で綴られていたのだった。
それは、姉の豊姫の事でもなく、ましてや妹の依姫でもない、宛先が不明の文面だった。
綿月姉妹の宛先なのだから、当然のように本人に投稿されたものだ。
しかし、それはその重大性の報告よりも、余程に枢要なものだと直感的に伺えた。
『──恨みなさい』
と、ただ一言で、不思議に気迫が漂わせる実字で健筆を振るっていた。
正直に言って、綿月姉妹は何の冗談かと目を疑うものであったし、誤字だとしても、あの完璧超人な才媛の師匠がそんな過ちを犯すはずがないと思っていた。
では一体、何の意図で書かれたのか。
意味深な言葉なのかと熟考しても思い当たる節は一向に無いし『恨みなさい』って何を恨むんだよ、と当然のツッコミが入るのも明白の理であった。
しかし、師匠の言葉なのだから示唆を含む内容なのは間違いないと確信していたのだったが、仔細な事柄で悩み呆けるほど綿月姉妹は暇ではなかった。
兎達の戦術指南、使者の兎達の先導、それに伴い『月の都』を守衛する立場に就任しているのだから休日は皆無に等しい。
そんな無駄な考えを持つ暇があれば、一刻も早く腐敗した内政を改善しようと奮闘するし、剣術の師説を復習したり実技練習をしたりする。
不要な時間は省く性分であったのだ。
そして、此処最近、懸念する事柄が一つあった。
それは、拷問を受ける少女のことだ。
大凡の年月に誕生したのか分からないが、出自、身分、系譜などは秘匿されているのか詳細不明である彼女は時折に悪評を耳にすれば嫌な予感が募ることが多々あった。
それは剣術としての勘ではなく、政治的に関係する勘だろう。
(・・・・・・月夜見様なら、きっと知っているはずね)
豊姫はそう結論を出し、この集会が御開きになれば謁見の間で質問を投げ掛けてみようと決心した。
しかし、嫌な予感の元凶は月夜見であることを豊姫は知らない。
ただ月夜見の腹癒せに悲惨な待遇を受けている少女のことを知らずに「罪深き者」と勝手に認識しており、少なからずの蔑視を向けていたのは周知の事実だったのだから無意識に流されていた。
誤認も甚だしいことだろう。
所詮はただの噂話にしか過ぎないのに、それが真実かのように民達に浸透しているのだからもはや概念化となっていた。
しかし、そのアジテーションが定着してしまえば、楽観主義な月人達にとっては後は時間の問題であったのだ。
半永久的な生活、それに平穏な環境が相俟ってか物事を深く考えるのを止めてしまっていたのだ。
醜悪な政権争いをする賢者達とはまた違う環境下にあるので、当然だと言える。
──そして、その今回の集会も同様に、表面的な社交場は水面下の争いを繰り広げていただけであった。
近々、大妖怪の『八雲紫』が率いる『月面戦争』が勃発するとも知らずに──。