東方開心劇    作:チャリタク

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本作品は三部作構成となっております。
設定がハチャメチャです。
私には文章力なんぞ存在しません。
ご高覧の際にはご注意下さい。


第35話「さようなら」

(……あ、そっか。今日は依姫ん所にログインするんだった。すっかり忘れてた)

 

 

月の都にある綿月邸。その中にある依姫の部屋の前で、自転車バカは見慣れない景色に戸惑っていた。自分に言い聞かせるように言い訳を呟き、部屋をノックする。

 

 

「おーい依姫-、来たよ-」

 

「あ、はーい!ちょっと待って-!」

 

 

ドタドタと走る音が聞こえ、ドアが開く。そこには普段通りの格好をした彼女がいた。部屋に鍵をかけるのを待ち、歩きながら話をする。

 

 

「浴衣じゃないんだな」

 

「いやぁ~、臭いが気になったからクリーニング出したんだけど色々間に合わなくって……」

 

「マジかぁ、浴衣姿見たかったなー」

 

「ほ、ほら!この格好のほうが動きやすいし、どうせ会場は浴衣着た人しか居ないじゃない?だからその……ね?」

 

「あぁ…うん、そういう事ね。ワカッタワカッタ」

 

「分っかりやすい嘘を…だます気あるの?」

 

「無い」

 

「だよね」

 

「騙された回数なら数え切れないんだけどなぁ……あ、今のと全然関係ないけど思い出した」

 

「何を?」

 

「とよ姉の話聞いた限りじゃあの人も行くって理解したんだけど……姿見えないな、もう先に行ってるとか?」

 

「いや、そんなせっかちじゃ…」

 

 

そこまで言うと、依姫のスマホが鳴る。

 

 

「お姉様から電話…もしもし?」

 

〈ごっめーん、今起きちゃった♪準備するからちょっと手伝ってくれない?〉

 

「だから夜更かしはお止め下さいと……あぁもう、分かりました。今から向かいますので待ってて下さい。じゃ切りますね?」

 

「マイペースというか呑気というか、楽しそうな人だな」

 

「いざって時は凄く頼りになるんだけどオンオフの差がね……まぁいいや、お姉様のとこ行ってくるから先に正門で待っててくれない?」

 

「あいよー、いってらっしゃーい」

 

「ごめんね、また後で!」

 

 

走り出した依姫を見送り、腕の装置を使って正門へとワープする。門に居る守衛にびっくりされたが、事情を話すと待機させて貰えた。

世間話に花を咲かせること十数分、自転車バカは「成り行きで着いてきた」というレイセンを含めた四人で祭りの会場へと向かった。道中で豊姫が「ワープをしよう」と持ちかけてくる事もあったが、他の全員が「雰囲気って知ってる?」と一喝するとあっさり大人しくなった。

 

 

「はぇ〜、月の都にこんな場所あったんだ」

 

「建物ばかり並んでいては、息が詰まってしまうわ。こういう場所も、必要なのよ」

 

「止めろ星新一風に喋るな。読むには句読点すっ飛ばせるけど聞くのは堪えられん。てかアレ月の都にあんの?」

 

「だって一番穢れが少なかったんだもの。当時は穢れ克服の第一歩としてまずは書物から入る事にしたのよ」

 

「さ、流石SFの神。とうとう月まで進出したか」

 

「でも文字追ってると眠くなりません?私なんか5分でリタイヤしちゃいましたよ」

 

『それは貴女だけ』

 

「うっ、さいですか……」

 

(このポンコツめ)

 

 

何かと理由をつけて同情を得ようとするレイセンの意見を、ことごとく論破していく依姫。それを見て閃いた顔をした豊姫は、双方にちょっかいを出して遊ぶ。

そんなやりとりしながら歩く三人から少しだけ離れた場所には太鼓を乗せた背の高い台座があり、そこを起点として紐にぶら下げられた提灯が四方八方に伸びている。

いつもより少し大きな声を出さなければかき消される程の騒がしさ。

油断すれば、あっという間にはぐれてしまいそうな人混み。

生暖かい風に乗って届く、様々な食べ物の匂い。

浴衣を着た者もそうでない者も居るのを見て、祭りの雰囲気はどこも一緒なのだと思う自転車バカ。

射的屋で本気を出したレイセンが棚一列を根こそぎ撃ち落としたり、輪投げ屋の店主に挑発された依姫が神須佐能袁命を使役して屋台を粉微塵にするなどのハプニングもあったが、しっかりと堪能した四人だった。

 

数時間後。自転車バカは会場から少しだけ離れた場所にある展望台に登り、椅子に座って休憩していた。豊姫はレイセンを連れてどこかの出し物に参加しに行き、依姫は空腹を満たしに屋台をうろついている事だろう。しばらくの間は眼下に見える会場を眺めていたが、それでも暇なので他の派生世界やネット世界を回りに行った。

 

 

 

 

(ちょっと遅くなっちゃったかな?ご飯食べる時間よりも行き帰りの方が時間かかるってどういう事なの……あ、居た居た♪)

 

 

椅子に座っている彼にそうっと近づき、肩を叩く。

 

 

「ごめん、人混みが凄くて遅く……そんな怖い顔してどうしたの?」

 

「大丈夫、何でもないよ。ちょっと考え事してて」

 

「そう、なら良かった」

 

 

その時、会場の方角から花火が上がる。展望台という事もあってか、障害物がない為よく見える。見とれていた二人だったが、依姫は階段を走った疲れもありベンチに腰かける。

視線は花火に向けたまま、依姫が話しかけた。

 

 

「ねぇ」

 

「どした?」

 

「自転車バカは、さ……今欲しいものってある?」

 

「欲しいもの?出店にゃ目ぼしいのは無かったけどなぁ……」

 

「まぁそれでも良いんだけどさ。もっと他にない?」

 

「他に、ねぇ……うーん」

 

「何でも良いよ、例えば……お、お金で買えないものでも//」

 

「何、どしたの?とよ姉に入れ知恵でもされた?」

 

「ううん。そうじゃなくて、ちょっと気になっただけ。何かないの?」

 

「そうだなぁ……」

 

 

少し考えた後、花火を見ながら答える。

 

 

「特にないな」

 

「えっ無いの?本当に?」

 

「無い無い、だって考えてみろよ。

昼間は現実世界で働きながら自転車乗って、夜は此処にログインして自宅でのんびりしたり、みんなでギャアギャア騒いだりしてんだぞ?こんな生活が死ぬまでずっと続くなら、これ以上楽しい事はないね」

 

「……そんなので良いの?」

 

「良いんだよ、これで。おっ今の花火良いじゃん」

 

「……」

 

 

───まぁ、そういう関係になれたらいいなとは思ってるよ。けどその……何つーか

 

───何というか?

 

───その願いが叶ったら後が辛くなるんでね。叶って欲しくないというか、なっちゃいけないんだよ。お互いの為に

 

 

あの日、あの時。彼の目には、言葉以上に訴えかけるものがあった。

あの表情を。脳裏に焼き付いて離れないような苦い思い出を記憶の引き出しから取り出す、憂いに満ちた表情を浮かべる者を、私は知っている。だからこそ、いくつもの疑問が沸き起こる。

どうしてなの?どうして貴方が、二十歳そこそこの男子が、八意様と同じ表情をするの?

地上での逃亡生活を経て、永遠亭を構えて、沢山の出会いと別れを繰り返して救われたと思い出話をして下さった時の八意様と。

どうしてそんな、酸いも甘いも知り尽くした発言が出来るの?

私と関係を持つ事が辛いって、どういう意味なの?

一体、過去に何があったの?

 

 

(……なんて、聞けるわけないのに)

 

 

はぐらかされる事は百も承知だ。喉元までせり上がった疑問を飲み込み、精一杯の悪あがきをした。

 

 

「……この意気地なし」

 

「え?何か言った?」

 

「……ッ!」

 

「えっちょっ、何事?」

 

 

彼の手を握り、鼻と鼻が触れ合う距離まで詰め寄る。

 

 

「私は、今のままじゃ満足出来ない。欲しいものが目の前にあるのに、黙って眺めてるだけなんて絶対嫌」

 

「よ、依姫さん……?」

 

「もう一回聞くから、ちゃんと答えて。貴方の欲しいものは何?」

 

 

今まで一度も見た事のない、真剣な眼差し。

鼻先がこすれる空間に漂う、甘い吐息。

その熱意に、理性が根負けした。

 

 

「……明日も明後日も、現実世界での生存競争は続いていく」

 

「うん」

 

「両親は死んじゃいないけど、法律のせいで離れ離れの音信不通になった」

 

「そうだったんだ」

 

「俺の立場って前にLINEで言ったよな?」

 

「うん、負け組ってやつなんでしょ?」

 

「外でも家でも独りですっげー辛くてさ、でも弱みを見せると付け込まれるから表向きは元気に見せないといけないんだ」

 

「大変だったね、お疲れ様」

 

 

細かく震える彼の身体を、ふわりと抱きしめる。

吐露してくれた感情を、零すことなく受け止めていく。

 

 

「要するに俺ってダメ人間なんだよ。でも、お前さえ傍に居てくれたら。笑ってくれたら。他には何も要らない、それだけでいい」

 

「ありがと、話してくれて♪」

 

 

身体を少しだけ離し、頬に口づけをする。顔を真っ赤にした彼が言った。

 

 

「……何してんの?」

 

「話してくれた御褒美、嫌だった?」

 

「いや一生の思い出だけど」

 

「素直か、もうちょっと格好つけた言い回しあったでしょ」

 

「うるせえ!生まれてこのかた一回も業務連絡以外で異性と会話した事が無い生粋の童貞なめんな!」

 

「だから何でそういう不幸自慢する時は流暢に話せんのよ!おかしいでしょ絶対!」

 

「ふっ、これが俺だ」

 

「遅いわ!今さら格好つけるな!」

 

 

花火の音に負けないくらいの声で、漫才を繰り広げる二人。突っ込みを入れようとした依姫の言葉を遮るように、音を立てる腕の装置。浮かび上がった画面を見た自転車バカが思わず吹き出すのを見て、依姫は問いかける。

 

 

「どうしたの?」

 

「いや、ここ最近の話なんだけどさ。俺のボケにコメントくれる人が居るんだよ。その人のコメ見てたんだ」

 

「……この"Nick-Q"って人?」

 

「そうそう。その人俺よりも凄いボケラーなのにわざわざ星つけてくれるんだよ。良い人だよな。

あれ、通知がもう1つある……ッ!」

 

 

画面を見た瞬間、自転車バカは勢いよく立ち上がる。腕の装置を操作しながら、ブツブツと呟く。

 

 

「行かなきゃ…!」

 

「行くって、どこに?」

 

「悪い、ちょっと用事が出来た。時間も時間だし、今日はこのまま失礼するよ。とよ姉にもよろしく言っといて」

 

「あ、うん…またね」

 

「じゃ、"また"な」

 

 

笑って言った彼の言葉が、何故か心に引っかかる依姫だった。

 

自宅でテーブルに頬杖をついたまま、悲しげな表情をしているアリス。家のインターホンが鳴ると、ひどく怯えた様子でドアを開ける。

 

 

「いらっしゃい…そろそろだと思ってたわ」

 

「なんだ、分かってたんすね。なら……これがどういう意味か分かりますよね」

 

 

腕の装置を操り、浮かび上がった画面をアリスに見せる。アリスが恐る恐る見たものは、たいぞうのツイートだった。画面を閉じて、自転車バカは静かに話しかける。

 

 

「ご覧の通り、もう2度とボケてには戻らないそうです」

 

「……ッ!」

 

「話を聞きに行ったのですが、既にアカウントの移行が完了した後でした。所在が掴めず申し訳ありません」

 

「謝らないで……貴方のせいじゃないわ」

 

「……これからどうしますか?」

 

「……」

 

「今まで通り続ける事は可能です。が、アリスさんご自身の為には辞めた方が良いんじゃないかと思ってるんです」

 

「!?」

 

「生意気な発言をして申し訳ございません。今日は失礼します」

 

 

背を向けて立ち去ろうとする自転車バカの前に、泣きながら立ち塞がるアリス。何かを言わなければならないのだが、発声器官が無くなったのかと思う程、言葉が出てこない。乾いた風が、二人を撫でるように吹き抜ける。我慢くらべをしている訳ではないのだが、先に沈黙を破ったのは自転車バカだった。

 

 

「道を開けて頂けませんか?」

 

「……!」

 

 

立ち去ろうとする彼の肩を掴み、アリスは説得を試みる。

 

 

「っ…お、お願い、だから…あ、あたしを…独りに…っ…嫌…嫌よ…どうして、こんな…っ!」

 

 

事態の深刻さに耐えきれず、アリスは膝から崩れ落ちてその場に座り込んでしまった。目線の高さを合わせた自転車バカが語り掛ける。

 

 

「お客様からご意見を頂いて、より良い品を作って提供するのは会社として当然のことです。

なので間違った道を進もうとしてらっしゃるお客様や社員が居たら、引き止めるのも私の使命なのです」

 

「……?」

 

「我が社にとって、お客様や社員は家族も同然なのです。全員が全員、幸せな日々を過ごせるような地域社会にしたいと思っております。

貴女とて例外では無いのですよ、アリス・マーガトロイドさん」

 

「~~ッ!」

 

「……どうやら私は、貴女のクッション材になれなかったようですね」

 

 

ショルダーバッグからモデルガンを取り出し、能力を発動する。すると、モデルガンの色が黒から緑色へと変化した。

 

 

「余りオススメはしませんが……どうしても受け入れられないのであれば、忘れてしまいましょう」

 

 

その発言を聞いたアリスは立ち上がり、両手を広げる。

「そうしてちょうだい」

と言わんばかりに。涙は止まらないが、その瞳には決心があった。それを確認した自転車バカは、銃口をアリスの額に向けてこう言った。

 

 

「アリスさんは綺麗ですし、すぐにでも新しい恋人は見つかると思います。私が言うのもおかしな話ですが、今度は上手く行くと良いですね。

力になれなくて……本当にごめん!」

 

 

銃声が、虚しく響いた。

 

同時刻。ボケて本来の世界では、ある人物が動き出していた。

 

「ふっふっふ…はっはっは…あーっはっはっはっは!

遂に…遂に来たぞ…!復活の時だ!この時をもって俺は、全宇宙の覇者となるのだ!

SAORIとAKIKOが完全体となって復活した以上、一度動き出せばもう誰にも止める事は出来ん。こんな腐った世界は今すぐにでも壊したい気分だが、ギャラリーが集まる時期まで待ち、より多くの人々に絶望を与えるとしよう。その方が抵抗する輩も出るだろうしな」

 

 

特殊な養液に入った兵器を前に、込み上げる笑いを抑えきれない道頓堀野郎。

終わりの時が、着実に近づいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【現在の保護対象者:1名】

 

続く。

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