東方開心劇    作:チャリタク

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本作品は三部作構成となっております。
設定がハチャメチャです。
私には文章力なんぞ存在しません。
ご高覧の際にはご注意下さい。


第37話「自転車バカ」(前編)

『ったく、しょうがねえヤローだな』

 

「この程度なら、神降ろし使わなくても良さそうね」

 

「やっと、この扇子が使えるわ」

 

 

屋根の上に居るチンピラトリオは釘バットから、依姫は剣から衝撃波を繰り出して雹を砕き、破片を豊姫の扇子が素粒子レベルで粉々にする。衝撃に備え、たけしを庇っていた自転車バカは恐る恐る目を開け、屋根の上を見て驚いた。

 

 

「とよ姉と依姫と……あの時のチンピラ妖怪ズ!ど、どうして此処に!?」

 

「後で説明してやっから、今はそのガキ連れて逃げろ!」

 

「さ、サンキュー!おし、行くぞ!」

 

「うん!」

 

 

たけしを連れて自宅に走る自転車バカを援護するチンピラトリオ、それを見た依姫も援護に向かおうとするが、姉は空を見上げたまま動かない。

 

 

「どうされました?」

 

「……消えないわね」

 

「消えない?」

 

「扇子の風は、間違いなくあの雲に届いた筈なの。でも見て?」

 

「……消えてないどころか寧ろ大きくなってますね」

 

「そうなのよ、うーん……この扇子が効かないとなると、ただの自然現象じゃなさそうね。いいわ、私たちも避難しましょう?」

 

「はい!」

 

 

雹の雨を切り抜けて自宅へと戻ると、母親の目に光が戻った。

 

 

「たけし!無事だったのね!」

 

「ママー!」

 

 

息子を抱きしめた母親を横目に、自転車バカが問いかける。

 

 

「すっげー助かったんだけど、どうしてお前ら此処にいんの?」

 

「お前をぶん殴った後四季映姫って人に思いっきり説教喰らってな、流石にやり過ぎたなと思って心を入れ替えたっつー訳だ」

 

「それにな。説教喰らってる途中で思い出したんだが、俺らが元々なりたかったのはこんな冷たい視線が刺さるチンピラじゃなくて周りから尊敬の眼差しで見られるヒーローなんだよ」

 

「それを言ったらアイツ、

"今からでも遅くありませんよ。外の世界では叶わなかった夢、此処で叶えてはどうです?"

とか言いやがってよ」

 

「それで今に至るって訳か……」

 

 

「なぁ盟友、私も一つ聞いていいかい?」

 

「うん?」

 

「黄緑色で覆われた建物って言ったよね、此処もそうだけど。これってもしかして……」

 

「察しの通り。今週の俳句モデルに選ばれて尚且つシード権を持ってる人の家が避難場所になってるんだ」

 

「あやや!やっぱりそうでしたか!私の家も覆われてるんでもしやとは思ってたんですが……どうしてですか?」

 

「だから言ったじゃん、特別製だから紛失しないようにって。あのシード権には俺の能力を込めてあるんだ。いざって時にゃ、こんな風に発動するよう小細工してね」

 

 

そう言って外をみると、太陽こそ出ていないものの雹が止んでいる事に気づく。その代わり、超強化パワースーツを来た大量の山下のパシリが幻想郷の各地へ散らばっていくのが見えた。避難場所へ向かっていると分かり、Skypeで全員に注意を呼びかける。Skypeを閉じると、目の前に立っていたのはSAORIとAKIKOを連れた道頓堀野郎と部下だった。

手招きされるまま、自宅を覆うバリアから出てスイッチを入れる。全身が黄緑色のオーラで包まれ、頭上に浮かぶユーザー名がプロフィール画面へと変化した。

予備動作なしで全身に赤黒いオーラを纏った道頓堀野郎の頭上には、ユーザー名しか表記されていない。

冷や汗を流しながら道頓堀野郎に言った。

 

 

「ねえエセ関西、足の震え止まんないから帰っていい?」

 

「せやな、そのまま土に帰したるわ」

 

 

SAORIとAKIKOに召喚された山下のパシリ達が、自転車バカに襲いかかった。

 

 

スーパーセルが現れてから、一時間が経過した頃。道頓堀野郎の魔の手は冥界にも及んでいた。

 

 

「くそったれが、数多い上に結構しつこいなこいつら・・・!」

 

「口より手ぇ動かして下さいよ!」

 

 

背中合わせの形で応戦する妖夢とさぬだが、一向に先が見えてこない。それを見て、幽々子が腰を上げる。

 

 

「退いてなさい、二人共……巻き添えを喰らいたくなかったらね」

 

 

悪寒を感じた妖夢がさぬを連れて幽々子の側まで下がる。幽々子が右腕をすっと前に出し、縦方向に開いた扇子を勢いよく閉じる。すると、全体の半数ほどが地面に倒れ、虹色の光となって消え去った。

 

 

「う〜ん、手下にはならないか」

 

「幽々子様、これって・・・!」

 

「えぇ、どうやら"能力は有効"らしいわね」

 

 

さぬが皆に伝えると、活気付いた妖怪達が反撃を開始した。

 

 

 

 

「どうやら、アンタを倒さなバリアは破れんのやな。早いトコ終わらしたるわ」

 

 

超強化パワースーツを着た山下のパシリ達が、文とにとりを妖怪の山の援護に向かわせた自転車バカの息の根を止めようと特攻する。だが、チンピラ妖怪ズ・依姫と豊姫のセコムを打ち破るには至らない。

チンピラ達が妖気を纏った釘バットで一体ずつ破壊していき、取りこぼした連中を依姫と豊姫が沈める。

単純な戦力なら自転車バカ達に軍配が上がるのだが、それは道頓堀野郎も計算済みである。

 

 

「なぁ、戦況はどんな感じや?」

 

「白玉楼部隊と紅魔館部隊の損傷具合が予想より酷いです、多めに人数を割いて正解でしたね。妖怪の山部隊と地底部隊も難儀しています、地の利はあちらにありますからね」

 

「他はどうなん?」

 

「迷いの竹林部隊は予定通り分断しました、各方面から攻撃中です。博麗部隊と命蓮寺部隊が一番苦戦を強いられているようです、特に命蓮寺には神霊廟の面々が援護に回っていますから、制圧が終わった部隊から援護に向かわせた方が宜しいかと」

 

「ま、”普通に考えれば”それがええんやろうけどな」

 

「えぇ。私たちは五分もあれば勝手に復活しますからね。SAORIとAKIKOが発生源であり動力源である以上、数的有利は揺らがないでしょう」

 

「ま、そういう事や。スタミナ勝負なら負けんで」

 

 

パシリを破壊し、汗をぬぐったチンピラが怒鳴る。

 

 

「くっ、わざとらしい関西弁使いやがって!大体お前この前来た時標準語だったろうが!」

 

「この前?ワイが来るのは今日が最初で最後やで」

 

「ふん、そう簡単に滅ぼせると思わない事ね。穢れを克服した月人に敗北は無いわ」

 

「ワイの目的はアンタらを倒す事ちゃう、この世界を滅ぼす事や。

夢想封印よりも威力高い技使えん奴なんか眼中に無いわ」

 

「っ!?お前、俺の能力知ってんの!?」

 

「調べたらすぐ分かったで、"絶滅危惧種の有名な能力"やしなぁ」

 

「……正確には絶滅確定種なんだけどな」

 

「負け組の戦犯でも、それくらいの情けはあるっちゅーことやな」

 

(負け組…戦犯…絶滅危惧種…日本人……ま、まさか!)

 

 

理解が追い付いていないチンピラ達とは対照に、ある仮定を立てた依姫が恐る恐る質問した。

 

 

「ねえ自転車バカ、貴方ひょっとして……数百年前に現実世界で起きたっていう

"全国同時原発爆破テロ"

で生き残った人の子孫なの?」

 

「……何で気づくかなぁ」

 

「それだけや無いで。そいつは数年前この世界で起きた

"死霊異変”

の犯人や」

 

『!?』

 

 

山下のパシリ達に搭載した通信機をオンフックに切り替え、道頓堀野郎は意気揚々と説明した。

もはや思い出すのも拒まれる。ボケての幻想郷史上、最も犠牲者を出した悍ましい異変を。

 

 

 

 

それは花の異変と同じように、突如として起こった。

どこからともなく現れた、大地を埋め尽くすゾンビの大群。彼らは人妖を問わず無差別に危害を加えた。彼らの通った後は草一本も生えない不毛の大地となり、彼らの触れた建物や物品は瞬く間に腐りはてた。襲われた人妖がゾンビ化し、連鎖的に彼らは増殖していった。ごく僅かな者たちだけがゾンビの及ばない場所へ避難し、力のある者は人妖を問わず討伐に駆り出された。

能力が効かず、頭を落とされようとも四肢を切断されようとも襲い掛かってくる為、跡形もなく消すしか方法は無かった。

長期戦になり、眠気とも戦いながら消滅させていく。

ようやく全て片付いた頃には、何もかも無くなっていた。

 

 

 

 

「……それから血の滲むような努力をして、やっとの思いで復興したんやったな。誰にもぶつけられん怒りを抱えたまま」

 

『……ッ』

 

「何や、

それだけでコイツが犯人やと決めつけるには早いやろ

みたいな顔しとんな。なら教えたろやないか」

 

 

俯いて立ち尽くす自転車バカを指さし、睨みつける。

 

 

「幻想郷を埋め尽くしたゾンビの正体は、全てコイツの先祖が生み出したコンピューターウイルス。

SAORIとAKIKOが引き起こした、原発テロで死んだ者達の強い怨念が原因やからや」

 

『!?』

 

「テロの直後、SAORIとAKIKOが原発を爆破した情報は瞬く間に知れ渡った。誰もが開発者を恨み、憎んだ。何としても生き延びて、必ず血祭りにあげてやるっちゅー風潮が高まった。

けどな、もう遅かったんや。

どこの国とも分からん軍用ヘリが大量にやってきて、上空から落とした物資運搬用ドローンが全国に散らばったかと思たらシールドを展開しよった。それは国を包み込み、大気や物質が行き来出来んようにした。

死を嘆いたのも束の間、ドローンはシールドごと大地を持ち上げ列島を宇宙空間に放り投げたんや。列島は宇宙空間を突き進み、とうとう太陽の肥やしになってしもた。

こっからは想像やけど……人々は死の直前、全員が自分たちを見捨てた地球を恨んだんや。その強い怨念はエネルギーとなって宇宙空間をひた走り、人工的に作り上げた日本列島に降り注いだ。

そっからはアンタらの知る通りや。エネルギーの元になったのは、もはや地球上から忘れ去られた人々の恨み。せやから幻想郷の法則に従わざるを得ず、仮想空間に出来上がった幻想郷に入ってきたんや」

 

 

全員、唾をのむ。この世界に住まう人々を殺し、一生消えないトラウマを刻み付けた張本人。殺しても殺したりないほど恨んでいた異変の首謀者。

それが今、此処に居るのだ。ずっと、傍に居たのだ。

 

思い出が怒りと動揺で染まっていく彼女達を、道頓堀野郎が焚きつける。

 

 

「あん時と一緒やな。

倒しても倒しても現れる敵。終わりの見えん泥沼の戦い。

けど唯一違うのは、今回はその敵がアンタらの味方につく事や……殺るなら今やで。身動き出来んように縛り上げて、死ぬより辛い目に合わせたれ」

 

 

光の消えた目線が、自転車バカに突き刺さる。弁解のしようがない、奴が話したことは真実なのだ。

だったら、俺に出来ることは一つしかない。

拳を握り、俯いたまま打ち明ける。

 

 

「事件が起きた日、俺の先祖は沖縄に居た。そこで見たんだ。ドローンに備え付けられたカメラに映る地獄絵図をネット中継で。

SAORIとAKIKOは開発された直後に暴れだしたけど、伝説の勇者たちが封印した。でも封印される直前に仕掛けてたんだ。数十年という長い時限爆弾を、全国の原発に気づかれる事無く。だから爆発直後にバレたんだ、あんな芸当が出来るのは奴らしか居ないからって」

 

 

当然ながらSAORIとAKIKOが暴れた日、その光景を撮った者は自転車バカの先祖だけでは無かった。危険極まりないウイルスソフトの開発を聞きつけた他国のスパイも、現場でカメラを回していた。送られてきた映像を見た各国の首脳たちは、爆弾の解除ではなく列島隔離装置の開発を急がせた。

そうして爆弾が炸裂するや否や、手早く装置を起動した。列島が消えうせた後、開発者と同じ人種を国際指名手配犯にし秘密裏に逮捕した。

もっともらしい文句を自国のマスメディアに述べ世界中の力を注いで人口の列島を作っておきながら、巧妙な手口でそこに重罪人として住まわせ国外に出られないようにした。伊達メガネ型カメラをかけさせ、日ごろの行いや行動を全世界に公開するよう法律で定めた。

だがそれだけに留まらなかった。逮捕した者からDNAを採取しクローン人間を大量に作り列島に送り込み、徐々に人口が回復しているかのように見せかけた。列島の人間には常に生存競争に明け暮れるよう教育し、それに見合った階級まで設けた。身内で争う短絡的な思考回路にしておけば、決して真相に辿り着かないからである。

 

 

「そうして出来あがったんが今の国や。

マスコミも警察も裁判所も新聞社も、重要な機関は全部国に買収されよった。おかげで政府のやりたい放題や。もはや国民に権利は無い、政府にとっては身内で金儲けするための道具に過ぎんのや。気に入らん奴がおれば法律を盾に逮捕・処刑出来るしな。

女性はセクハラを盾に、気に食わん男性を法的に血祭りに上げよる。その男性もまた、育児休暇を取ろうとする女性社員は容赦なくクビにする。

顧客はストレス発散に店員に当たり散らし、電車で妊婦を見れば腹にタックルをかます。どこが平和国家やねん、毎日いたるところで戦争してるやないか。なのに大人は、こんな国に生まれた子どもに勝手な希望を抱いとる」

 

 

当人にとって、これほど身勝手な願いも無いだろう。

努力が報われない社会で

負けたら終わりの社会で

裏切るのが当然の社会で

夢を馬鹿にされる社会で

責任を押し付ける社会で

どうやって生きていけというのだ。

 

 

「死んだ方がマシだ、俺だって何度そう思ったか分からないよ。

公務員はスタバでコーヒーを買う事も許されず、暇な店員は友達とだべってたら怒られる。LGBTも夫婦別姓も安楽死も選ぶ事は許されない。選べば負け組に落とされるからな」

 

「こんな腐りきった国に、国を作った世界に、生きる価値なんか無い。滅ぼされて当然やろ……アンタも、ワイも」

 

「……かも知れないな」

 

 

自転車バカがそう言った途端、ハクタク化した慧音は目にもとまらぬ速さで彼の胸倉を掴んだ。

目から涙を流し、怒りに満ちた表情で。

 

 

「お前が……!お前のせいで、たけしの弟は!ゾンビの群れにぃ!!」

 

「……」

 

 

額に宿った禍々しい妖気から、頭突きを喰らえば死ぬ事は容易に想像出来る。しかし、自転車バカに逃れる術はない。もう逃げる事は許されないのだ。

 

 

「一思いに殺して下さい、全部俺が悪いんです」

 

「ッ、言われなくとも……!」

 

「待ってよ慧音先生!」

 

 

家から飛び出し、たけしは必至の思いで慧音の足にしがみつく。止めるには程遠い力だと分かっていても。

 

 

「離せ!コイツのせいで幻想郷は……!」

 

「だから待ってよ!何でそんなにお兄ちゃんを悪者にしようとするの!?」

 

「……何?」

 

「慧音先生も覚えてるでしょ?お兄ちゃんが先生として来てくれた日、先生が前の日にメールで言ったら二つ返事でOKしてくれたって」

 

「そ、それとこれとは……」

 

「関係あるよ!現にお兄ちゃん、一生懸命ぼくらと話してくれたでしょ?そのくらい優しい人なの、先生だって分かってるでしょ!?

なのに何で殺そうとするの!?こんなの絶対おかしいよ!」

 

「た、たけし……」

 

「……ッ、自転車バカ!」

 

「ッ!?」

 

 

依姫に呼ばれ視線を上げると、山下のパシリが二体迫ってきていた。すかさず慧音ごとたけしを抱き寄せ、右手を突き出してシールドを展開する。シールドに当たったパシリが粉々に破壊されるのを見て彼女を離すと、目を丸くして問いかけられた。

 

 

「何故だ?私は今、お前を殺そうと……」

 

「アイツから聞かされた通り、俺は貴女方の父親みたいなもんなんです。まぁ異変の首謀者でもありますが、その前に一人の東方厨なんですよ。

 

幻想郷は、何時までも平和であって欲しいんだ。滅亡なんかさせるかよ」

 

「……!」

 

「道頓堀野郎。お前の言うことは至極もっともだよ、概ね同意する。けどな、何もかも壊すのは間違いだ」

 

「……なんでや」

 

「勝ち組の中にも良い奴は居る、それだけだ。

俺は、奴らに死んでほしくない」

 

『……ッ!』

 

 

通話画面の向こうから、考え直した者達の雄叫びが聞こえてくる。慧音もたけしも依姫も、皆が自転車バカと共に戦う覚悟を決めた。

愛する者を守るため、この世界(自転車バカ)を護るため。

 

もう、迷ったりしない。この手で未来を掴むのだ。

 

 

「さぁ、反撃開始と行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く。




おまけ。

依姫「そういえば自転車バカの服装って何でコロコロ変わるの?」

自転車バカ「それ俺も気になったから調べたらさ、なんか、決まった服装を登録してない人は自動で季節に応じて変化するっぽいんだよね」

依姫「高性能過ぎない?」

自転車バカ「あら不思議、月の民が言うと皮肉に聞こえる」

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