東方開心劇    作:チャリタク

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本作品は三部作構成となっております。
設定がハチャメチャです。
私には文章力なんぞ存在しません。
ご高覧の際にはご注意下さい。


第39話「手に入れた、五人の幸せ」

曇天の空模様だと言うのに、その部屋だけはカーテンが閉まっていた。部屋を豆電球が仄かに照らす中で、数人の男達が何かを話している。一人が机を叩き、怒りを洩らす。

 

 

「くそっ!あいつさえ居なけりゃ、道頓堀様は…!」

 

「落ち着けよ、今日で出所じゃないか。なぁ?」

 

「そうそう、お出迎えに行こうぜ!」

 

「あぁ…そうだな」

 

 

部屋を後にし、男達は車に乗ってボケて総合刑務所へと向かった。

 

そのボケて総合刑務所に、一台のワンボックスが入る。スライドドアが開き、警官に連れられて手錠を掛けられた男は中へと向かった。壁も床も、何もかも真っ白な廊下を歩いた先には所長室があり、警官がノックをすると中から返事が来る。

 

 

「良いぞ、入れ」

 

「失礼します、道頓堀野郎を連れて参りました」

 

「そうか…今日は仮出所の日だったな」

 

「あぁ、やっとくさい飯ともおさらばだぜ」

 

「減らず口は治らんか…まぁ良い、此処を出て何かしたい事はあるのか?」

 

「んなもん、俺の勝手だろ。答える義理はねえよ」

 

「それもそうだな…行け、もう戻って来るなよ」

 

「へっ、誰が」

 

 

手錠を外され、駆け足気味で刑務所を出る。すると、目の前に一台の車が止まっていた。中から数人の男が降りてきて、道頓堀野郎に挨拶をする。

 

 

「久しぶり、道頓堀くん。刑務所ライフは楽しかったかい?」

 

「お前…ボケ批評家か?」

 

「覚えててくれたとは、身に余る光栄だ」

 

「覚えてるも何も…俺にタメ口聞けるのはお前しか居ねえよ」

 

「お勤めご苦労様です、道頓堀様」

 

「おぉ、宗か」

 

「そうです、その節はお役に立てず申し訳ございませんでした」

 

「…雨が降ってきたな、車に乗ってくれ。立ち話もアレだし、我々のアジトに帰ろうじゃないか」

 

「アジトか…懐かしいな」

 

 

大粒の雨が降り出す中、車は霧の中へと消えた。

 

 

冬眠から覚めた鳥達は楽しそうにさえずり、太陽の光に照らされた影も随分と小さくなった。人里の住宅街を吹き抜ける風は、春がすぐそこまで来ている事を知らせてくれる。

紅葉色のジャケットにキャスケット帽をかぶり、ショルダーバッグをかけジャーナリスト然とした出で立ちをした射命丸 文は、全身で季節の変化を感じながら歩いていた。

 

 

(やっぱり、陽が出ると暖かいわね〜。もうコートは必要ないかも)

 

 

程なくして一軒の家に着いたが、門の前には小傘ファンクラブのNo.2とNo.3が立っていた。二人は文の存在に気づき、敷地内へ入るよう促す。軒先きの傘立てに置いてある唐傘を横目にドアを開けると、リビングでは小傘とにとりが第二回弾幕舞踏会のDVDを見ていた。

 

 

「あやや、貴女方だけですか?もうログインしてると思ったのに…」

 

「いや、さっきまでは一緒だったんだ」

 

「出かけたのですか?」

 

「ううん、なんかね、月の姉妹が連れてっちゃった」

 

「という事は……」

 

「あぁ、稽古と称してもて遊んでるんだろうね」

 

「やれやれ、またですか」

 

「週一で必ず連行されてるよね、会長」

 

「彼に剣なんか教えて何がしたいんでしょう?」

 

「さぁ…検討もつかないな」

 

「ただのストレス発散だったりしてー」

 

『ありえる』

 

 

月の都の比較的中央部に位置する稽古場。いつもなら竹刀のぶつかる乾いた音が聞こえてくるのだが、今日はそれに加えて女の高笑いと男の悲鳴が響いている。

中では、完全防備の自転車バカが依姫に"特訓"という名のイジメを受けていた。

 

 

「あははっ!ほらほら〜反応が鈍くなってるよ〜?」

 

「ちょ…まっ…手加減って知ってる!?」

 

「え?何のこ…と!」

 

「どわー!」

 

 

正面からまともに面を喰らい、自転車バカは床に倒れた。勝負アリと判断した依姫は、構えを解いて近くまで歩み寄る。

 

 

「はぁ…はぁ…やべえ吐きそう」

 

「全くもう…クリーニング代は出してもらうからね?」

 

「全力で我慢します」

 

「うん、よろしい♪」

 

「同じ血を分けた妹とは思えないわね……私も稽古中は大概ドSって言われるけど」

 

「ありゃ、とよ姐じゃん。居たんだ」

 

「あのね、家まで行って連行したじゃない。素粒子レベルで分解されたいの?」

 

「すみませんお姉様、その場合私もただでは済まないのでご遠慮願えませんか」

 

「冗談よ♪まぁそれはそれとして……

特訓を始めて一ヶ月は経ってるのに、全く成長が感じられないわね。やる気あるの?」

 

「これでも100%の力を出してますけど何か」

 

「それじゃ駄目よ〜。この子と稽古するんだから最低でも120%は出さなきゃ」

 

「週一で己の限界超えねばならんのか、割とガチで身が持たないっす」

 

「仕方ないなぁ…今日はこのくらいにしといてあげる。ほら、防具取って」

 

「超ありがてえ、よっちゃんマジ天使。愛してる」

 

「ずいぶんと安い愛ね」

 

 

何だかんだと言いながら防具を外し、依姫に見送られながら自宅へと飛んだ。それを見て、イナバ達がひそひそ声で喋り出す。

 

 

「豊姫様は成長が感じられないって仰ってたけど……あの防具って2世紀以上前の物だよね?」

 

「うん、だから私たちが使ってるのよりも相当重い筈なんだけど……」

 

「依姫様、あの人が反応出来るギリギリを狙ってるよね。愛があるというか、性格悪いというか……」

 

 

自転車バカの帰宅に、いち早く気が付いたのは文だった。

 

 

「あ、自転車バカさん。お帰りなさ…うわぁ」

 

「……完全に目が死んでるぞ、大丈夫かい?」

 

「流石に今日はルナティックだったぜぇ……」

 

「台所借りるねー」

 

「借りてるね の間違いでしょうに」

 

 

会話もそこそこに椅子へ向かい、どっかりと座り天井を見ながらため息と一緒に吐き出す。

 

 

「大丈夫大丈夫…ちょっと休憩すれば、動けるようになるから…あーしんど」

 

 

ボロ布よろしく椅子に持たれていると、小傘が飲み物を持ってきた。テーブルに置き、手で滑らせながら近くまで運ぶ。

 

 

「会長、お疲れ様。はいこれスペシャルドリンク!レモンを絞ったのに三温糖と塩を溶かしたの」

 

「ありがとう……あぁ、染みるわぁ〜…!やっぱ疲れた身体にはこれだね!」

 

「普段だと酸っぱ過ぎて飲めたもんじゃないけどね、これ」

 

「でもこういう時にはすっげー効くんだよ、大事なレースでも必ず使ってるしな」

 

「そんな物飲まなきゃいけない程疲れるのか……ご苦労なこって」

 

「あの、前々から気になってたんですけど、何で剣の稽古つけて貰ってるんですか?」

 

「確かに、わちきも気になってた」

 

「そういや、言ってなかったっけ。えーと、どっから話そうか」

 

『出来れば一から』

 

「あー…。特訓の話を持ちかけられたのは弾幕舞踏会の時なんだけど、元々は"ボケて終末異変"が原因らしいんだ」

 

『…何で?』

 

「アレ最終的には追い払ったけど、ギリギリもいい所だっただろ?いろんな意味で。俺に至ってはみんなが居なけりゃ何も出来ないし」

 

「確かに」

 

「あれを思い出した依姫が"貴方自身がもっと強くならないと駄目ね"とか言い出してさ、やった事もない剣道をやってるのが今ですよ」

 

「断らなかったんだ?」

 

「刃物突きつけるような目で言われて断れる奴が居るなら見てみたいよ」

 

「あぁ…なるほど。それは断れませんね」

 

「そういう事、まぁ行ったついでに仕事も出来たから結果オーライなんだけど」

 

「仕事?」

 

「おうよ、昨日カレンダーの話したらなんやかんやでサグメ様が選ばれたぜ。今からもっかい行かなきゃならないんだ」

 

「やる事はやってるんですね」

 

「"転んでもただでは起きるな"って教えてくれたの文さんじゃん。このくらいはしないと…いくら依姫のお願いでも耐えられるかっつーの」

 

「あはは、やっぱりそれが本音か」

 

 

スペシャルドリンクを飲み干して立ち上がり、空のコップを台所へ持って行きながら腕の装置を操作する。

 

 

「小傘ちゃん、ありがとね。ちょっと楽になったよ」

 

「どういたしまして♪」

 

「おし、じゃあ行ってくるかな。あんまり待たせてもアレだし」

 

「私も同行しましょうか?」

 

「良いよ、文さん月関係の人苦手っしょ?俺がどうにかするから」

 

「…お気遣い痛み入ります」

 

「いえいえ、じゃあそういうことで」

 

 

装置から発せられた画面をタップし、自転車バカは姿を消した。それを見て、小傘が文を冷やかす。

 

 

「…優しいね、会長」

 

「ああいう人の元だから、毎日が楽しいんです。貴女だってそうでしょう?」

 

「もっちろん、すっごく楽しいよ」

 

 

くすくすという笑い声が、家を満たした。

 

その後、自転車バカの撮った写真を元に売り出されたカレンダーは15部の売り上げをマークした。売り上げ金の一部とシード権を持ち綿月邸へと飛ぶと、門の守衛がいち早く気づく。

 

 

「よっこいしょっと…」

 

「何だ、また来たのか。今日は何の用だ?」

 

「そんな物騒な物向けないで下さいよ、俺がこの邸宅でやらかした事ありましたか?」

 

 

それを聞き、自転車バカに槍のような物を向けていた守衛は警戒を解く。

 

 

「お前が健全な地上人なのは百も承知だ。俺だって、本当はこんな事をしたくはない」

 

「ほうほう」

 

「しかし、だ。いくら姫様の知人とは言え、検問をせずに通して何かあっては俺の管理能力が問われるのだ。大人しく従ってくれ」

 

「承知しました」

 

 

守衛が槍に付いているボタンを押すと、赤外線が自転車バカを頭からつま先まで照らす。

 

 

「…よし、危険物の類は持っていないようだな。通って良いぞ」

 

「ありがとうございます…あ、そうだ。サグメ様って今どこにいらっしゃるか知りませんか?」

 

「あのお方なら、今ちょうど此処に来ておられるぞ」

 

「ナイスミラクル…ありがとうございました」

 

 

敷地内へと入り、すぐさま依姫に電話をかける。

 

 

〈…もしもし?どうしたの?〉

 

「もしもし、今大丈夫か?」

 

〈うん、平気だよ〉

 

「なら良かった。あのさ、今サグメ様に用があってお前ん家来てるんだ」

 

〈サグメ様…あぁ、前に言ってた"シード権"の事?〉

 

「そうそう、それそれ」

 

〈サグメ様なら私の部屋だけど……どうする?〉

 

「そこまで行っていいか?わざわざ出てきて頂くのも悪いしさ」

 

〈どうぞどうぞ〉

 

「分かった、じゃあ一旦切るな」

 

 

"通話終了"の文字が出ている画面を操作し、以前登録した"依姫の部屋"をタップする。ドアをノックすると、返事があった。

 

 

「入っていいよー」

 

「失礼します、こちらに稀神 サグメ様がいらっしゃると聞いて伺ったのですが」

 

 

そう言われ、キョトンとしたサグメは自身を指差す。問題無いと判断し、ショルダーバッグからシード権と売り上げ金の一部を取り出して更に続ける。

 

 

「おめでとうございます。この度、サグメ様の写真を元に作成したカレンダーの売り上げが規定を超えたので、第3回弾幕舞踏会のシード権獲得となりました。こちらは売り上げ金の一部とシード権でございます。お納めください」

 

「そう…ありがとう」

 

(…パタパタしてる、羽めっさパタパタしてる)

 

(こう言っちゃダメなんだろうけど、犬が嬉しい時尻尾振るのと原理は一緒なのかな)

 

(分からん…が、羽が生えてる人らって嬉しい時は大概パタパタするんだよなぁ)

 

「ん?何か言ったかしら?」

 

『いえ、何も』

 

「あ、そうだ。舞踏会への参加ですが、絶対という訳では御座いません」

 

「…そうなの?」

 

「はい。出演者の方々には楽しんで頂こうと思っているので、”人前に出るのが恥ずかしい”という方は見るだけでも結構です。如何なさいますか?」

 

「…考えさせて頂戴」

 

「畏まりました、では失礼致します。改めて、おめでとうございました」

 

 

部屋から出てドアを閉めると、自転車バカは自宅へと帰った。

 

 

(…終始羽パタパタしてたな)

 

 

日光が一切入らないよう地下に設置されたアジトに、道頓堀野郎を含めた皆が集まっていた。薄暗い部屋の中で挨拶もそこそこに、部下達が意見を述べる。

 

 

「やはり、あの自転車バカという男は叩きつぶすべきです!」

 

「そうだ!あいつさえ居なければ、今頃世界は我らの物だったのだ!」

 

「ボケてが衰退したのも、世の中がおかしくなったのも、全てはあいつが居たからだ!」

 

「こうして道頓堀様が復活なされた今、今度こそ息の根を止めるべきだ!」

 

 

ヒートアップする部下を見ながら、ボケ批評家は道頓堀野郎に意見を求める。

 

 

「…ご覧の通り、やる気は充分だ。決行はいつにしようか」

 

「うーん…イマイチ気が乗らねえな」

 

「なっ…正気か?奴は我らの悲願を打ち砕いたんだぞ?」

 

「んなこた分かってる。けどな、投獄される前に奴から言われた"友達になってやる"って台詞がどうにも頭から離れなくてよ…」

 

 

それを聞いた部下達は

『しっかりして下さい!あんな奴の言うことなんかデタラメです!』

という意味の説得をするも、当の本人は唸るのみ。始めは黙って見ていたボケ批評家だったが、我慢の限界が近づくと机の引き出しからスプレー缶を取り出して道頓堀野郎に吹き付けた。

 

 

「…目を覚ませ、道頓堀野郎。お前には、自転車バカを消し去る使命がある」

 

 

2〜3秒程吹き付けると、道頓堀野郎は気を失いがっくりとうな垂れた。スプレー缶を引き出しに戻しながら、状況が飲み込めていない部下達に説明を試みる。

 

 

「ざっくり言おう。これはな、マインドコントロール作用のある薬品が入っているんだ」

 

「マインドコントロール…?」

 

「そうだ。これを浴びせて今のように命令をすれば、その人物の性格は邪悪そのものになる…もっとも彼の場合は、元に戻ると言ったほうが良いかも知れないがな」

 

 

皆が見つめる中、頭を上げた道頓堀野郎の視線には殺気が宿っていた。

 

 

「…野郎ども、何としても自転車バカを叩き潰すぞ」

 

『はい!』

 

「今から作戦を話す、よく聞け。いいか、まずは……」

 

 

数日後、自転車バカは住宅街を歩いていた。両手に持った袋を揺らし、その重さを改めて実感する。

昔はビニール袋を用意せずとも片手で足りる程しか無かった量が、今ではこれだ。

 

 

(随分と、認知されてきたってことか……。この一軒家だってそうだ。文さん達が手伝うって申し出なきゃ、今でもアパートだったよなぁ。金も足りないから割り勘だったし)

 

 

門番をしている小傘ファンクラブ会員に会釈をし、玄関へと着く。ドアを開けると、リビングから楽しそうな声が聞こえてきた。どうやら、全員揃い踏みのようだ。

 

 

「ういっす、応募の写真持って帰ったぞー」

 

『あ、お帰りなさーい』

 

「おう、ただいま」

 

 

テーブルに袋を置き、中身が床へ落ちない程度にぶち撒ける。茶封筒の多さに目を輝かせる三人だが、文は自転車バカが選定に入らないのを見て疑問を抱く。

 

 

「……どうかしましたか?」

 

「いや、結構な大所帯になったなぁと思ってさ。ほら、昔は独りだったし」

 

 

小傘とにとりも顔を上げ、それぞれを見回す。

 

 

「確かに……いつだったか、わちきが来た時は独りだったもんね」

 

「いやいや、私がこき使うようになってからはちょくちょく来てたじゃないですか。うん、ちょくちょくですが」

 

「君のことだ、面倒くさがって行かなかっただけだろう?」

 

「仰るとおり!」

 

「努力しろよ」

 

「ですから、こうやって下請けとして来てるじゃないですか」

 

「あはは!そうそう、文さん下請けになったんだよねー」

 

「正確には、”文々。新聞社”が”有限会社チャリンコタクシー”の下請けになったんだけどね。にしても驚いたよ、まさか君が自転車バカの部下になるなんて」

 

「確か……他の天狗さんが猛反対したんだっけ?」

 

「えぇ、それはもう物凄い勢いで止められましたよ。

”たかが人間風情の僕になるとは何事だ!お前に天狗としての誇りは無いのか!”

ってな具合に」

 

「うーわ、そこまで言ったんだ」

 

「まぁ……向こうからすれば、それが普通の反応だろ。で、文さんは何と?」

 

「もう完全に切れちゃいましてね、

”ボケて終末異変の時、その人間風情にあっけなく打ちのめされたのは誰でしたか?あなた方が持ってるのは、誇りじゃなくて驕りの間違いでしょう?”

ってな事を言ったら見事に黙りましたよ」

 

「あら格好いい」

 

「へ~……そんなエピソードがあったんだ。わちきよりよっぽど感動的だね」

 

「小傘ちゃんは、俺の手伝いがしたいからだったよね」

 

「うん!鍛冶仕事の方はファンクラブの人がやってくれるって言うし、暇を持てあますくらいならここに居たほうが楽しいもん」

 

「私も同じようなもんかな……盟友に君の仕事を手伝うよう頼まれたから」

 

「社長兼営業マンの肩書きが取れて嬉しいよ……おし、今週の俳句モデルはこの人だ!」

 

「あ、ずるーい!わちきが決めようと思ってたのに-」

 

「おぉ、影狼さんですか」

 

「えーと?撮影者はわかさぎ姫か……あの人ってどこ住んでんの?」

 

「霧の湖です。影狼さんがどこに居るかは私もよく知らないので、もし選ばれた時はついでに聞いちゃいましょうか」

 

『それで良いのかジャーナリスト』

 

「てへぺり♪」

 

 

翌日、販売所には列が出来ていた。今まで体感したことの無い忙しさに思わず

「店番は一人で大丈夫」

と言った昨日の自分を殴りたくなるも、顧客は次から次へとやってくる。気が遠くなる程に列を成しているが、代金を支払う際の

「音の響きが素晴らしいな」

といった顧客同士の会話を聞くと、身体に気力が湧き出てくるのだ。途中、予め用意しておいた部数が売り切れた為にその場で印刷をするハプニングもあったが、どうにか捌き切れた。崩れ落ちるようにしてキャスター付きの椅子に座り、そのままグルグルと回る。

 

 

(売れた…すっげえ売れた…!)

 

 

椅子から飛び上がり、売上金を持って自宅へと走った。靴を脱ぎ散らかし、文たちがくつろいでいるリビングへ迷わず直行する。

 

 

「聞いて驚け、見て笑え!本日の売上高は143部だ!」

 

『…嘘ォ!?』

 

「誰がこんな嘘吐くかっての!これが証拠だ!」

 

 

テーブルに置いたアタッシュケースは、聞いたことのない鈍い音を立てる。鞄を開いて中から売り上げ管理表のコピーを見せると、三人が自転車バカの顔を黙って見上げた。

 

 

「もうね、お客様の数が半端なかったよ!どうせいつもみたいに常連さんしか来ないだろって思い込みが見事に外れてさ!いやまぁ、それはそれで大変有り難いんだけども!」

 

「…す」

 

「ん?何か言ったか?」

 

「凄いじゃない会長-!」

 

「やりましたね自転車バカさん!」

 

「三桁は史上初の快挙じゃないか!?」

 

「だろ!凄いだろ!おし、この事を早速わかさぎ姫に知らせに行ってくる!小傘ちゃんは何か連絡があるといけないから留守番!にとりさんは帳簿につけといて!文さんは販売所に行って商品の並び替えを!」

 

『ラジャー!』

 

 

紅魔館へ飛び、そこから霧の湖へと来た自転車バカ。案内をしたチルノの呼びかけに応じて出てきたわかさぎ姫に事情を話すと、どこからかスマホを取り出して連絡をつける。五分ほど待っていると、影狼が文字通り飛んでやってきた。事のいきさつを説明し、アタッシュケースを開く。

 

 

「という訳で、まずはこちらが売上金の一部です。お納め下さい」

 

「えっ、こんなに貰っていいの?」

 

「良いの良いの!アタイが選ばれた時だって貰ったんだし、受け取りなよ!ここまで多くなかったけど」

 

「申し訳ありません、売り上げ高によってお渡しする額は変動するのです。その点をご理解頂けると幸いです」

 

「わ、分かってるって。アタイもそこまで⑨じゃないよ」

 

『本当かなぁ……』

 

「ちょっ、二人してそんな目で見ないでよ!台詞までハモんないで!」

 

(流石は草の根ネットワーク)

 

「それと、売り上げが過去最高となりましたので”ミス俳句モデル”のトロフィーをお渡ししておきます。一応まだ暫定ですのでレプリカですが」

 

「わ、綺麗-!どうもありがとう!」

 

「これで少しは知名度が上がるといいね、影狼さん?」

 

「うん!」

 

「そしてこれが、弾幕舞踏会のシード権で御座います」

 

「って事はダンスの練習しとかなきゃだね……姫、手伝ってくれない?」

 

「もっちろん!」

 

「出場されるされないに関わらず、もしこのまま変動がなければ当日にトロフィーの授与式がありますので。それだけは必ず」

 

「はいはーい」

 

「それでは、失礼致します。重ね重ね、おめでとうございます」

 

「こちらこそー!」

 

 

深々とお辞儀をして、来た道を辿る。紅魔館へ行き美鈴に訳を話すとあっさり通してくれた。妖精メイドの指示でダイニングルームへ向かうと、全員が集まっていた。

 

 

「お、連絡が回ってたんですね」

 

「こんな所に集めて、一体何の用なの?」

 

「落ち着いて下さい、レミリア様。本日は皆様にお渡ししたい物があるので立ち寄らせて頂いたのです、第3回弾幕舞踏会の会長として」

 

『…?』

 

「お忘れですか?大会でトップ10に入った方々は、自動的にシード権を獲得になるのです。昔でいう”箱根駅伝”のような物です」

 

「なるほどね……前に文献で読んだ事あったわ」

 

「そんな本まであるのね、流石パチェ」

 

「なので、シード権を持って参ったのですが……皆様元気ないですね」

 

「仕方ないわよ、最近たまたいやら社畜のログイン率が低いんだもの。パチェのガーリックだってそうだわ」

 

 

事態を少しだけ把握した自転車バカが、口を挟む。

 

 

「……ときどき来るんですよね、低浮上期」

 

「えぇ、現実世界で元気にやってると思うようにしてるんだけれど……どうにもね」

 

「そうでしたか……姿が見えませんが、ではフラン様も?」

 

「きいろだまはね、少し勝手が違うみたい。詳しくは教えてくれないから分からないけれど」

 

「そうなのですか?」

 

「かなり落ち込んでるわ。姉の私ですら、話を聞いてくれないの」

 

「それは……重傷ですね」

 

「ねぇ、良かったらあの子の話相手になって貰えないかしら?」

 

「俺がですか?」

 

「だって、ボケラーのことはボケラーに聞くのが一番じゃない」

 

「それもそうですね……承知しました。やってみます」

 

「悪いわね、恩に着るわ」

 

 

 

 

壁にセグウェイを立てかけて部屋をノックするが、返事はない。ドアノブを回すと、鍵は掛かっていなかった。中を覗きながら、静かに開ける。

 

 

「……お姉様にしては、やけに丁寧だと思ったら」

 

「すいませんね、そのお姉様から頼まれて来たもんで……。

きいろだまさん、こっちに来てないんだって?」

 

 

黙って頷くフランは、他の誰よりも悲しそうな目をしていた。指図されるままそばに座り、腕の装置で確認をすると、ログインだけはしている事が判明したので画面を見せながら尋ねる。すると、静かに語り始めた。

 

 

「貴方が帰ってくるほんの三日くらい前にね、コメットが引退したの。きいろだまの投稿したボケが、半数以上私だったのは知ってるでしょ?

そう、それ。今になって気づいたんだけどさ、あいつ、コメットが出した私の写真でしかボケてなかったの。変な奴としか言いようがないんだけどさ、一緒に過ごしてて楽しかったのは本当だよ。でもさ…引退したら急にあいつ

”俺はボケラーとして半人前だし、この機会に独立する!”

とか言い出してさ、話も聞かずに出てっちゃった」

 

「そっか……」

 

「ねぇ、あいつは私のこと嫌いになったのかな。だからあんな風に……」

 

「いや、違うと思うけど」

 

「うん、知ってる。私の勘違いだってことぐらい。だったら、あいつはどうして居なくなったの?」

 

「……」

 

「私…これからどうすれば良いんだろう…」

 

「フランちゃんは、ボケの投稿ってどうやるか知ってる?」

 

「……知らない」

 

「あれって不思議なもんでさ。そのユーザーがその派生世界で過ごした日々を、この装置が勝手に記録して投稿しちゃうんだよ。投稿されたボケは、全ユーザーに見られるんだ。勿論、誰がどのくらい星を付けてるかも分かる。

でも一般的な傾向として、アニメ好きは大体忌み嫌われるんだ」

 

「……っ!」

 

「どうしようもない事実なんだ。こんだけ科学が発展して、人類がウェブサイトの世界に入り込めるようになっても……アニメ好きへの偏見ってのは消えないんだ。東方好きは特にね」

 

「そっか……」

 

「あの人はそれを知ってるからこそ、姿を消したんじゃないかな。大好きなフランちゃんに、迷惑を掛けない為にさ」

 

「……!」

 

「きっと帰ってくるよ、全部終わったら……だから、それまで待ってようぜ」

 

「……そうだよね、帰ってくるよね。あのロリコンが、他の子に乗り換えるなんて想像出来ないもん」

 

「そうそう、その調子」

 

「ありがとね、ちょっと元気でたよ」

 

「そりゃ良かった。じゃあ、俺はこれで」

 

 

立ち上がってドアを開けると、後ろから声をかけられる。

 

 

「ねぇ……今度、貴方の家に遊びに行っても良い?」

 

 

右手の人差し指と親指で円を描き、そのまま部屋を後にした。

 

 

「……よし、この辺りで良いだろう。その箱を置いてスイッチを押せ」

 

「道頓堀様、本当にこんな所で大丈夫ですか?」

 

「構うものか、術がかかれば気づかれる事などあり得ん」

 

「それもそうですね」

 

 

静かに唸り出した機械を見つめ、正常に動作している事を確認した道頓堀野郎と宋は、ボケての幻想郷からログアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く。

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