Fate/Nilotpalagita Synopsis 作:時雨
今回は少し長めです。
さて、腹も満たされたことだし、今後の事を考えなければいけない。今日は彼のおかげで食べ物に困ることはなかったが、明日以降は自力でどうにかしなければならないのだ。
いつまでもここにいるわけにはいかないし。かといって、あてがあるのかといわれると、無いとしか答えられない。それに、すごい今更だが親切にしてもらったとはいえ彼は赤の他人だ。介抱をしてやったのだから、なにかお礼をしろと言われるかもしれない。……今までの様子を見る限りそれはありえないと思うが。
私の近くに胡座をかいて座っている彼をチラリと見る。どこからか取り出してきたすり鉢のような容器に草を入れて、棒でそれをゴリゴリと磨り潰している。
「なにをしているんですか」
「これか?薬草を磨り潰して、薬を作っているんだ」
ほれ、と言って私にすり鉢を渡してくる。覗いてみると、すり鉢の中は緑色のペースト状になった薬草があった。つんとした草独特の臭いが鼻をくすぐる。
「何の薬ですか?」
気になって、彼にそう質問をした。粉末ではないから飲んで使用する物ではないだろう。
「傷薬だな。色はこんなんだが、効き目は十分にある」
「なるほど……」
私の質問に答えると、彼は薬を作る作業に戻る。しげしげと興味深げに彼の作業を見ていると、彼はふと思い出したかのように顔を上げた。
「今更聞くのもなんだがお前、行くあてはあるのか」
「ないですね」
「即答か。……じゃあ、これからどうするんだ」
どうするんだって言われてもねぇ。頑張れば、なんとかなりると思う。でも、冬になったら食べ物も少なくなるだろうし、少し厳しいかもしれない。
……うん、どうしよう。
「どうしましょうね」
「考えてなかったのか」
「考えてなかったです」
そんなんで大丈夫か、と呆れたような顔で言われる。それに大丈夫じゃないです、と返す。何故か溜め息をつかれた。すみませんね、何も考えてなくて。
すると、彼は顎に手を当てて、なにかを考えはじめた。多分、私のことについて思案しているのだろう。
(別に、どうなったって構いはしないけれど)
彼が結論を出すまで、私はただじっと、目を瞑って待っていることにした。
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『貴女は、優しい子なのね』
私の目の前に立っている蓮の瞳を持つ
『私は、優しくなんてないです。愚かで、残酷。そんな人間です』
醜くて、汚い。そして、どこか歪んでいる。本当の自分が判らなく、自分が真実を言っているのか、はたまた嘘を言っているのかも解らない。そんな人間がなんで
『いいえ、貴女は聡明で、酷く優しい。まるで青蓮のように美しい人間よ。』
だったような気がする。私には到底、当てはまらない言葉だ。
するりと、彼女は私の頬を撫でる。その手つきはまるで、繊細なガラス細工を壊さないように触れているかのようだった。
『
──貴女が、幸運になれるように。
そう言って、蓮の衣を纏った彼女は私に祝福を与えた。天からは美しい花が雨のように降ってくる。
『……シュリー様、何で私に加護を与えたのですか』
気まぐれな彼女が、
そう思っていると、彼女──幸運を司る女神・ラクシュミーはただ静かに微笑んで、こう言った。
『貴女のことを、気に入っているからよ。それに、貴女は自分の幸せを執拗に求めていないでしょう?』
──だから、
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「おい、起きろ。なに人が真面目に考えているときに、当事者であるお前が寝ているんだ」
彼は私の肩を叩いて、そう文句を言う。どうやら、目を瞑って待っているうちに寝てしまったらしい。すみません、と素直に謝って彼の方を見る。
「考えてみたんだが、あまりいい案が思い付かなかった」
「……そう、ですか」
顔をうつむかせる。やっぱり、私はあの森で暮らさなければならないのだろうか。
「だが、」
マイナス思考に走りかけていたそのとき、男の力強い声が私の耳に入った。
「一度、面倒を見た奴を見捨てるほど俺は薄情者ではない。かといって、このままこの場所にいるのは、お前の気が引けるだろう」
「じゃあ、どうするんですか?」
彼はニヤリ、と不敵に笑う。まるで、獰猛な虎が獲物を目の前にした。そんな笑顔だった。
「俺の、弟子になるつもりはないか」
「……弟子?」
私は首を傾げる。弟子って、よく少年漫画とかで見るやつだよね?……私、運動神経あまりよくないよ。ボールを避けたり、隠れたりするのは得意だけれど。
「そうだ。俺はしがないバラモン僧だが、たまに弟子になりたいと言って、武術の教えを乞う奴等もいる。今まで、そういう奴等にしか教えていなかったが、そろそろ自分で弟子をとってみようと思っていてな」
なるほど、つまり『ちょうど弟子をとろうと思っていたからお前がなってみない?』ということだろう。というかこの人、
私はこの内の
幸い、元
「なんだ。そんなことか、別にお前が
「気にしないんですか。確かに、あなたの言うとおり私は神の加護を持っていますが。……いつから気づいてたんですか」
「森で会った時からだ。まあ、お前とは違うが、似たような奴と会ったことがあるからな。気配が独特だからすぐ分かる」
へぇ、と彼の言葉を聞いて感心する。私以外にも似たような人がいるんだ。さすが古代インド。ファンタジーに満ち溢れている。一度、その人と会ってみたいな。
「で、どうする。俺に弟子入りするか?」
再度そう聞かれる。元々、武術には興味はあったができるかといわれると、そうでもない。よく、学校の授業で剣道をやるとき、竹刀を持って素振りをしていると周りが「それで人を殴り殺さないでね⁉」等と騒いだり、空手部に体験入部をしたときは「なんか、様になっていて怖い」とか言われていた。私をなんだと思っているのか……。
閑話休題
とりあえず、彼がいいなら弟子入りさせてもらうことにした。すると彼は嬉しそうに笑って「お前は鍛えがいがありそうだ」と言う。そりゃ、こんなにヒョロヒョロな体つきをしているからね。
「そういえば、まだあなたの名前を聞いていないのですが」
これから長い付き合いになるのだから、ちゃんと相手の名前を聞いておいたほうがいいと思って、彼に聞く。私は、今世の自分の名前はあまり好きではないからな……でも、聞いたからには名乗らないと失礼か。
「俺の名か?──俺の名はパラシュラーマ。
私は大きく目を見開く。あのインド二大叙事詩『マハーバーラタ』と『ラーマーヤナ』に登場する彼が私の師となる人物だとは。
「なにが“しがないバラモン僧”ですか。しがないどころかとても有名じゃないですかあなた」
「まだ十にもなっていない子どもが俺のことを知っているとは……。今は森に隠居している身だから“しがないバラモン僧”であっているとおもうが?」
「あってません」
「随分バッサリと言うな。ほら、俺は名乗ったから次はお前の番だ」
「私は、あまりこの名前が好きではないんですが……──私の名前は××××、といいます」
××××、私には似合わない名前だ。自嘲気味にそういうと、彼は良い名前じゃないか、と言って褒めてくれた。
「お前がその名があまり好きではないというのならば、そうだな。青……は率直すぎる。お前は年の割には物言いがバッサリしているからな、
青、と呟いたのは私の瞳を見て言ったのだろう。私の瞳は青い蓮の花のような、鮮やかな
「シャストルラ、ですか」
「ああ、そうだ」
小刀か。日本でいう短刀のようなものだろう。刀といえば、某刀剣擬人化ゲームを思い出す。気に入ったので、今度から人にはそう名乗ることにした。
「分かりました。ではこれからよろしくお願いします、
「こちらこそ、よろしく頼むぞ。
──かくして、彼女の物語が幕を開ける。ヴィシュヌの第六の
ヴァルナについてはWikipediaさんから諸々、あとは他のサイトと本を参考に書きました。
誤字報告、ありがとうございます!