Fate/Nilotpalagita Synopsis 作:時雨
第三者視点のような感じです。
晴れ渡った青空の下、賑やかなラッパと太鼓の音が鳴り響き、数十万の観衆がきらびやかな広場に集まっている。クル、パーンドゥの兄弟たちがそれぞれ己の優れた武芸を披露し、大会最後のハイライトである褐色の精悍な顔立ちをしたインドラの息子・アルジュナが剣、弓、棍棒、槍の妙技を終え、いよいよ大会の幕が閉じられようとした時、それは起こった。
広場の入り口近くでシャラリと金属のぶつかる音と、ズザーッと土が擦れるような音が響いてきたのだ。観衆と王家の王子たちは何事かと一斉に入り口を見る。
そこには、二つの人影があった。一つは黄金の鎧を身につけ、黄金のイヤリングを煌めかせた青年。その非の打ち所のない美貌は、落ち着いた様子で辺りを見回している。そして、もう一つは息を切らしている、フードを深く被った少年。顔こそは見えないが、華奢な体つきをしていた。
「……大丈夫か?」
黄金の鎧を身に纏っている青年──カルナは自分の後からやって来た少年に声を掛ける。男にしては、小柄なその体は上下に揺れていて、今にも倒れそうだ。少年は律儀に、途切れ途切れだが返事を返す。
「わた、し、は、だいじょう、ぶです。しんぱい、してくれて、ありがとう、ございます」
「そうか」
それを聞くとカルナは前に向き直り、広場の中心に足を運ぶ。一方、少年と見事勘違いされたアーシャことシャストルラは、ぎりぎりのところで大会に間に合ったことに安堵していた。結構な距離を走ってきて、息を切らしているが、軽く息を整える。
サッと広場の中央に足を運んだカルナの後を追って、彼女も広場に入ると、先に飛び入り参加していた彼は、アルジュナが披露した技をすべて完璧に再現していた。
さらに、カルナはアルジュナに決闘を申し込み、それをここぞとばかりにドゥリーヨダナが歓迎していたのだ。そのせいか、広場は騒然とした雰囲気になっている。
その中心に立っている黒と白の人物。アルジュナは飄々とした様子でいるカルナに向かい、語気鋭く言い放った。
「……招かれざる
「この広場はすべてのものに開かれているはずだ。現に、オレ以外にもこの場に立とうとしている者がいる」
「なに?」
カルナがさらりと言った言葉にアルジュナは眉をひそめる。すると、ざわめく観衆の中から一人小柄な人物が姿を現した。先ほど息を切らしていた
「彼の言うとおり、私もこの競技会に飛び入りで参加しに来ました。……君らからしたら無礼な行為かもしれないけれど」
「そういうことだ。お前が
鋭い目付きでアルジュナはカルナを見据え、シャストルラはやれやれとでもいうように首を竦める。
空はいつの間にか厚い雲に覆われ、その下を雷光が龍の如く走り去さり、雷鳴を轟かせた。インドラ神が己の息子アルジュナに味方しているのだ。それを知ったのか、スーリヤ神は太陽の強い輝きでわが子カルナの頭上の雲を追い払う。
会場はドゥリーヨダナ側とパーンドゥ側に真っ二つに割れ、貴婦人たちもそれらに釣られて敵味方に分かれる。アルジュナへの挑戦者の一人が、自分が最初に産んだ子供、カルナであることを知ったクンティーは気を失っていた。
そんななか、シャストルラは随分と冷めた目でアルジュナ側とカルナ側に分かれた観衆、そして王族たちを見ている。他の人たちは気づいていないが、彼女の周りには儚い幻想的な蓮の花が咲いては消えている。ささやかながらも、女神ラクシュミーは彼女を応援しているのだ。
すると、それに目敏く気づいたドゥリーヨダナが彼女に声を掛ける。
「そこの蓮に愛されし者。お前もアルジュナに決闘を望んでいるのか」
「いいえ、違います。カウラヴァの長兄殿。私はただ、自分の武術の腕を確かめるが為にここに参上したのです」
「ふむ、そうか。ならば、今ここでお前の腕を見せてみよ」
ドゥリーヨダナの言葉に騒然としていた広場が静まり返る。そう言われたシャストルラは少し戸惑いの表情を浮かべた。
「私が得意なものが、その、剣なのですが……。相手がいないので、披露のしようがありません」
「では、弓はどうだ」
「一応、出来ますが」
「ならそれをやれ」
「……分かりました」
諦めの表情でシャストルラは広場の中心に出て、弓を構え矢を刺す。周囲の人々は、あんな細腕の少年が弓を引けるわけないだろうと鼻で笑っていたが、次の瞬間。勢いよく放たれた矢が「バンッ」と木で出来た的を粉砕したことによって、自分たちの認識が間違いだったことを悟る。
「……しまった。力加減、間違えた」
頬を掻きながら、彼女はドゥリーヨダナに体を向け、気まずそうに話し掛ける。
「あの、すいません。的を壊してしまって……これでいいですか?」
「あ、あぁ。十分だ。よくやったな」
二重の意味を込めて、そう言ったドゥリーヨダナ。まさか、こんなに小柄な少年が、矢で的を粉砕するとは思ってもいなかったのだろう。
「ありがとうございます……?」
しかし、ドゥリーヨダナの言葉をよく分かっていない彼女。ついでにいうと、彼女の周りは、先ほどよりも多くの蓮の花が咲き誇っては、風に揺れて消えている。
女神ラクシュミーよ、少しはしゃぎすぎではないだろうか。
そんななか、勇気を振り絞って軍師・クリパがシャストルラに「今からここで、決闘を行う。そなたは観衆側に戻ってもらってもよいか」と伝える。それに「分かりました」と頷いて、シャストルラはすぐに広場の中心から退場する。
ホッと安心したかのように、息をつくクリパ。気を取り直して、カルナとアルジュナの間に立ち、決闘の立会人として厳かに宣告した。
「決闘のしたきりとして、互いの素性を明らかにせねばならぬ。アルジュナはクンティー王妃の三男であり、パーンドゥの王子だ。」
──挑戦者よ、そなたの素性を明かすがよい。王族は己より下位の者とは決して決闘は行わないのだ。
その言葉を聞くと、カルナは雨に打たれた花のように深く
黙り込んでしまうカルナ。そんな彼に救いの手を差しのべたのは、カウラヴァの王子・ドゥリーヨダナだった。
「もし、この者が王族ではないから闘わないというのなら、俺はたった今ここで彼をアンガ国の王にしよう。さすれば、誰も文句をいうまい」
わっ、と大歓声に包まれる広場。ドゥリーヨダナの言葉で王位就任に必要な儀式がその場で済まされ、カルナはめでたくアンガ国の王となった。
そして、いよいよ決闘が行われると思われたその時。一人の老人がカルナの側に歩み寄った。その姿を見るや否や、彼は弓矢を置き、戴冠式の
老人──アディラタは、濡れたカルナの頭を拭き「わが子よ」と呼びかけ王になったことを祝福した。
「なんだ、お前は御者の息子だったのか」
カルナに歩み寄った老人がドリタラーシュトラ王の御者、アディラタであるのを知ったビーマは、からからと笑う。
「御者の息子がアルジュナに決闘を挑む資格はない。アンガ国の王など笑止千万!剣の代わりに鞭を振るっておとなしく馬の尻でも追いかけていろ」
ビーマの罵倒に、カルナは唇を噛みしめる。そこで、ドゥリーヨダナが立ち上がり、言葉を発しようとしたが、凛とした声が響き、それを遮る。
「いくらなんでも、そんな言い方はないと思いますが」
「なんだおまえ。この俺に口答えするのか」
「口答えをするとは、誰も言っていませんが?私はただ、あなたの言い方はないと言っただけです」
観衆に紛れていたシャストルラが再び広場に姿を現した。その目は氷雪の如く冷たい。一瞬、ビーマは彼女の目を見て怯む。すかさず、ドゥリーヨダナがシャストルラの言葉に続くようにビーマに言う。
「そうだぞ、ビーマ。この者の言うとおり、そんな言い方はあるまい。闘うことが我々、
それに、と彼はビーマを睨み付けてこう言った。
「英雄も河も源は同じではないか。両方とも源流は分からない。わが師ドローナは水壺から、軍師クリパは草むらから生まれている。お前だってそうではないのか?輝かんばかりの黄金の鎧と耳環を身につけた、太陽のようなこの男が、どうして只人から生まれたりするものか」
──彼はアンガ国のみならず、全世界と俺の友情をほしいままにするに値する男だ。俺の言葉に不満があるものは、この場にて彼と共にその弓をへし折ってみるがいい。
ドゥリーヨダナの熱弁に群衆は歓喜する。ちょうどその時、日は沈み辺りは暗くなり、今が潮時とみたドゥリーヨダナはカルナの手をとって広間から姿を消し、パーンドゥ兄弟たちも自らの師と共に帰城の途についた。
人々に紛れて、シャストルラも帰ろうとする。が、突然後ろから何者かに腕を捕まれ、そのまま人の少ない場所まで連れていかれてしまった。
振りほどこうとするが、なかなか相手は手を離してくれない。心の中で、彼女はパラシュラーマに謝罪の言葉を述べる。
(すみません、師匠。やっぱり帰りが遅くなりそうです)
大会の様子は本などを参考にしました。
……第三者視点、難しい。