Fate/Nilotpalagita Synopsis 作:時雨
帰ろうとしたところ、いきなり腕を捕まれ、そのまま彼──カウラヴァの三男、ドゥフシャーサナに人気のないところを歩いてどこかに連行されているシャストルラは諦めの表情を浮かべていた。何故、こんなところに王家の人がいるんだ。全員、城に帰ったのではなかったのか。等と心の中で文句を言っているが、相手は知るよしもない。
「あの、この手を離してくれるとありがたいのですが」
「それは無理ですね。兄上……ドゥリーヨダナに貴方を連れてくるように言われたのですから」
「王家の人間が護衛も連れずに、たった一人でですか?私があなたに何かしらの危害を与えるかもしれないのに」
「……護衛なんて連れてきたら、目立つでしょう。それに貴方は、人に理由もなく危害を与える人間には見えません。野蛮な人間は、人を庇う様な真似はしませんから」
淡々と、そう話すドゥフシャーサナ。今日の競技会での私の行動を言っているのだろうか……それにしても、ドゥリーヨダナが私を連れてこい、と言った理由が気になる。駄目元で、彼に聞いてみるか。
「何故、ドゥリーヨダナ様が私を連れて来いと?」
「貴方に興味があるからだそうです」
「興味?」
「ええ、そうです。……こんな細腕の少年が、どうやって的を破壊したのかが気になるようで」
「はぁ、そうですか」
細腕の少年、ねぇ。やっぱり、顔を隠して男物の服を着るとそう見えるのか。……腕が、細いと言われたのが軽くショックだが。
会話が途切れ、ツカツカと無言で歩き続ける二人。次第にひとけが増えてきて、賑やかな城の近くまで来た。……ちょっと待って。このまま城に入るつもりじゃないよね?
彼女の予想通り、そのまま腕を掴んだ状態で城の中に入っていくドゥフシャーサナ。そして、彼に言われるがままに、宴会の席に同席することになってしまったシャストルラはただひたすら遠い目をしていた。
そう、何故ならば…………。
──まさか、ここが
今更、この事実を思い出していたからだ。競技会にギリギリ間に合ったとき、カルナに声を掛けられたのが、このとき「何か聞き覚えのある声だな」ぐらいにしか思っていなかったのだ。しかし、広場に着いて中心にいた彼らを見たとき、思わず自分の頬をつねってしまった。
何故なら、自分が前世にハマっていたゲーム『Fate/Grand Order』に登場していた二人がそこに立っていたからだ。
何で気づかなかった、私。この世界に生まれてから気づける要素は十分にあったはずなのに。精霊とか、神とかそんな存在が身近にいたせいか、感覚が鈍っていた。人間の適応能力って恐ろしい。しかも『マハーバーラタ』の世界軸でもあるとか、死亡フラグ満載じゃないですか。というか、何で私ここにいるんだろう。
「どうした。先ほどから何やら考え込んでいるが」
一人、隅っこのほうで座っていると、華やかに着飾ったカウラヴァの長兄、ドゥリーヨダナがこちらに近づいてきた。
「何で私がここにいるのか、ということを考えていただけです」
「そりゃあ、俺がお前に興味があったから、わざわざドゥフシャーサナに連れてくるように頼んだからだな。あと、堅苦しいから敬語は使わなくていい」
「わかった」
すんなりと敬語をやめて、返事をする。彼は満足したのか、笑って私に手招きをしてきた。近づいていくと、手首をガシッと掴まれて、ズルズルと賑やかな宴会席に連れていかれる。
「いきなりなに!?この手を離してくれると嬉しいんだけど?」
「だが断る」
「ふざけるな」
言い返すと鼻でフッと笑われる。マジでふざけるな。後で背負い投げでもしてやろう。
そう思っているうちも、ズルズルと引きずられて華やかな宴会席に連れていかれる。
「お前、普段ちゃんと食ってるのか?手首細すぎだろう。よく弓なんて引けたな」
「失礼な、食べているよ」
「嘘だろ」
「ここで嘘をついて何になるのさ」
ため息をつきながら、彼にそう答える。人がちゃんと食べてるのか心配するとか……君は私の母親か。この人、物語的にいうと悪人のはずなんだけど。
悶々と考えていると、いつの間にか一番賑やかな宴会席の近くまで連れて来られていた。パッとそこでようやく手を離される。彼はここに座れ、と自分の近くを指差し、私はそこに渋々座る。そして、適当な果物を私に投げて渡してくると、「それでも食って待ってろ」と言い残してそそくさとどこかに行ってしまった。
ワイワイと騒がしい広間。きらびやかな衣装を着た踊り子たちが軽快に舞い、楽士たちが音楽を奏でる。
「騒がしいのは、あんまり好きじゃないんだけれどな」
ドゥリーヨダナに渡された果物を食べながら、小さく呟く。いままで静かな森で過ごしていたせいか、こういう賑やかなところはなかなか落ち着かない。
「待たせたな……なんだ、お前あまり食ってないのか」
「君が帰って来るまでの、この短い間に食べきれるわけないでしょう」
「ただ単に、お前の食べる速度が遅いだけだと俺は思うが」
「君は“配慮”という言葉を知ってる?」
「失礼だな。知っているに決まってるだろう」
私の発言にムッとした顔をするドゥリーヨダナ。本当に知ってるのか疑わしいが、とりあえず私は彼の隣にいる人物について、質問をする。
「ところで、ドゥリーヨダナ。隣にいる彼は?私の見間違えでなければ、アンガ国の王だと思うのだけれど」
「あぁ、そうだ。我が友、カルナだ」
誇らしげに、彼は胸を張ってカルナを紹介する。湖の湖面のように静かな瞳は、まっすぐに私を見つめている。
「オレの名はカルナという。……お前とは、競技会で一度言葉を交わしたことがあるが、覚えているだろうか」
「もちろん。覚えていますよ」
「おい、お前。敬語」
「あ、すいま……ごめん」
ドゥリーヨダナに言われて、慌てて敬語をはずす。いや、だって。思わず敬語を使ってしまうぐらい彼は貫禄があるんだよね。
「別にお前がどのような言葉を使えどオレは気にしない。好きにするといい」
「えーっと、ありがとうございます」
要は、自分の話しやすい喋り方でいい……ということだよね。彼にお礼を言い、今度は自分の名を名乗る。
「私の名はシャストルラといいます。と、言ってもこの名は師がくれた名前なので、本名ではないのですが」
「そうか。よろしくたのむ」
一応、正直に自分の名前は仮名ということも伝えておく。すると彼はコクリと頷き、そう言ってきた。ドゥリーヨダナは意外そうな顔をして、私を見る。
「お前、師匠がいるのか」
「言ってなかったっけ?」
「初めて聞いたが」
お前の師匠は誰なんだ、と聞かれる。どうしよう。別に教えてもいいんだけど、この先のことを考えるとなぁ。あと師匠で思い出したけれど、いい加減帰らないと怒られる。遅くなるとは伝えてあるが、いくらなんでも深夜になるまで帰らなければまずい。
「秘密。それに、いい加減帰らないと師匠に怒られるので帰りたいんだけど」
「そうなのか?」
「はい。……多分、今頃怒り心頭で待っていると思います」
戦斧を構えて出迎えてくるパラシュラーマの姿を思い浮かべるシャストルラ。そこから住んでいるマヘーンドラ山全体を使った逃走中が始まるのが目に見えている。
早く帰らないと危ない。主に私の命が。
サッと一瞬にして私の顔が血の気が引いたのを見た二人は心配そうにこちらを見ている。今からまた走って行けば間に合うだろうか。いや、着いたところで息を切らしているのだからその隙にザクッと殺られるかもしれない。
「……大丈夫か」
「大丈夫です。なんとか逃げ切ってみせますので」
「お前は一体、何の話をしているんだ」
心配するカルナと呆れるドゥリーヨダナ。その時、フワッとどこからか風が吹いてきて一羽の、赤い翼を持つ鷹が現れた。神々しく光輝くその鳥はくるりと一周、広間を旋回する。その姿を見たシャストルラは左腕を上にあげ、鳥が留まれるようにした。
バサリ、と熱を発しながら彼女の腕に留まった鷹──“
『友よ、
「あー……やっぱり。そろそろ帰らなきゃまずかったか。伝言をありがとう、ラクタパクシャ」
『礼には及ばない。友の為ならば己は何処へだって飛んでくるぞ』
「それならば安心だね。相変わらず頼もしいことを言ってくれる」
そんな会話をしているなか、ドゥリーヨダナは真っ青な顔をして、カルナは興味深い様子でラクタパクシャを見ており、広間はいきなり登場したこの鳥に驚いて騒がしい雰囲気になっていた。
「おい、お前。まさかそいつは……」
「うん?あぁ、ラクタパクシャだよ。私の友人ならぬ友鳥。綺麗でしょう?」
「いや、ドゥリーヨダナが言いたいのは、そういうことではないと思うが」
少しずれたことを言ったシャストルラに、カルナは冷静に答える。とうとう我慢の限界だったのか、ドゥリーヨダナは声を上げる。
「そいつは……鳥の王、ガルダではないか!何故、偉大なる神鳥がこんなところにいるんだ!!というか、何でお前はそんな奴と仲が良いのか。おかしいだろ!」
「ドゥリーヨダナ。落ち着け」
「カルナの言うとおりだよ、何でそんなに驚くんだか」
『友よ、あの人の子のような反応が普通ではないのか。己は滅多に人前に姿を現さない故』
「そうかな?私、この間タクシャカに会ったけれど」
「タクシャカ!?あの竜の王か!」
「うん、そうだけど……」
自分の知り合いの大半が、とんでもない面子とはよく理解していないシャストルラ。一方のドゥリーヨダナはキャパシティーオーバーのせいか、頭を抱えていた。それを冷静に見ているカルナがポツリと一言、呟く。
「……ところで、お前は帰らなくていいのか」
「あ、忘れてた。ありがとう、カルナ」
じゃあね、と言ってガルダことラクタパクシャが入ってきたであろう窓に駆け寄っていく彼女。そこから勢いよく窓の縁を蹴って、飛び降りていった。
ここは城の二階だ、なのに彼女は躊躇いもせずに飛び降りていったのだ。人々は驚いて、一斉に窓に近づいて行こうとする。その時、下から炎の如く揺らめく赤い光が上に一直線に登ってきて、闇の中で煌々と輝き、瞬時に飛び去った。
「ラクタパクシャ、迎えに来てくれてありがとう」
『なに、気にするな。友の身の安全のほうが大切だからな』
「身の……安全……。師匠とのリアル鬼ごっこ……。考えると頭が痛い」
心地よい夜風に吹かれながら、私はラクタパクシャと話す。彼は普通の鷹の大きさから、人間が一人乗れるくらいの大きさになっていた。
「それにしても、今日は波乱の一日だった。なのに帰ってから師匠の説教(物理)とか……」
『頑張れ。友なら余裕で逃げられるだろう』
「君は私をなんだと思っているんだ」
『他の奴に自慢できるほど強い友人だと思っているが?』
「師匠ほど強くないよ。私は」
満天の星空を見上げながら、私は言う。
感想書いて下さった方、ありがとうございます!
これでクル側のドゥリーヨダナとカルナと接触しました。次はパーンドゥ側ですが、果たしてどのように邂逅するのか……。