Fate/Nilotpalagita Synopsis   作:時雨

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3章 王族の花
カリ・ユガの陰謀


 競技会があってから、私は町へ行くことが多くなっていた。といっても、一ヶ月に一回行くか行かないかぐらいの頻度だけれど。普段は森で昔からやっているように、鍛練を積んだり、動物たちと過ごしたりしている。

 

 ある日、ラクタパクシャが珍しく人の姿で私の元にやって来た。その端正な顔は、不機嫌そうに歪んでいる。またナーガたちと言い争いをしたのだろうか?にしては、やけに静かだ。なにか別の、彼にとって不快なことがあったのだろう。

 

「どうした、なにかあった?」

 

「……いや、別に。大したことではない、御前(おまえ)は気にするな」

 

「気にするな、と言われてもねぇ。そんな明らかに“不機嫌です”って顔をされたら、気にするよ」

 

「……………………」

 

 私が聞いても、彼は沈黙を保ったままだ。こうなったら、彼は梃子でも動かない。

 

「ハァ、じゃあ言わなくてもいいよ。なんとなくだけど、察しが付いた──何か、見たんでしょう」

 

「っ!御前は……」

 

 驚いたように、目を見開くラクタパクシャ。大抵、彼が話さないときは()()()()()()()()()に何かあったときだ。だからか、とても分かりやすい。じっと、その金の瞳を見つめていると観念したのか、彼はポツリ、ポツリと話しはじめた。

 

「……昨夜、ヴァーラナーヴァタの町外れにある豪邸が炎上しているのを見た」

 

「最近できた、あの屋敷か。“祝福の家”だっけ」

 

 それで?と先を促す。ラクタパクシャは一瞬、言おうか迷ったのか言葉が詰まったが、苦虫を潰したような顔をしながら、話してくれた。

 

「あぁ、そうだ。……あそこには、パーンドゥ一家が泊まっていた」

 

「えっ、じゃあ」

 

「落ち着け、パーンドゥ一家は無事だ。森から出て、ガンジス河を夜陰に乗じて渡っているのを見たからな」

 

「……そっか。じゃあ、一応生きているんだね」

 

 ホッと息をつく。二週間くらい前に、ヴァーラナーヴァタの町へ王族が見物に行くという話をチラッと聞いたが、まさかパーンドゥ一家だとは思わなかった。そして、ラクタパクシャが言っていた、燃えた屋敷に宿泊していたということも。……絶対、ドゥリーヨダナ辺りが原因だろう。

 

 こないだ行ったとき、不自然なほど上機嫌だったし。私が「何か良いことがあったの?」と聞いたら、ニヤリと笑って「まあな。あった、と言うよりこれから()()()と言ったほうが正しいが」と物凄い悪人顔で言っていたからなぁ。

 

「それって、ラクタパクシャと私以外に知ってる人はいる?」

 

「いや、恐らく誰も知らないと思う。町人たちは今頃、パーンドゥ一家が焼け死んだと思い込んでドリタラーシュトラに知らせているだろうな」

 

「確かに。パーンドゥの母子が死んだとなればドリタラーシュトラ王に知らせるのが一番無難だよね」

 

 きっと、町は大騒ぎになっているだろう。なんせ、自分たちが慕っていたパーンドゥ家の者が死んでしまったのだから。

 

「……一度、町に行ってみようかな。今は騒がしそうだから、行かないけれど」

 

(おれ)もその方がいいと思う」

 

 私は、高く太陽が昇った空を見上げる。(ここ)はのどかな雰囲気だが、(あっち)は慌ただしい雰囲気に包まれているのだろう。

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「そうか……ご苦労だった」

 

 ドリタラーシュトラは知らせをくれた使いの者に、静かにそう言った。側に控えていたビーシュマやドローナたちは、悲しみに声を上げて泣いている。

 

 ──パーンドゥ一家が、焼け死んだ。

 

 あの、市民や兵たちに慕われていた母子が、死んだ。その悲報は城中を駆けめぐり、ドゥリーヨダナとカルナの元にもやって来た。

 

「計画は成功したのか」

 

「ああ、見事成功したさ!まさかこんなにもうまくいくとはな!!」

 

 満面の笑みでカルナに言うドゥリーヨダナ。シャストルラの予想通り、今回の事件は彼が仕組んだことだったのだ。麻と樹脂、そしてその他燃えやすいものをふんだんに使い建てられた屋敷は、彼の思惑通りに昨夜、盛大に燃え上がった。それを知ったドゥリーヨダナは今にも躍りだしそうな勢いで、カルナに話し掛ける。

 

「なぁカルナ。お前はどう思う?あのパーンドゥ一家が焼け死んだと聞いて」

 

「……そうだな。オレはあの一家が簡単に死ぬとは思えない。母親以外皆、半神だからな」

 

 冷静にそう指摘するカルナ。確かに彼らは半人半神だが、ドゥリーヨダナはムッとした顔で口を開いた。

 

「半分神の血が流れていようが、人にはかわりないだろう。お前の言うことは一理あるが」

 

 仮に生きていたとしたら、パーンドゥ一家は一体どこに消えたのだろうか。そんなことを考えても、答えなど一向に出てこない。ドゥリーヨダナは溜め息をつくが、とりあえず、この喜びを友と一緒に噛み締めることにした。

 

 しかし、彼はまだ知らない。その後に行われる国王ドゥルパダによる花婿選び(スヴァヤンヴァラ)で、パーンドゥ兄弟が現れ、花嫁のドラウパディーを勝ち取って行くことを。




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