「君の名は。サヤチン」
朝、目が覚めて私、名取早耶香は不思議に思った。
「…………あれ? どうして、私は三葉ちゃんの部屋で寝て………」
自分の部屋で眠ったはずなのに、どうしてなのか、私は三葉ちゃんの部屋で、三葉ちゃんの布団で寝ていたみたい。まあ、いいや、とりあえず起きよう。あ、鏡に三葉ちゃんの姿が映ってる。
「おはよう、三葉ちゃん。夕べ、私、ここに泊めてもらう流れに、どうしてなったっけ?」
って、質問したのに三葉ちゃんの姿は答えてくれないで、私と同じ口調で唇を動かして、こっちを見てる。あれ? 三葉ちゃん、どこにいるの? 背後?
「……誰もいない……」
振り返ったけれど、誰もいなくて、また鏡を見ると動くタイミングまで私と同じに三葉ちゃんの姿が動いてる。
「…え? ………三葉ちゃん……に……、……なってる?!」
私が顔を触ると、鏡の中の三葉ちゃんも顔を触るし、胸を触ると、いつも重くて大変なのに今日は軽くて小さい、そしてウェストが理想的にスッキリとしていて私は確信した。
「私……私は三葉ちゃんに……なってる」
鏡に映ってる三葉ちゃんの姿が、いまの自分なんだって理解した。
「…………どうしよう? …………とりあえず、私のケータイに電話かけてみたら…」
私は枕元にあったスマフォを手にした。高校へ入学するとき、三葉ちゃんと二人で同じスマフォを買ったから、操作はわかる。機種も色も同じだから自分のスマフォかと思うほどだけど、モニターに映った壁紙が違うから、やっぱり三葉ちゃんのだとわかる。ちょっと借りるね。私は履歴からサヤチンを探して、そこへ電話をかけてみた。
「もしもし! 三葉ちゃん?!」
「……ん~……おはよう、サヤチン」
眠たそうな声で返事してくれたけど、その声が、私の声だ。自分で聞くと恥ずかしい私の声がする。
「やっぱり、三葉ちゃんに私がなってる……。三葉ちゃん! 私たち入れ替わってるよ!!」
「あ~……そうみたいだね。やっぱり同じ機種にするもんじゃないね。色も同じだから、つい、うっかりサヤチンのを持ってきたのかも」
まだ寝惚けた声で答えてくれる。きっと、着信番号で表示された氏名を見て、たんにスマフォを取り違えたんだと思ってる。そんな普通のことじゃないんだよ、私は事態の重大さを伝えるために叫ぶ。
「入れ替わってるのはケータイじゃなくて私たち!!」
「うっ……サヤチン、声、大きい。もう起きてるから」
「鏡みて! 鏡!」
「鏡ぃ? ……あれ? どうして私、サヤチンの部屋で寝て………」
「とにかく鏡を見て、本棚のとこにあるから」
「うん。あ、これか。…………ええあああ?!」
「どう? 私になってる?」
「なんで私がサヤチンなの?!」
「やっぱり……」
「なにこれ?! どうなってるの?! ねえ?!」
「わからないよ。私も起きたら、こうなってたの」
「どうしよう?!」
「とにかく落ち着いて、鳥居のところで会おう」
「うん、わかった、すぐ行く」
電話を切って寝間着を脱ぐ。
「やっぱり三葉ちゃんの身体……」
顔だけじゃなくて、鏡に映る身体も三葉ちゃんの身体だった。
「急ごう」
制服は同じだから着方もわかるし、三葉ちゃんのタンスのどこに靴下が入ってるかも知ってるから勝手に出して履く。たぶん、三葉ちゃんの方も私のタンスを知ってるから着替えは苦労しないはず。着替え終わって部屋を飛び出したら、四葉ちゃんが起きてきた。
「お、お姉ちゃん、今朝は早いね」
「う、うん。ちょっと急いでるから」
四葉ちゃんへ余計なことは言わない方がいいかな、と思って私は軽くポンポンと四葉ちゃんの頭を撫でて、階段を降りて外へ出る。靴も、どれが三葉ちゃんの靴か知ってるから迷わなかった。待ち合わせに指定した神社の鳥居へ駆けつけると、すぐに私の家の方向から私の身体が走ってきた。
「やっぱり、私になってるのが三葉ちゃんで、この三葉ちゃんが私……」
「ハァ! ハァハァ! わ、私だ! 私がいる!」
お互い、自分の姿を自分じゃない視点から見るのは、すごく違和感あって、なんとも言えない恥ずかしさもある。それは三葉ちゃんも同じようで駆け寄ってくると、恥ずかしそうに言ってくる。
「ああ~ん、もお、ちゃんと寝癖を直してから出てきてよ。私、寝癖すごいから」
「……そんな場合じゃないかと……」
そう言いながら、思わず私は三葉ちゃんの手を伸ばして、私の頬へ触れた。同時に私の手が伸びてきて三葉ちゃんの寝癖のついた髪へ触ってくる。
「「……………」」
お互いに触り合って、しばらくして確信した。
「「私たち入れ替わってる」」
見つめ合うと、私の目が私を見てくる。その違和感がとんでもなくて、きっと、三葉ちゃんの方も自分の目に見つめられて、ものすごい違和感があると思うから、二人とも黙り込んでしまう。
「「………………………」」
長く感じた沈黙を先に破ったのは、私が発した三葉ちゃんの声だった。
「これ、あんまり他人には言わない方がいいかも」
「そうだね……変に思われそうだし」
「っていうか、たぶん言っても信じないんじゃないかな。私と三葉ちゃんの二人で、ふざけてるだけだと思われそう」
「うん、ふざけてるにしては、面白く無いし」
「一応、四葉ちゃんとかにも、まだ話してないけど、私の家族に何か言った?」
「う~ん………おはようございます、って言ったかも。あとは急いで出てきたから何も言ってないはず」
「そのくらいなら平気そうだね」
「でもさ、黙っておくのはいいとして。これ、ずっと私はサヤチンなの?」
「………どうなんだろう……私は、ずっと三葉ちゃんなのかな……」
ちょっと未来を想像してみる。ずっと、入れ替わったままだと想像すると、絶望的な人生とは思わないけど、やっぱり急に自分が自分で無くなってしまうのは困惑する。もちろん、家族も友達も、すぐそばにいて会える。けど、立場が変わるし、それに慣れたとしたら、もう私は私でなくなって三葉ちゃんとして生きていくことになりそうだし、三葉ちゃんは三葉ちゃんで私として生きていくことになる。三葉ちゃんも悩んでるみたいで、私の首を傾げて私の腕を組んでる。
「ずっと、サヤチンでいるとなると…………う~ん……もし、ずっとだったら、やっぱり家族に説明して寝るところとかチェンジしてもらう?」
「う~ん……生活環境さえ戻れば……あとは外見だけど、三葉ちゃん可愛いし、ちょっと得した気分」
「え~、サヤチンの方が可愛いよ。声もキレイで羨ましかったし。おっぱいだって大きいし」
「屋外でモミモミしないで。人が見たら変な女に見えるから」
神社の鳥居を待ち合わせに指定したのは、この時間帯は人通りが少ないからだけど、やっぱり自分の手が嬉しそうに自分のおっぱいを揉んでるのは恥ずかしい。なのに、三葉ちゃんは私の手で私のおっぱいを揉み続けて、なんだか自慢げにしてる。
「大きいねぇ。重いねぇ。柔らかくて、いい感触。私も、これくらいのおっぱいが欲しかったよ、まだ成長するかなぁ」
「やめないと、このスカートめくったまま通りを歩くよ」
しつこいので私は三葉ちゃんの手で、三葉ちゃんのスカートの裾をつまむと全開にあげた。周囲に誰もいないのは確認したけど、それを見て、私の顔が真っ赤になる。
「やめてやめて! 自分にセクハラしないで!」
「先にやったのは、そっちでしょ」
「テヘへ、ごめん、ごめん」
「そろそろ学校に行く時間だし、とりあえずお互い普通に過ごして様子をみよう。戻れる方法があるといいけど」
「そうだね。テッシーのムーとかに書いてないかな」
「あれに書いてあっても信用できないよ」
一度別れて、お互いそれぞれの身体が所属してる家へ戻る。台所から一葉お婆さんが声をかけてきた。
「三葉、おはよう。なんで外に出とったん?」
「あ、おはようござ…おはよう。…お婆ちゃん。うん、ちょっと三葉ちゃ……ん、じゃなくて。サヤチンとケータイを取り違えてたから交換に」
あやうく自分で自分へ、ちゃん付けする痛い子になるとこだった。注意しないと、今の私は三葉ちゃんなんだから、三葉ちゃんとして行動しなきゃ。
「お姉ちゃん、これを並べて。お味噌汁を用意して」
「あ、うん」
四葉ちゃん、お手伝いしてえらいなぁ、と感心しつつ、お味噌汁をお椀へ入れる。この家には何度も泊めてもらったことがあるから、だいたいわかるから大丈夫。きっと、名取家でも同じように三葉ちゃんも苦労はしないはず………けど……うちは両親そろってるから……そのことで三葉ちゃんが傷ついて無いといいけど…………今だって一葉お婆さん、町の選挙放送が始まった瞬間、音量最小にしたし……ご家庭の事情はそれぞれなんだろうけど……うちは普通の家庭だなぁ……パパとママがいて、お姉ちゃんがいて……、私は気を利かせてテレビのチャンネルを変えてみる。
「…アフガニスタンでは市街地で銃撃戦が続き、少なくとも900人が犠牲に…」
「「「いただきます」」」
三人で朝食を食べて、学校のカバンを持って、いつも通りの通学路に出てみた。ちょうど私の身体に入ってる三葉ちゃんと勅使河原克彦、テッシーも来てくれて、いつもの三人がそろった。
「おう、おはよう。三葉、サヤチン」
「「おはよう。………」」
うっかり呼び間違えないように、いっそ呼ばないことにしたのは三葉ちゃんも同じみたい。けど、私の顔が悲しそうに泣いていたから心配になる。
「どうかした? ……サヤチン」
呼び間違えないように三葉ちゃんを呼ぶと、こちらを見た私の瞳が涙を零した。
「なんでもない……ぅっ……ひっく……お母さん…」
なんでもないって言ったけど、こちらを見て三葉ちゃんの顔を視てる私の目が泣いたまま、私の手を伸ばしてる。それで意味がわかった。三葉ちゃんはお母さんとよく似てきたから、この顔を見て自分より、お母さんを想い出すんだ。この様子だと、私の家でも何かあったのかもしれない。私は私の身体へ駆けよりながら、テッシーに頼む。
「ごめん、テッシー、ちょっと離れてて」
「お…おう…」
テッシーが2メートルくらい距離をとってくれたので私が問う。
「家で何かあったんでしょ?」
「うんっ…ひっく……ごめん……、朝ご飯のとき、おはよう、お父さん、お母さん、って言ったら泣けてきて……ごめん……変に思われた……ぐすっ…う~っぅ…こんなことで泣いちゃいけないのに…」
「三葉ちゃん……」
両親そろっての朝ご飯が三葉ちゃんを泣かせてしまったのは、わかる。だって、それは私にとって、ごく普通のことなのに、三葉ちゃんにとっては永遠に体験できないこと。うちへ三葉ちゃんが泊まりに来たときだって、それは友達として振る舞ってるから平気でも、今朝は娘のフリをして、お父さん、お母さんって呼んだら、泣けてきて当然だよ。私は三葉ちゃんの手で私の身体を抱きしめた。
「泣いていいよ。好きなだけ」
「うっ…ひっく……うん……3分だけ……」
私の顔が頷いて、三葉ちゃんの胸にくっついてくる。
「ううっ……ひううっっ…」
「よしよし」
泣きじゃくる私の頭を三葉ちゃんの手で撫でてると、心配したテッシーが訊いてくる。
「おい、サヤチンに何かあったのか?」
「……うん。まあ……女の子には色々あるんだよ。………話せる時が来たら話すかもしれないから、今は、そっとしておいて」
「そうか……わかった」
こんな説明で納得してくれるテッシーが好き。
「ぐすっ……ありがとう、もう平気」
言ったとおり遅刻しないように3分で泣きやんでくれたから歩き出して三人で登校する。しばらく歩いてると、広場で三葉ちゃんのお父さんの宮水俊樹さんが選挙演説をしてた。
「この糸守町は小さい! けれど、素晴らしい町です! 町民が一致団結して…」
「「「……………」」」
三人で無視して通り過ぎようとしたのに、俊樹さんが注意してくる。
「三葉! もっと胸を張りなさい!」
「……、あ、…私か…」
一応、言われた通りに胸を張ってみる。そしたら、隣を歩いていた私の顔が恥ずかしそうに伏せられた。
「「ん?」」
俊樹さんとテッシーが少し違和感を覚えてるけど、違和感の正体はつかめずにいるから、そのまま歩いて選挙カーが見えなくなると、私は習慣と好奇心でテッシーへねだった。
「テッシー、ちょっと乗せて」
「お……おう…」
押していた自転車の後部へ、三葉ちゃんのお尻が乗るのを許可してくれた。
「うん、楽ちん楽ちん」
「珍しいな、三葉が乗りたがるの」
「たまにはね」
いつもなら、すぐに降りろって言われるのに、そのままテッシーは坂の上にある校門まで自転車を押してくれた。
「ありがとう、テッシー。疲れたでしょ」
「平気平気、三葉は軽いからな。誰かと違って」
「……」
ムカっ、思わず三葉ちゃんの手がテッシーのわき腹をつねる。
「痛っ…、って、そこ三葉が怒るとこかよ?」
「え……えっと、……レディーに対して失礼でしょ?」
「そうそう! おっぱいが重いと歩くのも大変なんだから」
「そこも強調しないで」
「はい、ごめんなさい」
「はははは! 二人とも、なんか今朝は面白いな」
三人で校舎へ入って、うっかり自分が座るべき席を間違えないように腰を下ろすと、あとは何の支障もなく授業が始まる。けれど、一時間目の途中でスマフォが振動して、サヤチンと表示してる。先生に気づかれないようにメッセージを開いた。
「トイレ行きたい」
って書いてある。私の席を見ると、かなり我慢してる姿勢だった。実は私も我慢してる。今朝バタバタしてトイレに入れなかったし、なんとなく、いくら女同士で親友でもパンツおろしてしまうのは気が引けたから。けど、このまま我慢してたら、きっと授業中に漏らしそう。それは二人とも絶対に避けたい。だから、私もメッセージを送る。
「私も行きたい。いっしょに行こう」
「うん。手を挙げてくれる?」
「はいはい」
三葉ちゃんは恥ずかしがりなところがあるから、代わりに手を挙げるけど、今の場合、この手が三葉ちゃんの手で、クラスみんなの注目が三葉ちゃんの身体に集まるんだけどね。
「宮水さん、どうしました?」
「少し気分が悪いので」
「わかりました。誰か…」
「サヤチン、お願い」
「うん」
三葉ちゃんが私の身体で立ち上がったから、二人で女子トイレへ向かう。
「「……………」」
授業中の静かな廊下を二人で歩いていく。やや恥ずかしい。これから、することを考えると、なかなかに羞恥心が疼く。
「じゃ」
「うん」
二人で別々の個室へ入って、それぞれにパンツをおろして洋式便器に座った。
「あ! サヤチン! じゃなくて宮水さん! っていうか、三葉ちゃん!」
盛大に呼び間違えながら三葉ちゃんが個室の壁越しに声をかけてくる。
「どうしたの?」
「私、けっこう前に飛ぶから便座の奥に座って前屈み気味になってね」
「え? きゃあ?! ……うぅ……そういうことは早く言ってよ。パンツ、濡れちゃったじゃない」
「サヤチンは、しっかり下に落ちるんだね。ふーん……こういう風になってるのか……私のと、ちょっと違う」
「こっちも写メ撮って送ってあげようか?」
「うう、やめてください。ジロジロ見ません」
二人ともトイレットペーパーで拭いてから、私は濡らしてしまった三葉ちゃんのパンツのことを相談する。
「パンツ、けっこう、おもらしみたいに派手に濡らしちゃったんだけど、どうしよう?」
「う~……早く言うべきだった……」
「ノーパンもスカート丈的に、きついよね」
「体操服の短パンを取ってくるから、それ着て」
「誰のカバンから取ってくるか、間違えないでね」
「は~い」
三葉ちゃんが持ってきてくれた三葉ちゃんの短パンをスカートの中に履いて教室に戻る。そのまま昼休みまで授業を受けて、テッシーと三人で校庭の木陰でランチにする。
「いい天気ね」
「三葉ちゃん、その卵焼きと、これ交換しよ」
「そうだね。サヤチン、これ好きだもんね」
もう呼び間違えないくらいに慣れてきたけど、お弁当の中身は私が食べたい物と、三葉ちゃんの食べたい物で微妙に違うのに、私は三葉ちゃんのお弁当を持ってるし、三葉ちゃんは私のお弁当を持ってる。何回か、オカズを交換してるうちに面倒になってきた。
「サヤチン、今日はお弁当ごと交換しない?」
「うん、それいいね。はい」
「お前ら仲いいな。あいかわらず」
「「まあね」」
食べ終えてから私はテッシーが読んでるムーを覗いてみる。この雑誌に興味があるわけじゃないけど、こうすると距離を縮められるかなって想うから。
「……三葉、面白いか?」
「うん、まあまあ」
「今度、貸してやろうか」
「それは、いい。ちょこっと覗いてるだけで十分だよ」
「私も見てみたい! ねぇ、テッシー! 人格が入れ替わる現象の治し方とか書いてない?」
「はぁ? サヤチン、お前は何言ってんだ?」
「うっ、テッシーが冷たい目で見た」
「変なこと言うからだろ。あっち行け」
「人を邪魔者みたいにぃ」
怒った三葉ちゃんが私の身体で教室へ戻っていく。テッシー………今のは、ちょっと露骨だよ………邪魔者にされたのが自分の身体だと思うと、けっこう悲しい。
「なあ、三葉」
「…なに?」
「…………」
珍しくテッシーが何か迷ってる顔してる。まさか、入れ替わってることに気づいてきたのかな。
「…………」
「…………」
「今度の休みによ、遊園地に行かないか?」
「うん! 行く! 嬉しい!」
って返事してから私が誘われてないことに気づいた。
「サヤチンは、どうするの?」
「優待券があるんだけど2人分だからさ」
「そっか…………………考えておくね」
あ……やばい……泣きそう……私……フラれた……追い払ったのは、こういうことだったんだ、ずっと誘うタイミングを計ってたんだ……、泣いてしまう前に私はお弁当箱を持った。
「サヤチンと相談してから決めるよ」
ずるい答えを吐いてから、泣かないうちに教室へ戻った。放課後になって家の近くでテッシーを見送って別れる。
「「じゃあね、テッシー!」」
「おう、また明日な」
テッシーが見えなくなったので話すべきことを話しておく。
「お昼休みにさ、私、三葉ちゃんがテッシーから遊園地に誘われたんだよ」
「ふーん……二人で行くの? ……ん? ………私は?」
「それが、どの私か、わからないけど、誘われたのは宮水三葉で、誘われてないのは名取早耶香なの。で、優待券は2人分なんだってさ」
「そっか……………。優待券無くても、三人でワリカンすればいいじゃん」
ありがとう、たしかに、その手はあるけどね………それはテッシーの狙いじゃないんだよ……わざわざ2人分って言って、名取早耶香がいないタイミングで声をかけたんだから。
「…………」
「…………」
「はぁ……」
「……ねぇ、今夜、それぞれの家で寝る?」
三葉ちゃんが私の口で訊いてきた。少し考えて答える。
「まあ、それが無難でしょ」
「…そうだね…じゃ。わからないことが、あったら、お互い連絡しよ」
「うん」
道で別れて、私は宮水家に入った。
「ただいま」
「「おかえり」」
一葉お婆さんと四葉ちゃんが迎えくれる。高齢のお婆さんを四葉ちゃんと手伝って夕食を用意して三人で食べる。うちだとお父さん、お母さん、時間帯によってはお姉ちゃんもいるから、ここの三人は少し淋しいかな。だから、テレビもつけっぱなしで食べるのかも。
「…中国の河南省でビル火災がありパーティー中だった若い男女が200人以上犠牲に…」
「「「いただきます」」」
美味しく食べ終わって三葉ちゃんの部屋へあがってゴロゴロとしてみる。
「………このまま三葉ちゃんで生きていくなんてこと………そうなったら………」
すごく疲れていて眠りそうになってくると、スマフォが鳴って表示がサヤチンだった。
「もしもし?」
「ぐすっ……ひっく……そっち泊まっていい?」
ボロボロと泣いてる私の声が響いてくるから、泣いてるのは三葉ちゃん。
「いいかもしれないけど。何かあった?」
「サヤチンのお母さんに、お母さんって言うの……ひっく……まだ無理……ぐすっ…ぅううぅ…あうぅうっ…言う度に……泣けてきて…ひっく…お願い、そっち泊めて」
「うん。そうだよね………お婆さんに訊いてみる」
私は一階へ降りて、一葉お婆さんから友達を泊める許可をもらって、表通りに熊避けの鈴を持って出る。この時間帯、糸守町には不審者も変質者も、まず出没しないけど熊と猪は出る。ちょっと待ってると、私の家の方から鈴の音が近づいてくる。
「…ぐすっ……ひっく……」
「そんなボロボロ泣いてたら四葉ちゃんに心配されるからさ。泣くのは後にしよ」
「うん……」
まだ私の身体も入浴してなかったみたいだから、お婆さんに断ってから、泣き顔を誤魔化すためにも二人でお風呂に入った。慰めるために三葉ちゃんの手で私の身体を洗ってあげる。
「悲しいこと考えないでさ。別のこと考えてみよ」
「うん………じゃあ、やっぱり、おっぱい大きいね」
「そこかい」
洗い場の鏡で私の目が羨ましそうに私のおっぱいを見てる。だから、私は羨ましく三葉ちゃんのウエストと腿を触った。
「私は、ほっそりした三葉ちゃんの脚とウエスト、最高だと思うなぁ」
「でも、おっぱいイマイチ小さいし」
「これは、これで需要あるよ」
「今度は私が洗ってあげる」
「ありがとう」
私の手が三葉ちゃんの身体を洗ってくれる。どこをどう洗うと気持ちいいか知ってる本人の洗い方だけあって、すごく気持ちいい。
「私のおっぱい小さいね」
また、その話題ですか。私の手が三葉ちゃんのおっぱいを残念そうに揉んでくる。だから、揉み返してやる。
「大きいと重くて肩凝るでしょ」
「うん、凝るねぇ。飛んだり走ったりすると、もうボヨンボヨン邪魔になるし。力入れたらブラとか弾け飛ばせたし」
こいつ、いろいろ試したな、揉む力を強くすると、向こうも強く揉んでくる。
「このこの!」
「うりゃうりゃ!」
二人で遊んでいたら、四葉ちゃんが裸で風呂場の扉を開けてきた。
「あ、ごめん。まだ入ってた。サヤチンさん、いらっしゃ……い……。そんなに自分らの、おっぱい好き?」
「「……いえ……つい」」
洗い場を四葉ちゃんに譲って二人で温まってから三葉ちゃんの部屋へ客用の布団も敷いて並んで横になる。私は長い三葉ちゃんの髪をまとめつつ布団に寝たまま鏡を見る。
「キレイで長い髪だよね。私も伸ばそうかなぁ」
「……………」
「どうしたの?」
振り返ると、三葉ちゃんが私の目で泣いてた。
「ごめん……ぐすっ……後ろ姿……お母さんに、そっくりで……その寝間着も、お母さんのだから……ひっく! お母さんと寝てるみたいで…ひぐぅうう…」
そう言って抱きついてくるから抱き返した。
「よしよし。泣いていいよ。ただし、四葉ちゃんに聞こえないようにね」
「うん……ぐすっ……お母さん……お母さん……」
甘えて泣きついてくるから、したいようにさせる。一時間くらい抱いていたら、うとうとしながら寝間着の上から、おっぱいを吸いたそうに何度も唇で噛んでくるから、迷う。
「…………、おっぱい、吸いたい?」
「うん……お母さん…」
「……いいよ。ほら」
寝間着の襟元をゆるめて、三葉ちゃんの乳首を出すと、私の唇が吸いついてきた。
「…………」
「……お母さん……」
この子が、おっぱいにこだわるの、大きさが羨ましいだけじゃないかも、仕方ないのかな、まだ甘えたいうちに亡くなったもんね。三葉ちゃんの手で、私の涙をぬぐって抱きしめた。