「君の名は。サヤチン」   作:高尾のり子

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Cルート最終話

 

 朝、私は私の身体で起きたけど、そばにサヤチンと四葉もいた。四葉はサヤチンに抱かれた姿勢でいるけど、その目は何か考え込んでるみたいで、抱かれたままでいるのはサヤチンを起こさないためみたい。

「………」

「………」

 私と四葉の目が合った。そして、サヤチンも起きる。

「ぅううっ……腰が痛い………ずっと、この姿勢で寝てたの……」

 昨日の夕方から、四葉の身体を抱いたままだったサヤチンが腰を撫でながら寝返りして、目を開けていた四葉は立ち上がってイスに座ると、考える人みたいなポーズで考え事をしてる気配。

「四葉、昨日ね。四葉は男子と入れ替わってたんだよ」

「お姉ちゃん………入れ替わりのことを知ってるの?」

「うん。だって、オレって言うし。東京の男子高校生だって。瀧くん、かわいかったよ」

「……そういう意味じゃなくて、入れ替わり現象が存在してるって意味」

「え? え~っと、うん、それも知ってるよ」

「お姉ちゃんも誰かと入れ替わったことがあるの?」

 なんだか、たった一回の入れ替わりで、四葉はグッと大人になったみたいな気配。

「あるよ」

「いつ? 誰と?」

「えっと…」

「はい、私です」

 サヤチンが手を挙げた。

「そんな身近で……いつ?」

「「半年くらい前から、ずっと」」

「そんなに長々と………わかりにくい二人。でも時間軸は…」

「あっ!」

 私は声をあげて、四葉の股間を指した。話を中断された四葉は不快そうに睨んでくる。

「なに?」

「四葉、来てるよ! 生理!」

「…………」

 四葉が自分の腿を見ると、そこには血が垂れていた。

「四葉、おめでとう!」

「おめでとう、四葉ちゃん」

「………どうも……。お姉ちゃん、ナプキンある?」

「はいはい」

 私は女子高生の必需品、ナプキンを妹に差し出した。

「あと着替えもお願い」

「だよね」

 パンツとスカートも持ってくる。けど、パンツは私のショーツの新品も出してみた。

「小学生向けのパンツだとナプキンを着けにくいから、ショーツにしてみる?」

「ありがとう」

 四葉は下半身裸になって、血を拭き取ると、ナプキンを着けたショーツを身につけ、スカートも着替えた。

「で、本題に戻るけど」

「いやいや! お婆ちゃんにも報告しないと! 赤飯も炊かないと!」

「……それどころじゃない事態が、これから起こるから黙って聴いて!!」

「え……でも、赤ちゃんをつくれる身体になったってことは、とても喜ばしいことなんだよ? 大切なことだから大事にしようよ」

「何百人という人の命より大切?」

「いえ……それほどでは……」

「じゃあ、黙って聴いて!」

「はい」

 四葉の雰囲気が一昨日までと、ぜんぜん違うよ。もともと、しっかりもので大人びた感じだったけど、一回りも二回りも成長してる感じ。

「お姉ちゃんたちも気づいてくれたみたいだけど、私が入れ替わっていたのは東京の男子高校生、名前は…、まあ、どうでもいいけど…」

「瀧くんだよ! 立花瀧くん!」

「……黙って聴いて」

「はい」

「入れ替わった人物のことより、問題なのは、そこが3年先の未来であったこと」

「「未来?!」」

「そう、未来。お姉ちゃんたちは時間軸にズレは無かったみたいね」

「え……うん……。未来って……そんな……」

「そして、もっと大切な情報は、今日の夕方、ティアマト彗星が分裂して、その一部が、ここに落下してくること。この神社、ここを中心に半径500メートルに被害がでる」

「……なんで、そんなことがわかるの?」

「私は未来で立花瀧のスマフォを触っていたの。入れ替わって、とりあえず状況把握のために学校を休んで、どこの誰になったのか、それを調べていたら、すぐにカレンダーに気づいた。それで、そこが3年先だってわかった。次に、糸守へ物理的に戻ろうかとも思って、糸守で検索したら、スマフォの調子が悪くなったみたいに、二つの事実が、画面が揺らいでヒットしてきたの」

「「二つの事実?」」

「一つは彗星が分裂して、その破片により数百人という糸守の町民が亡くなること。その犠牲者名簿には、私たちも入ったり、消えたりする。もう一つの事実は奇跡的に誰一人死傷しなかったって事実」

「?????」

「四葉ちゃん、それってシュレディンガーの猫?」

「そうだと思う。未来は不確定なの。未来へいたる世界の糸は、紐のように組み合わさって世界を補完し合っているのよ。でも、彗星の一部が落ちてくることは確定的」

「猫?」

「お姉ちゃんは、あとで自分で調べてみて。とにかく、彗星の一部は降ってくる。これに対して、ちゃんと手を打てると、誰も死なない。けど、手をこまねいてると、大きな犠牲がでる。だから、私を手伝ってください」

「「…………」」

 よくわからないけど、四葉が、これだけ真剣に言うんだから、手伝おうと私が頷くと、サヤチンも頷いてくれた。

「で? どうするの、四葉?」

「まだ考えがまとまらないの。お父さんを説得しても、うまくいくような、うまくいかないような。もっと実力行使が必要な気もして…………他に協力者をえられない? 私たちの入れ替わりのことをウソだと思わず、真剣に話を聴いてくれて、口が硬くて協力してくれる。できれば、男子で」

「……瀧くんは?」

「…………あの人は、今、中学生よ」

「克彦は?!」

「……信じてくれるの?」

「ええ」

「うん、テッシーなら、きっと大丈夫だよ」

「わかった。じゃあ、テッシーくんの説得を二人にお願い。その間に私は考えをまとめておくから」

 考え込む四葉をおいて、私とサヤチンはテッシーに話をして信じてもらって連れてきた。

「連れてきたよ」

「ありがとう」

「オレは、何をすればいい?」

「建設作業で使う爆薬か、爆発しやすい燃料のようなものを盗み出せますか?」

「一つ、二つなら」

「一つで十分です。ありがとう、すべてのピースがハマったわ」

「………なあ、君は、本当に四葉ちゃんか? 誰か、もっと大人の女性と入れ替わってないか?」

「もう大人よ、ほら」

 四葉がスカートをめくってショーツに着けてるナプキンの羽を見せた。

「「「…………」」」

「爆薬、お願いします。お礼が必要なら、私とのエッチでもいいよ」

「四葉……」

「四葉ちゃん………」

「無償でやるよ。オレらの命や町民の命がかかってるんだろ」

「できれば、監視カメラなんかに撮られないようにしてね」

「まかせておけ。自分ちだからな」

 克彦が出て行くと、四葉は私とサヤチンを見比べるみたいに見つめて、サヤチンを指した。

「サヤチンさんにお願いします」

「は…はい……何を?」

「私といっしょに交番へ駆け込む役です」

「交番へ? どうして?」

「テッシーくんが持ってきた爆薬を持って、この神社がお姉ちゃんを狙うストーカーによって爆破される。持ってきた爆薬は、その一部にすぎない。半径500メートルが吹っ飛ばされる計画で、夕方までに避難が必要だ。宮水神社を吹っ飛ばして、宮水三葉の帰るところを無くしてオレの嫁にするから、爆発物処理班が撤去しに入ったら、人質にした宮水三葉は殺されると、私とサヤチンさんは泣きながら交番に駆け込むのです。それで、あとは大人たちが、うまくやってくれますよ」

「なるほど………でも、そんなに、うまく行くかな。爆薬があれば信憑性は増すけど、それだけの演技が私と四葉ちゃんにできるかな……今の四葉ちゃんにはできそうだけど……私、そこまで……」

「ええ、そのためにサヤチンさんには少々痛い想いをしてもらいます。捕まっていた私を助け出そうとして失敗し、犯人に殴る蹴るの暴行を受け、縛られていたが、それでも逃げてきたと。ただ、もう恐怖で記憶が曖昧で、よくわからない、爆薬のことは聴いたと思う、と答えるだけでいいように」

 四葉が私を見て言う。

「お婆ちゃんに気づかれないよう、防犯用の木刀と、納屋からロープを持ってきて」

「はい」

 私は言われた物を持ってきた。

「まず私を縛って」

 四葉が腰の後ろに手を回してるから、縛る。

「足も。なるべくキツく痕が残るように」

 言われたとおりにした。

「じゃあ、次は木刀でサヤチンさんを、めった打ちにして」

「「え……?」」

「死なない程度、後遺症が残らない程度に、お腹と胸は避けて、手足やお尻、背中を派手に内出血するよう叩きまくって。顔も2、3発。せめて鼻の骨は折らない程度に」

「そんな………四葉……サヤチンが、かわいそうだよ」

「サヤチンさんはリアル感が出るように、丸くなって防御してもいいよ。その方が警察が話を信じるから」

「………」

「四葉、ちょっと待ってよ。みんなを助けるためでも、サヤチンが、かわいそうだよ」

「姉さん」

 四葉が私の呼び方を変えた。

「さっき、テッシーくんへのお礼に私とのエッチなんて言ったけど、実際にはテッシーくん、もうお礼を受け取ってるよね? 姉さんのバージン」

「え…………なんで……四葉が、それを……」

「なんとなく、わかるんだよ。なんとなく。で、サヤチンさん。姉さんに木刀でめった打ちされても納得できますよね?」

「………はい…」

「四葉っ!」

「きっと、サヤチンさんも叩かれたいと思うよ。その方が償った気になるし」

「………」

「三葉ちゃん……お願い……そうして欲しい」

「…………そんなこと……私……サヤチンは友達……」

「姉さん、お人好しも、ほどほどに。あんまりお腹の底に貯め込むと、逆に爆発したとき大変だから、そこそこに発散しておいて。本当は、腹に据えかねてるでしょ? 自分の身体にされたこと。考えないようにしてるだけで」

「……」

「町のため、自分のため、サヤチンさんの償いのためだよ」

「………わかったよ……」

 私は木刀を握った。

「………さ……サヤチン……えっと……足……を叩くね」

「うん、お願い」

「……えい!」

 ペしっ!

 サヤチンの太腿あたりを木刀で叩いた。

「ぅっ…」

「姉さん、犯人は凶悪な爆弾魔です。もっと強く叩くでしょう」

「………じゃ……じゃあ! えい!!」

 ベシッ!

 さっきより強く叩いた。

「うぐっ……」

「姉さん。声に出して、よくも私のバージンを、と言いながら20回は叩いてください。サヤチンさんは殺されない程度に防御して」

「「……………」」

 サヤチンが頷いた。私は木刀を構える。

「……よ……よくも、私の……バージンを!」

 さっきより力がこもって、サヤチンの腕を叩いた。

「次!」

「よ……よくも! 私のバージンを!!」

 さらに力が入る。すぐに内出血するくらいサヤチンの脛を打った。

「ううっ…痛っ…」

 立っていられなくてサヤチンが脛を押さえて蹲った。

「サヤチン……ごめん……大丈夫?」

「ぅうっ……私が悪いの…、わかってるから、もっと叩いて……」

「でも、本当に痛そうで…」

「次!」

「………四葉……」

「姉さん。私だって縛られてる手足、痛いんだよ。必要なことだから。打撲くらい、すぐ治るよ。バージンは治らないよ?」

「……はい…」

 木刀を構える。

「次は頭を狙って。サヤチンさんは防御」

「………」

「三葉ちゃん……叩いて。やっぱり私も罰は受けたいから。友達なら、そうして」

 サヤチンが頭を両手で守ってる。たしかに、それなら頭に重傷は負わないし、手の傷は本当っぽくなる。

「わかったよ………行くよ。……よくも! 私のバージンを!!」

 メキッ…

 頭を守ってるサヤチンの腕を打った。

「うっ…」

「……サヤチン……」

「姉さん、次から休まず叩き続けてあげて。それとも、じわじわ苦しめたい? お好みでいいけど、連発する方がサヤチンさんの苦痛も少なくて済むかもね」

「……四葉………わかったよ……」

 じわじわ苦しめることはしたくない。私は木刀を握り直した。

「行くよ」

「うん」

「………。よくも! 私のバージンを!! よくも、私のバージンを!!! よくも!!」

 バキッ! メシッ! ガッ!

 腕を、足を、肩を、連続して木刀で叩いていく。

「よくも、私のバージンを!! よくも!!」

 叩いてるうちに頭に血が上ってくるのを感じた。許そうって思っていたのに、お腹の底から怒りが湧いてきて、手に力が入る。

 メキッ! ガッ! ベキッ!

「うっ…うぐっ……ひっ!」

 サヤチンが背中を向けて逃げようとするから、その背中を叩く。

「よくも私のバージンを!!!!」

「ゴホッ! ううっ…」

 倒れたサヤチンが丸くなって頭を抱えるから、わき腹に木刀を振り下ろした。

 ドズっ…

 鈍い音がして、サヤチンがわき腹を両手で押さえるから、顔を狙って叩く。

 ベチっ…

「うくっ…」

 頬に当たって痣ができる。

「よくも私のバージンを!!」

 もう一回、顔を狙う。腕で防御しようとしたけど、防御しきれずに額に当たった。

「よくもよくも!!!」

 いつの間にか、私は足でサヤチンを蹴って転がしていて、そこを木刀でめった打ちにしていた。

「ひっ…ひぃ! も、もう許して……ひぃいい…」

 まだ、許せるもんか!! 勝手に何度もエッチして、妊娠までさせて。

「よくも私のバージンを!!!」

 叩き続けると、サヤチンが血の泡を吐いて、おしっことウンチを漏らしてるけど、それでも叩いた。だんだん、ぐったりしてきたサヤチンが防御しなくなったから、顔を狙って振りおろす。

「姉さん、ストップ!」

 ボキッ!

 四葉が前に飛び込んできて、木刀が縛られてる四葉の左腕に当たって、骨が折れたみたいな音がした。

「ハァ…ハァ…よ、……四葉?!」

「くっ…、もうストップ、上出来だから」

「よ、四葉! 腕が!」

 四葉の腕が変な方向に途中で曲がってる。

「ぅ、腕の一本くらい私も折れ…てた方が信憑性が…増すよ」

 平気そうに言ってるけど、四葉の顔も青ざめてるし、冷や汗が浮いてきてる。

「ごめん、四葉! ごめん、サヤチン! 私なんてことを!」

 木刀を放りだして四葉の縄を解こうとして怒られる。

「まだ解かないで! それよりサヤチンさんの手足を縛って! くっ…」

 四葉が痛そうに呻いてる。かわいそう。私が折った腕………手首を縛られてるから、すごく曲がって痛そう。

「ぐすっ……ごめん……四葉…」

「いいから、サヤチンさんを縛って」

「……うん」

 ロープを持って足を縛ろうとして、おしっことウンチを漏らしたままなのに気づいた。ぐったりしたサヤチンは呼吸はしてるから、死ぬことはないと思う。本当に犯人から痛めつけられた被害者に見える姿。

「その前に着替えを…」

「そんな親切な爆弾魔が、どこにいるの。そのままでいいよ。その方が怯えた風に見えるから」

「でも……交番に駆け込むんだよね? かわいそうだよ、サヤチンが、人に見られるかもしれないし」

「見かけた人も、痣だらけの女子高生を心配するし、夕方に隕石が降ってきたら、ウンチ漏らしたくらいのこと誰もが忘れるよ。ぅぅ…くっ…」

「四葉も痛そう。せめて縄をゆるめて…」

「いいから! さっさとして! 何度も言わせないで! 声を出すのも痛いの!」

「は、はい!」

 サヤチンの手足をキツく縛った。

「…ぅぅ…ハァ…ハァ…」

「ぅぅ…ぐすっ…ひぅぅ…」

 呻く四葉と、啜り泣くサヤチンを助けてあげたいけど、ロープの痕がつくまで放置しないといけないから心苦しい。そのうちにテッシーが爆薬をもって戻ってきた。

「起爆装置もゲットしてきたぜ。…って、何があったんだ?!」

 テッシーが驚く。当たり前だよ、サヤチンと四葉が縛られて怪我してたら。

「テッシーくん、…ぅぅ…起爆装置は、安全な状態にしておいて。それで、ここに置いておいて。あと、ロープを切れそうなカッターナイフも、サヤチンさんの手元に」

「あ…ああ…けど、これは…」

「あとで姉さんから聞いて。で、姉さんとテッシーくんは双眼鏡をもって糸守を見渡せる南の山へ登って。そこで、もしも爆発物処理班が宮水神社から500メートル以内へ入ろうとするなら、姉さんのスマフォから警告して。姉さんの声で。脅されてしてる感じに。演技が下手そうなら5、6発、テッシーくんが殴ってあげて。それで、いい声が出ると思うから」

「「いい声って……」」

「ぅくっ…、ほら、こんな声…ハァ…ぅぅ…」

「四葉ちゃん……腕が折れて……」

「ハァ…ハァ……、じゃ、二人は隕石が落ちてくるまで、山からおりないでね」

「……わかったよ。君の言う通りにしてみる」

 テッシーは爆薬を置いて、私と山に登った。心配だったから双眼鏡で家を観察してたら昼過ぎに四葉とサヤチンがヨロヨロとお婆ちゃんに付き添われながら家から出てきて、交番に向かう途中で、通りかかった近所の軽トラに拾ってもらって交番へ入った。それから一時間くらいして町に避難警報が出て、四葉の言葉通り夕方に隕石が落ちた。

「本当に四葉ちゃんの言ったとおりになったな」

「うん……」

「けど、……オレって、このまま三葉と山をおりたら誘拐犯は、オレにならないか?」

「え………、そうかも……ごめん」

「ごめんって……」

「どうしよう、四葉に相談して…」

 困ってたら、スマフォが鳴った。

「もしもし」

「私」

「四葉! すごいね! 本当に隕石が降ってきた!」

「ええ。それは終わったとして。テッシーくんが誘拐犯にされないよう、すべては私の指示で行ったって正直に話せばいいわ。妹が未来が見えるなんて言い出して、それを信じただけ、だと。どうせ、この隕石落下の大混乱だから、それで不問に付されるわ」

「わかった。そうする!」

 四葉の言うとおりにしたら、すべてうまくいったし、四葉の腕も2ヶ月で治ったし、サヤチンの打撲は1ヶ月で治って、私とサヤチンは本当の意味で仲直りした。

 

 

 

 三葉ちゃんと私が入れ替わることは、隕石が落ちた日から無くなった。そして、体育館での避難生活から、春には仮設住宅での暮らしになって、さらに大学受験をへて、私と克彦、そして三葉ちゃんは東京で大学2年生になっていた。

「なんだか、この頃、変な視線を感じるのよ」

「ふ~ん……サヤチンにストーカー? テッシーには相談した?」

「まだ。気のせいかもしれないし」

 今日は私の大学に三葉ちゃんが来てくれてる。ちょっと相談したいことがあったから大学のカフェテリアで話し込んでいた。

「三葉ちゃんの家系、勘がいいでしょ。なにか、わからない?」

「そう言われても、そういう能力があるのは四葉がメインっぽいよ」

「そう……気のせいだといいけど……」

「夢とかはみるの?」

「夢は………、三葉ちゃんに木刀で追いかけられる夢くらいだよ」

「ぅぅ……………あれ、トラウマになった?」

「そこそこに。まあ、私の方が悪いんだけど」

 たまに悪夢をみる。鬼か、般若みたいな顔になった三葉ちゃんが木刀で私をめった打ちにする夢を。当然の報いだと受け入れてるけど、痛みの記憶は消えないみたい。

「テッシーとは仲良くしてる?」

「うん、普通に。三葉ちゃんは合コンとか行ってる?」

「何回か行ったけど、なんだか軽い男の子ばっかりでバカみたいで」

「そうだね。合コンってバカみたい」

「サヤチン、行ったことあるの? テッシーいるのに」

「数合わせで、行ったことはあるよ。克彦も、そういうのは参加してる。けど、三葉ちゃんと同じ感想。バカみたいだし、もう行かない」

 二人とも紅茶を飲み終わったから、相談も終わりにして校門から道路に出て、感じていた視線の正体が現れた。花束と手紙をもった男子で、高校生なのかな、制服を着てる。ちょっと離れたところには同じ制服を着てる男子が2名、こっちをうかがうように見てる。状況で話の展開が、だいたいわかった。

「す、少しいいですか!」

 花束と手紙をもってる男子が私と三葉ちゃんへ声をかけてくる。

「……ええ、…少しなら」

 私が答えると男子は、もともと赤くしてた顔を、もっと真っ赤にした。なんて初々しくて、かわいらしいの。私にも、こんな高校時代があったなぁ。

「い…いきなりで驚かれるかもしれませんが…」

「…………」

「ぁ、…あなたのことが好きです! 付き合ってください!」

 花束が私に向けられてる。こういうのはドキリとする。たとえ、克彦と付き合っていても、うれしいって感じる。どうしよう、速攻で断るのが傷つけないかな、でも、手紙もあるみたい。

「うわぁぁ、サヤチン、すごいよ! 告白だよ! カッコいい!」

 やや外野が騒がしい。でも、高校生が大学生に告白って状況が珍しいからかな、三葉ちゃん以外の大学生も、こっちを見て、いろいろ言ってる気配。

「ォ…オレと付き合ってください!」

「………。お手紙もあるの?」

「は、はい!」

 手紙を渡してくれる。花束といっしょに受け取った。

「ご好意は素直にうれしいとは思います。お手紙への返事は書きますから、しばらく時間をください。あなたのお名前は?」

「た、立花瀧です!」

「「………」」

 どこかで聴いたような名前。

「私と、どこかで出会ったかしら? 以前に」

「オ…、オレもそんな気がして! 駅で見かけたとき! この人だって!」

「……そう……私は……思い出せないけど……」

「オレと付き合ってください!」

「とっても勇気があるのね。……ただ、……お返事は……書きますけど、……あまり大きな期待はしないでください。お花、ありがとう」

「……はい…」

 それだけ話して私は帰る。

「え? え? サヤチン、もう終わりなの?」

「………」

 速攻で断るのが、かわいそうだからよ、友達もバックで見てるし。お花だって受け取ってあげないと、持て余すだろうし。告白してくれた男の子から十分に離れてから三葉ちゃんに答える。

「終わりも何も始まるわけないでしょ。克彦いるのに」

「それは……そうだけど……断っちゃうの? かわいそう」

「………」

 三葉ちゃんの顔を見て、感じた。もしかして、さっきの男の子に一目惚れしてるんじゃないかな。たしかに、三葉ちゃん好みの顔だったし、告白も悪くなかったから。

「三葉ちゃんは、さっきの男子、どう思う?」

「すっごくカッコいい! かわいいし! なのに決断力あるし!」

 惚れたな、コイツ。三葉ちゃんの頬が赤い。初恋かもしれないね。これは、こっちの方が面白そう。

「三葉ちゃんも、いっしょに手紙、読む?」

「うん! 読みたい!」

 普通は一度は遠慮してみせるもんだけどね。好奇心が働いてもさ。私のアパートへ二人で戻って、お花を捨てる予定だったペットボトルを花瓶に加工してから活けた。東京の狭いアパートでの一人暮らしに花瓶なんて、無いからね。

「早く読もうよ」

「はいはい」

 

親愛なる貴女へ

 

拝啓

 はじめまして、自分は立花瀧と申します。

 いきなりで驚かせると思いますが、貴女のことが好きです。

 

「うわぁぁ…ストレート! かっこいい!」

「黙って読もう」

「はい」

 

 けれど、自分は貴女の名前も知りません。

 だから、軽いと思われるかもしれませんが、自分は真剣です。

 駅で貴女を見かけたときから、この人だって想っています。

 本当に貴女が好きです。

 貴女のことばかり考えています。

 名前も知らないで、ただ見かけて好きになったからというだけで告白する自分を軽いと思われるかもしれませんが、本当に真剣なんです。

 どうか、付き合ってください。

 お願いします。

 

 あとは学校名と学年、連絡先の電話番号やアドレスなんかが書いてあった。

「ふぅ…」

「サヤチン、モテるね!」

「あんまり中身のない手紙ね。好きって気持ちだけは伝わるけど。内容は繰り返しだし」

「でもでも! すっごい熱いよ! この手紙!」

「しかも拝啓で始めたなら、敬具でシメないと」

「そんな細かいことより、この熱い気持ちを感じようよ!」

「…………ねぇ、三葉ちゃん、さっきの男の子を好きになったでしょ?」

「え……………………」

 黙り込む三葉ちゃんの顔が、どんどん赤くなっていくから、よくわかる。

「一目惚れかぁ」

「…………そ……そんな……ことは……」

「で、どんな気分?」

「……どんなって? ………ドキドキする……よ」

「正直なのは、えらいけど。そうじゃなくて、どんな気分? 自分が好きな人が、自分の友達を好きな状況は、どんな気分?」

「……う~………うまくいってほしいような……」

「できれば、自分が付き合いたいような?」

「………………でも、立花くんはサヤチンのことが好きなんだよ。私じゃなくて」

「高校時代の私も、さんざん、それで悩んだよ」

「あ……そっか……同じ状況なんだ………こんな……気持ちか……サヤチンがテッシーを好きだったとき……テッシーが私を好きでいてくれて……」

「さて、どうしようかな?」

「…ど…どうって?」

「克彦がいるから、当然、答えはNOなんだけど。ただ、ごめんなさい、さようなら、って言うか。ごめんなさい、でも、私の友達を紹介するよ、って言うか。どっちがいい?」

「……………た……立花くんの気持ちを考えたら、……もう少しサヤチンも真剣に受け止めてあげたら? 少しデートしてみるとか」

「それ、ただのフタマタだから」

「ぅぅ……かわいそうだよ……あ! そうだ!」

 何か閃いた三葉ちゃんが私に顔を近づけてくる。キスでもしそうなくらいに接近して、額を私の額に押しあててきた。

「もう一回、入れ替わろう! 私がサヤチンになって立花くんの気持ちに応えるよ!」

「って! やめて!」

 三葉ちゃんを振り払う。

「ぅぅ…なんで? 強く念じたら、もしかしたら、できるかも」

「もう、やらないで! できそうで怖いよ! 家系的に!」

「でも……立花くん…」

「そんなに好きなら自分で勇気出して、自分の身体で告白しなよ」

「それをサヤチンが言う?」

「入れ替わりでの彼氏ゲットなんて恋愛としては邪道だよ」

「………。……入れ替わり……立花……瀧……瀧くん! そうだ! あのときの瀧くんだよ!!」

「あのときって?」

「ほら、四葉と入れ替わった東京の高校生! たしか、立花瀧だったはず!」

「あ、ああ、そういえばそうかも。………なるほど、それで私の身体に未練があったの」

「え? どういうこと?」

「彼と過ごした一日、三葉ちゃんは私の身体だったでしょ。しかも、おっぱいまで吸わせて」

「あ……そんなことしたかも……」

「その一日の記憶が残ってるんだよ、彼に」

「そっか……あのときの……瀧くん……」

 三葉ちゃんの顔に、ますます未練が浮かぶ。もう、からかうのはやめよう。

「おこぼれでよければ、あげるよ。三葉ちゃん」

 言ってみたかったセリフを言ってみた。

「……でも……瀧くんの気持ちはサヤチンに…」

「あのとき、中身は私じゃなかった。本当に彼と一日を過ごしたのは三葉ちゃんだよ。それを語って、その上で告白して判断してもらいなよ」

「………そんな……ややこしい……話……信じてくれるかな……」

「私が手紙の返事に書いてあげる。それを、三葉ちゃんに託すから、彼に渡して、その場で読んでもらって。で、三葉ちゃんが告白してくればいいよ。頑張れ♪」

「……………うん……あ、でも、ダメ!」

「どうして?」

「やっぱり、私は瀧くんに告白なんか、できないよ」

「怖じ気づいたの?」

「そういうことじゃなくて、瀧くんは四葉の運命の人なんだから」

「……四葉ちゃんの? なんで?」

「糸守と東京、しかも3年も隔てて、それでも二人は巡り会って、瀧くんと入れ替わったおかげで私たちは助かったんだよ。きっと、四葉も瀧くんのことを想ってるはず」

「あの子が……う~ん………今、中学生だっけ?」

「うん、中1」

「……まあ、初恋しなくもない歳だけど……」

「四葉の気持ちを考えたら、私は告白なんてできないよ。それでなくても四葉には感謝してもしきれないのに」

「ああ、そういえば、学費も生活費も全部、四葉ちゃんが稼いでくれてるらしいね。神社の再建を目指して、口噛み酒も商品化したって?」

「そうなんだ。私は隕石の後、受験勉強して東京生活を楽しんでるけど、四葉は地元で、ずっと頑張ってくれて。神事も全部やってくれてるし。予言とか始めて、すごく当たるらしいし」

「神社って寄付も多いらしいね」

「明朗会計でやってるよ。けど、結局、私は四葉のおかげで学生生活してるの」

「うちは、ただの公務員だからバイトしないとキツいよ。克彦と会う時間も少ないし。自宅の再建もあるし」

「糸守は、みんな大変なのに、私だけ抜け駆けみたいに四葉の運命の人を盗るなんてこと、できないよ」

「……少なくとも立花くんは四葉ちゃんを運命の人とは想ってないんじゃない」

「どうして?」

「これ」

 私が手紙を指した。

「あ、そっか………私が余計なことしたから……本当なら二人は好き合ったかもしれないのに」

「う~ん……その乙女チックな発想は、どうかなぁ……っていうかさ、当事者の二人をおいて、私たちが話し合っても仕方ないよ。もう片方の当事者に電話して訊いてみれば?」

「四葉に?」

「そう」

「…………」

「あのとき入れ替わった立花くんのこと、どう想ってるか、訊いてみなよ」

「………………」

「それで、四葉ちゃんが想ってるようなら諦める。そうじゃないなら、三葉ちゃんが告白するって方針で。頑張れ♪」

「………」

「勇気出せ! もう大学2年でしょ! 初恋としては遅いよ!」

「……………」

 黙ってるけど、三葉ちゃんはスマフォを出して、四葉ちゃんの番号を表示した。それでも、まだ迷ってるから、私が指を出して電話をかけた。

「あ、サヤチン、勝手に……」

「妹にくらい、はっきり訊けばいいよ」

「……うん……」

 しばらくして四葉ちゃんが電話にでる。

「もしもし、どうしたの? 姉さん」

「あ……あのね。ちょっと相談したいことがあって」

「どうぞ」

「えっと………その………」

「…………」

「ぃ、隕石が落ちる前の日、四葉は男の子と入れ替わったよね?」

「ええ。それが?」

「あ…あのとき入れ替わった立花瀧くんのこと、どう想ってる?」

「どうって? 一日学校を休ませて、ごめん、くらいかな。そっちで出会った?」

「うっ………うん……さっき……偶然」

「そう。で?」

「……でって……言われても……」

「相談の本題は何?」

「…………た……瀧くんに! 私が好きって言ってもいい?!」

 お、ちゃんと言えた。えらい。

「…………」

「…………、…やっぱり、四葉も瀧くんのこと好き?」

「はぁぁ……」

 四葉ちゃんがタメ息をついてる。糸守にいたときも、よく三葉ちゃんのすることにタメ息をついてたなぁ。

「よ…四葉が瀧くんのこと好きなら私は諦めるから」

 そういえば、三葉ちゃんから見て彼は3つ年下、四葉ちゃんから見ては4つ年上、どっちでもバランス取れる年齢差なんだ。姉妹で修羅場ってのも、ありえる運命なのかな。

「姉さん………」

「……はい………」

「よっぽど、ヒマなのね。いいわね、東京での学生生活、楽しそうで」

「ぅ………」

「そんなくだらないことで電話してこないで! こっちは国税局が口噛み酒に酒税かけるか、どうかの瀬戸際だし! 再建する神社の地鎮祭もあるの!! この忙しいときに時間を盗らないで!」

「ううっ……ごめん。……いいの? 瀧くんのこと?」

「どうでもいいから。いちいち停車した駅に未練を残さないのと同じよ。ちょっと利用させてもらっただけ。お母さんとお父さんが、たまたま結ばれたからって、自分までって想う方がおかしいの。どうぞ、お好きに。この件で、また電話してきたら仕送り止めるからね」

「…は…はい……いつも感謝しております」

「じゃ」

「はい、失礼します」

 姉妹の電話が終わった。どっちが姉なんだろうって思う、前から。

「……四葉は、いいみたい」

「そう。じゃあ、私も克彦いるし、年下は興味ないから、あげるよ」

「そんな猫の子みたいに………瀧くんの気持ちもあるのに」

「手紙を書くから、それを渡して頑張ってきて。私はバイトで忙しいから」

「え、来てくれないの?」

「フるんだから、私はいない方が、三葉ちゃんへのOKを出しやすいよ。大丈夫、フられた直後に告白されるんだから、かなり勝率は高いよ。とりあえずでも一回はデートしてくれるかもしれないから頑張れ」

「……はい、頑張ってみます」

 本当にアルバイトで忙しい私は、すぐに手紙を書いて三葉ちゃんに託した。

 

 

 

 一ヶ月後、アルバイトとレポートで忙しい私は克彦と会う時間も少ないから、三葉ちゃんと立花くんのことは忘れていた。けれど、久しぶりに三葉ちゃんからメッセージが来て、会って相談したいって言うから、待ち合わせの校門に向かった。

「あ、三葉ちゃん」

「……サヤチン………ぅっ…ぅぅっ…」

 私の顔を見るなり、三葉ちゃんが両目から涙を大量に零したから、わかった。そっか、ダメだったか、うん、今夜は呑もう、呑んで涙を洗おう。おごってあげるよ。

「サヤチン……ぅぅ……」

「三葉ちゃん、泣きたいだけ、泣けばいいよ」

「うぐっ…ううっ…どうしよう?」

「……どうしたの?」

「…………一回しか……エッチしてないのに………妊娠しちゃった。絶対、堕ろしたくないの」

「………………妊娠しやすい体質なんだね………」

 たしか、立花くんは高2、三葉ちゃんは大学2年生……なかなかに前途多難だね。まあ、でも、おめでたいことだよ、頑張れ。

 

 

 

副題「五葉は何度でも蘇るさ」

 

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