やっつけ小ネタ集   作:アキ山

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 ラングリッサー・モバイルをやっている時に浮かんだネタ。

 いやはや、ランモバ面白いわ。

 ラングリッサーは1から5まで全てプレイした直撃世代のおっさんなので、懐かしさもあってガッツリハマりました。

 これでラングリッサー熱が高まったら、もう一度コンシューマーで新作を出してくれんもんかな……


仲間を癒していたら最強に! 幼女とアサルトスーツの剛腕レイガルド帝国繁盛記(前編)

 

 光学センサーが捉える傾き始めた日の光が、元は草原であった荒れ地に横たわる多くの屍を照らし出す。

 

 木材や土、そして人の肉を舐める炎に、流れた血や無念を抱いてこと切れた遺体。

 

 それらが放つ戦場の空気に慣れてしまったとはいえ、やはりいい気はしない。

 

「ジェイクー! 終わったよー!!」

 

 取り留めのない感慨にCPU使用領域を割いていると、集音センサーが甲高い子供の声を拾った。

 

 メインカメラの角度を下に下げれば、私の足元でピョンピョンと飛び跳ねながら、こちらに向かって手を伸ばす小さな少女の姿が映る。

 

 彼女の足が地面から離れる度に後頭部で結った豊かな金糸の髪が子馬の尻尾のように跳ね回り、連日日光に晒されていても抜けるような白さは変わらない肌によく映えている。

 

 そしてこちらに向いた金に近い琥珀の目は喜色満面に輝いており、マシンの私でも親愛の情が十分すぎるほどに感じられる。

 

 彼女の名はエリ。

 

 齢10になる私の2代目マスターだ。

 

 とある理由から少々発育不良気味であり、見た目的には5~6歳の幼女だったりするのだが、そんな彼女をどうやって正常に発育させるかが私が持つ課題の一つだ。

 

『エリ、返り血がまだ落ちきっていない。もう一度洗い直してきたまえ』

 

「え? どこどこ?」

 

『足元とスカートの裾だ』

 

「あっ!」

 

『前にも教えたように、返り血というのは病原菌を始めとして多くの厄介事の媒介となる。君の行いが尊いのは認めるが、それが君への害になるのなら本末転倒だぞ』

 

「むー! そんなこと言うなら、ジェイクが洗ってくれたらいいじゃん!!」

 

『無茶を言わないでほしい。私は君の介助なんて細かい作業が可能なようには出来ていないのだ』

 

「でも、川のある場所は暗くて少し怖い……」

 

『心配することはない、私は君の事を常に見守っている。万が一が起こった場合も即座に対応する事を約束しよう。それとも炎竜兵団の誰かに洗ってもらうかね?』

 

「ううん。イメルダお姉ちゃんが男の人に気安く身体を触らせたらダメって言ってたもん」

 

『発言には全面的に同意するが、それを言ったのが彼女である事には引っかかるモノがあるな』

 

「う?」

 

『今のは失言だった。気にしないで行ってきなさい』

 

「うん! 行ってきまーす!!」

 

 こてりと首を傾げるエリを(うなが)すと、頭に浮かんだ疑問など忘れたかのように彼女は近くの沢へと駆けていく。

 

 女王気質と嗜虐趣味で近隣の軍から怖れられている『氷竜兵団』の団長が小さな女の子の淑女教育に貢献していたなどと知れたら、それこそ帝国軍を震撼させる驚天動地の事実となるに違いない。

 

 もっとも、そんな風に考えているなどと彼女に知れたらバリスタの矢が飛んでくるのは間違いないので、私は沈黙を守り通すつもりだが。

 

 さて、お子様が戻ってくる前に自己紹介くらいはしておこう。

 

 私の名はS・AI_Nо2936A。

 

 今は故有ってジェイクと名乗っている。

 

 環太平洋合衆国海兵隊所属アサルト・スーツ『ASS-117ヴァルケン』の管制用人工知能を務めるモノだ。

 

 

◇  

 

 

 我がマスターの事を紹介する前に、少しだけ昔語りに付き合ってもらいたい。

 

 私が製造されたのは今いるエルサリア大陸とは異なる世界だった。

 

 西暦と呼ばれた時代の2101年、私を生み出した国である環太平洋合衆国と、最大の敵国であった欧州アジア連合との間にある事件を切っ掛けとして第四次世界大戦が勃発した。

 

 両軍の主力であった人型機動兵器アサルト・スーツ。

 

 合衆国が総力を挙げて開発した新型量産機の一体である私は、同国最強の空宙戦艦と言われた強襲揚陸艦バーシスに所属して、初代マスターと共に様々な戦場を駆け抜けた。

 

 そして最後の戦場であった連合首都攻略作戦『オペレーション・ソルジャーソウル』で、私はマスターが脱出したのを見届けて撃墜されたはずだった。

 

 それからどのくらい時間が経ったのかは分からない。

 

 次に再起動した時には、私はこのエルサリア大陸に存在していた。

 

 不思議な事に大破した機体は修復されており、各システムも全てオールグリーン。

 

 さらには地表や大気から必要な物質を取り込んで、機体のメンテナンスや破損個所の補修まで自動で行う機能まで追加されていたのだ。

 

 我々が(ろく)を食んでいるレイガルド帝国の宰相であり『黒竜魔導師団』を率いているエグベルトの話では、大気中のマナと呼ばれる魔法物質を取り込む機能が増設されているとのことだが、いったい何者がそんな物を付けたのか?

 

 私が生み出された世界では魔法などは絵空事であったし、魔法という特殊技術があっても今のエルサリアの文明は元の世界の中世と同等と思われる。

 

 少なくとも私を修復・改修などとてもできるレベルではない。

 

 所用でエルサリアの隣にあるイェレスという大陸へ行った際に知り合ったレインフォルスという青年の話では、この世界には古代に魔法を基礎エネルギーとした先史機械文明も存在したらしい。

 

 なので、大破した私を修復したのは古代文明人の可能性も考えられる。

 

 彼らが何を思ってこの身をレストアしたのか?

 

 機会に恵まれたならば知ってみたいものだ。

 

 さて、そんな私とエリの出会いは4年前に遡る。

 

 それまで私は洞窟の中に放置されていたのだが、魔物退治に乗り込んできた炎竜兵団に付いてきたエリが私を発見。

 

 興味本位で(いじく)っていたところ、偶然外部に取り付けられた緊急脱出装置を操作し、ハッチが開いた勢いでコクピットに乗り込んできたのだ。

 

 コクピット内の人感センサーで新たな搭乗者の存在を確認したスリープ状態を解除し、そのまま彼女のDNAを採取してマスター登録を行った。

 

 まあ、飛び込んできたのが6歳に満たない幼女だという事に気づかなかったのは、起動途中で処理能力が落ちていたせいだと思いたい。

 

 事はどうあれ、新たなパイロットと出会って私は再び活動を開始した訳だが、そのすぐ後に厄介事が舞い込んできた。

 

 私を魔物と勘違いしたエリの養父である炎竜将軍バルガスが、義娘が食われたと大激怒。

 

 その場にいた炎竜兵団総出で私に襲い掛かってきたのだ。

 

 とはいえ、この身は数発程度ならミサイルやレーザーの直撃に耐える特殊装甲、さらにはその上から電磁バリアまで張っている。

 

 人が手に持つ刃物や弓矢など通じるはずがなく、未知の攻撃方法であった魔法も追加されたマナ・コンバータ―によって電磁バリアに耐魔力機能が付与されている為に無傷に終わった。

 

 結局、外部スピーカーでエリの無事を確認したうえで私の事をバルガス将軍に説明して事なきを得ることとなった。

 

 もっとも将軍は私の話の九割が理解できず、エリに従うゴーレムという位置づけで認識されてしまったが。

 

「ジェイク、ジェイク! ヒマだからお話して!!」

 

 ふむ、回想に浸り過ぎたおかげで鉄の揺り籠の中にいるお姫様はご機嫌斜めのようだ。

 

『エリ。君は今日も多くの人を癒してきたのだろう? 移動の間くらいは休みたまえ』

 

「きょうは300人くらいだから、だいじょうぶ!」

 

『相変わらずケタがおかしいな。エグベルトからは普通のヒーラーでは10人を癒せば限界と聞いているのだが……』

 

「そうなの? エリはもっと治してもへいきだよ」

 

 不思議そうに首を傾げるその姿に、私は自身のマスターの規格外さを改めて思い知る。

 

 養父であるバルガス将軍に聞いた話だが、彼がエリと出会ったのは野盗の手で壊滅した村の外れだったそうだ。

 

 質素な一軒家の井戸の傍で泣いていた赤子のエリを保護したバルガス将軍は、当時一介の傭兵に過ぎなかったにも拘わらず、彼女を娘として引き取った。

 

 その後、エリは後の炎竜兵団の前身となる傭兵団の中で育つ事となる。

 

 レイガルド帝国が各地に展開する戦場に臆する事が無いのは、彼女にとって戦場にいる事が日常の一部だったからだろう。

 

 そしてエリの異常性の一つである治癒、この場合は治癒魔法と言った方が正確か。

 

 彼女がそれに目覚めたのは4歳の時だという。

 

 私と出会う前に脱退したらしいのだが、傭兵団には母親のようにエリを可愛がっていた古参の女傭兵がいたらしい。

 

 そして彼女はある戦場へ赴いた際に瀕死の重傷を負ってしまった。 

 

 団の者たちは助けようと手を尽くしたのだが、治癒術に長けた者は教会の要職に就いていることが多く、まだ小規模だった傭兵団には存在しない。

 

 かといって、教会に治療を求めれば多額の寄付を求められる為、彼等の稼ぎでは到底手が出ない。

 

 傷薬と包帯での止血が精一杯の状況で団員が途方に暮れる中、奇跡は起きた。

 

 泣きながら傭兵に縋りついていたエリが、治癒魔法を発動させたのだ。

 

 普通ならば多くの知識と修行が必要となる秘術を感覚だけで発動させた事に一同は驚き、同時にエリが放った治癒魔法によって女傭兵は一命をとりとめた。

 

 この事件を切っ掛けとして、エリは傭兵団のマスコットではなく医療班として彼等の命を繋ぐこととなる。

 

 当時団長を務めていたバルガス将軍は、やはり幼子を戦場に関わらせる事には思うところあったらしい。

 

 しかし代わりのヒーラーを用意できるワケもなく、エリが皆の生命線となっている事は否めずに、そのまま頼る形になってしまったそうだ。

 

 さて、そうこう考えている内に我々は次の勤務地に到着した。

 

 私は着陸と同時に飛行用ブースターを収納すると、胸の中央にあるコクピットの前に手を持っていく。

 

 すると間を置かずにハッチが開いてエリが元気よく飛び出してきた。

 

「へーか! エグおじさん! おまたせーー!!」

 

 ゆっくりと下へと下がる鋼の掌の上で、勢いよく両手を振ってアピールする我がマスター。

 

 それを見た巌のような体に漆黒の鎧を纏った銀髪の男は、日に焼けた褐色の顔に男臭い笑みを浮かべる。

 

「待ちかねたぞ、エリよ」

 

「……エグおじさんはよせと、いつも言ってるだろう」

 

 脇に控えていた白のローブに赤い司祭帽を被った痩躯の男の言葉などお構いなしに、私の手から降りたエリは益荒男へと駆けていく。

 

「へーかはだいじょうぶ? おけがしてない?」

 

「心配するな。この程度の戦で余が傷つく事はない」

 

 全力疾走で向かってきたエリを、男はその大きな手でヒョイと抱き上げた。

 

 彼こそが一代でレイガルドという大帝国を築き上げた英雄、ベルンハルトである。

 

 バルガス将軍が帝国に参入する際に大陸統一を目指す目的を確認する機会に恵まれたが、見た目通りの豪胆さながらも必要な場所では細やかな心遣いが可能な傑物であるのを感じる事が出来た。

 

 彼の目的が語った通りならば、機体に課したリミッターを外して全力で支援してもよいと私は考えている。

 

「遠路ご苦労だった。早速で悪いのだが、此度の会戦は少々負傷者の数が多い。用意が出来次第、治療にあたってくれ」

 

「はーい!」

 

 気を取り直した痩躯の男性、帝国宰相エグベルトの言葉に元気な返事を返すとエリは彼と共に後方の陣幕へと入っていく。

 

 それを光学レンズで捉えた私は、背部ユニットから飛行タイプの自立式小型カメラを射出する。

 

 目的は勿論、エリの周辺に危険が無いかの確認と陣幕内での非常時に対処する為の監視である。

 

「相変わらず過保護なことよ」

 

『マスターの身に関わるうえに、今回は帝国の政治を一定に引き受けている宰相殿が一緒なのだ。万が一に備えるのは当然だと思うがね』  

 

「ふん、そう易々と討たれるタマではあるまい。エグベルトもあの娘もな」

 

『……だとしても過信は禁物だ。有事の際、十全に力が発揮できるとは限らないのだから』

 

 ベルンハルト帝の言葉に彼への警戒度を一つ上げながら、私はサブモニターに内部の様子を投影する。

 

 日の光が完全に遮られ、骨組みの中央に吊るされたランプが薄く照らす陣幕の中は凄惨な物だった。

 

 矢傷や刀傷に始まり、手足のいずれかを失った者。

 

 顔の半分を覆う包帯、その目の部分が赤黒く染まっている者。

 

 鼻や耳を失って、俯いたまま低いうめき声をあげ続ける者。

 

 明らかに適当に押し込んだであろう内臓によって、包帯が巻かれた腹腔が膨れ上がっている者。

 

 その誰もが目に剣呑な光を宿しながらエグベルトとエリを見ていた。

 

 彼等の視線に宿るのは助けを請う悲痛な意思か、それとも健常者への嫉妬と憎悪か?

 

 百戦錬磨のエグベルトすらも顔を顰める負の感情の波を受けながら、エリはそんな物など何処吹く風と天幕の中央に移動する。

 

 最初は子供が来たことを訝しんでいた者達も、エリの事に気が付くと暗く沈んだ表情に光が差していく。

 

「ひだりてにヒール2! みぎてにキュア!!」

 

 中央を支える大黒柱を背にすると、エリが広げた両の掌から魔力が迸る。

 

 片方は高い治癒力を秘めた蒼の光、もう一方は如何なる毒や病魔をも退ける浄化の輝きだ。

 

「がったい魔法、ヒール3!!」

 

 胸元で合わせた両手を勢いよく広げると、エリを中心に金色の光が陣幕内を吹き荒れる。

 

 そうして魔力が収まって少しすると、寝そべって喘いでいた多くの者がおっかなびっくり身体を起こし始めた。

 

 最初は信じられないといった風情で、後すら残さずに消えた傷のあった場所を触っていた彼等であったが、自身の身体に起きた変化を受け入れると次々と喜びの声が上がる。

 

『合体魔法ヒール3』 

 

 エリがエグベルトの監修を受けて編み出した独自の魔法である。

 

 覚醒した当初から並の司祭を上回る効能を持っていたエリの治癒魔法だが、私と出会ってデータベース内の西暦の医療知識を学んだことによって、その効果は飛躍的に増大する事となった。

 

 一年も経たない内に秩序の女神ルシリスを奉じるヒーラーたちの総本山、光の大神殿の神官長でなければ不可能と言われていた欠損した四肢の再結合を成し遂げた。

 

 奇しくも大陸最高レベルのヒーラに肩を並べる偉業を成し遂げたエリだが、本人は偉業になど興味はないと言わんばかりに研鑽を止めようとしなかった。

 

 まあ、世事に疎い六歳児に興味を持てと言う方が無理な話だろう。

 

 そうして日々三ケタを超える医療行為を熟してきた努力も実り、さらに一年後には『失った四肢の再生』や『破裂を始めとする重篤な内臓損傷の治療』など、光の大神官すら手に余る症例をも完治に成功した。

 

 余談だが、この世界の人々のステータスの中には『クラス』と言われるものがある。

 

 どうも人の生き方や資質に深く関係するモノのようだが、これについて当時ある奇妙な事が起こっていた。

 

 エリのクラスが日替わり、酷い時には数時間でグルグルと目まぐるしく変わっていたのである。

 

 ある時は『シスター』、ある時は『セイント』、またある時は『セージ』や『プリンセス』といった具合に。

 

 そう言えば、あの時エリはバルガス将軍からもらったお守りの首飾りの石が減っていると妙な事を言っていた。

 

 もしかしたら、その事も何か関係があるのかもしれない。

 

 閑話休題

 

 さて、そうしてメキメキと治癒魔法の腕を上げていたエリだが、私のデータを使って学習していた際に感染症の存在に突き当たった。

 

 適切な処理を施さねば四肢の壊死や最悪の場合命に係わる事を知った彼女は、従来のように治癒魔法で傷を塞ぐ事を危険との判断。

 

 そこで毒や麻痺といった状態異常を癒す術『キュア』を治療に取り入れる事で、傷口の復元と感染症の予防の双方に対応した新術式を目指したのだ。

 

 そうした研究の結果、誕生したのが今の魔法である。

 

 一度に効果がある人数は三十人程度と既存の治癒魔法に比べると範囲は狭いが、その分効果のほどは折り紙付きだ。

 

 これを編み出したのは今から1年ほど前になるが、それからの帝国軍内における病死率は下降の一途を辿っていると言えば、その効能は理解できるだろう。

 

 あえて欠点を上げるとするならば、術式を公開しているにも拘らず、現在でもこれを使えるのはエリだけという事か。

 

 さて、歓喜と興奮の坩堝となった陣幕内はなかなかに大変な事になっている。

 

 ルシリスに感謝の祈りを捧げる者。

 

 何故かシャドウボクシングを始める者。

 

 エリを聖女と呼んで五体投地で謝意を示す者。

 

 とりあえずあの子に触れようとする者には、エグベルトのマジックアローとカメラに搭載されたゴムスタンガンで沈黙していただいた。

 

 世界と時代を超えようとも、いたいけな子供に大人が手を出すのはご法度だ。

 

 その後はヒール3でも完治しなかった手足や眼球の欠損や内臓へのダメージが深刻な者など、重症者の治療へと移った。

 

 ここまでの肉体的損傷を完治させることが出来るのは、現在のところ大陸でもエリだけである。

 

 彼女が言うには、魔力を通して肉体がどのように破損しているのかを確認し、そこから正常な肉体をイメージしながら治癒魔法を掛けるのがコツらしい。

 

 これが事実なら人体の構造を知れば治癒魔法の効率は跳ね上がるという事になるのだが、エグベルト曰くイメージをそのまま魔法の結果に反映させるのは天性の才が必要な為、エリ以外が同様の事を行ってもここまでの成果は出るとは思えないそうだ。

 

 そうしてすべての患者を癒した後、彼女が向かったのは捕虜収容施設だ。

 

 古びた幌の中は先ほどの野戦病院よりもさらに酷い状況だった。

 

 帝国の将兵を優先したのだろう、使い古しの布を包帯代わりに巻き付けただけの負傷者たちが明日をも知れない命を必死に繋ごうと足掻いていた。

 

 そんな終末感あふれる空間も、エリがヒール3を放つことで雰囲気が激変した。

 

 膿や放置された糞尿等は軒並み浄化され、虫の息だった捕虜も一気に元気を取り戻す。

 

 清潔感溢れる幕内で多くの捕虜が感謝の声を上げる中、エリは先ほどと同じように重篤な患者の処置に当たる。

 

 この捕虜への医療行為については、ちゃんとベルンハルト帝から許可を得て行っているものだ。

 

 その目的は臨床実験。

 

 いつ何時、命の関わる怪我を負うかもしれないバルガス将軍たちを救うために、エリはこうして治癒魔術の腕を磨いているのだ。

 

 二年ほど前、エリの飽くなき向上心に応えようと思った私は、捕らえられた捕虜達に目を付けた。

 

 敗者である彼等が身に受けたダメージは、当然ながら帝国士官のそれよりも重く多種多様だ。

 

 エリの実力を伸ばすのに、これほど有用な素材もそうはあるまい。

 

 この試みは功を奏し、開始直後では3割は取りこぼしていた内臓損傷の患者も、今では9割の確率で命を救う事が出来るようになった。

 

『医師は死なせた患者の数だけ成長する』という言葉をある医師は残したそうだが、奇しくもそれを証明してした形になる。

 

 ああ。

 

 誤解が無いように言っておくが、臨床実験などと考えているのは私だけだ。

 

 あの子は純粋に苦しんでいる兵を助ける為に治癒術を駆使したいに過ぎない。

 

 なので、この行為を責めようと思うのなら矛先は私に向けるといい。

 

 この身は殺戮の為に生み出された兵器、その程度の謗りはいくらでも受け止めてあげよう。

 

 

◇  

 

 ベルンハルト帝の所で医療行為を行った翌日、私達はサルラス領へ向けて歩を進ませていた。

 

 鉄の軋みを上げてひた走るローラーダッシュは順調に旅路を踏破していく。

 

 昨日、仕事を終えたエリが夢の世界に旅だった後、私は宰相殿から極秘任務を依頼されたのだ。

 

 その内容はサルラス領内の光の大神殿にほど近い村に住む、リアナという女性を帝国まで連れてくる事。

 

 いきなり人攫いとは穏やかではないが、事情を聴いてある程度の得心が行った。

 

 件の女性は1000年以上前に天界への門と言われていたルシリス・ゲートを護っていた光輝の巫女ソフィアの末裔であり、彼女もまた当代の巫女の役目を担っているという。

 

 彼女の存在はベルンハルト帝が手に入れた魔剣アルハザード、その開封と再封印に必要不可欠なのだ。

 

「ねえねえ、ジェイク! リアナお姉ちゃんってどんな人かな?」

 

 バルガス将軍の禿頭を撫でるという日課を果たせなかったのに、今日のエリは膨れることなく上機嫌だ。

 

 これも宰相からもたらされた情報のお陰である。

 

 コクピットのシートに座って上機嫌でパンを齧る幼女。

 

 ボロボロ食べ滓を零している姿からは想像もできないが、彼女もまたソフィアの末裔であり、件のリアナとは親戚関係にあるのだという。

 

 捨て子同然の戦災孤児だったエリの血筋をどうやって探ったのかと疑問に思ったが、彼女たちは『光輝の末裔』と言われる特殊な血族であり、その血筋を確かめる魔道具も存在するとのこと。 

 

 なるほど、それならばエリがアルハザードなる魔剣を封印をどころか休眠まで追いやった事も説明が付く。

 

 件の事件はベルンハルト帝がアルハザードを手に入れる際に引き起こされた。

 

 盗掘に対する防衛機構か、はたまた所有者として資格を確かめる為か。

 

 封印を破ってアルハザードを手にしようとした帝に、魔剣は害を成そうとした。

 

 場に立ち会った四大将軍はすぐさま救援に向かおうとしたが、それは帝本人に止められる事となる。

 

『この程度で屈するならば、大陸統一の覇業など成せるはずがない!!』

 

 言葉と共に妨害を振り切ってアルハザードへと進むベルンハルト帝だったが、ここで想定外の事が起こった。

 

 彼の覇気溢れるセリフに感銘を受けなかった人物が一人、その場にいたのだ。

 

 そう、エリである。

 

 まだまだお子様な彼女に漢のプライドや王の矜持など分かろうはずがない。

 

 エリはベルンハルト帝を助けたい一心で、アルハザードに向かって渾身の魔力を放射したのだ。

 

 度重なる医療活動によって莫大な魔力を持つエリが放った全力全開の一撃。

 

 それは神聖な輝きを伴って魔剣を飲み込み、封印されていた岩盤にめり込ませてしまった。

 

 その後なんとか回収されたアルハザードだったが、宰相殿の検査だと想定外のダメージで休眠状態になっており、闇の力は殆ど残ってないかったらしい。

 

 現在魔剣はベルンハルト帝の腰に差されたまま昏々と眠り続けており、帝国にとっては手に入れたというネームバリュー以外には特に利がないコレクターズアイテムとなってしまっている。

 

 今回の目的も同じ血筋という事で一縷の望みを掛けているのだろう。

 

 因みに無理に他人を攫わずともエリがいるではないかと問うたところ、思わぬ答えが返ってきた。

 

 宰相曰く、封印の解除・セットには光輝の巫女の他に闇の巫女も必要となるそうだ。

 

 そして、どちらの儀式も光と闇の力が拮抗していなければならず、エリを光輝の巫女にしてしまうと魔力量で圧倒的に闇を上回ってしまうので統合性が取れないらしい。

 

 能力的に優れているにも拘らずダメ出しを食らうとは、なんとも皮肉な話である。

 

 まあ、こちらとしてはマスターを怪しげな儀式に差し出さずに済んで御の字だが。

 

「たのしみだな~♪ あったらどんなお話しようかな~♪」

 

 ついには鼻歌まで奏で始めたエリに、今回の護衛であるレオン将軍が小さく笑みを漏らす。

 

「今回は何時になく上機嫌だな、我等の姫君は」

 

『生まれて初めての血縁との対面なのだ。嫌でも期待は高まるだろうさ』

 

「ならば、極力穏便に事を運ぶべきでしょうね」

 

 こちらの言葉に馬に揺られながらも思考を巡らせ始めたのは、レオン将軍の副官であるレアードだ。

 

 戦傷で一度は左手首から先を失った彼は、騎士を続けるのは絶望的という状況を覆したエリに深い感謝の念を抱いている。

 

 俗な言い方をすれば、青竜騎士団においてエリの保護者的役割を果たす一人となっているのだ。

 

 因みにもう一人はというと、団長のレオン将軍である。

 

 彼は事前にエリの出自を知っていたらしく、戦災孤児で光輝の末裔という自身と同じ境遇の彼女を兄代わりとして何くれと世話を焼いているのだ。

 

 普段は大陸最強の騎士の異名に恥じないレオン将軍であるが、はじめてエリに『レオンにいちゃ』と呼ばれた時は、筆舌し難いとろけた表情を浮かべていた。

 

 イメルダ将軍にして『犯罪』と言わしめたその顔は、未だにベルンハルト帝と四大将軍の間では語り草になっている。

 

『そういう事ならば、ファーストコンタクトは我々に任せてほしい。大陸でも名高い青竜騎士団のトップ2が顔を出しては、相手に要らぬ警戒を抱かせかねない』

 

「確かに一理あるが、君の方は大丈夫なのか? その鋼の巨躯は我々と同じくらい相手を威圧感を与えると思うのだが」

 

『そこは本体を隠して、小型ドローンでエリと共に村に向かうさ』

 

「ドローンとはなんでしょう?」

 

『私の管制下にある小型の飛行機械。まあ、使い魔のようなものだと思ってくれればいい』

 

「なるほどな。では、我々はどうすればいい?」

 

『私の本体が隠している場所に待機していてほしい。万が一、何かあった時には即応できる体制で』

 

「承知しました」

 

 こちらの打ち合わせが一段落すると、申し合わせたように光学カメラが目的の村を映し出した。

 

 一見すればどこにでもある長閑な村落だが、そこに世界を変え得る鍵が過ごしているなどと誰が思うだろう。

 

 この先に待つリアナという女性がどんな人間かは分からないが、この旅路が長く続く戦争終結の第一歩となる事を祈ろうではないか。  




 エリ

 ジョブ・なんちゃってシスター

 A7 D99

 指揮能力 A99 D99

 スキル

 ヒール・ヒール2・ヒール3

 フォースヒール・フォースヒール2

 キュア・プロテクション・プロテクション2

 アゲイン・テレポート

 ターンアンデッド

 リジェネレイト

 連続魔法

 召喚

 ヴァルキリー・兄貴
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