やっつけ小ネタ集   作:アキ山

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 一発ネタの続き。

 これを書く為にデジタル・デビル・ストーリーの原作小説を探してみたのですが、マジでどこにもねぇ……。

 仕方ないので愛蔵版を通販で購入予定。

 いやはや、これもツクール版真・女神転生のクローンゲームが面白いのがいけないんや。

 百合子ルートがあるとか、予想だにもしてなかったわ。


デジタル・デビル物語に転生とか、難易度マニアックすぎる(2)

 やあ、生きてまた会えましたね。

 

 ムエカッチュアー(古式ムエタイ選手)の白鷺丈(しらさぎじょう)です。

 

 死に戻りも五度目を迎えたことなので、今回は受け身の姿勢は捨ててアグレッシブに行こうと思います。

 

 幸い、死んでもステータスやスキルは持ち越しになっているらしく、今のオレの強さは『魔人・小原』を追い詰めた時のまま。

 

 これならば、よっぽど高位の悪魔でもない限りは迎撃可能でしょう。

 

 と言う訳で、この有り余る体力を活かして失踪事件が起こる日にユミ姉ちゃんが通う十聖学園に忍び込む事にしました。

 

 今までは東京移住から約一か月半後に起こる『小原襲撃事件』に合わせてコンディションを調整していたわけだが、今回は少々時間が無い。

 

 頭に残る原作知識がたしかなら、十聖学園におけるロキ召喚は姉ちゃんの転校から二週間ほどで起こるからだ。

 

 リミットは約半月。

 

 新天地での生活とかそっちのけで三平さんのクローバージムに通い詰めたオレは、期日ギリギリでムエタイのレベルを11に上げることができた。

 

 習得できた技能は『黄金のカカト』と『スクリューアッパー』

 

 『黄金のカカト』はジャンプから空中で弧を描くような軌道で踵を振り下ろす打撃技、そして『スクリューアッパー』は念願の超必殺技である。

 

 件の技は全身全霊のアッパーカットによって巨大竜巻を発生させ、取り込んだあらゆる物を容赦なく磨り潰す超必殺の称号に恥じない代物だ。

 

 これを(もっ)てすれば小原なら一撃、上位の悪魔とて無事ではすまないだろう。

 

 問題があるとすれば、燃費が非常に悪い事くらいか。

 

 現状のオレの体力だと、打てて三発が限度。

 

 まさに切り札という奴だ。

 

 そうして訪れたXデー。

 

 仮病を使って半ドンで学校を切り上げたオレは、なけなしの小遣いを使って十聖学園へと急ぐ。

 

 十聖学園に着いてみると、その校内は周りとは明らかに空気が違っていた。

 

 これがメガテンでよく言われる『異界化』というものなのだろう。

 

 たしか、原作では儀式は大型コンピュータがあるコンピュータ学習室で行われていたはずだ。

 

 外様の人間であるオレは学内の地理には明るくないので、件の部屋が何処にあるのかなど皆目見当が付かない。

 

 しかし心配はご無用。

 

 こちらには強力な助っ人がいるのである。

 

「ダグザ様、魔力とかのヤベーエネルギーが高まってる場所って、わかりますか?」

 

『三階の南端にある部屋だ。魔力の漏れ具合からして、小物だが魔王か邪神クラスが召喚されようとしているようだぞ』

 

 こちらが問いを投げると胸の痕が緑色の光を発して、ダグザ様の声が返ってくる。

 

 そう、助っ人とはオレの雇い主であるダグザ様である。

 

 今回の死に戻りに際してオレが彼の存在に気付いた事から、一緒に行動してくれるようになったのだ。

 

 とはいえ、オレにはナナシのような悪魔召喚プログラムが入ったスマホはない。

 

 そこで、ダグザ様には守護霊的な立場でオレに取り憑いてもらう事にしたのだ。

 

 古いメガテニストには、『真if』の『ガーディアン』みたいなモノと言えば理解しやすいだろう。

 

 まあ、本来のガーディアンみたく、ダグザ様のスキルが使えたりするわけではないんだけどネ!!

 

『油断するなよ、小僧。この場が異界と化した事で、本命の召喚に紛れて現世に出てきた雑魚共が実体化し始めているぞ』

 

 ダグザ様の警告に合わせるように、廊下の天井から赤黒い肉塊が落ちてきた。  

 

 粘液を撒き散らしながら蠢いていたそれは周辺の空気から何かを吸い上げると、見る間に漆黒の毛並みを持つ大型犬へと変化する。

 

 普通の犬とは明らかに違うのは、燃えるような紅い瞳と息の代わりに紅蓮の炎を漏らしていることか。

 

『ヘルハウンドか。能力は高くないが、吐く炎は火炎放射器並みだ。食らえば命は無いモノと思え』

 

 ヘルハウンド。

 

 イギリスの伝承に登場する、不吉の象徴とされている魔犬だ。

 

 メガテンでは妖獣にカテゴライズされ、レベルは7。

 

 ファイアブレスが武器に、序盤のエンカウント悪魔の中では強敵の部類に入っていたはずだ。

 

 うなり声と共に低い姿勢を取るヘルハウンドは、火と共に一声吠えるとリノリウム張りの床を蹴った。

 

 強靱な四肢を活かした突撃。

 

 緑かかった(よだれ)と揺らめく炎を口の端から零しながら、魔犬の牙は一直線にこちらの喉笛にむけて飛んでくる。

 

 しかし───

 

「シィッ!」

 

 呼吸と共に突き出した爪先は、それが届くより先に相手の柔らかい腹を深々と(えぐ)った。

 

 腹腔にめり込み緑色の返り血で濡れるスニーカーを引き抜くと、返す刀で右の廻し蹴りで悪魔の(くび)を薙ぐ。

 

 鞭で肉を叩くような炸裂音が響くと、空中で半回転し側頭部から床に叩き付けられたヘルハウンドは、だらりと垂れた舌を床に零れた自身の頭の中身に(ひた)しながら消滅した。

 

 前蹴りで相手の突進を止めて、テツ・カン・コーを叩き込む。

 

 ムエタイの基礎と言えるコンビネーションだ。

 

 『ヘルハウンドを蹴り二発で仕留めるか。少しはマシになったようだな』

 

「そりゃあ、伊達にあの世をメドレーリレーしてませんからね」

 

 フンと鼻を鳴らすダグザ様に軽口を返していると、今度は3体の異形が姿を現した。

 

 長柄の棍棒を手にした犬顔の獣人はワー・ドッグかコボルト。

 

 オレと同じくらいの身長をした、紫色の肌を持つ子鬼はおそらく餓鬼。

 

 その後ろには革鎧と楯を身に着け、短剣を構えた緑の肌をしたバグベアらしき亜人もいる。

 

『揃いも揃って雑魚ばかりだな。この程度の手勢を蹴散らせねば、異界の主には到底勝てんぞ』

 

「分かってます……よっと!!」

 

 言葉じりと共に床を蹴ったオレは矢のような速度で宙を駆け、勢いもそのままに獣人のドテッ腹にスラッシュキックを突き立てる。

 

 鈍い打撃音が廊下に響き、血反吐と共に身体を『くの字』に折る獣人。

 

 その隙を逃すことなく蹴り脚を軸にして逆の踵で犬面を薙ぎ払うと、折れた牙と吐しゃ物を撒き散らして奴の身体が床に沈む。

 

 次に倒れゆく獣人の身体を踏み台にして前に跳んだオレは、空中から奴の脳天に向けて両肘を振り下ろす。

 

 頭頂部へ強烈な一撃を食らい、無防備になったところで首に手を回して太鼓腹に膝を一発。

 

 よだれを吐きながら体勢が前屈みになったところで、もう一方の膝で顎をカチ上げる。

 

 紫色の体液を撒き散らしながら宙を舞う餓鬼、その身体を掻い潜るように鈍色の光が閃いた。

 

 咄嗟に屈んでやり過ごしたものの、額の右側から側頭部の前辺りに掛けて(はし)る灼熱感。

 

 視界の隅を紅い雫が掠めていくが、取り乱したりはしない。

 

 経験から傷の深さは皮一枚程度である事がわかっているからだ。

 

 傷を受けたことで溢れ出るアドレナリンが戦意を高める中、視線を上げてみれば赤錆が浮かぶ短剣を突き出した体勢の亜人と目が合った。

 

 餓鬼を仕留めた隙を突こうという腹だったのだろうが、お生憎様だ。

 

「タイガーキィィッ!!」

 

 しゃがむ事で力を溜め込んだ全身のバネを活かした一手。

 

 金のオーラを纏った膝は奴の眉間を捉え、その勢いのままに胴から首を千切り飛ばした。

 

 次々と瘴気を上げて消滅していく悪魔達を見ていると、死体が消え去った後に何かが遺されている事に気付く。

 

 拾い上げてみると、見た事も無いような銅貨にアメジストのような小石だ。

 

『それは魔貨(マッカ)と魔石だな。貴様も知っての通り、悪魔との交渉や魔界における売買にしようするものだ。持っていて損はあるまい』

 

 ダグザ様のアドバイスに従って、俺は背負っていたランドセルに戦利品を放り込む。

 

 そうしてダグザ様のナビに従って進む事になったわけだが、異界と化した行内では次から次へと悪魔が現れる。

 

 出てくるのは下級悪魔ばかりなので俺一人でも対処が可能なのだが、それが数十を超えるようではさすがにこちらも息が上がってしまうのは仕方がない。

 

 ゲームの様に即効性の回復アイテムがない事もあって、時間が経つことに徐々に進撃速度は陰りを見せ始める中、俺は救いの女神に出会う事が出来た。

 

 彼女の名はマベル。

 

 他の下級悪魔と共に現れたピクシーで、むこうから仲魔になってあげると申し出てくれたのだ。

 

 本人は子供が頑張っているのを見ていられなかったからと言っているが、オレがダグザ様の加護を受けている事も理由の一端にあると思われる。

 

 ケルト神話によればダーナ神族はミレー族との争いに敗れた後、ティル・ナ・ノーグと呼ばれる理想郷に移り住み、妖精へと姿を変えたと言われている。

 

 伝承が事実だとすると、彼女たちにとってダーナ神族は太祖という事になる。

 

 それを踏まえれば、彼女がこちらに手を貸すのもおかしな話ではないだろう。

 

 とはいえ、サマナー御用達の悪魔召喚プログラムもCOMPも無いオレには、彼女を仲間として迎え入れる準備など、全くできていなかった。

 

 状況を踏まえても彼女の申し出を無下にしたくないと、妙案が無いかウンウン唸っていたところ、ダグザ様が人肌脱いでくれました。

 

 なんと水筒と魔石、そしてオレの血を使って即席の『封魔管』を作ってくれたのだ。

 

 『封魔管』とは『葛葉ライドウ』シリーズに登場するアイテムで、悪魔召喚師が契約した悪魔を現世に待機させる為の特殊な術式を施した管の事だ。

 

 葛葉を初めとした古いデビルサマナーの間では、COMPと悪魔召喚プログラムが開発される前はこちらが主流だったらしい。

 

 『葛葉ライドウ』に登場した封魔管は神道系の術式を使用しており、使うには霊力と修行が必要になるそうなのだが、そこは魔術の神と言われたダグザ様の仕事である。

 

 俺の血を媒体とすることで、持っているだけで自動的に封魔管の維持と生体マグネタイト(生命力の事)が補充される仕組みになっており、悪魔の召喚・帰還に関しても意識で命じるだけでOKだそうな。

 

 主従契約に関しては術式等の縛りではなく『強者に従う』という悪魔のルールを利用して、オレの力量のみを担保にしているらしい。

 

 それってつまり、オレが弱くなったら反乱を起こされるって事じゃないですか、ヤダー!!

 

 『力こそが正義』というマッポー染みたスパルタン封魔管だが、アドバイザー以外はボッチなオレとって仲間が出来る事は何よりありがたい。

 

 ぶっちゃけ、回復や魔法による後方支援ができる後衛役がいるだけで戦闘の難易度がガラリと変わるし。

 

 ええ、ええ。

 

 『ディア』と『ジオ』の有難みを骨身で感じてますよ。

 

 新宿衛生病院の人修羅って、こんな気持ちだったんだろうなぁ。

 

 まあ、マベルはピクシー系のお約束通り体力と装甲が紙仕様なので、護るのが一苦労ですが。

 

 

 

 

 あれから何十体かの低級悪魔をぶっ飛ばしたオレ達は、ようやく目的のコンピューター学習室に辿り着く事が出来た。

 

 この先には散々苦渋を舐めさせられた小原の親分と言うべきロキがいる。

 

 メガテンでのロキは魔王もしくは邪神にカテゴリーされ、レベルは大体50~60。

 

 北欧神話出身からか、スキルは氷結系を持つことが多い。

 

 原作女神転生の描写を思えば身体をスライムのような不定形に変化させての取込みと、引っ掻きなどの肉弾戦がメインだったと思うが、そうだと決めつけるのは早計だ。

 

 ここは魔法は使えるモノという前提で動くべきだろう。

 

『なかなか良い心掛けだ、小僧。小物とはいえ、奴もまた神に座に座る者。貴様ら人間からすれば、絶対と言っていい程の強者だ。侮ってよい相手ではないぞ』

 

 ダグザ様のお墨付きも出たのなら、俺の予測は間違っていないという事だな。

 

 正直、そんなのと闘うとか勘弁してほしいところであるが、ユミ姉ちゃんの事を思えばそんな事は言っていられない。

 

 それにオレだって命のやり取りを潜り抜けて来たし、入る前とは見違えるほど強くなったはずだ。

 

 道中のゴミ箱からふた付きの缶を拾って、封魔管も3つに増設したしな。

 

 現在の俺のレベルは16、新たなスキルを3つ修得したうえに超必殺技も増えた。

 

 仲魔もマベルがレベル10に上がり、攻守ともに使える魔法が増加。

 

 HPが増えて一撃で戦闘不能にならなくなった。

 

 他にはシリーズお馴染みのカボチャ頭、ジャックランタンや妖精の番犬である魔獣カーシーも仲間になってくれた。

 

 おかげで前衛をオレとカーシー、中衛の魔法攻撃をランタン、後衛での回復と魔法攻撃をマベルとバランスのよい陣形を組む事が可能だ。

 

 このように戦力の方は充実しているわけだが、それでもなおロキ相手だと戦力不足と言わざるを得ない。

 

 だとしても、ここで引き下がるという選択肢などオレにはない。

 

 あの先にはユミ姉ちゃんがいて、原作通りなら蘇るとしても中島を助けて一度死んでしまうのだ。

 

 この世界に生まれて九年、可愛げのないガキだったオレを可愛がってくれた家族がそんな目に遭うのを黙って見てなどいられない。

 

 あと、上手くすれば中島とのフラグを折れるかもしれないしな。

 

 ぶっちゃけ、全ての元凶なうえにイジメの報復で悪魔呼んじゃうようなサイコヲタクを、兄貴と呼ぶ気はオレにはない。

 

 伊邪那岐の転生とか言ってるけど、肝心の前世でも約束破った上にビビって伊邪那美を黄泉路に置いてってるし、あいつ。

 

 姉ちゃんには前世なんぞに縛られることなく、もっと素敵な男性と一緒になってもらいたいのだ。

 

 少々話が脱線したが、そろそろ突入の準備をするとしよう。

 

 まずは脳内音声に乗せて、ムエタイの仕合の前に行われる師(神)に捧げる舞踏、ワイクルー・ラムムアイを踊る。

 

 断っておくが、ふざけているワケではない。

 

 このワイクルーはれっきとしたムエタイのスキルであり、精神系バッドステータスである「恐怖」と「混乱」を防ぎ、魔法防御点が上昇するという、魔法攻撃に弱いオレには喉から手が出るほど重要な技能なのだ。

 

 戦闘中に踊るのはさすがに難しいので使える機会は限定されるのが玉に(きず)だが、ゲームじゃあるまいし戦闘中でなければバフが掛けられないワケではないので問題ないのである。

 

 小気味よく舞っていると、オレの動きに釣られたのかマベルも一緒になって踊り始める。

 

 さらには面白がったカーシーとジャックランタンまでもが、それぞれ思い思いの振りつけて踊りだしたではないか。

 

 いや、お前等。

 

 こっちは遊びでやってんじゃないからね。

 

 その後、マベルとランタンが持ちうるだけのバフを掛けて用意は完了。

 

 いざ突入である。

 

 逃走防止で鍵が掛けてあった扉を強引に蹴破ると、生臭い臭いと共に淡い薄明かりに照らされた室内の様子が飛び込んでくる。

 

 遮光カーテンが閉められて夜のように暗い部屋の中央、教卓の前に描かれた魔法陣には燭台と椅子に座らされたユミ姉ちゃん。

 

 そして、それを取り囲むように虚ろな表情をした生徒たちが立っており、教卓の背後にある巨大コンピューターの前には小原と操作を続ける中島朱実の姿があった。

 

「ユミ姉ちゃん!!」

 

 オレが呼びかけるのと、独りでに首を振り回していたブラウン管ディスプレイの画面から赤黒い肉塊が吐き出されるのは同時だった。

 

 粘液をブチまけながら魔法陣の中央に降り立った肉塊はまるで餌を探すかのように細い触手を伸ばすと、一番近くに立っていた男子生徒の両足にその身を絡ませた。

 

 ズボン越しに両足を締め上げる触手は、その細さとは裏腹に大柄の部類に入る男子生徒を苦も無く本体へと引きずっていく。

 

 異様なのは今まさに捕食されんとしている男子生徒が、悲鳴どころか顔色一つ変えないところか。

 

「マズいよ、ジョー! あのスライム、マグネタイト不足で現界できなかった悪魔だ! あいつ、周りの人間を食べる事で足りないマグネタイトを補おうとしてる!!」

 

『あの無様な肉塊は邪神か魔王クラスの悪魔だな。本来ならばこの部屋に集まった人間程度、食らったところで降臨など叶わんだろうが、あの女神の転生体がいるなら話は別だ』

 

 マベルの警告、そしてダグザ様の助言を耳にしながら、オレは床を蹴った。

 

 伊邪那美の転生体であるユミ姉ちゃんが高濃度の生体マグネタイトを有している事は、原作知識からわかっている。

 

 このクソッタレな体質の所為で、原作ではセトやらルシファーやらの災厄が姉ちゃんに降りかかってくるのだから。

 

 今回早期に動いたのだって、姉ちゃんが伊邪那美に覚醒する前にこっちで保護して、ダグザ様に件の体質を何とかしてもらおうという考えあっての事だしな。

 

『奴があの女をその身に取り込んだなら、この世に肉を持つには十分すぎるほどの『精』を得ることだろう。奴を叩こうと思うなら急ぐがいい、小僧』

 

「わかってますよ! ランタン!!」

 

『待チクタビレタゾ。オーダーを寄越セ、ニンゲン』

 

 オレの呼び掛けに渋い重低音を返してくるジャック・ランタン。

 

 つーか、こいつって仮にもヒーホー系のクセになんでCVジョージなんだよ。

 

 仲魔になってから一度もヒーホーって言った事無いし。

 

 なんだかボスと言うか黒幕臭が半端無いんですが。

 

「マハラギを頼む! 狙いは取り込まれかけてる男子とスライムを分断するように!!」

 

『イイダロウ。泣キ叫ベ、化ケ物(フリークス)───【マハラギ】!!』

 

 カボチャの口が紡ぐ言霊と共に、奴が手にしたランタンから数発の火球が迸る。

 

 放たれた火の玉は狙い違わずに、男子生徒を取り込もうと広げていたスライムの身体に着弾した。

 

 爆音と共に吹き上がる炎、それは生徒をスライムから護る灼熱の防壁へと姿を変える。

 

 それを横目にユミ姉ちゃんの下へと駆けたオレは、座らされていた椅子から引き剥がすと、肩を貸して素早く魔法陣から脱出する。

 

「ジョー君、どうしてここに? それにあのお化けはなんなの!?」

 

「詳しい話は後! 今はここから逃げなきゃ!!」

 

 そう言って出口に向かって走っていると、耳元に飛んできたマベルがこちらに声をかけてくる。

 

『ジョー、ここにいるニンゲンおかしいよ! みんな、魔術で心を縛られてるみたい!!』

 

「マベルの魔法でなんとかできそうか?」

 

 もし無理なら、申し訳ないが見捨てていくことになる。

 

『うん。掛けられた魔術自体は強いモノじゃないから、なんとかなると思う』

 

「頼む!」

 

『わかった』

 

 一声そう言って、傍らから離れるマベル。

 

 燐光を残して天井へと舞い上がる小鳥サイズの人間に、姉ちゃんはポカンと口を開けている。

 

『木々の恵みよ、迷い者の心に一筋の光明を! 【メ・パトラ】!!』

 

 鈴を転がす声で紡がれた呪文と共に、マベルを中心として淡い光の粒が教室に広がった。

 

 すると、一呼吸の間を置いて正気を取り戻した生徒たちが口々に呟く声が溢れ出す。

 

「火事だ! 火事だ! 全員、教室から逃げろ!!」

 

 このタイミングで間髪入れずに、オレは全力で声を張り上げた。

 

 一瞬だけ戸惑うような声が聞こえたものの、マハラギによって起こった炎を見つけた生徒が騒ぎ出すのをきっかけとして、教室にいた人間たちは外へと駆けだしていく。

 

 これは集団心理の一つで、非常事態もしくは状況が不明瞭で集団の不特定多数が戸惑っている場合、強く大きな声で指示を出してやると彼等はそれに従いやすいのだ。

 

 我先にと生徒たちが出口へ向けて流れ出ていく中、オレは姉ちゃんに貸していた肩を外した。

 

「ジョー君?」

 

「姉ちゃんは先に行っててくれ。オレはここでやることがあるから」

 

 逃げろとは言ったけれど、異界化してしまった校内からは原因である、あのグロ肉を倒さないと脱出することは出来ない。

 

 生徒達を教室から出したのは、ロキ・スライムの栄養源を断つのもあるが、戦闘で犠牲になる事を避ける為だ。

 

 彼等にはカーシーを護衛に着けるつもりなので、外の弱小悪魔相手ならそう簡単に死にはしないはずだ。

 

「何を言ってるの! 火事の他にも化け物までいるのよ!? こんなところに残るなんてダメよ!!」

 

 予想通りに猛反対するユミ姉ちゃん。

 

 中身はともかく、今のオレの外見は小学3年生である。

 

 ユミ姉ちゃんの性格からして『はい、わかりました』と置いて行ってくれるわけがない。

 

 とはいえ、ここで伊邪那美に覚醒されては、オレの計画がオジャンになってしまう。

 

 このまま押し問答をしても意味が無いと早々に見切りをつけたオレは、グロ肉に向き直ると姉ちゃんが見える角度でハリケーン・アッパーを叩き込んだ。

 

 放った竜巻は赤黒い腐肉をかき混ぜながら引き千切り、ロキ・スライムは痛みを感じた様にのたうち回っている。

 

「え……? なに、今の……」

 

「クローバージムで教えてもらったムエタイの奥義。これがあったら、あのグロ肉から身を護る事だってできるさ」

 

 いけしゃあしゃあとハッタリをカマすオレに、『ムエタイって、こんなに強かったのね』と感嘆の声を上げるユミ姉ちゃん。

 

 あまりの騙され易さに別の心配が頭をよぎったが、それは後回しである。

 

「そういうワケだから、ユミ姉ちゃんは先に出て警察と消防に連絡して!」

 

 強い調子でそう言うと、ようやく姉ちゃんは出口へと足を向けてくれた。

 

 ユミ姉ちゃんは(さと)いから、ここで自分にできることは無いのに気づいていたんだろう。

 

 だから、『通報』という非常事態を解決する為に自分が為せる一手を提示されたことで、やっと動くことが出来たんだ。

 

 姉ちゃんが出口に向かった事で、魔法陣で蠢いていたロキ・スライムもまた動きを見せる。

 

 先ほどまでの緩慢な動きからは想像もできない速度で肉の触手をユミ姉ちゃんに伸ばすが、そうは問屋が卸しはしない。

 

「ハリケーン・アッパー!!」

 

 ハリケーン・アッパーで触手を千切り飛ばすと、出口に行こうとしている奴に連続で竜巻を叩き込む。

 

『悲鳴ヲ上ゲロ、豚ノヨウナ! 【アギラオ】!!』

 

『私もいくよ! 【マハジオ】!!』 

 

 続けて着弾する仲魔達の魔法によって、どんどん体積を削られ悶え苦しむグロ肉。

 

 後ろで小原が悲鳴を上げているが、そんな事は知った事じゃない。

 

 割り込んできたら諸共に消し飛ばすまでだ。

 

 そのまま集中砲火は続き、仲魔達のMPが空になった頃にはスライムは出現時の五分の一程度にまで体積を減らしていた。

 

 動きも体表を蠢かせたり小さく突き出した触手を揺らす程度。

 

 見る限りは虫の息と言っていいだろう。

 

 とはいえ、擬態の可能性もあるので油断は禁物だ。

 

 ここは超必殺技を使って一気に勝負を決めるべきだろう。

 

「よっしゃあっ!」

 

 気合一発、オレは全力でグロ肉に向かって駆けだした。

 

 これから放つのはここに来るまでに覚えた新たな超必殺技だ。

 

 『爆裂拳』『ハリケーン・アッパー』『タイガーキック』『黄金のカカト』の四つの必殺技を連続で叩き込む乱舞系奥義。

 

 その名も『爆裂ハリケーンタイガーカカト』である。

 

 スクリューアッパーで決めてもいいのだが、アレは建物に対する損害が大きすぎる。

 

 今回の件が終わって十聖学園から損害賠償が出た場合を思うと、おいそれとは使えない。

 

 ならば、比較的周りへの影響が少ない打撃系で行くべきだろう。

 

 というワケで、止めを刺させてもらう! 

 

 おんどりゃあああああああ!! ────ああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!?

 

 

 

 

 ここでトリビアを一つ。

 

 日本のRPGだと雑魚の代名詞となっているスライム。

 

 実は海外製やTRPGでは強敵として描かれている事が多いのだ。

 

 不定形の粘体であるその身体には打撃や斬撃は通じず、倒すには魔法やマジック・ウエポンを用いるしかない。

 

 というワケで、止めを刺そうとイキッたところで二度目のブロブ体験をさせていただきました。

 

 あれだけ上手いこと状況を進めておいて死ぬとかナイワー。

 

 とはいえ、やってしまったものは仕方がない。

 

 この教訓は次に活かすこととしよう。

 

 幸い、死に戻りのセーブポイントはコンピューター学習室に突入する前になってる事だし。

 

 というワケで準備を整えて再突入した我々は、多少状況が前後する事はあったものの、先ほどのようにロキ・スライムを追い詰める事に成功した。

 

 今度は前のような失態は侵さない。

 

 奴の身体が無くなるまでハリケーン・アッパーで削り取るだけだ。

 

 そう心に決めて竜巻を連打していたのだが、ここで予想だにしない事態が起きた。

 

 なんと小原が中島を道連れにしてロキの供物なったのだ。

 

 火事場のバカ力か、それとも愛の為せる技か。

 

 嫌がる中島の襟首を掴んでグロ肉へと飛び込む小原。

 

 そこから先は劇的だった。

 

 二人を取り込んだスライムは瞬く間に人の形を取ると、むせかえるような瘴気を発しながらその身を紫の肌に銀の髪をもつ魔神へと姿を変える。

 

 奴こそが北欧のトリックスターと言われた邪神ロキだ。

 

 その存在感、威圧、何もかもが別物だった。

 

 もう理屈抜きでわかる。

 

 たかだか十代後半のレベルでしかないオレでは、逆立ちしても勝てない相手であると。

 

 だがしかし、こちらとて無抵抗で殺されてやるつもりはない。

 

 安西先生も言っていたではないか

 

『諦めたら? 試合終了だよ』と

 

 肺の中の空気全てを使った咆哮で恐怖に竦む身体に喝を入れたオレは、全身全霊の力で拳を振りかぶった。

 

 神殺しなど、人間側が圧倒的不利なのは自明の理なのだ。

 

 ならば、それを振り払ってこそ真価があるというモノではないか!!

 

 

 

 

 気が付くとコンピューター学習室の扉の前にいた。

 

 うん、【シバブー】から【コンセントレート】込みの【マハブフダイン】とか酷過ぎる。

 

 あんなんくらったら、レベル十代なんて一瞬で溶けるっつーの。

 

 しかし盲点だったのは、中島一人で現界可能になった事だよなぁ。

 

 考えてみれば、高濃度の生体マグネタイトが無いとはいえ、中島は伊邪那岐の転生体なのだ。

 

 そりゃあ、栄養満点でもおかしかないわ。

 

 とはいえ、ロキの強さが予想の遥か上を行ってるんだが。

 

 一作目で倒されたこともあって、ボス(笑)とか舐めていたところもあったけど、あれはアカン。

 

 勝つには最低でも30くらいはレベルが要るぞ。

 

 中島みたいなモヤシがどうやったら勝ったんだ?

 

 ……ああ、そっか。

 

 ヒノカグツチと主人公補正だわ。

 

 そのどっちもオレには無い件について、と。

 

 現実逃避はここまでにして、前向きに対策を考えてみよう。

 

 オレがやるべき事は

 

 1.ユミ姉ちゃんの救出

 

 2.ロキ現界を阻止する為に中島および生徒の避難。

 

 3.ユミ姉ちゃんの将来の為に、伊邪那美への覚醒阻止。

 

 4.今後の事を踏まえて、小原の抹殺および悪魔召喚プログラムの破壊。

 

 ……これは酷い。

 

 さすがはデジタル・デビル・ストーリー、認知度もそうだけど難易度もマニアックだわ。

 

 ダグザ様や、今からペルソナ4に転生とかできませんかねぇ?

 

       

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