やっつけ小ネタ集   作:アキ山

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 知人の依頼で書いた脚本なんですが、ハードディスクの肥やしのするのも勿体ないので、供養がてらに投稿します。

 けっこう在り来たりの話かもしれませんが、暇つぶしにでもなればと。

 しかし、思えば初のオリジナル作品じゃないか、これ?


ある小説家志望の転落

 薄っぺらいJpopが流れるハンコを押したように量産させた味気ない店内。

 

 そんな大手コンビニの一チェーン店のレジの前で、俺はボゥと虚空を見つめている。

 

 22時から翌6時までの拘束時間。

 

品出しや掃除などで手が塞がっている時はともかく、やる事が無くなった深夜帯ではこうやって会計に来る客を待つ時が一番時間が経つのを遅く感じる。

 

 こんな脳に余裕が出来てしまったときは、決まって自分の不甲斐なさと努力が実を結ばない世の不条理に気分が沈んでしまう。

 

 俺の名前は初田誠、今年で三十になる独身男だ。

 

 三十にもなってコンビニでバイトと笑うかもしれないが、好きでやっているわけじゃない。

 

 学生時代から小説家を夢見ていた俺は4年前に勤めていた会社を辞めた。

 

 就きたいと思っていなかった仕事に忙殺されて、自分の作品を書く時間が減るのが我慢ならなかったからだ。

 

 家族には反対されたが、当時の俺は何の根拠もない自信からペンで身を立てられると疑わなかった。

 

「467円のお買い上げになります」

 

「はい」

 

 ようやく訪れた客の会計を別方向にズレた思考のまま手早く片付けていく。

 

 三十分近く彷徨っていた割に持ってきたのは安物のサラダとおにぎり一つ。

 

 客は同年代の女だから健康志向とやらに被れているのだろうが、しょぼい事このうえない。

 

 こんな深夜に来るのなら、少しは奇をてらった物でも買えばいいモノを。

 

 客に気付かれずにため息を漏らしながら受け取った小銭を目にすると、手の中の丸い金属の塊は思考を嫌な方へと歪めていく。

 

 職を離れて創作活動1本に絞った俺は、今まで無用な事に時間を取られていた鬱憤を晴らすかのように我武者羅に筆を走らせた。

 

 しかし、世の中そんなに甘いものではない。

 

 この手が生み出した作品は、その悉くが世間に受け入れられる事無く消えていった。

 

 書き方を見直し、世のトレンドを勉強し、そして山と参考資料に目を通す。

 

 しかし、書き上げた物は最終選考にすら通る事は無い。

 

 そうこうしている内に蓄えていた貯金も底をつき、俺は生きるために再び働かざるを得なくなった。

 

 とはいえ、自分の時間のすべてを創作活動に傾ける生活を知った俺にフルタイムで働く意欲は沸かず、比較的自由に時間が使えるフリーターへと落ち着くこととなった。

 

 そうして昼は創作活動、夜はコンビニのバイトという生活が続いているのだが、近頃は疲れを感じる事が多くなった。

 

「店員さん、この商品2つ買ったことになってるだけど?」

 

 不意を突くように示された客の指摘は、内側に埋没していた俺の思考を一気に引き上げた。

 

 渡されたレシートを見れば、確かにおにぎりの会計は重複している。

 

 普段はこんな事をなどしないのに、まったくもって間抜けに過ぎる。

 

「お客様、申し訳ございません。すぐに返金させていただきます」

 

 会社にいた頃に体に染みついた謝罪を行い、すぐにレジを打ちなおす。

 

 遅々として進まない作品作りへの焦りと現状への不満は、こうして日常生活にも顔を出すようになった。

 

バイトの作業も細かいところでミスが出て、店長の信用も明らかに下がり始めている。

 

 この状況から脱したいとは常に思っている。

 

 考え得る方法を片っ端から取っているのに、スランプという泥は足に絡みついて離れようとしない。

 

 昔はアイデアなんて無限に出てくると思っていたが、そうじゃない。

 

 アイデアは枯渇する。

 

 作品を一つ作り上げれば、想像力というのはゴッソリと失われるのだ。

 

 そして、減少したそれはよほどの刺激や感動を得られない限りは回復しない。

 

 やはり、俺のには物書きとしての才能などないのかもしれない。

 

 だとしても、人生の半分を追いかけてきた夢を諦めるなど出来る訳がない。

 

 為す術もなく暗い海の底へと沈んでいくような不安と焦燥の中、俺は日々の生活の中でもがき続けている。

 

 

 そんな生活で心が疲弊する中、とうとう俺は筆を持つ事すらしなくなった。

 

 そうすれば残るのはバイトと安アパートの一室で寝転がるだけの日々。

 

 そんな死にかけの野良猫のような生活を惰性で続けていると、バイトの途中で後輩の倉田が話しかけてきた。

 

「センパイ、なんかお疲れっスね」

 

倉田は半年前に入ったバイトで、金に染めた髪や耳のピアスなどチャラいイメージのある男。

 

 そういったモノに良い印象を持たない俺は、業務上以外の事ではあまり口を聞いたことはなかった。

 

 しかし、多くの事がままならない現状に辟易していた俺は、この時思わずAに愚痴を漏らしてしまった。

 

「ああ、資格試験の勉強が上手くいかなくてな……」

 

 小説を書いているなんて言えば馬鹿にされるのは目に見えているので、適当な理由で帳尻を合わせた。

 

 するとAは軽薄な笑みとともにこう言った。

【画像】『白い粉が入ったビニールの小袋を持つ後輩』

 

「頑張ってるんスね。だったらオレ、いいモン持ってんスよ」

 

 言葉と共に倉田がポケットから取り出したのは小さなビニール袋に詰められた少量の白い粉。

 

 まるで刑事ドラマに出てくる違法薬物のようなソレに、俺の声は思わず上ずった。

 

「……なんだよ、これ?」

 

「オレのツレから貰った滋養強壮の栄養薬なんスけど、こいつ、メッチャ効くんスよ!」

 

 こちらの懸念などどこ吹く風と、妙にテンション高く『栄養薬』とやらをプレゼンする倉田。

 

 さすがに他人から薬品を貰うなど勘弁してほしいのだが、異様なまでの倉田の強引さに負けて、俺は受け取ってしまったのだった。

 

 

 背中越しに感じる古い井草の感触と部屋にベッタリと染みついたヤニの匂い。

 

 今日も俺はこうして古臭い天井の木目を眺めている。

 

 創作活動は相変わらず牛の歩みのように進まない。

 

 ……いや、前に進んでいるだけ牛の方がマシというものか。

 

何時も通りの自己嫌悪に苛まれて寝返りを打つと、俺の眼に部屋の隅にある小さなタンスの上に放置された例の栄養薬が映った。

 

 押し付けられた時には帰りにでも捨てるつもりだった薬、しばし悩んだ後で俺はそれに手を付けた。

 

 注射器を使用しなければならない時点で怪しいのは百も承知だったが、それでも俺は欲していたのだ。

 

 夢であったはずなのに、筆を持つことが苦痛に感じてしまう現状を変える切っ掛けを。

 

覚悟を決めて打った薬、その効果は劇的だった。

 

 最初に鬱積した気持ちや日々の疲れ、今まで自分にぶら下がっていた錘が全てが吹き飛んだような爽快感が訪れた。

 

 そして枯れ果てた筈の想像力の泉から噴水のように湧き出るアイデア。

 

 何時間机に向かおうとも、何枚原稿を書こうとも疲れを感じない高揚感。

 

 何より、久々に感じた物を書くということの楽しさ。

 

 全身の細胞すべてが覚醒するような全能感に任せ、俺は時間が経つのも忘れて頭の中にあるイメージを文字にしていった。

 

《覚醒剤は脳神経系に作用して心身の働きを一時的に活性化させる(ドーパミン作動性に作用する)》

 

そうして休むことなく丸二日机に向かった俺は、ある時を境に猛烈な疲労と倦怠感に襲われた。

 

 寝食を忘れて机に向かっていたのだから限界が来たかと思って一度眠ったのだが、眼が覚めてみても疲労感がまったく抜ける様子もない。

 

 おかげで休み明けだというのにバイトを休むことになってしまった。

 

 さすがにこれは拙いと考えた俺は、金輪際後輩の薬には手を付けないでおこうと思ったのだが、作業机に積み上げられた原稿の山が後ろ髪を引いた。

 

 なにより薬の切れた今の状態で書いた文章は、薬効があった時と比べて明らかに劣化しているのだ。

 

 あの時に書き上げた原稿を見た時、俺は15年間筆を執ってきた中でも最高の作品になると直感した。

 

 作品はこれからがクライマックスだというのに、ここで文章の質が落ちてしまっては話にならない。

 

 薄く靄が掛かったような頭を無理やり回転させ、何度も書き直すもやはり納得のいくものはできない。

 

 夢に手が届くという確信とあと一歩のところまで来ているのに足踏みしている焦燥感、なにより薬の効果を得ている時の万能感にも似た快感が忘れられなかった俺は、心のどこかでいけないと分かっていながらバイト先で倉田にコンタクトを取ってしまった。

 

 

「例の栄養剤っスか。あれって結構高価な代物なんで、そう何度もタダでってワケにはいきませんよ」

 

 コンビニの裏手にあるゴミ置き場。

 

薄暗い建物の陰に隠れて倉田の顏など見えないはずなのに、奴が悪魔もかくやの笑みを浮かべていることが分かる。

 

 やはりというか、倉田は金を吹っ掛けてきた。

 

 価格は前回に使用した小さなビニールの小袋一つで2万5千円。

 

 一回分の薬としてはもちろん法外な値段だ。

 

しかし、この時の俺はそんな事すら考える余裕もなかった。

 

Aから薬を購入した俺は、家に帰宅すると早速薬を使用した。

 

前回と同じく強烈な快感と万能感を得た事で執筆活動は勢いを取り戻したのだが、それも薬が効いている内の話。

 

薬が切れれば襲い掛かってくるのは筆舌しがたい疲労感だ。

 

食事は何を食べても吐き出すほどに不味く感じ、三度目以降は壁が歪んでグニャグニャに見えたり、常にパトカーのサイレンの音が聞こえるようになった。

 

《その他の副作用としては①発汗が活発になり、喉が異常に渇く。②内臓の働きは不活発になり多くは便秘状態となる。③性的気分は容易に増幅されるが、反面、男性の場合は薬効が強く作用している間は勃起不全となる。④身体揺すりなど、常に同じ行動を取る事が見られ、不自然な筋肉の緊張、キョロキョロと落ち着きのない動作を示すことが多い》

 

 そんな息をするのも辛い状態から脱する方法はただ一つ、例の薬を打つ事だけだった。

 

 そうして俺が薬を打つ理由は、創作活動から使う度に短くなる快感を得るためとその後にくる地獄の苦しみから逃れるためになっていった。

だがしかし、薬の相場は2万円以上。

 

バイト暮らしの俺の貯えでは買い続けられるはずがない。

 

ささやかな貯金もあっという間に底をつき、薬欲しさに手を出したサラ金や闇金の借金は雪だるま式に膨れ上がった。

 

 手元に残っている金は小銭が数枚、薬を買うにはまったく足りない。

 

 それでも薬がほしいと思う心は止められない。

 

 今の俺は薬が無ければ生きていけない身体になってしまったのだから……。

 

 気付けば俺は自室の玄関の扉に背を預けて、手にした包丁の刃紋に目を落としていた。

 

 ああ、今もパトカーのサイレンは鳴りやまない。

 

知らない奴の声も頭の中に響いている。

 

 己の身体を見れば手や首筋から肌を食い破った蟲が顔をのぞかせているし、目の前では顔のない誰かが俺を嗤っている。

 

 実験室のラットを見るように世間の奴等は俺の事を監視しているに違いないし、殺し屋は常にの後ろを狙っているに違いない……。

 

 煩わしい…煩わしい……煩わしいっっ!!

 

……奴等を追い払う方法はただ一つだけ。

 

 薬を打っている時だけは、俺を苛む全てから解放される。

 

 ───その安息を得る為なら、俺は何だってできる。

 

そう、なんだって……

 

 

薬を買う金欲しさに殺人を犯そうとした俺は、結局一人も殺める事無く警察に捕まった。

 

包丁片手に大通りに出たところで、運悪く……

 

いや、この場合は運よくと言うべきだろう。

 

 通りかかった警察官に捕縛されたのだ。

 

 包丁を持っているとはいえ、こっちは衰弱甚だしい薬中の身だ。

 

 屈強な警察官に叶う道理などない。

 

 収監された拘置所ではテレビを見ることが出来たのだが、未遂とはいえ薬物中毒者の強盗殺人という事で、俺の事件が結構な頻度でニュースに取り上げられていた。

 

 その中で書きかけていた俺の作品も紹介されていたのだが、こんな形で世間の目に出る事になるとは何とも皮肉な話だ。

 

 まあ、お蔭で最後の未練も晴れたのだから幸運と思うべきか。

 

俺の眼のまえに、窓に備え付けられた鉄格子に結わえた白い紐がある。

 

配布されたシーツをバレないように千切ってこさえたお手製の縛り首用の縄だ。

 

 作品に彩を与えるための知識がこんなところで役に立つとは、『事実は小説より奇なり』とは言い得て妙である。

 

なんにせよ、思い残すことはない。

 

今回の件で、俺の夢は完全に潰えたと言えるだろう。

 

人生の目的を失って、さらに薬の禁断症状と戦いながら前科者として生きるなんて、俺には到底できそうにない。

 

なら、これ以上無様な姿をさらす前に自分で幕を引くべきだろう。

 

この結末に後悔は尽きないが、それを言っても仕方がない。

 

すべては俺の選択がもたらしたものなのだから。

 





 初のオリジナルで暗い話というのもどうかと思いましたが、メイン作品にシリアルが多いので偶にはいいかと。

 なお、この話は知人の協力でYOUTUBEで動画にもなっています。

『ヒューマンバグ大学』もしくは『【漫画】シャブ中毒になったらどうなるのか?衝撃の末路。』で検索していだだければ見る事ができます。

 時間も3分ほどですので、もし興味のある方は暇つぶしがてらに見ていただけると幸いです。

 
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