千恋*万花 〜神の暇つぶしによって作られたもう一つの可能性〜   作:ギルヴィニア

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将臣「……頼むからその呼び方は辞めてくれ……」

『お客さん』

 

将臣「……」

 

『お客さん』

 

将臣「……あ?」

 

運転手「お客さんってば」

 

将臣「……ん?……はい、なんですか?」

 

飛び起きた俺は、目を擦りながら前に座っている運転手に返事をする。

 

運転手「そろそろ着きますけど、どこで止めますか?」

 

将臣「え?あ、そっすね……」

 

電車を降りて、駅前でタクシーを捕まえたは良いが、いつの間にかうたた寝をしていたらしい。

 

俺はまだ大雑把な目的地しか伝えていなかったのを思い出した。

 

将臣「志那都荘まで行ってくれますか?」

 

運転手「あーすみません。アタシはここいらに詳しくないんですよ……ですからね奥まで行くのは勘弁してもらえませんか?」

 

将臣(……サービスの悪い運転手だな……)

 

それが顔に出てしまっていたのか、愛想笑いを浮かべながら運転手が言う。

 

運転手「本当にすみませんね」

 

本当に申し訳ないと思っているなら安くしてもらえないものか……そんなことを考えてしまった。

 

将臣「……わかりました、ならここでいいです」

 

「ありがとうございます」

 

タクシーが止まり、俺は精算を済ませて、タクシーを降りる。

 

運転手「……わざわざイヌツキの土地に祭りを見に来るなんて、不心得者が増えたもんだよ、全く……」

 

将臣「……」

 

降りる前に聞こえてきた呟き。

 

無視してそのまま外に出た。

 

あんなのに一々反応していたら過労死しかねんからな……

 

将臣「……まだ距離があるけども……まぁいいかどーせじーさんにしごかれるだろうから歩くのもいいか……」

 

 

息を吐き、両手を腰に当てて、大きく背を仰け反らせる。

 

ずっと座っていたせいか、腰の辺りでポキポキと骨が鳴った。

 

将臣「んーーーーー!!!!つっかれたぁぁぁぁーーーーー!!!」

 

家を出て電車を乗り継ぎ約2時間。

 

そしてタクシーを使って約30分。

 

青々とした木々ばかりの面白味のない風景の峠を抜け、ようやくたどり着いた穂織の町。

 

将臣「相も変わらず不便な所だな……ここは……」

 

電車も走っておらず、交通手段と言えば路線バスが路線バスが1時間に1本。

 

それが嫌ならば自分たちで車を用意するしかない。

 

徒歩で移動できる範囲は大自然ばかりという、山間にある田舎町。

 

──のはずなのだが

 

将臣「意外に賑わいがあるんだよな……」

 

理由の一つはこの町並み。

 

小京都とも呼ばれる、整備された町並みは、いい意味で 【和】の雰囲気を色濃く残している。

 

あの面白味のない想像のできない、綺麗な町並みとなっている訳だ。

 

そしてなにより、穂織の町は温泉が知られている。その主な理由は効能にある。

 

どんな病気でも治るし、入浴すれば肌もツルツル、信じられない程様々な効能がある万能薬……とまで言われることがあるらしいが……俺は効果の程は忘れた。

 

つーわけで療養なんかで来る人が昔から結構いる温泉地である。

 

最近ではネットや口コミで噂が広まり、外国人が観光客も増えたらしく、今も日本語以外の会話がたくさん聞こえる。

 

将臣「……こんな入口でぼさっとしてないでさっさと行くか」

 

観光しに来た訳じゃねぇんだから、立ち尽くしても仕方ねぇし。

 

???「……?……んー……あの」

 

将臣「ん?」

 

誰っすかね?なんか女性に話しかけられた。通報とか勘弁してね?

 

芦花「人違いならごめんなさい。もしかしてまー坊?」

 

……誰とか考えたけど、俺の事をまー坊とか呼ぶ人は1人しか心当たりが無いな。

 

将臣「……アンタか芦花姉!」

 

芦花「やっぱりまー坊だ!よかった、人違いじゃなくて、やーやー随分とお久しぶりだね」

 

明るい笑顔を浮かべながら手を振っているこの人は真庭芦花。確か……俺より2、3歳年上だったような気がする。

 

俺が子供の頃、おふくろに連れられて穂織に帰ってきた時によく一緒に遊んでもらっていた。

 

将臣「元気してたか?」

 

芦花「うん、元気元気〜。まー坊の方こそどうしてたの?あれ?何年ぶりだったっけ?」

 

将臣「ここに来たのは確か……4年ぶりじゃなかっけかね?俺も特に問題無し、健康そのものだ」

 

芦花「そっか、もうそんなのなるのか……随分と大きくなったね、まー坊……まさか、まー坊を見上げなきゃいけない日が来るとは……あたしに無断でこんなに背を伸ばすなんて生意気な」

 

将臣「無茶言うなよ……去年位だったかな……グイグイ背が伸び始めてな……それこそ膝が痛くなる位にな」

 

芦花「そっな……4年もあれば大学だって卒業できるもんね。大きくもなるか……」

 

将臣「芦花姉もちゃんと成長……?縮むのも成長って言うのか……?いや、むしろ退化だな」

 

芦花「おやまあっ。本当に生意気に育っちゃって、この」

 

俺の頭をペシッと叩く芦花姉。

 

芦花「……頭を叩くのも結構ギリギリかぁ……身体もがっしりしてきたし、本当に男らしくなったもんだね」

 

将臣「お陰様でね……所で芦花姉?」

 

芦花「ん?なに?」

 

俺はさっきからずっと思っていた事を言った。

 

将臣「……頼むからその呼び方は辞めてくれ……」

 

芦花「えー?いいじゃんまー坊」

 

将臣「よかったら俺は言ってない」

 

芦花「昔からの癖だから……今更戻すのも……ねぇ?」

 

……直す努力をするのが面倒なだけだろうに……

 

芦花「……で?1人?」

 

将臣「……無視かよ……今回は俺だけ、宿の手伝いに駆り出されてな」

 

そうあれは数週間前の事だった……

 

都子『将臣、アンタお祖父ちゃんの所に行ってきなさい』

 

俺が家でラノベを読みながら超絶リラックスタイムをエンジョイしている時に母親の有地都子(ありちみやこ)が言ってきた。

 

将臣『は?いきなりなんだよ?』

 

都子『お祖父ちゃんが経営してる旅館、春や夏、正月なんかは繁忙期なのは知ってるでしょ?』

 

将臣『あー……確か……志那都荘……だっけか?』

 

都子『また宿の手伝いに来て欲しいんだってさ』

 

将臣『おー、頑張って行ってらっしゃい、土産は話だけで充分だから気にしなくていいっすよ』

 

都子『息子が⑨で母さん悲しいわ……』

 

将臣『なんで俺なんだよ……そういう時はいつもおふくろが手伝いに行ってたのに……所でなんで⑨なんて言葉知っている?』

 

都子『今年は駄目なのよ、お父さんと旅行する予定をもう入れちゃったの。ヨーロッパに1週間ちょっと、それにアンタ、もう何年もお祖父ちゃんに会ってないでしょ?挨拶もかねて行ってきなさい』

 

将臣『……質問に答えろや』

 

都子『行けばバイト代も出るわよ〜?もちろん交通費も出す、手伝いに行かないなら旅行中の食費とかは自腹でよろしく』

 

将臣『汚ったね!それは汚いだろ!?』

 

都子『汚くない大人がいると思ってんの?』

 

将臣『それを真顔で言える精神すげぇわ』

 

流石俺の親だわ。

 

都子『親だから子供に現実を教えてあげてるんでしょう?それが世の中ってもんよ』

 

将臣『あのさ、俺は1週間位なら自炊も出来るし最悪水と雑草だけでも生きて行けるから留守番してていいっすかね?』

 

都子『いいから行きなさい。もう何年挨拶してないと思ってんの(╬´^ω^)』

 

アカン、俺の本能が言っている。これ以上怒らせたら……やばい事になると。

 

都子『子供の頃からお世話になってたんだから。1度くらいは手伝いをしてきなさい』

 

将臣『……俺みたいな素人がお手伝いにいっても邪魔になるだけだと思うんだけども』

 

都子『何言ってんの、衛宮〇郎みたいな万能スキルもないアンタみたいな素人をお客さんの前に出す訳無いでしょうが』

 

将臣『ちょっと待て!?体は剣で出来ている(I am the bone of my sword.)人と比べられて勝てるわけないだろ!?つーかなんでその人を知ってるんだ!?』

 

都子『草刈り、お風呂掃除、ごみ捨て、皿洗い、裏方の仕事もたんまりあるわよ、春休みもずっと家にこもってゴロゴロしてるだけでしょうが。いいから行ってきなさい!』

 

将臣『質問に答えろぉぉぉぉ!!!』

 

 

 

 

 

将臣「……ってことがあった」

 

芦花「ごめんまー坊、3割程分からなかった」

 

将臣「大丈夫、それが普通の反応だから」

 

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