CARBONADOの行く先は 作:いしっころ
「これじゃ、もう海賊は狩れないか……」
敵が持っていた紙を拾い上げて読み取った後それを捨てた。僕に取っては別にどうでも良い事だけれど、でも今後の生活に響く事だった。
たった一度、たった一度だけ癇に障って世界最高権力を持つ天竜人を殺した事がある。何だか伴侶にするえなんて言って僕の腕を引っ張り、断ろうとすれば撃ってくる。こんな理不尽があるのかと思い、持っていた獲物でその首を斬り落とした。
いやだってそのまま従っていったとしても、伴侶だとしても元は下民なので扱いは奴隷。それもちょっと待遇が良いぐらいの。奴隷になるぐらいなら此奴を殺したほうがマシだと思って実行したんだけど、まぁ大変だ。
流石は最高権力者。元々賞金首ではなくても、地位が一番上の者を殺したんだからな、即座に指名手配。ま、大将に追いかけられたのは肝を冷やしたけど。見つからないように逃げ回ったさ。僕には人間の気配や鼓動、息遣いなどがない。どうやって声を出しているのかさえ不明なのだし、何故か見聞色の覇気にすら引っかからないチートっぷり。まぁそのお陰で助かったのだけど。
「にしても僕の名前を教えた記憶はないんだが……」
誰にも告げずにいたのに、何故か手配書にはちゃんと名前が書かれていた。謎だ。
手配書の名前欄にはこう書かれている。
“BORT”
ボルツ。それが僕の名前。そして、この身体を構成する宝石の名前でもある。
本当はカーボナードと言うんだけど。
そして、その懸賞金は。
「二億か…………」
いきなりの億越えである。
海賊狩り過ぎたかな……。
まぁそれは何十年も前の話だけど。
カーボナードとはダイヤモンドに属する黒い多結晶ダイヤモンドの事である。ブラックダイヤモンドとも呼ばれるが、僕の場合カーボナードではなくボルツなのでダイヤモンドを研磨した後にあるクズの方が適しているのかもしれない。
先程この身体を構成する名前とも言ったが、その言葉通りでこの身体はカーボナードでできている。どうしてそうなのかは知らない。でも気がついたらこの姿でこの身体だった。
足元まである長い帯状の黒髪に、白いシャツ、黒のネクタイ、半袖短パンの黒い服、手足を包むオペラ・グローブに、ストッキングを着てローファーを履いている。
この姿に記憶が無いわけではない。この世界とは違う世界、人間が滅びた何千何万何億年後かわからない遠い未来の世界に生きる宝石の姿だった。そしてその世界で生きる宝石達の先生を抜いて一番強い者と同じ容姿である。その名はボルツ。戦闘狂で、仲間思いで、クラゲが好きな子だ。キツい物言いをして、元からあまり話さないキャラなのだけど……僕とは大違いだね、とても話す。合ってるのは一人称ぐらいだ。
そしてその子達の特徴と言えば不老不死であり、身体が宝石でできて食事排泄が必要なく、性別がない事だ。
そう重要なのは性別がない事だ。オスでもメスでもない、そもそも死なない。なのに天竜人は伴侶にしようとした。穴という穴はないのだ。あるとすれば、食道がない口、鼓膜がない耳、口にも食道にも繋がっていない鼻の穴である。繁殖しようにもできないんだから、あのまま連れてかれたら割れて装飾品にされるのがオチだった。今考えれば、僕の行動は最善だったと言える。
「受付はここか?」
因みに口調はボルツに合わせている、というか自然に出てくるのでキャラ作りしなくて楽だ。
そして僕が来たのはドレスローザという国。そこにある闘技場で開かれる大会に参加する為に来たのだ。船はどうしたのか?そこらの海賊船から奪って来た。勿論海賊旗は取っているが。地味な船でよかった、観光客だと思われたんだから。入国審査とかなくて良かった、行く道人々に見られるが誰も捕まえようとして来ない。まぁ、海兵があまりいないのもあるが。
「え、えぇ……参加ですか?」
「あぁ」
「失礼ですが、この大会は生死を賭けた闘いです。しかも今回は優勝商品が商品で……強者揃いなのですが……貴方のような……」
言いたいことは分かる。
この世界の人たちは何かと身長がでかい。それに比べて僕は背が低く、そして線が細い。ガタイが良いわけでもなく、見た目から筋肉がないことが分かる。でも一般人よりは強いつもりだ……って当たり前か。
とにかく目の前のお姉さんの心配は無用って事だ。自分の力に自負がなければ参加なんてしないさ。
「大丈夫だ」
「そ、そうですか……では此方へ名前を」
僕の有無を言わせない態度に寝負けしたのか、受付の人は頷いて紙を差し出して来た。ペンを受け取り、ボルツと名前を書いた。
「はい、ボルツさんですね。係に従って進んでください。一回戦はブロックごとのバトルロイヤルでして、ボルツ選手はDブロックですので覚えておいてください」
受付のお姉さんと別れ、案内係の人について行く。途中で選手番号と名前がついたシールを渡され、身体のどこでも良いから貼ってほしいの事。仕方ないので、腕のグローブに貼っておいた。
案内された選手控え室では様々な人が大会に向けてウォーミングアップをしている。大小色んな奴がいるけれど、総じて皆が皆ガラが悪そうだ。まぁこんな大会に出場する程だ、育ちが良くてはやっていけないだろう。
にしても男しかいない。それはそうか。命を賭けた闘いだ。例え死なないとしても、死ぬ可能性がある。生まれつき力も劣る女性では優勝は夢のまた夢なのかもしれない。まぁこの世界では強い女性は沢山いるが。
さて、大会が始まるまでどこにいようか。準備はこの得物一本で十分だし、あぁ一応武器防具を使うなら重量制限があるとかなんとか。超えていないところを示すしかないな。で、それは何処に行けば良いのだろうか?
「それは、彼方ですね。案内します」
受付とは違うお姉さんに案内され歩き出す。途中此方を向いた好奇の目が嫌に気になってくるが、殆どが侮っているような感情に見える。実際この姿だ。この世界からでは小さいし、華奢だ。何でこんな奴が?と思うかもしれない。僕も実際に思った事がある、何でこんな人がってな。
案内係のお姉さんがいるからか誰も突っかかって来ないので助かる。面倒ごとはごめんだ。この整った容姿から絡まれることはあるので、そういうのは飽きた。まぁダイヤならば僕よりも絡まれていたかもしれない。
そんなこんなで武器防具が並ぶ場所へ来た。色んな奴が試しており、振り心地などを確かめていた。近くに体重計のようなものがあるため、あれに乗れば良いのだろうか。
「武器防具は選び放題ですが、重量制限があるので注意してください。では、私はこれで」
「あぁ」
お姉さんを見送り、周りを見渡す。屈強な男達が犇めく中、僕はすいすいと間を縫って歩き、重量を計る秤の場所へと着いた。
ペンと紙を持ったコロシアムの人間が此方へと目を向け、そして小さく目を見開いた。というか、コロシアムの係員は総じて小さいのにそれより小さい僕って一体。これでも165はあるんだけどな。
「持ち込みの武器はこれだけだ」
腰につけてある得物を外し、目の前に掲げる。僕は常にこの一本でやってきた。防具もない、斬り付けられたら一発で血が飛ぶような服装で。まぁ僕の場合、血は飛ばず宝石が散るんだけども。
「では乗ってください。本人の重量も含めての制限ですので」
成る程。本人が軽ければその分力は弱くなる。例外は沢山あるけど、重さや大きさはそのまま力に直結する。あくまで平等に行こうというわけか。
言われるがままに乗る。秤が傾き、僕の重さを示す。と言ってもあまり傾かない。僕には筋肉もないし、駄肉もなく、内臓も、骨さえない。あるのは宝石と中にいる微小生物のみ。
軽って言ったの聞こえたからな?係員さん。仕方がないじゃないか、これ以上太ることも大きくなることもない。老けることもなしで、一生このままの重量のままだ。鉱石だからと言って重いわけではなく、多結晶なので他のより重いけれど人間程ではない。なので、この身長に比べて僕はとても軽い。
唯一重いのはこの得物のみか。
「制限を下回っているので大丈夫です」
「そうか」
難なくクリアらしい。台から降りて、手に持っていた得物を腰に回し後ろでぶら下げるようにしてつける。横がとても広くて邪魔にはなるが、その分楽なのは確かだ。この形に慣れてしまったのも大きいが。
もうここには用は無いので、コロシアム内をぶらりと探索するか。始まるまで時間がある。しかも僕は最後のブロックだ。やる事がない。ここじゃ戦闘や乱闘は禁止だしね。
それに人が此方を見てくるのは居心地が悪いから選手控え室に帰るのは選択外だ。
「クラゲでもいたら……」
ボルツの影響か、僕もクラゲはちょっと好きになった。陸に上がったクラゲはあまり好きではないけれど、漂うあの感じを見ているのは嫌いではない。寧ろ好きだ。クラゲ好きな気持ちがわかった気がする。
そういやこの大会は強敵揃いなのだから、修復用のもの用意したんだった。いつの間にか鞄はないし、何処に置いて……あぁ、さっきの武器のところ。出る分には邪魔なので鞄は置いてしまったのが仇となっちゃったか。
んー、戻るの面倒。けど、アレがないと困るし。
僕達宝石は人とは違う。ならば当然、治療方法も違うに決まっていた。
そもそも僕以外に宝石を見た事がないからなぁ。あ、動くやつで。身体に会う糊を探すの面倒だったんだから……割れた事ないけど。
来た道を引き返し、さっきの武器庫へ行く。道なら覚えているので心配無用。
コツコツとローファーを鳴らしながら、引き返していると何か僕よりもキラキラした金髪の男性が目の前を通り過ぎて行った。あの方向は僕の行く場所と同じ。重量だけ計りに行く気かな?絶対防具とか付けないタイプだ。薔薇持ってたし。
キャラが濃そうだなぁ。真っ黒とは言え光を浴びれば少しは輝く僕よりも、人間でありながらキラキラしてるなんてなぁ……面白い人もいるもんだ。
あと、強者の余裕を感じた。アレは慢心ではなく、本当に強いと自負している表情だ。
戦えるかな?戦いたいな。
言うのを忘れていたが、僕もボルツと同じく戦闘狂だ。彼の特性を継いでいるのだから当然だろうけど、意識と性格だけは違う。彼ならきっと強そうと言うだけで、この場で斬りかかっていただろう。
そんな事は僕はしない。ここは戦闘禁止。やるならば、リング場でだ。
そっと無意識に得物に伸ばしていた手を納めて、僕は歩き出した。
けど、何か見たことある顔だなぁ……どこで見たっけ?
宝石の国にハマって、ONE PIECEに再熱したらこれが出来てた。わかるようにボルツ推しです。
もう一つと並行してやって行くけど、エタッたらごめんね。
一応ドレスローザ編完結まで頑張りたい。