CARBONADOの行く先は   作:いしっころ

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忘れ物

 

 

「ん?これ、何だ?」

 

海賊貴公子キャベンディッシュの説明を聞き流しながら重量オーバーの防具を着て乗った麦わらのルフィもとい、剣闘士ルーシーは係員のノー宣言を食らってぶーたれながらも、ちゃんと言う通りに重い防具を外して行った。

そこで計り器の横にある荷物に気がつき持ち上げた。首を傾げながら、何なのだろうと思案する。

 

「あぁそれは先程いた選手が忘れて行った物だ」

 

係員の説明に、キャベンディッシュは溜息をつき、その小さな荷物を見る。

 

「ここで忘れ物をするとはね、失くしたも当然になるよ」

「ふーん……飯かな?」

「さぁね」

 

ここでは食事は出ない。その事を思えば、中身が食料だと言うのも頷ける。だが知らない身からすれば、そうだとも言い難い。

ルーシーは人の物にも関わらず、荷物を開けて中身を見た。あるのは大きな瓶が二つと、わたと、ヘラが入っていた。その小さな小物には目をくれず、瓶の片方を取り出し取り出し目の前に掲げた。

 

「この粉、食えるかな?」

「……君って馬鹿なのか?」

 

白い粉は恐らく食糧品ではない。もし片栗粉などだとしても、そのまま食べるものではないし、このコロシアムにそれを持ってくる価値もない。片栗粉を持ってきてどうすると言うのだ。

 

「じゃぁこっち」

「それも無理だろう」

 

透明な粘っている液体。百歩譲って水飴だとしよう。それも先程のように持ってくる意味がわからない。水飴が大好きなのならば、あり得るかも知れないが。

 

「何だよー!飯じゃねぇのか!」

「人の荷物を漁っておいて、その言い草はないな」

「ん?」

 

キャベンディッシュとは違う声がして、そちらを降り返る。そこには黒い帯状の髪を持った線の細い女がいた。ルーシーより背が低いにも関わらず、長く細い足はストッキングで隠されている。腕も同じく長いグローブで隠されており、半袖短パンにも関わらず露出が少ない服装だ。

しかし、その切れ長の目と整った顔付きには誰もが振り返るだろう。そのぐらい美人なのだ。怖いくらいに彼女は一種の芸術品と言える程整っていた。

また何か僕より目立つ奴が……!なんて思っているキャベンディッシュとは裏腹に、ルーシーは首を傾げて、誰だ?と問う。

 

「ボルツ、大会参加者だ。その荷物は僕のだ、返して貰おう」

 

すっと細い腕が差し出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやー、良かった。まだ捨てられてはいなかった。まぁ中身は大半の人には関係もなく、意味もない物なので盗まれるという心配はないが、捨てられていたらどうしようかと。

人の良さそうな顔をした白髭の人が、飯じゃねぇのかなんて言った時は焦った。貴重なものなのだ、返してもらいたい。その瓶一杯の値段はそれなりだ。まぁ僕の身体全部よりは安いけど。

 

「そっか!お前のか!いやー、悪かったな!バルス!」

「ボルツだ」

 

そんな古代文明の結晶が滅びそうな呪文みたいな名前じゃないよ。目が!目がぁ!!

 

「にしても、飯じゃねぇそれ、何に使うんだ?」

 

純粋に気になったのだろう。疑いの目でもなく、ただ単に疑問に満ちた目。心根が真っ直ぐなのだろうか?面白そうな人だな。

 

「治療だ」

「「はい?」」

 

近くにいた先程のキラキラした金髪の男性も目の前の剣闘士と同じように首を傾げる。いやまぁ人間からすれば治療に使うようなものではないのはわかる。僕だからこその、これだ。

割れた時用の繋ぐための糊、その繋ぎ目を隠すための白粉。僕達宝石ならではの医療道具。まぁこの世界には僕一人しかいなさそうなので、首を刎ねられたら終わりなんだけども。誰も治療の仕方がわからないだろうし、断面図を見れば人間でないことがわかるので気味悪がられるか、売られるかのどちらかだ。ヒューマンショップはやだなぁ。天竜人に十中八九会うもの。

 

「ちょっとまて、中身を見させて貰ったがどう考えても傷を治すためのものじゃない。逆に悪くするようなものばかりだ」

 

まぁ血を早く固めさせるための粉でもないからなこれ、ただの白粉。平安時代に女性達が顔に塗りたくってたあれだ。白いのに何故かポンポンとすると薄っすらと肌色になるのは不思議だけど。

 

「普通はそうだろうが、僕は少し特別だ。人間がするようなものでは到底治らない」

「その言葉は能力者だと言うように聞こえるが?」

 

うーん、半分アタリで半分ハズレ。確かにこの身体は能力者に近いけど、能力者達は人間をやめていても人外ではない。僕は寧ろ元から人間ではないため能力者でもない。海に嫌われていないしね。この身体以外特筆すべき能力もない。ま、元から種族が違うとでも言えば良いのだろうか。

 

「能力者は人間だろ、何を言っている」

「君が何を言ってるんだ」

 

何だろうか。残念な子を見るような視線だ。癪に触るので、この金髪キラキラから視線を外し重量制限をクリアした剣闘士へと移す。どうやら、この装備で大丈夫だと喜んでいるようだ。

にしても、この剣闘士も強者な予感がする。何か戦いたくてウズウズする。隙だらけに見えるけど、隙がないもの。気になるなぁ。

 

「お前、名は?」

「ん?おれはルフィ!海賊王になる男だ!」

「「「え!?」」」

 

周りがざわざわしている。ルフィと言えば、あの麦わらのルフィだ。懸賞金4億超えのルーキー。出てきてから僅か一年も経たずに億超えとなったその実力は折り紙つきだと言えるだろう。

けど、そう名乗った彼の背には“Lucy”と書かれている。ルフィと言う名前ではないのは明白だ。偽名の場合もあるけど。

 

「ルーシーじゃねぇか!」

「あ、そうだった、ルーシーだ」

「紛らわしい発音しやがって!」

「いてっ!」

 

コーンとルーシーの頭部に盾がクリーンヒットする。痛そうではないけど、打ち所が悪かったら血が出そうだなぁ。

 

「なんだ、紛らわしい」

 

金髪キラキラの人は持っていた薔薇を食べながら少し怒っている。その薔薇食用なのか。持って自分を引き立てながら、小腹が空いた時に食べれる優れものだね。ただその残念な姿を目にしても周りにいる係の女達は倒れたままだけど。

 

「お前は」

「僕の名かい?僕は海賊貴公子キャベンディッシュ。よろしく」

 

薄っすらと微笑みながらそう言ってきた。キャベンディッシュか。長い名前だけど言いやすい名前だ。

 

「ボルツだ」

「さっき聞いたよ。けど、ボルツと言えば何十年も前……まだ海賊王が生きていた時代の賞金首の名前と一緒だ。名乗るのやめた方が良いと思うけどね」

 

いやそれ僕だから。ボルツなんて名前、今まで僕以外に聞いたことないし。詳しく言えば、海賊王が海賊として名を挙げる前から生きている。でもまぁ、俗世には疎い場所で暮らしてきたから、あまりその時代を聞かれても答えられない。賞金首になった年は、シャボンディ諸島で暮らしてたから、その時の事は話せるかな。わかるのは、今の大将の人達が大将じゃなかったって事ぐらいで……。

こう考えると僕って世間にあまり興味ないんだなって思う。有名所しか知らないもの。忘れてるってのもあり得るけど。

あ、一応理由聞いとこう。

 

「何故?」

「この世で最も重い罪を犯した奴だからさ。まぁ僕はどうでも良い事だけどね」

 

つまりは重罪人と同じ名前を名乗っていると勘違いされて捕まるぞと言いたいのだろう。余計なお世話と言っておこうかな。それ僕だし。

いやぁ、感情に任せてサクッと殺ってしまったら海軍最高戦力の大将の一人に追いかけられるんだから。そりゃもうしつこく。

あの時は大変だったなぁと思い出してると、目の前のキャベンディッシュはついと視線を横にずらした。

 

「……でも同じぐらい馬鹿をやらかし、そして同じ年で瞬く間に有名になった奴がいるんだが……麦わらのルフィは知っているかい?」

「あぁ」

 

そりゃぁ勿論。麦わらのルフィは大物ルーキーで、出てきてから数ヶ月は世間を賑わせた海賊だ。

そして二年前にマリンフォードで大暴れした者で、その前には天竜人を殴ったという事が世間に知れ渡った。

白ひげと白ひげ海賊団第二部隊長ポートガス・D・エースも世間を賑わせたが、それよりも麦わらの方が何故か世間受けした。どこか人を惹きつけるカリスマ性でもあるんだろう。ある人物によると覇王色の覇気も使えるらしいし……王になる資質はあるらしい。

 

「だろうね。で、僕の事は知っているかい?」

「……いや」

 

顔だけはどっかで見たことあるなぁと思ってただけで、名前は知らなかったし。

そうぼんやり思っていると、キャベンディッシュは震えだし笑い出した。何?怖。

 

「ふ、ふふふふ……っ!ほらこれだ!最悪の世代のルーキー共よりも先に海に出て、かつて世間を賑わせたこの僕が!麦わらよりも認知度が低い……!!この屈辱……殺さずしてどう晴らしてやるべきか!」

 

いやそれは逆恨みって言うんだよキャベンディッシュ君。

眉間に皺を寄せて人を殺せそうな目をしながら、薔薇をムシャムシャと食べるキャベンディッシュを前にしてそう突っ込めなかった。

キャラが濃そうなと思っていたけど、ここまで濃いとは思わなかったな。

黒いオーラを放つキャベンディッシュから後退り、踵を翻す。ここにいる意味もないし、荷物も持ったしやろうと思ってたコロシアム探索でもしてみようか。

 

「あ!ボルシチ!もう行くのか!?」

「ボルツだ」

 

そんな美味しそうな名前じゃないよ。今世では食べたことないけど。食べる機関がないし。

 

「おれも行く!」

 

何でだよ。別に良いけど。

好きにしろと言うばかりに、横目でルーシーを見た後振り返ることなく歩き出す。カツカツとローファーの音がする中、ペタペタと草履の音がする。付いてくるようだ。

 

……こういうのは気にしたら負けだろうね。

 

 




ボルツの手配書は似顔絵。但し画力はお察しである。
天竜人殺害事件以降特に何も事を起こしてないので、世間に忘れられがちなボルツくん、女に間違えられるの巻。女の子よりの顔だからね、仕方ないね。

ハッピーニューイヤー(早い)

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