CARBONADOの行く先は   作:いしっころ

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髪の毛

 

 

「君もいるかい?」

「いや、良い」

 

何処からか現れたシェフを後ろに控えさせ、食事を楽しむキャベンディッシュの誘いを断る。食事なんて今もしてるからね。光合成。

 

「何だ、つれないね。遠慮しなくて良いんだが」

「遠慮じゃない」

 

何だろう。戦いが終わった後から、キャベンディッシュが馴れ馴れしい。このCブロックが終われば、Dブロックの敵同士なのに。

気持ちが悪いなとは思うけれど、表情にはおくびには出さない。

ただ、僕が戦闘狂だとわかってからなので、彼も戦闘狂だという可能性が出てきた。僕との戦いが楽しかった、またやりたいと思ったなら好感度は上がるだろう。実際僕もそうだし。僕の好感度は、良い戦いをするかどうかが殆どを占めている。

キャベンディッシュはそうではないと思っていたのだけれど……もしそうなら仲間だな。戦闘狂仲間。

 

「……君の考えている事少しわかる気がするよ」

 

あ、バレた。

ちょっと嬉しくてジッと見ていたら溜息を吐かれた。

 

「どうせ、僕も戦闘狂かどうかなんだろう。残念、違うと言っておこう」

 

最低限しか鳴らない食器の音をBGMに彼の言葉を聞く。キャベンディッシュの手元を見ると、ステーキ肉がスッとナイフで切れていた。高そうな肉である。

 

「僕が興味あるのは、僕に注目する世間だけ。誰も僕を逃さない……あぁ!目立つって罪だね」

「僕はお前を知らなかったが」

「黙ってくれ!君は世間知らずってだけだろう!」

「いや、麦わらのルフィは知っていた」

「そこで奴の名を出すな!!」

 

えー、そんな理不尽な。

目の前には麦わらのルフィであるルーシーが黒い牛と共に頑張っているのに。あ、巨人に牛がやられた。

 

「君を実力者として認めたって事だよ。僕より目立つのは許さないが、その戦闘能力は評価しよう」

「随分と上から目線だな」

「実際、上だからね」

 

どういう意味だろうか。

 

「僕に負けたのにか?」

「うぐっ!」

 

図星だったらしい。というより事実か。

冷静な判断ができていなかったはいえ、負けたのが悔しいのだろう。何も言い返さずに、切ったステーキを口に運んでいる。

この身体になってからは普通の食事を美味そうだとは思うが、食べたいとは思わなくなった。人間という種族の食事を理解できないのではないのは、僕が人間だったからだろう。良いのか悪いのか。食事ができる彼らを羨ましくは思う。

コロシアムから歓声が上がる。巨大な巨人族か倒れていた。司会曰く、ルーシーが倒したのだそうだ。

 

「流石四億と言ったところか。強いな」

「ふん、当然だろう。忌々しい事にあの最悪の世代の一人だからな」

 

実力は認めているが、目立つ事だけは許容しないようだ。

強ければ強いほど世間の注目を浴びる職である海賊は、随時新聞のトップを飾る人物を変える。まぁ麦わらのルフィの場合、他の海賊を凌駕するその破天荒さと、若干十九歳でありながら、四億の賞金首。皆が放っては置かないだろう。

僕はずっと二億だけど。

 

「ところで君のその髪、どうなっているんだい?」

 

ん?髪?

急に話題変更してきたキャベンディッシュの言い分に首を傾げる。何で急に髪の話を?

 

「先の戦闘の時、君の髪が剣に当たってね。普通は髪の毛の方が切れるだろう?なのに弾かれた」

 

僕のデュランダルが髪の毛に弾かれるなんて初めてだよ、なんて言うキャベンディッシュを無視して、髪の毛が当たる事なんてあっただろうか、と考え込む。数秒経ってから思い出した。

キャベンディッシュが言いたいのは、空中での突きが止められた後、回転して斬りかかった時だろう。確かに気にならなかったが、髪の毛が剣に当たっていた気がする。軽いものだったのでそこまで衝撃はなかったな。

成る程と納得した僕は、キャベンディッシュに近い方の髪の毛を持ち突き出してみる。五本ある帯の内の一つだ。

 

「触ってみるか?」

「…………その持ち方で崩れないのは気になるが、良いのかい?髪は女の命だと言うだろう?」

 

………………ん?女?

 

「女とは、誰の事だ?」

「は?君の事だが?」

 

え?

怪訝そうな顔をするキャベンディッシュは、食事の手を止めて、手と口を拭く。触る気はあるようだ。気になったら確かめないといけない性分なのだろう。

いや、それよりだ。僕はどうやら女だと思われていたらしい。確かに僕の容姿、ボルツの姿は見た目は目つきの悪い女の子。だけど、一人称が僕と言う時点で違うと言って良い。ボクっ娘?何の事だろう。

そもそも宝石は性別がない。繁殖しなくていい身体をなくさない限り、ずっと生きていられる種族だから。

だからまぁ、性別に当てはめると無性ということになる……と思う。

 

「僕は女ではない」

「……男だったのか?」

「……気持ちは」

「気持ちは!?」

 

うん、気持ちは男寄りだったつもりだ。

女の子の乙女思考はあまり理解できないというか。お洒落は理解できるけどね。まぁ男勝りな性分と言えよう。三度の飯より戦闘な僕にとって、女の子の言う髪は命は当てはまらない。

そもそもだ。僕の髪は身体を構成するカーボナードと同じ成分を持っている。頭から爪先まで、はたまた毛先まで全て宝石。剣より硬いこれは防御にも攻撃にも使える。僕はあまり使ったことないのだけど、今回は無意識にやっていたらしい。

 

「そう言うってことは、女という事になるだろう?やはり、女じゃないか」

「いや、違う。ましてや男でもない」

「は?」

 

言っている意味がわからないって顔だ。

僕もその立場だったら同じような顔をしたと思う。

さて、なんて説明しよう。身体が宝石なんですっていうのは無しだ。相手は海賊、金銭目当てに狙われるかもしれない。キャベンディッシュはそんな事しなさそうだけど。

 

「性別のない種族といえばわかるか?身体の構造的に男でも女でもない」

「……そんな種族聞いたことないね。そもそも子孫を残せないのは大問題じゃないか?」

「僕以外に会った事がないからな。知らん」

「知らないときたか」

 

麦わらの一味であるソウルキングも骨だけだし、そういう種族が一定数いるのかもしれない。骨族みたいな。

僕ら宝石は人間の骨からできたと言っていたような気がするから、何か親近感が湧く。

骨だけの彼は骨格はちゃんと人間だ。あれに肉をつけたら、人間になるのだろうなと思う。何で知っているのかと言うと、彼のライブに行ったことあるからだ。ライブなんて前世含めて行った事ないが、あれは楽しかった。また行きたいと思ったが、数ヶ月も経たずに辞めてしまい、海賊へと戻っていったのでライブに行ったのはそれっきりだ。

 

……麦わらがここにいるんだから、ソウルキングもいるだろうし……頼んだら曲聴かせてくれるだろうか。

 

なんて、一味でもないのに図々しい事を考える。

それよりも。

 

「触らないのか?」

 

帯状の髪を突き出して聞く。男だ女だという話で逸れてしまったが、元々は髪の毛に剣が弾かれたからどんな構造してんだこの野郎みたいな話だったはずだ。

キャベンディッシュは頷き、失礼するよと僕の髪を触った。

 

「…………何だこれ」

 

いやどうした。

何故かこの世の終わりみたいな顔をしているキャベンディッシュに不安になりながら、僕は首を傾げる。僕の髪に何かあったのだろうか。

無言で髪に何かを確かめるように触る。絵面的に駄目な気もするけど、提案したのはこちらだ。髪を完全に差し出し、試合観戦に移った。

さっきまで寝転んでいた巨人はおらず、観客席の一部が凹んでいることから吹っ飛ばされたと思われる。あの巨体をぶっ飛ばすなんて芸当できるのがいるという事だろう。巨人族はその巨体が武器だ。大きな質量を持った攻撃はそれだけで脅威となる。

なので巨人族はパワータイプがほとんどだ。生粋のパワータイプだからかスピードが足りない事が多い。でもそれは仕方ないと言える。

身体の大きさは感じる時間すらも狂わせる。小さければ早く、大きければ遅く感じる。彼らの大きさだと普通の人間など、虫や小動物のようなもの。それを倒す巨人族は結構やり手だ。

ともかく、大きさイコール質量だ。何トンあるかわからないアレを観客席まで飛ばしたのだ。凄いとしか思えない。

僕はできるかわからない、巨人なんてぶっ飛ばした事ないし。

チラリとキャベンディッシュの方に視線を戻す。

 

「……硬い感触。柔らかな髪ではなく硬質な鉄そのもの。だが、曲がる」

 

どうなっている。そう呟く彼にどうもこうも、そのままだと思う。

曲がる宝石。そう言った方が良いだろう。

 

「しかも裂ける」

「何している!?」

 

思わず髪を裂いたキャベンディッシュから引ったくるように髪の毛を取り上げた。目の前には二つに割れた黒い帯が……何処と無く悲しくなるが、治るので大丈夫だ。

イエローダイヤモンドとかと違い、僕の髪は形が決まっている。イエローは人の髪と同じように、一本一本細かい糸がある。僕のもあるけれど、何故かどう頑張ってもこの形に戻るので、キュッとくっ付けて撫でれば元通りである。髪の手入れが必要ないので便利だ。

 

「元にも戻る。鳥の羽のようだね」

「鳥の羽と一緒にするな」

 

そもそも形も構造も違う。鳥の羽はマジックテープの様になっているから、撫でるだけで戻る。僕のも戻るけれど、そんなマジックテープの役割を持つ棘の様なものはない。

髪の毛はボルツ版七不思議の一つだ。

 

「鉄をも斬れるデュランダルを弾くそれに納得はしないが、理解はした」

「そうか、良かったな」

「しかし、軽いのも謎だね。硬くて曲がる、そして軽い。武具などに用いればそれ相応の価値になると思うよ?」

「売るつもりはない」

 

生えるなら良いけど、これ以上長くもならないし切らない限り短くもならない。だからそうやすやすと売るつもりはなかった。

 

「それは残念」

 

手を拭き、食事を再開するキャベンディッシュ。ワイングラスを傾けると、控えていたシェフの人が赤ワインを注ぐ。適量までに注がれたそれは彼の口の中へと流し込まれる。

この人、神経が図太いな。逆恨みの復讐という懐の小さい事をしているのに、僕の髪を触った後に何もなかったかの様に食事を再開。うーん、僕にはできないかな。まぁ食事なんて事、いつもしてるんだけど。

「あれ?ボルツ?」

 

名前を呼ばれたので振り返ると、そこには女剣闘士のレベッカがいた。

彼女も観戦きたのか、此方に歩み寄りながら眼下で繰り広げられる戦いを除く。

 

「ルーシー頑張ってるみたいね」

 

そういや彼女は麦わらのルフィだと知らないのか。まぁ兜で顔を隠しているし、名前は違うしで仕方ないけれど。僕もルフィだと名乗られるまで全く疑問に思わなかったから、それが普通だ。

 

「観戦か?」

「ええ。知り合いが出てるもの、観戦しなくてどうするんだって思って」

 

なるほど、彼女らしい。

レベッカの人となりは、話した回数は少ないけれどなんとなくわかったつもりだ。彼女は優しく、負けず嫌いで根性がある。あの刃の無い剣は優しさを表しているし、それでいて芯を貫く眼をしている。笑う表情は年相応だ。

歳上としてどこか、応援したくなるね。

 

ま、決勝に行くのは僕だけど。

 

「隣、良いかしら?」

「あぁ」

 

と言っても、立っている場所をちょっとズレるだけなんだけども。

僕より前に出た彼女は覗く様にして下を見ている。背伸びはしていない様だ。あれだけ高かったら背伸びは必要ないけれど、悔しいと思う。僕、背が低すぎない?

キャベンディッシュはキャベンディッシュで、緑のトサカ野郎と楽しく談話しているし。

 

……談話より、啖呵切ってるな。

 

麦わらを倒すのは僕だなんだの言っている。という事は緑のトサカ野郎も麦わら目当てか。人気だな彼。キャベンディッシュが嫉妬するのも少しだけ分かる気がするね。

呆れた視線を送った後、眼下の試合に眼を戻すが、試合はいつのまにかチンジャオとルーシーの一騎打ちになっていた。どうやら他のは脱落してしまったらしい。この短時間に何があったのか気になるけれど、終わった事は仕方がない。彼らの戦いを見てみることにするが、瞬間ビリビリとした空気が走り抜ける。

発生源は彼ら、チンジャオとルーシーだ。彼らは拳を突き合わせていた。そこから何かが会場全体に走り抜けている。

でも、これは自分達に向けられたものではない。彼らは互いに互いをターゲットとして発したものだ。だから、誰も気絶していない。

 

「覇王色のぶつかり合いか……凄まじいな」

 

覇王色。王の資格を持つ者だけが持つと言われる覇気の一種。三種ある中でこれだけが、天賦の才に左右される。

当然僕は持っていない。自分でも王の資格を持っていないとわかるし、第一上に立つような人格でもないからだ。

しかし、しかしだ。こんな覇王色のぶつけ合いなんか、強者の闘志なんかを感じてしまったら、気が昂ぶってしまう。

今すぐ剣を抜き、あの中心へと飛び出していきたい気持ちを抑えながら僕は戦いを見守る。

さっき戦ったばかりなのに駄目だな、とは思いつつ、剣を抜かない様に拳を握りしめた。

 

そんな僕の葛藤を見ていたのかキャベンディッシュから呆れた様な視線を貰ったが、無視した、

人の性質はそう簡単に変えられないのだ。

 

そう、例え自分自身でも……いや自分自身だからこそ、か。

 

 

僕の番まだかなぁ。

 

 

そう思ったのは本日二度目であった。

 

 




不思議なボルツの髪の話でした。
私の想像だけれど、だいたいあってると思う。軽いのは……合ってないかな?

ところで、お気に入りが500件突破しました。ありがとうございます!急に伸びて怖いいしっころです。

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