ロ級とヌ級があっさり殺られたのには焦ったが、駆逐艦が援軍ではたかが知れてる─
(─ト思ッテイタガ…中々ニシブトイナ)
とにかく攻撃が当たらなかった。砲弾や魚雷に自身の砲弾を当てたり、海面を爆発させて避けたり、槍で砲弾を逸らしたり機銃を弾いたりと。戦い方が普通の艦娘では無い。だが所詮は駆逐艦、向こうからの砲撃は致命傷にならない。だが不可解なのは、こいつを含めた援軍だ。
間違っていなければ、こいつを含めた駆逐艦が四、工作艦が一、そして恐らく空母が一。援軍にしては数が少なく、頼りない。普通は戦艦等が編成されるはずだが…。そしてもう一つ、奴が
(艤装ヲ改造シテイルノカ…?)
例えば、足の艤装の出力を上げる、とか。まぁそれでも関係ないが。艦隊が来るまでの時間稼ぎをしているのだろうが、向こうには艦載機を飛ばしてある。駆逐艦が防空射撃したとしても空母一隻では対処出来まい。軍人ではない者に恨みはないが、邪魔をするなら沈める。
(タッタ一隻で後ドノクライ持ツカ、楽シミダナ)
─調子にノッてる奴を苦しめる事以上に、愉しい事はないだろう?─
ニィっと口角が上がったのを自覚した。こいつが最後にどんな表情をするのか愉しみだ。
(そろそろキッついよぉ…早く誰か来て欲しいなぁ)
特に春雨。彼女さえ来てくれればだいぶ楽になるのだが。
白露はそう思いながら攻撃をさばいていく。春雨から砲撃の逸らし方を教わってるとはいえ、防御は苦手なのだ。三十分以上も続けるのは辛い。
普段は自分一人か時雨達だから回避一択だが、今回はそうはいかない。チラッと目だけで周囲を見れば、轟沈寸前の艦娘だらけ。彼女らを守りながら、自分も沈まないようにしてるのだ。ちょっとだけ先に来たことを後悔してる。まぁ、結果的に五十鈴を救う事が出来たので良しとしよう。
─ゾクリ─
悪寒が走った白露がバッと顔を上げると、
ついに仲間を見捨てたか、と考えた深海棲艦は白露に砲台を向け─一体のタ級が斬り捨てられる。
「─僕達が来たからといって、あっさり攻撃に移るのはどうかと思うよ」
春雨と明石さんが間に合わなかったらどうするつもりだい、とタ級を斬り捨てた人物─時雨は言った。白露は槍でル級を貫きながら反論する。
「えぇー、ちゃあんと間に合う位置に来たのを確認したよ?」
「万が一の事を考えろって言ってるんだよ。僕は」
言いながら先程斬り捨てたタ級に刀を突き刺した。「考えるの苦手だから無理ー」と白露は言う。
「というか、なんで明石さん?もしかして新しい盾でも開発してたの?」
「作っただけで試した事の無い『対砲弾シールド』。理論上、戦艦の砲撃十発は耐えられる代物らしいよ」
援軍に警戒しているのか、敵艦が後退した。とりあえず合流しようと思い、白露と時雨も後退する。鳳翔はまだ後方にいるようで、この場にはいなかった。
「白露、妹に無茶をさせるのはやめるっぽい」
「姉さん、私は大丈夫ですから」
「まぁ、おかげでこの盾の性能を試せたので私は満足ですけどねぇ」
大本営の艦娘達の所まで後退すると、夕立が白露に近づき文句を言った。その反対に、試作品を試せた明石は言葉通り満足そうだ。ゴメンゴメンと夕立に謝りレ級らを見ると、何が起きたのか分からないという顔をしていた。
そりゃあそうだ、と白露は一人納得する。普通に考えて正規空母とレ級の艦載機を軽空母一隻で対処出来るはずがない。それで何故ここに、時雨達が来れたのか。
答えは単純明快、時雨の艤装が対空特化だからだ。勿論、明石が制作した特注品である。
(ま、それだけじゃないけど)
明石の作った対空艤装は性能が通常平兵器と比べておかしい事にはなっているが、それ以上に鳳翔の操る艦載機がおかしいのだ。何故、十分の一以下の数で敵機を翻弄できるのだろう。空母ではない白露には分からない。
まぁともかく、これでこっちのメンバーはそろった。攻撃に転じよう。本来の旗艦は自分なので、口を開いて指示を出す。
「あたしと時雨、夕立でレ級を抑え―」
―白露が言い終わる前に時雨が飛び出し。真っ直ぐに突き進み、進路上の深海棲艦を数体斬り捨て、そのまま
「時雨ちゃんのあんな顔、初めて見たんですけど」
「瞳孔かっぴらいてるっぽい」
「深海棲艦に恨みを持っているのは知っていますが…」
「…提督~?どういうこと?」
白露が通信機器に手をあて藤原に問いかけると。すぐに返事が返ってきた。
『…すまない。俺にも詳しくは分からない』
間があったのが気になるが、仕方ないと思い気持ちを切り替える。思えば、必要以上に時雨は自分のことを話さなかった。出会った当初は《時雨》とは思えないほどに冷めていたし、協力なんて言葉を知らないんじゃないかと思ったほどだ。まぁ最近は他所の《時雨》のように、正確には彼女本来の表情に戻ってきているのだろうが、深海棲艦が絡むと当時の彼女に戻ってしまう。憎悪をまとい、復讐のためだけに生きている彼女に。その時の彼女を知っているからこそ、戻してはいけない。大切な者を失う悲しみも痛みも想像できないが、これだけは言える。自分も含めて大体の艦娘は年ごろの少女なのだから、今を楽しまないと損だ。艦娘になっていて何を言ってるんだと言われるだろうが、それでも今を楽しむことは出来るはずだ。
(あたしはね、時雨。あんたのことがほっとけないんだよ)
九人姉弟の長女を舐めないでほしい。同い年ではあるが、自分は《白露型一番艦》、仮だろうが何だろうが《白露型艦娘》は自分の妹なのだ。姉が妹たちの幸せを願って何が悪い。
多分だが、復讐心のみで生きるのは心が磨り減るだけで、そのうち心が死んでしまう。それなら、何事も楽しもうではないか。何気ない日常も、人付き合いも、それがたとえ
獰猛な笑みを浮かべて、白露は改めて艦隊に指示を出す。
「あたしと時雨、夕立でレ級を相手する。春雨と明石さんはここで雑兵の相手。鳳翔さんが来たら夕立は後退、二人の手伝いにまわって」
─さぁ、戦いの時間だ。レ級と戦うのは初めてだ、期待を裏切らないでくれよ。
ここまで見ていただきありがとうございます
これからもこんな感じのペースで気まぐれ更新していきますが、どうぞよろしくお願いします。