場所は北方海域、ポイント3-5。少し前まで姫級の深海棲艦がこの海域を制圧していたが、藤原艦隊が撃破した─
「おりゃああ!!」
「ラァァァァア!!」
その海域で、互いに声を上げて槍と剣がぶつかる者達がいた。槍を操っているのは白露、そして相手取っているのは─軽巡級の深海棲艦。しかしその姿は今までの軽巡級とは違い、頭から足まできちんと人型を取っていた。短髪で左目は前髪で隠れ、頭には角のようなモノが二本生えており、右手には剣を持っている。なによりも異様なのは、背中に艦娘と
「ハッハハ!!やっぱりオ前との手合わせハ楽しいゼ!!」
「こっちの台詞だよ!!」
双方は楽しそうに笑みを浮かべながら得物を打ち合う。戦ってはいるものの、主砲や魚雷を撃ちだす気配は無い。それもそのはず、彼女らは先程軽巡級が言っていた通り、ただ手合わせをしているだけなのだから。
「ウフフ、テンちゃんガ楽しそうでなによりダわぁ。あの子ト対等に戦える子ガ私以外いないカラ、とっても助かるワぁ」
「こちらとしても助かるわ。
それをまた楽しそうに見ている者達がいた。一人は村雨、疲れたように溜息を吐く。そしてその隣にいるのは─軽巡級の深海棲艦。しかし、機関部の様なものがあるという共通点はあるものの、白露と手合わせをしている個体とは見た目が違う。こちらは頭の上にリング状のナニかが浮いており、背中に槍のような、薙刀のような武器を背負っていた。
「─オ前ノ開発スル艤装ハ面白イナ。妖精ノ存在ガアルトハイエ、ヨクコンナ艤装ヲ実現出来ルモノダ」
「他とは違う発想力を持つのが私の長所ですからね~。まぁ、失敗の方が多いですけど」
明石と楽しそうに会話をしているのは、雷巡チ級。こちらは今まで確認されているものと同型。その手には、明石の考案・開発した手榴弾型艤装を持っている。
「ソレハ当タリ前ダロウ。開発ノ成功トイウノハ失敗続キノ先二アルモノダ。成功ダケヲ求メル奴ハ滅ベバ良イ」
「ほんとにそれです。なんでもかんでも成功だけがあると思うなよと。一回同じ気持ちを味合わせるために手伝わせてやりましたよ」
「イイナソレ。モシ次ガアレバヤッテミヨウ。マァ無イト思ウガ」
二人─この場合、一人と一体だろうか─は楽しそうな様子から一転、恨み言を吐き続ける。同じ開発者として思うことがあるのだろう。
「夕立夕立!モウ一回ヤッテ!」
「「「ヤッテヤッテ!」」」
「順番にやるから並ぶっぽい」
そう言って夕立に群がり並ぶのは、現在確認されている姫級の一体である北方棲姫と三体のPT小鬼群。一番先頭にいた北方棲姫の脇を掴んで、空中に高く放り投げる。ワー!と嬉しそうな歓声を上げて、落下してきたところを危なげなくキャッチ。それをPT達にも行う。
それらの、本来は敵同士である艦娘と深海棲艦の交流を微笑ましく見ながら、会話をしている者達がいた。
「貴女方の情報のおかげで、こちらから死者を出すことなく勝てました」
ありがとうございます、と鳳翔は目の前の存在に頭を上げる。
「気ニシナイデ。私達ハタダ約束ヲ守ッタダケダカラ」
そう答えた声は、少し機械の混じったようなくぐもった声だった。当然だ、その存在は人間ではないのだから。
「はい、ですのでお礼を持ってきました」
鳳翔の後ろにいた春雨が、背負っていたクーラーボックスを下す。その中には色々な食材が入っていた。
「オ礼ナンテ…。ソッチガ約束ヲ守ッテクレテイルダケデ十分ヨ」
「それだけでは足りない、というのが提督の意見です。どのみち、この食材は余ってしまうものなので処分の方法を考えていたところなので」
「…ソウ。ソウイウコトナラ受ケ取ルワ」
その存在は港湾棲姫、現在確認されている姫級の内の一体だ。二ヵ月ほど前に彼女らを助けたのが、交流のきっかけ。
本来、深海棲艦を助けるのはご法度だ。法律や、軍の決まりがあるわけではないが、普通に考えて人類の敵を助ける阿呆などいない。では何故、藤原の艦隊が助けたのかと言えば、二つ理由がある。彼女達にこちらへの敵意が無かったのが一つ。他の深海棲艦に一方的にやられているのを黙って見てられなかったのがもう一つ。
それから彼女達とは、お互いに約束をした。深海棲艦(以降、港湾組)からは情報を、藤原側は彼女達のことを報告せず存在を隠蔽すること。襲撃が来ることを事前に藤原の艦隊が知っていたのは、彼女達の情報があったからだ。
「ソウイエバ、捕ラエタ深海棲艦ハドウシテイルノ?」
「私達の鎮守府にいます。明石さんが作成した対艦用の牢屋の中です」
大本営への報告では、この海域の姫級は撃破したことにしてある。敵意が無いと言っても信じないだろうし、信じたとしても拷問や生きたまま解剖されるだろう。それは避けたかった。
まぁ、なにも善意だけで助けたわけではない。せっかくの意思疎通の出来る
「彼女達は軍人を憎んでいるようなので、それらとはかけ離れている私達の鎮守府の方がいいと判断しました」
「ソウネ。ソレデ良イト思ウワ」
ソレニシテモ、と港湾棲鬼は周囲の岩を見渡しながら口を開く。
「貴女達ノ提督ガクレタ…
「詳しいことは私にも不明ですが、周囲の景色を歪ませているそうです。広範囲の光学迷彩のようなもの、というのが分かりやすいかと」
そう言いつつ鳳翔自身、その効果をどうやって生み出しているのかは知らない。科学で説明できないということだけは理解でき、又、所謂オカルトの分類に入るのだろうということは予想している。
まぁ、それを言ってしまえば今のご時世、科学で説明できないもので溢れているのだが。艦娘とか深海棲艦とか。
(そういえば
鳳翔は御札を渡してもらったときに軽く説明を受けていた。どうやら藤原はこれがどのようなものか把握しているようだった。更に言えば、貰った相手は鳳翔もよく知っている人物だとも。
(はて?誰でしょうか?海軍所属…ではないのは確かですが)
もしそうなら、提督は名前を教えてくれるはずである。そもそも向こうから接触しに来ないのもおかしい…あぁいや、そもそも彼と自分で共通して親しい人物は少なかったか。
(となると、候補はだいぶ絞られますが…)
海軍所属でないのなら、残りは彼の家族と
(そういえば、あの人と随分連絡を取っていませんね…)
陸軍所属と言う部分で、ある人物を思い出す。数年前まで、それこそ深海棲艦が攻めてきてからも、しばらくは連絡を取っていた。それなのにいつの間にやら連絡が途絶えていた。何故その事が頭から離れていたのだろうかと考えようとして─
「─ドウシタノ?」
「すいません。少し考え事をしていました」
「私デ良ケレバ相談二乗ルワヨ?」
「いえ、大したことではありませんので」
そうして二人は雑談を始める。先程まで考えていたことは、もう鳳翔の頭の中から消え去っていた。