あのキャベツ狩りから一週間が経ち、生活習慣も整い、だいぶこの世界に馴染んできた。
「ユウマさん、今日はゴブリンの集団討伐クエストがおすすめですよ」
「おい、ユウマ! 明後日の飲み会、来るか?」
「ユウマー、今度一緒にクエスト行かないか?」
まぁ、こんな感じで周りの人たちとも良好な関係を築けている。それにしても、今日はエリスがカズマたちのところに用事があるらしくて、一緒にはいない。少し心細いけど、一人でさっき進められたゴブリンクエストをやろうかな。
「おい、そっちはどうだ?」
「いや、こっちにはいなかったぞ」
「クレア様にどう報告すべきか…」
ん? あれは王都の騎士たちかな。なにやら慌ただしい。絡まれると厄介そうだし、さっさと行こう。
――――
んー、二、四、六、八、十。十体もいるのか。思ったより多いな。奇襲でいこうかな。
「《空間結合》」
この魔術は文字通り、場所と場所を繋げる魔法だ。まだ経験が浅い俺は、腕が入るくらいしか広げられないので、主に結界で作った倉庫と繋げて、物の出し入れに使っている。とりあえず、ウィズさんから買った爆発ポーションを取り出して投げてみるか。このポーションは、刺激を与えるだけで爆発する簡易爆弾ポーションで、結構気に入ってる。
ドカーン!!
ブラボー。威力こそ低いが、ゴブリン程度なら簡単に倒せる。残りは六体くらいか。これならいつも通りの手順で倒せそうだ。
「《二式結界》!」
この魔法は相手を結界で拘束する魔術だ。詳しく言うと、相手の部位を特定数拘束するものだ。今使った二式結界は二ヶ所を拘束し、三式結界だと三ヶ所、最大で八ヶ所まで拘束できる。上位のものは結界維持に魔力を多く使うが、壊されにくい。逆に下位のものは魔力消費は少ないが、壊されやすい。五式以上はジョブチェンジが必要だ。足を拘束されたゴブリンたちは地面に倒れ込む。あとは簡単だ。心臓ダガーで刺すだけ。
ストンストン。
よし、こんなものだろう。
「さーて、帰ってカズマたちのところにでも顔を出すか」
ということで、来た道を引き返す。ゴブリンの集団の近くには、初心者狩りと言われるモンスターがいる可能性があるらしいが、今回はいなかったな。別に一匹くらい出てきてくれても良かったのに。
――――
そして、フラグ回収。森を抜ける少し手前で、ゴブリンたちを斬っている金髪の少女を背後から不意打ちしようとしている初心者狩りを見つけてしまった。まさか他人を巻き込んでしまうとは。本当にすみません。あ、やべ、初心者狩りが飛び出した。
「《固有時間制御 二重加速》」
その木に向かって初心者狩りをシュート!超エキサイティン!
「え!?」
金髪の少女は目を大きく見開いて驚いている。そりゃ、いきなり背後で知らない男が初心者狩りを思いっきり蹴り飛ばしたら、驚かないわけがない。
「グガーッ」
よろよろと初心者狩りが立ち上がり、俺をロックオンする。その眼光はまさに野獣。
「はぁ、あまり見つめないでくれませんかね?」
俺目掛けて飛び出してくる。とりあえず爆発ポーションを取り出して…。
「いけ!モン○ターボール!」
空中で初心者狩りに爆発ポーションが当たり、爆発! 見事に真っ黒焦げになり地面に落ちる。まぁ、こんなもんだ。
「えーと、大丈夫?」
「え、あ、はい、大丈夫です」
今だに少女は驚いている。そりゃ、自分の後ろでいきなりこんなことが起きれば、誰だって驚くわな。それにしても、よく見るとめっちゃ可愛い。いや、別に俺はロリコンじゃないよ、憲兵さん。
「助けていただいてありがとうございます。私は、ア、……イリスといいます」
言葉使いといい、お辞儀の綺麗さといい、すごく礼儀正しい。この子は現代だとあまりいないな。
「俺はユウマ。よろしくな、イリス」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。あの……」
ん、なんだかもじもじしているな?
「実は、帰り道がわからなくなってしまって。その、よければ一緒にギルドまで来てもらえませんか?」
上目遣いで甘えるように頼むイリス。マーベラス。こんな頼み方されたら、男は断れない。
「ああ、いいよ。俺もさっきクエストを終わらせたところだし」
「ありがとうございます!」
――――
「俺のいた日本って国は、風景だけはいっちょ前に綺麗でな。特に春は“桜”って花が咲いて、すごく幻想的なんだよ」
「“桜”……私も見てみたいです、その花」
ギルドへ向かう道すがら、俺は頼まれて故郷の話をしていた。イリスはエリスと同じで、聞き上手だ。つい話すのが楽しくなってしまう。……そんなこんなで、あっという間にギルドへ着いてしまった。
やっぱり楽しい時間は、過ぎるのが早い。
「ユウマさんの話、とても楽しかったです。知らないことばかりで、ずっと聞いていたいくらいです」
「ああ、俺も話してて楽しかったよ。じゃあ、俺はここで」
名残惜しいけど、ここでお別れだ。俺はイリスに背を向けて歩き出そうとする。
「……あ、あの!」
「ん?」
「もし、よろしければ……私を、ユウマさんのパーティーに入れていただけませんか!」
え? いやいや、なにを急に言い出すんだ、この子は。たしかに会話は弾んだし、それなりに打ち解けたつもりだけど……会ったばかりの男にいきなりパーティー加入を頼むって、ちょっと警戒心なさすぎじゃないか?
「えーと……大丈夫なのか? 俺、男だぞ? 女の子がそんな簡単に男についてきたら危ないぞ」
「大丈夫です。ユウマさんは信じられますから。だって……さっきも私のこと、ちゃんと心配してくれたじゃないですか。そんな優しい人が、酷いことをするとは思えません」
落ち着いた口調で微笑むイリス。その目は、人を見抜くことに慣れたような、どこか達観した眼差しだった。恐ろしい子だ……。
「でも、うち、宿じゃなくて馬小屋生活だぞ? プライバシーなんて皆無だし、あんまり女の子向けじゃない環境だと思うが……」
「泊まれる場所があるなら、それで十分です。私、故郷を出てから三日間ずっと野宿でしたので」
笑顔でさらっと衝撃発言をするイリス。この子、本当に大丈夫か……?
「……まぁ、エリスならたぶん文句は言わないだろうし、むしろ歓迎するかもな。わかった。改めて、よろしくな、イリス」
「ありがとうございます! こちらこそ、よろしくお願いします!」
……うーん、眩しい笑顔だ。とりあえず、エリスに紹介しなきゃな。さて、どこに――
「ユウマさーん!」
おっと、ラッキー。ちょうど向こうから来てくれたか。
「……って、こんな幼い子に手を出すのはダメですよ?」
「おいおい、いきなり何を言い出すんだエリス。この子はイリス。今日から俺たちのパーティーに加わることになったんだ」
「よろしくお願いします!」
「……ふぅ、安心しました。まさかユウマさんが社会的に危ない人だったのかと、ちょっと焦りましたよ。私はエリスといいます。よろしくお願いしますね、イリスさん」
エリスの“疑いの目”から、いつもの優しい笑顔に戻ってくれて一安心。……だが、変態扱いされたのはちょっと心に来たな。
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《緊急!緊急! 冒険者の方々はすぐに正門へ集合してください!》
「また急な……今度は何だよ」
「っ、これは……アンデッドがいます! 間違いありません。急ぎましょう!」
「え、いや、正門からは距離あるはずだろ? なんでわかるんだ?」
「空気が違うじゃないですか。もう、ほんとヘドが出る。せっかくのいい気分だったのに台無しですよ……灰のひとつも残さず叩き潰してやります!」
そう言い残し、エリスは風のように駆け出していった。な、なんかすごい怒ってるぞ……。アンデッドに何か因縁でもあるのか?
「とりあえず、俺たちも急ぐぞ。行こう、イリス!」
「は、はい!」
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「毎日毎日、俺の城に爆裂魔法を撃ち込んでくる頭のおかしいヤツはどこだッ!!」
正門にたどり着いた俺たちの目に映ったのは、黒く禍々しい甲冑を纏った――首なしのアンデッド。
デュラハンだ。しかも、めちゃくちゃ怒ってる。
てか、「爆裂魔法」って……それ、めぐみんしかいないだろ。
「ふ、まんまと誘き出されましたね、悪しき者よ!」
ドヤ顔で一歩前に出ためぐみんが、いつもの決め台詞を放つ。
「我こそは、紅魔族随一の魔法の使い手・めぐみん! 毎日爆裂魔法を撃ち続けたのは、貴様を城から引きずり出すため……そう、全てはこの瞬間のため!! さぁ、覚悟はよろしいですね!」
「……」
「……」
「《うそつけ!!!》」
俺とカズマの声が見事に重なった。こんなバレバレな嘘を、よくも堂々と……。
案の定、めぐみんの膝はぷるぷる震えていた。
「ふん……そのイカれた名は……紅魔族か。まあいい。今日のところは警告に来ただけだ。今後、爆裂魔法を撃ってくるな」
「いやです」
即答。堂々たる拒否。
「紅魔族は一日に一度爆裂魔法を撃たないと死んでしまいますので」
そんなデタラメ民族がいてたまるか!!
「……聞いたことねぇぞ!? ふざけるな! これ以上続けるのなら、こちらにも考えがあるぞ!」
「ちょっ、待てエリス、何する気だ!?」
「めんどくさい茶番は終わりです。一撃で片付けます」
うわ、こいつマジだ。エリスの袖を引っ張っても止まらない。腕力が違いすぎる!
「迷惑なのは貴方の存在です。ゴミはゴミらしく、ゴミ箱で大人しくしていなさい」
「な、なんなんだお前は!」
「ゴミに名乗る必要はありません。《セイクリット・エクソシズム》!!」
――強烈な光がデュラハンに直撃。誰もが決着かと思った、その瞬間。
「く……危ないな。シスターにしてはやるじゃないか……だが――」
「っ!しまっ――」
次の瞬間、デュラハンはエリスの背後を取っていた。
やべぇ! デュラハンの魔力が一気に高まってる――!
「紅魔の者よ……貴様に、死の宣告を与えよう……!」
「危ないッ!」
「ダクネスッ!!」
「おい、大丈夫か!?」
盾役のダクネスが身を挺して割って入った。……が、代わりに呪いを食らってしまったらしい。
「……手違いはあったが、まあいいだろう。紅魔の者よ。貴様の仲間の命は、残り――一週間だ。助けたければ、我が城へ来い。フハハハハ!!」
……やべぇ。どこからどう見ても、ただの超厄介イベントだこれ。
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「城に来い、だってよ……絶対、罠あるだろこれ」
「なぁ……一週間以内に呪いを解くのって、無理なのか?」
「残念ながら……デュラハンの呪いは、強力です。あれを解ける人間は、この世界でもごくわずかです」
「めぐみんの言う通りだ。魔王軍幹部の呪いとなると、簡単には……」
カズマパーティーの空気は、すでにお通夜モードに突入していた。
「ラ、ララ……ダクネスさん、本当に大丈夫なんですか……?」
「ん? 君は……?」
「ああ、紹介してなかったな。この子はイリス。今日から俺たちのパーティーに加わったソードマスターだ」
「そうか、イリスというのか。……大丈夫だ。今のところ違和感はない。心配してくれてありがとう」
心配そうに覗き込むイリスに、優しく微笑むダクネス。
……こいつ、こんな表情できたんだな。ただのドMかと思ってたけど、ちょっと見直したわ。
「……考えててもしょうがねぇ。仕方ない。城に行くしかないな」
「ああ、そうだな。カズマ、俺たちも同行するぞ。いいだろ、エリス?……って、」
エリスが、なにやら落ち込んでいた。
攻撃が通らなかったのが、よっぽど悔しかったらしい。
「すまん……ありがとう。私なんかのために」
「困ったときはお互い様だろ」
「仲間なんだから、当然だよ」
「そうですよ、ダクネスさん!」
「それじゃあ、デュラハンの城目指して――」
「《セイクリット・ブレイクスペル》!!」
「……は?」
みんなが、固まった。
沈黙の中、イリスがぽつりと。
「私にかかれば、デュラハンの呪い解除なんて朝飯前です。さ、帰りましょうか」
「「「「「俺たち(私たち)のやる気を返せーーーーッ!!!」」」」」
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このすば爆焔のコミカライズを読んでいたら、日をまたいでました。すいません。コミカライズ版はいろいろと細かい所が書かれていておもしろいでおすすめです。