アクセル近郊の森奥、朽ちた古城の最上階。
静寂を裂く金属音が鳴り響く。
魔王軍幹部——首なし騎士デュラハンと、一人の冒険者の激戦が繰り広げられていた。
剣を交えるその青年、工藤悠真。冒険者としての経験は浅い。しかし——
(こいつ……本当に素人なのか?)
デュラハンは困惑していた。
ユウマの剣筋は、目で見れば素人そのもの。構えも粗く、動きも雑。だが——
(隙が、見えない……!)
打ち込み、弾き、また打ち込む。
ただそれだけの単純な剣戟。しかし、異常なまでの速度で繰り返されるその動作に、デュラハンの目は追いつかない。
(あれからかなりの時間がたったはずだ。それなのに何故、速度が落ちない!?)
ユウマは今、「ゾーン」に入っていた。
痛みも疲労も思考すら霞む、極限の集中状態。己の限界を、完全に超えている。
(なぜだ……あそこは初心者の街だったはず……)
デュラハンが半歩、無意識に後退した。その一瞬——
「全剣連続投射!《ソードバレル・フルオープン》!」
ユウマの背後に漂っていた短剣十本が一斉に宙を走り、デュラハンの背へと突き刺さる。
「ぐっ……!」
二本が肉を貫いた。神気を宿す女神の加護付き。
その刃はただの傷だけでなく、浄化の呪いをもデュラハンに与える。
(くっ……攻撃の隙を見せた瞬間、的確に短剣が飛んでくる……! なんという集中力だ……!)
八本の短剣は回収済み。残りはあと二本。そして、体力の限界も近い。
だがユウマは笑っていた。右腕を切られ、血が噴き出しても、なお——
(なぜだ……なぜ笑う!?)
——その狂気は、恐怖にすら値する。
(こいつ……ただの人間じゃない……)
そして、ユウマの最後の短剣二本が、至近距離からデュラハンの腹を抉る。
(くっ……零距離、か……!)
除霊の浸食が加速する中、デュラハンの体力も限界が近づいていた。
(この街はどうなっているんだ!? 毎日爆裂魔法をぶっ放す爆発魔……人前でパンツを剥ぐ鬼畜魔……悪質すぎるアクシズ教の女神を名乗るプリースト……! 俺はただ、ウィズを求めて来ただけなのに……)
そのとき--
ガンッ!!
重厚な扉が蹴り破られ、戦場に風が吹き込む。
—
---
──その時だった。
ユウマたちのいる部屋の扉が、轟音とともに吹き飛んだ。
***
「……ユウマさんが、一人でデュラハンと戦ってる!?」
ギルドでおやつを食べていた私たちの元に、アクアさんが血相を変えて飛び込んできた。
即座にパーティー全員が立ち上がり、古城へ急行。
途中の廊下はアンデッドで溢れかえっていたが——
「かかってこい!当たらないがなァッ!」
ダクネスさんは、当たらない剣を豪快に振り回し、
そのぶんアンデッドからの攻撃を一身に浴びて大興奮。
エリスさんは無表情で一体ずつ確実にタコ殴り。
取りこぼした敵は、カズマさんが手堅く止めを刺していく。
アクアさんは……魔力回復と称して、ただの水をめぐみんさんに飲ませていた。
……めちゃくちゃすぎる。
「皆さん、デュラハンの部屋前のアンデッドはすべて排除しました。行きましょう」
エリスさんが、顔がパンパンに腫れたアンデッドを片手に、きっぱり言った。
いつもの優しいエリスさんはどこへ……。
勢いそのままに扉を開いた私たちは——凍りついた。
「……っ!」
部屋の中。そこでは、血塗れになったユウマさんが、ただの鉄塊となった魔剣を手に、デュラハンの懐へ捨て身で切り込んでいた。
その姿は痛々しく、もはや立っているのが不思議なほどだった。
「ユウマさん!!」
聖剣を握る手が震える。足がすくむ。
デュラハンがこちらを向く。
「なんだ貴様らはぁっ!! どれだけ狂っているのだ!!」
エリスさんの足元に横たわる部下の亡骸がデュラハンの目に映る。
怒りの咆哮と共に、頭部が宙を舞い、ユウマを吹き飛ばす。
「《魔眼》!!」
次の瞬間、私へと距離を一気に詰めてくる。
「イリスさん!」
「イリスッ!!」
カズマさんとエリスさんの叫びが聞こえた。だが私は——
グシャッ。
***
——肉を貫く音。
振り返ったデュラハンが目にしたのは、傷だらけのユウマの姿だった。
「貴様……まだ動けたのかっ!?」
ユウマは震える右足を地に踏み締め、剣を突き立てる。
その目は、決して折れていない。
「《固有時間制御・三倍加速》《タイムアルター・トリプルアクセル》!」
右足に力が入らない。
ならば左足で飛ぶまで。
ユウマは空を裂いて跳び、デュラハンの“頭”を一直線に狙う。
「くらえ、変態騎士ッ!!」
「なに、頭を……やめ……やめろおおおお!!!」
ズドン!!
鈍い音とともに、デュラハンの頭が地面に叩きつけられ、砕け散る。
***
「……助かった?」
「ユウマさん!しっかりしてください!!」
エリスさんが駆け寄る。
アクアさんが真剣な表情で治癒魔法を放つ。
みるみるうちにユウマさんの傷が癒えていく。
「……駄女神もやるときゃやるじゃねぇか」
「うっさいわね、カズマ。私はね、ちゃんと考えてるのよ。ユウマが倒れたら、収入源が途絶えるでしょ?」
「おい、お前金持ってたのか!? 俺が払ったツケ、返せコラァ!!」
「ぎゃー!! なにすんのヒキニート!!」
カズマさんがアクアさんの頭を殴り、アクアさんがぐるぐると頭を振る。
「わかった、返すから!だから昨日のアレは言わないでええええ!!」
……安定の地獄テンポだ。
「え、ところでユウマさんと……あれ、ベルディアさんは……?」
倒れていた美女がゆっくり起き上がる。ウィズさんだった。
「おお、ウィズじゃねーか。なんでここに?」
「まだ成仏してなかったのね、リッチー。しぶといわね」
アクアさんが詠唱しようとするのを、ダクネスさんとめぐみんさんが全力で止める。
「アクア、ウィズはいいリッチーなんだ」
「そうですよ。アクアよりずっといい人なんですから」
そのまま一味はアクアを引きずりつつ城の外へ。
ユウマを支えるカズマさんとエリスさん、そしてウィズさんも後に続く。
……しかし、私は違和感に気づいた。
(……デュラハンの、胴体が……ない?)
急いで外へ駆け出す。
***
「フフフ……フハハハハ!!」
禍々しいオーラを纏ったデュラハンの胴体が、城の前で待ち受けていた。
「貴様ら、ここで終わると思ったら大間違いだ! 仲間たちの怨念、今ここで晴らしてやる!」
「そうですか。それはご苦労なことですね」
めぐみんが一歩、前へ出た。
「元はといえば……私が原因。ならば、私が責任を取りましょう」
その足元に、赤い魔法陣が浮かび上がる。
「ほう、自ら。前に出るとは。頭のイカれた紅魔の娘よ」
「本当は、古城への最後の一撃として詠唱していたんですが……」
めぐみんは、いつになくドヤ顔だった。
「思わぬ大物が出てきてくれましたので——このクエストのフィナーレを飾らせていただきます!」
「《エクスプロージョン》!!!」
轟音。地鳴り。魔力の奔流。
すべてを包み、すべてを焦がし、すべてを吹き飛ばす。
デュラハンの断末魔は、爆音にかき消されて聞こえなかった。
「ふぅ……私の人生で、こんなにもスッキリしたことはありません!」
めぐみんは胸を張り、満足げに振り返る。
「カズマ、点数を!」
「——0点」
「えっ!? なんでですか!?」
「いやさ、誰におんぶしてもらうの? あと、帰り道も吹き飛んだぞ」
「……え?」
めぐみん、爆発とともに沈黙。
そして、今日もアクセルの一日は終わる——。
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比較的この小説ではめぐみんとダクネスは影が薄いので、今回はがんばって見たんですが、ダクネスが…。
それと、エリス様のキャラ崩壊はやりすぎでしたかね?アクア以上にアンデットに容赦ないので、こんな感じで、書いてみたんのですが。
さぁ、次回は箸休めとして、前々から言っていた、前日潭です。今回はユウマの過去です。
第1章は10話までなので、多分、原作の内容を飛ばし飛ばしで、やっていきます。ちなみにユウマ達には支障はないと思います。
もし、よろしければ感想、アドバイス、よろしくお願いします。