この前日潭、ユウマ達のパーティーの過去は、1話完結で投稿していきます。投稿タイミングは話の展開で決めていきます。
それでは、どうぞ。
そいつは――とても、残念な奴だった。
何が残念って、生まれてこのかた、誰からも「褒められたことがない」まま、第一の人生を終えてしまったことだ。
……でもまぁ、それは悲惨ってほどじゃない。
実は、俺のことをちゃんと見てくれてた人もいた。
俺自身が気づいていなかっただけで。
だから、少しだけ語らせてほしい。
これは工藤悠真の、「第一の人生」の物語だ。
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「おい、工藤。今日クラスの交流会で飯行くんだけど、お前も来ないか?」
「ごめん、最近ちょっと使いすぎて金欠なんだ。また今度な」
ホームルームが終わり、ざわつく教室をあとにする。
「……ホント、あいつ付き合い悪いよな。普段も静かだし、教室にいてもいなくても分かんねーし」
「いや、あれでも小学校の頃は結構元気だったんだぜ? たぶん、あの時に全部出しきって、今は燃料切れってやつじゃね?」
中学に上がってから、俺は人との距離の取り方が分からなくなった。
別の小学校出身のやつらも混ざって、うまく会話に入れなかったのが原因かもしれない。
気づけば、ぽっかりと「溝」ができていた。
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「ただいまー」
「まあ、本当に早い帰りね。今日は部活紹介だったでしょ? もう決めたの?」
「いや、別に。……多分、何もやらないと思う」
「もったいない。あんた、足速いんだから。陸上部に入ると思ってたのに。小学校じゃ100mも駅伝も選手だったでしょ?」
「駅伝は祭が速かったから入賞できただけだよ。100mだって、三年間やって15秒止まりだったし。……俺なんか、凡人に毛が生えた程度さ」
そう自嘲して、自分の部屋へ。
――結局、俺はそんなもんだ。
でもまあ、少しは身体を動かさないと鈍るな。
(軟式テニス部、関東大会出場か。へぇ、結構強いんだな)
それをきっかけに、俺はテニス部に入部した。
関東大会に出るだけあって、練習もハードだった。
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「一年! 学校の周りを10周だ!」
「はぁ、またランニングかぁ……」
「ボール打たせてくれるかと思ったら、結局ずっと走らされてるよな。これじゃ陸上部だよ」
周囲は文句ばかり言っていたけど、ランニングがすべての基礎になるのは当たり前だ。
どんな競技でも、それは変わらない。
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「2000m、6分15。この1000mは3分10です」
「祭、ラスト1000は出し切れ! さすが地区トップクラス、今年の県駅伝は期待できるぞ!」
「うん。祭以外の一年も良いタイムだ。……しかし、あの子が入ってこなかったのは、予想外だったな」
「先生、祭よりも彼に期待してましたからね」
集団を大きく引き離して走るのは、祭 祥也。
小学校の陸上部で共に走った親友……というには、今や遠すぎる存在だ。
彼とは中学に上がる前まではよく遊んでいた。
けど、今はもう話すことすらない。
俺と祭――その間には、天と地ほどの実力差がある。
だからこそ俺は、自分の居場所を見つけようと、あえてテニス部に身を置いた。
……祭の邪魔をしないためにも。
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あの日は、冬なのに空がやけに青く、日差しがじんわり汗をにじませていた。
「7オール、デュース!」
「工藤、相手はもうバテてるぞ。しっかりボール見て打てば、このセット取れるぞ!」
市の運動公園。テニスの新人大会の準決勝は、想像以上に体力勝負だった。
普段と違う砂入りの人工芝のコートで、試合は思うようにいかない。
相手はいやらしい所にボールばかり打ってくるし、こちらの疲れも限界だ。
「セイッ!」
味方の後衛・長谷がバックハンドで返したボールは、思った以上に曲がった相手のサーブに押され、甘く浮いてしまった。
(……もらった)
相手ももう疲れている。チャンスボールを前に出て、思い切り打ち返す――はずだった。
「……あっ!」
ボールが相手に触れてしまった。審判の声が響く。
「ボディータッチ! 3対2で勝者、水上中!」
「くっそ……惜しかったな」
「よりによって、最後の最後で……」
「ドンマイ。こういうこともあるよ。ほら、うちのエースが次、仇取ってくれるって」
「……あぁ。ありがとな。でも、ごめん」
この敗北は、俺の中に妙に重たく残った。
それから、次の春が来る前に、俺はテニス部をやめた。
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勝てたはずの試合を落とした悔しさは、意外と尾を引いた。
二年生になってからの俺は、どこにも所属せず、ただ日々をやりすごしていた。
心が腐っていくのを、自分でも感じていた。
そんな俺に、転機が訪れたのは、終業式の前日だった。
「よぉ、悠真!」
「……えっ? 祭……?」
放課後、久々に声をかけてきたのは、かつての親友・祭だった。
「どうしたんだよ、こんな時間に帰りとか。部活は?」
「今日は先生が陸上の用事で出張なんだ。だから、各自で練習してこいって。たまには、帰ってみるのも悪くないだろ?」
自然体で笑う祭。その笑顔を見たのは、本当に久しぶりだった。
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「すげーよな、2000メートルを6分ちょいで走るって。小学生の頃の俺なんて、7分半だったのに」
「まあ、中二にもなれば、そんなもんさ。でも全国を走るやつらは、もっと速いぞ。5分台で通過して、そのまま3000メートルを走りきるんだからな」
「マジかよ……全国って、化け物の集まりだな」
俺にはもう関係のない、遠い世界。
そう思っていた……その時だった。
「なぁ、悠真」
「ん?」
祭の声が、ふいに真剣なものに変わった。
「俺さ、全国大会に出て、てっぺん取りたいんだ。――一緒に、目指さないか?」
「……え?」
まさかの誘いだった。
俺なんか、とうに見放された存在だと思っていた。
それが、全国を目指すような祭から、仲間として声をかけられたのだ。
その時は、ただ戸惑って、曖昧な返事しかできなかった。
けれど――その言葉は、ずっと俺の中に残り続けた。
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(俺を、必要としてくれる人間がいたんだ)
(頑張りたい……今度こそ、こいつの夢を支えたい)
そう決意した俺は、祭の言葉にしっかり返事をして――
もう一度、陸上の世界へ戻ることにした。
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そこからの俺は、がむしゃらだった。
朝も昼も、授業後の放課後も、ただ走った。
何もしていなかった空白の時間を取り戻すように、ひたすらに。
一年が経つ頃には、800メートルで県大会の決勝まで勝ち進める力がついていた。
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「お疲れ、悠真。本当に惜しかったな。あと1秒あれば優勝だったのに」
「相手のほうが、連戦に慣れてただけさ。安心してくれ、次は絶対負けない。……お前こそ、全国大会、頑張れよ。俺は一足先に駅伝の練習してるからさ」
夏。全国大会に出場する祭は、飛行機で北海道へ向かった。
だが――結果は、まさかの初戦敗退。
聞けば、北海道の夏は予想外に寒くて、ジャージも持っていかなかった祭は、体を十分に温めることができず、持ちタイムより20秒も遅れてしまったらしい。
「……悪いな。期待させといて、初戦落ちなんて」
「しゃーないよ。俺だって、北海道がそんな寒いなんて知らなかったし。それに、俺たちの本番は、これからだろ?」
――そう、全国へとつながる大一番、駅伝だ。
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それから、夏の終わりまで、俺たちは地獄のような練習を乗り越えた。
3000メートルを走る6人チーム。
そのタイムはついに――1人が8分台、3人が9分ちょうど台、そして残り2人も9分10秒台まで仕上がった。
これで、全国を本気で狙えるチームができた。
……はずだった。
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大会一週間前のある日。
練習コースの途中、グラウンドの隅にあった野球用のネットの金具に、俺は思い切り腰をぶつけた。
「……痛っ!」
ただの打撲だと思っていた。少し強く当たっただけ。すぐ治る。
「大丈夫か、悠真?」
「あー、平気平気。ただのかすり傷みたいなもんだよ」
「お前、思いきり倒れてたじゃねーか。保健室行けって」
「試合も近いし、今は少しでも調整しておきたいんだ……」
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帰宅後も、腰の痛みは消えなかった。
「お帰り。調子はどう? しっかり調整できてるの?」
「もちろん。むしろ、完璧すぎるくらいだよ」
「ふん、甘いな。お前はいつもそうやって、詰めが甘い。……ま、過程なんてどうでもいい。結果を見せろ」
「あなた……! 試合前なんだから、少しは前向きな言葉かけてあげてよ」
「いいよ母さん。大丈夫。親父、安心してろよ。結果で見返してやるから」
「そうか。……だったら、せめて身体のケアだけはちゃんとしとけ。変な怪我でチャンスを逃すなよ」
わかってる。
――わかってたのに。
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関東駅伝大会、当日。
「さあ、いよいよ本番だ。お前たちなら、全国に行ける実力がある。自信を持って行ってこい!」
「「「「「「はい!!」」」」」」
「……やっとこの舞台に来たな」
「ああ。先輩たちでも立てなかった関東の舞台だ」
「でも、ここがスタート地点だ。期待してるぞ、キャプテン」
「おう。トップで持ってくるから、覚悟しとけよ、“花の二区”」
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この日のために、ずっと頑張ってきた。
この舞台で、全国行きの切符を必ずつかむ。
『さあ、1区の選手が戻ってきました! 先頭は去年の全国優勝校・芝松中! そのすぐ後ろに海原中、そして白中が続きます!』
「ラストだ、祭っ!!」
祭はトップと3秒差で、2位のまま襷(たすき)をつないできた。
「……ごめん、1位では持ってこれなかった」
「十分だ。まだ、射程圏内だ」
俺は襷を受け取り、先頭の選手にぴたりとついて走る。
全国へ行くために、ここで抜く。ここで勝つ。
――そのはずだった。
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残り500メートル。
(……おかしい。スピードが上がらない)
腰が、痛い。呼吸も、足も合わない。
……嘘だ。こんなところで。
無理を押して走ってきた代償が、今になって牙をむいた。
『白中が前に出た! 先頭の芝松が離される!』
「ラストだ、悠真! 後ろから来てるぞ!!」
くそ、くそっ……!
なぜだ。なんで、また……。
いつもいつも、大事な時に――俺は。
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俺が襷をつないだ時の順位は5位。
後の仲間たちが奮闘して3位まで押し上げてくれたが――
全国行きの切符には、わずかに届かなかった。
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「おい、なんでそんな腰で走ったんだよ!」
「やめろよ、宮島。悠真だって、必死だったんだ」
「でも! こいつ、補欠の俺たちを信用しなかったんだぞ!? もし交代してたら、全国行けてたかもしれないんだぞ!」
「……別に、信用してなかったわけじゃ……」
「やめてくれ!」
静まり返る中、そう叫んだのは、祭だった。
「……俺が悪いんだ。俺がもっとしっかり仕上げておけば、悠真に余裕持たせて走らせられた。……責めるなら俺を責めろ、宮島」
誰も、それ以上は言えなかった。
祭はいつだって、周りのことを考えて走ってきた。
そんな彼に、誰も言葉をぶつけることはできなかった。
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「……だから言ったろ?」
帰宅後、親父の声が静かに刺さる。
「お前はいつも、詰めが甘いって。せっかくの関東大会を見に来たら、案の定これだ」
何も言い返せなかった。
あの時、親父は腰の異変に気づいていたんだ。
――なのに、俺はそれを無視した。
本当に、俺は――最悪だ。
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大会が終わり、俺たちは部活を引退した。
周りの奴らは受験に向けて勉強を始めたが、俺は何もしなかった。
祭は推薦で進学校に進むことが決まっていた。
それでも彼は、一人で走り続けていた。
一方の俺は――来ていた推薦も全部断って、勉強すらまともにせず、ただ日々を棄てるように生きていた。
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「もうすぐ受験でしょ!? 推薦を断って、普通の試験で行くって言ったの、あなたじゃない!」
母さんの声が飛ぶ。でも、返す気力なんてなかった。
「……」
「まだ、あの大会のことを引きずってるの?」
(……うるさい)
「いつまでも過去にしがみついても、何も始まらないわよ」
(うるさい……今は、話しかけないでくれ)
「少しは祭くんを見習いなさい。あの子は、ちゃんと前を見て歩いてる。あんたも、もういい加減――」
「うるさいって言ってるだろ!!」
思わず怒鳴っていた。
「母さんに、何が分かるんだよ……! 俺が……俺が、あいつの夢を壊したんだぞ……! それを、もう終わったことだなんて、簡単に言えるわけないだろ!」
「……だったら、走って取り返せばいいでしょ」
「えっ……」
「結果で返せばいい。悔しかったら、走りで“ごめん”を伝えなさい」
母さんは、そっと続けた。
「ねえ、知ってる? 祭くん、よく言ってたのよ。
“悠真は俺の走りを見ると、目が輝くんだ。『次はどんなすごい走りを見せてくれるの?』って、言わんばかりの目で見てくる。……だから、俺は頑張れる。あいつに答えたい。だって、悠真は……俺の憧れだから”って」
「……!」
その瞬間、俺の目から涙があふれた。
祭は、俺を……そんなふうに見てくれていたのか。
ずっと、自分が劣っているとばかり思っていた。
でも、あいつは違った。俺の問いかけに、ずっと走りで答えてくれていた。
それなのに、俺は……俺だけは、あいつの問いかけから逃げたんだ。
あの言葉が、心に深く突き刺さった。
悔しくて、情けなくて。
その夜、俺は一晩中、声を殺して泣いた。
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そして――春。
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卒業式の日。最後のホームルーム。
「これで、みんな高校生だ。義務教育は終わり。ここからは自分で進路を決め、自分の足で歩いていく。……最後に、一人ずつ、将来の夢とみんなへの一言、頼むぞ」
ひとり、またひとりと、別れと夢を語っていく。
そして、俺の番が来た。
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「えっと……皆さん、3年間ありがとうございました」
言葉をつまらせながらも、顔を上げて、続ける。
「僕はバカなんで、この学校で唯一、ちょっと変わった学校に行くことになります。……でも、みんな、自分の夢に向かって頑張ってください」
「……そして、僕の夢ですが――」
一度、深呼吸をして、はっきりと言った。
「箱根駅伝に出て、てっぺんを取って、"山の神"になることです。なので……応援、よろしくお願いします!」
教室に驚きと拍手が広がる。
みんなの顔を見て、俺はようやく実感した。
(俺は――もう、逃げない)
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結果的に、俺が受かったのは、定員割れしていた後期試験の高校だった。
滑り止めすら用意してなかったから、運がよかっただけかもしれない。
でも、大事なのは学校じゃない。
環境がどうだろうと、自分が走る理由は変わらない。
卒業式を終え、校門を出た桜並木の下に、懐かしい顔が立っていた。
「よっ、悠真」
「……久しぶりだな、祭」
「本当にな。……ってか、マジで推薦蹴ったって?」
「ああ、本当だよ」
祭は少しだけ、心配そうに眉をひそめた。
「なぁ、悠真。何があっても、走り続けろよ。お前は――誰よりも速い。だからきっと……」
「ありがとう、心配してくれて。でも、大丈夫。
俺は、ゼロからやり直すつもりでいるから」
「……!」
「俺は、インターハイに出て、箱根駅伝で“山の神”になる。必ずな」
祭は一瞬だけ驚いた顔をして、それから、満足そうに微笑んだ。
「そうか。……安心したよ。じゃあ俺は、その先で待ってる。
いつか、箱根のあの山で、お前と戦うその日まで」
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夢は、まだ遠い。
でも俺は、ようやく――
心から走りたいと思える理由を手に入れたんだ。
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「……本当に、その体で大丈夫かよ、工藤」
「大丈夫大丈夫。ちょっと徹夜しただけだし。
……それに、この試合は負けられないからな。ここで勝って、来年は少しでも楽に挑みたい」
あれから一年。俺は県の新人大会、800メートル決勝のスタートラインに立っていた。
この大会で上位に入れば、来年の夏の大会でシード権がもらえる。
つまり、春以降の勝負が楽になるというわけだ。
でも、そんな理由じゃない。
俺はただ――勝ちたい。
あの日、自分に言い聞かせた。
「もう逃げない」「走りで取り返す」って。
その決意を、今ここで証明するんだ。
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10月。夏の名残がまだ残る太陽の光を背に、名前を呼ばれ、トラックの中央に進み出る。
赤く焼けたトラックの上、照り返しがじんわりと足を焼く。
『それでは、800メートル決勝の出場選手を紹介します』
(……この瞬間は、何度経験しても緊張する)
「4レーン、総北高校・工藤くん!」
俺は軽く手を上げて、観客席へお辞儀する。
拍手が、ほんの少しだけ聞こえた気がした。
『以上の8名でレースを開始します』
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『On your mark.』
一瞬、空気が止まる。
静まり返ったスタジアムに、乾いた音が響く。
パンッ!
スタートの合図と同時に、選手たちが一斉に飛び出す。
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『さあ、始まりました! 800メートル決勝――この秋を制するのは、誰だ!?』
観客の声援がスタジアムを揺らす。
その中を、俺はただ、走る。
真っ直ぐ、前だけを見つめて。
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――これが、物語が始まる一年前。
誰にも褒められたことがなかった少年、工藤悠真の「第一の人生」である。
この素晴らしい仲間達に救済を/Zero
エピソードオブユウマ
完
箸休めと言いましたが、多分各話と比べて一番長くなったと思います。すいません。
始まりの街 アクセル編も、残すはあと3話となります。今週も、もう1話投稿したいと思ってます。
それと、下のほうで補足的なものを書きますので、よかったら読んでもらえるとうれしいです。
補足
ユウマ変化について。
話では、微妙に伝わりにくかったと思いますが、ユウマがデュラハン戦にて、自分を犠牲にしてでも結果を掴もうとした理由には父親が関係してきました。
関東駅伝のさいに、自分のやり方を否定し、また自分も認めてもらいたいと思ってきた父親の予想通りの結末となったこと、父親が気づいて、自分が気づけなかったこと、全て自分が台無しにしたという事実、悔しさに対する開き直りとして、今のユウマが出来上がったということです。
ちょっと話がずれますが、こういう、褒めてもらったことがなかったり、人に認めてもらいたいキャラはシンジて名前が多いですよね。(イニDの乾とかfateのワカメ、エヴァの碇君なんかが有名ですよね。)
そういうキャラ達と同じ本質のユウマ君ですが、彼がこれから、どこような選択をして進んで行くのか、見守ってもらえたらうれしいです。