それでは本編どうぞ!
「へい、らっしゃい!」
カウンターの方から響く、明るい挨拶。
その声の主は、数日前キールのダンジョンで倒したはずの地獄の公爵バニルだった。
「なんで、お前が生きてるんだよ!」
「まぁ、落ち着け坊主。確かに、我輩は爆裂魔法を受けて消滅した。ほれ、ここを見てみよ」
仮面の上のほうを指してくる。
……Ⅱ。
「何がⅡだ!なめてんだろ!」
「そうかっかするな。こういう時は骨を食べるといいと聞くぞ。ちょうど我輩の仮面には竜骨が入っているのだ。食うか?」
「食うか!」
スッと何処からか出した仮面を無理矢理押し返す。
別に今、俺のカルシウムが足りてる足りてないとかはどおでもいい。
こいつがなんで、いるのかが問題なんだ!
「ほう、どおやら、我輩がここにいることがおかしいと思っているな?坊主よ、我輩は言ったはずだ。アクセルの街で働いているポンコツ店主に用があると」
「それは、お前の破滅願望を叶えるための金稼ぎだろ?でも、それもこの前の戦いで叶ったはずだ。ここにいる意味なんてないだろ?」
すると、バニルはそんなことかという表情で言ってくる。
「坊主よ。一つ勘違いしてるようだが、我輩はもう魔王との契約を切っている。そもそも、魔王と契約したのはあの我輩だ。今の我輩ではない」
「なんだ?つまり、今のお前は前のお前とは別の個体と」
「そういうことだ。だからその貧相な槍をしまってはくれぬか?これから我輩はこの坊主と商売の話をしなければならなくてな」
バニルの言葉でこの場にエリスがいたことを思い出す。
「大丈夫だ、エリス。バニルはもう敵じゃないんだから」
「何を言っているんですか!?これは悪魔ですよ!何か面倒なことを起こす前に始末するべきです」
相変わらず、悪魔には厳しいエリス。
だが、今の現状を見るとエリス、君のほうが面倒なことを起こすように見えるよ。
「師匠。エリスの世話をお願いしてもいいですか?」
「別にいいですよ。エリス様、どうぞこちらに」
ウィズさんに連れられカウンターの奥に入っていくエリス。ちなみに、ウィズさんはエリスの正体を知っている。どうやら、アンデットになると女神などの神気を持っている者は光って見えるらしい。
とりあえず、これでこの部屋からは邪魔者がいなくなったということで、バニルはいつの間にか用意していた椅子に座り、紅茶を入れる。
「まぁ、座るといい。砂糖は二つでよいな」
「ああ、ありがと。それで話して言うのは?」
紅茶を一口飲んで、バニルの顔を見る。
珍しく真剣な表情だ。
「話と言うのは他でもない。あの聖水についてだ。絶対的な効力にちょうどのいい量。駆け出し冒険者にも優しい値段とこの店、唯一の人気商品と聞く。しかし、王都の商人達にも売ってるらしく、この店で売れる数は少ないと」
「まぁ、そうだな。あのときの俺はすぐに金が欲しかったから、影響力の強い王都に売り出したわけだし」
今となっては、魔王軍の懸賞金やらで別に商売をやる必要も無くなった。
ただ、これを止めてしまうとウィズさんの店がつぶれてしまうので、普段の恩義も兼ねて継続しているのだ。
「坊主よ、少し勘違いをしているな?」
「は?」
「周りを見渡してしろ。どおだ?最初貴様がここに来たときと変わった部分はないか?」
バニルは困った顔で指摘してくる。
言われた通り店じゅうを見渡すが特に変わったところは……。ん、!?
「その通りだ。商品が増えているだろう。それも、使えるかどおかすら怪しいガラクタばかりだ」
「いや、確かに増えてはいるが、別になんも問題はないだろ?その分、聖水が売れてる訳なんだし、それに始めに交渉で渡した5千万エリスもまだ……」
「我輩がこの店の金庫を見たときには、1エリスすら入ってなかったぞ」
……は!?
そんなはずが無い。5千万エリスだぞ!アクアみたいに豪遊したり、めぐみんみたいに爆裂魔法を乱用して道の整備費を取られたりしない限り、そう簡単には減らないはずだ。
「……」
「そういうことだ。あのポンコツ店主はなんも変わってない。自分の置かれている状況すら理解しないで、ただ本能のままに動いている。止まることを知らないマグロだ」
マグロ。もはや人としてすら扱われていない。
それにしても、あのバニルがこんなに頭を悩ましているとは、ウィズさんは想像以上の強者だ。
「そこで、坊主に頼みがある」
「頼み?」
「聖水の特許を我輩に譲ってはくれぬか?」
真面目な声で言ってくるバニル。
いつものふざけなど微塵に感じない。生死がかかってると言わんばかりの重圧を感じる。
「もちろん、ただではない。毎月、この店の収益の5割または分割になるが1億エリス払おう」
「別にそこまでしなくても。それに、店の収益って……。んー」
正直、金には困ってないから、タダで渡してもいいと思ってはいる。
ーーが、聖水を作っているのはアクアだ。勝手に決める訳にもいかない。
「わかった。俺はその条件でいいよ。ただ、俺一人じゃ決定はできない。営業パートナーの許しが必要だ。だから、少し待ってくれないか?」
バニルは俺の顔をじっと見たあと、ご機嫌な顔で席を立つ。
「いいだろう。よい返事を待っているぞ」
「まぁ、期待はしないでくれよ。エリス、帰るぞー」
多分、バニルの名前を出したら破談確定になるだろう。どうやって説得させようか。
俺の呼び掛けで奥の部屋から出てくるエリス。
相変わらず、バニルへはきつい視線だ。
「ユウマさん、どんな話をしてたんですか?」
「仕事の話だよ。ほら、俺って聖水売ってただろ?あれの話」
「そういうことだ。まぁ、力まかせで脳と体の発達が遅れている発光ゴリラのお主では理解などできんだろうがな」
バニルもバニルだ。火に油を注ぐことしかしない。
完全に堪忍袋がキレたエリスを見てウィズさんは怯えている。
「あのー。エリス様?お店の中でだけは……」
「私が下手に出てれば。人から栄養をもらえないと生きていけない、蚊以下の分際でごちゃごちゃと」
いえ、エリスさん。全く下手じゃなかったですよ。ものすごく睨んでましたよね?
気がつけばエリスの手には短剣が握られている。
いつのまに!このままじゃ、店がぶっ壊れる。
「結局、力しか思い浮かばないのか。まことに残念である」
やれやれとため息をつくバニルを見て、ついに動きを仕掛けるエリス。
これは止めるしかないな。
正直、筋力値がとてつもなく劣っている俺の腕は粉砕されるだろう。
この状況で止められるのは俺くらいだ。
さらば俺の腕。
短剣を振りかざすエリスの後ろに入り腰にしがみつく。
「……」
「ーー」
場が静まり返る。上手くいったのだろうか。
ん?なんだこの柔らかさは。女性の体ってそういうものなのだろうか?
手をグウパーさせて感触を確める。この薄い盛り上がり方、腰にしては骨を感じないような。
俺は粉砕する恐さで閉じていた目を開ける。
すると、呆然とした表情のウィズさんとにやにやと笑みを浮かべるバニルの姿が。
それにしてもエリスの頭が目の前にあるのは何故。
「へ?おかしいな。なんでエリスの頭がここに?これって腰なんじゃ。……ゴフ」
強烈な打撃が腹に入る。俺はその衝撃で意識を持っていかれる。
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ーー
あれからどれくらい経ったのだろうか。目を覚ますと窓から赤色の光がベットの上を照らしていた。
どうやら、夕方らしい。
「よく眠れましたか?」
横を見ると椅子にエリスが座っていた。
いつもの笑顔だが、なんだろう。すごく恐い。
「ああ、いい眠りだったよ。それにしても、なんで俺はここに?確か、師匠の店行ってバニルと商談をしていたんだけど」
「帰りにいきなり倒れちゃったんです。ほら、あれ以来めぐみんさんと毎日爆裂魔法を競っていましたし、疲れていたんですよ」
確かにあれ以来めぐみんとは爆裂魔法を打ちあっている。正直面倒くさいのだが、特にやることもないので断るに断れない。
だが、果たしてそれが理由なのだろうか?
なんか記憶が抜けているいうか。
「そういえば、今カズマさん達が入らしているんです。どうやらカズマさん、クエスト先で不慮の事故にあったみたいで、ユウマさんと話したがってましたよ」
必死に思いだそうとしている俺に何故か狙うように伝えてくる。
「わかった。もう少ししたらおりるから、先おりてて」
「わかりました」
エリスは椅子から立ち上がってドアを開ける。
が、部屋を出る前にこちらを向く。
「ユウマさんはそういう人じゃないって信じてますから」
ばたんとドアが閉まり、足音が遠ざかっていく。
そういう人じゃないって、どういう人?
ふと、手元に紙切れがあることに気づく。
「『セクハラは駄目ですよ(呆れ』……」
それはイリスの書いた字だった。
なんのことだろか。
下の部屋からはめぐみんに訴えかけるゆんゆんの声と賑やかな笑い声が聞こえてくる。
そろそろ下に行こうかな。
バニルはこんな感じでいいんでしょうかね?エリスは悪魔への当たりがヤバイので書いてて、本当にこれエリスだよなて、戸惑ってました。(13巻を読みながら。汗)