自分の素を見られたくなくて。
私は嘘をつきました。
あの人に救われたくて。
私は嘘をつきました。
そんな自分を否定したくて。
本能のままに突っ走ると、とんでもないことしか待ってない。
特に女性への接し方はそれだと思う。
「……うっ、痛い」
ふっと、うなじ辺りの痛みで意識が戻る。
相変わらず、エリスは容赦がないな……。
昔から友達の女話を聞いては、おっかないなと苦笑いして、自分には縁が無いことだと思っていたが、案の定、そうではなかったようだ。
俺は寝返りをうって枕に顔を埋める。
……ん?枕?いや、この感触は枕じゃない!
「今回は速く起きたんですね」
仰向けになって目を開けると、イリスの顔が目に入った。
「そうだな、どうやら今回は速く起きれたみないだ」
「これで、3回目……。エリスさん関係では2回目ですよ。そろそろしっかりと学習しないと駄目です!」
「はい、精進します」
俺はそのままうつ伏せになってイリスの太ももに顔をうめる。
小学生くらいの年でこの柔らかさは犯罪的だ。
ちょっとそっちのけになっちゃうよ!
「反省してないじゃないですか……」
「反省はしてる。ただ、俺だって甘えたくなるときはある!」
「なんで、そんなに本気なんです」
そうは言いながらも、頭を撫でてくれるイリス。
これが噂のばぶみというものですか。
「ユウマさんも少しは女心を分かる人になってください」
「え、これでもイリスの喜びそうなことは分かってるつもりだけど?」
「私じゃなくてエリスさんのです。もう、これだとエリスさんが報われません。ああ見えてエリスさんはすごく焼きもちやく人なんですよ。今だってこの様子を見られたらユウマさん、すごい目で見られますよ」
「え、ちょっ!!」
その言葉に俺は勢いよくはねあがり、正座で座る。
イリスはというと意地悪そうに笑っている。
「大丈夫です。今のことはエリスさんには言いませんから。そのかわり、後で一緒に遊んでください!」
元気のいい言葉についつい、頭を撫でる。
やっぱり、イリスはまだまだ子供のようだ。
「わかった。イリスが飽きるまで付き合うよ」
「やったー!それじゃあ約束ですね。さっそく下に行って準備してきます!旅行中にお兄さまに教えてもらった遊びがあるんです!」
そのまま、部屋を出て急いで階段を下るイリス。
その様子に少しほんわりとする。
……お兄さま!?
もしかして、カズマのことか!?
自分のパーティーに飽きたらず、イリスにも手を出すとは……。
畜生めー!
勢いよく投げたペンは壁に跳ね返されて、俺の所へむなしく戻ってくる。
なんだか、悔しい。
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ーー
「これより、会議を始めます!」
パーティー全員が座ったことを確認し、周りを見回すエリス。
雰囲気的には家族会議みたいな感じだ。
俺の家はやったことないけど。
「エリス、別にこんなに緊張して話し合わなくてもいいんじゃ」
「ユウマさんは黙っていてください!」
「はい……」
どうやら俺には発言権は無いようだ。
エリスはさっきのことが許せてないのか、いまだに俺には厳しい目線だ。
「それでは、ゆんゆんさん。ユウマさんに子供が欲しいとのことですが、何があったんですか?すごい血相抱えてましたけど」
「実は……」
なにやら落ち込んだ様子のゆんゆんは二枚の紙を机の上に置く。
「えっと、『この手紙が届く頃には、きっと私はこの世にいないだろう』」
手紙を読み始めたエリスの顔は険しくなっていく。
それにしても、手紙の内容は思っていたよりも重い内容だった。
「『族長の座はお前に任せた。……この世で最後の紅魔族として、決してその血を絶やさぬ様に……』……」
部屋の中に漂う重たい空気。
「え、ちょっと待ってくれ。『頼りなく、それでいて何の力もないその男こそが』って、俺ってそんなに頼りない男なの!?」
「えっ、そこですか!?」
俺は納得いかず声に出してしまい、それに反射的につっこむエリス。
確かに場違いなのはわかっている。
わかっているが、これだけは納得がいかない。
「まぁ、確かに頼り無くはないですよね」
「だよな!イリスはわかってくれてて嬉しいよ。」
本当イリスはいい子だ。
あとで、お菓子でも作ってあげよう。
そして、ついつい忘れかけていたがイリスを妹にしたカズマには制裁を……。
「あの!実は私、一度里に戻ろうと思うんです」
ゆんゆんの一言で騒がしかった部屋の中に真剣な空気が流れる。
きっと里を救いたいと思っているのだろう。
そりゃ、自分の家族や友達のいる場所だ、俺だって同じことを思う。
「やっぱり、大事な人達が危ない状況ならほっとけないよな。俺も一緒に行くよ」
「え?」
「仲間が困っている時は助け合う。私も頑張ります!」
「そうですね。それに、今回は魔王軍幹部も相手ですし、数は多いほうがいいですしね」
「ユウマさん、イリスちゃん、エリスさん」
「それじゃあ、出発は明日の昼くらいだな。ちょっと荷造りしてくる」
「あ、私もしとかないとですね。今回は長旅になると思いますし、しっかりと用意しないとです」
「じゃあ、私達の荷物はそのまんまにしときますね。ゆんゆんさん!ちょっと、こっちに来てください!」
「う、うん」
各自それぞれの持ち場へ行く。
流れで行くことになったが、やるからにはしっかりとやるだけだ。
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ーー
「ーーと言うことで俺達は紅魔の里に行くことになったんだが、カズマ達はどうする?」
「ああ、俺達も行くよ。うちのツンデレ魔法使いも行きたがってたみたいだしな」
翌日、俺はカズマ達を誘いに屋敷に来ていた。
ーーがどうやら腹は決まっていたらしい。
昨日、俺とエリスが帰ってくる前にゆんゆんはカズマ達の所に来てたらしい。
そこでめぐみんは行くことを拒否ったのだが、里の妹が心配らしく、行くことを決めたらしい。
確かに、めぐみんのやつはツンデレだな。
「なんですか、その目は!なにか言いたいことがあるなら、はっきり言ったらどうです」
「いや、別に。ただ、少しは素直になればなと」
「なんですと!」
「まぁまぁ、落ち着け。それにしてもユウマ、私達が湯治に行っている間そちらも大変だったと聞いてるぞ」
「なぁーに。ちょっくら悪徳領主を捻ってやっただけだよ。それに、お前のお父さんにはすごい世話になったからな。改めて、ありがとう」
その後は移動手段の話になったが、どうやらアルカンレティアを経由していくのだが、馬車だと時間がかかるので、最短で着けるようウィズさんのテレポートを使うことになった。
「いらっしゃい!浮気坊主に旅行先で残念な思いをした小僧にその面々よ。お主らはとてもついているぞ、さぁさぁ、中に入るといい」
満面な笑みで俺達を迎えるバニル。
ついてるてなんだよ。
怪しさ満載なんだが。
「そう怪しい目で見るな。」
「なんだよ、そのお香みたいなのは」
「これはアンデット除けの魔道具だ。蓋を開けるとアンデットを寄せ付けない神気が半日ほど漏れ続けるアイテムだ。どうやらそこの小僧はアンデットに好かれるおかしなのがパーティーにいるらしくてな。買っておいて損はないだろう」
「へー、アンデットを寄せ付けない神気ね。そういえば、悪魔は神気みたいなのは放ってるの?」
「もちろん放ってるぞ。ただ、どこぞのポンコツどもと違って、アンデットを引き寄せることはないがな。フハハハハ」
「そうなのか。でも、神を引き付ける効果はあるんだな」
「なに?」
バニルの後頭部を襲う二つの打撃。
だが、その攻撃はバニルには当たることなく、店の床を砕く。
「我輩に攻撃を当てようなど、500年早い。出直してくるがいい」
「虫の分際でいい気になりますね」
「そうよ、さっきから人のことを馬鹿にしてきて、いったい何様のつもりかしら。」
相変わらず、エリスとアクアはバニルに喧嘩腰のようだ。
それにしても、この床どうするんだよ。
「坊主、小僧。床の弁償は個別に後で請求しておくぞ。それと、ポンコツ店主だが、扉の向こうでこっちに入れなくて、めそめそしているから、慰めるといい」
「こっちに入れないって、あの魔道具のせいか」
机の上の魔道具の蓋を閉めるカズマ。
すると、涙を流しながらウィズさんが部屋に入ってくる。
さすがにこれはやりすぎだろバニル……。
それから、ウィズさんを慰め、後ろで起きている戦いを観戦しながら、カズマが用件を言ってくれる。
「なるほど。皆さんを、テレポートでアルカンレティアへ送ればいいんですね?」
「ええ、お願いできますか?」
「任せてください。それにしても紅魔の里ですか。私も何年か前に行ったことがあるんですよ。なつかしいです」
なにやら懐かしそうな表情のウィズさん。
……とここで、後ろの戦いが終わったのか少し静かになり、振り向くとアクアとエリスが縄で縛られていた。
「随分壊してくれたな。バニル、さっきのお香を売ってくれ、流石にこれはやりすぎだ」
まいどありと嬉しそうなバニル。
ついでにカズマも店をボロボロにしたアクアの尻拭いとして、一個買った。
「さて、行く前に一つ、高い買い物をしてくれた貴様らに忠告してやろう。坊主、貴様は今回の旅でその後の人生を大きく変える選択をすることになるだろう。どちらを選んでも貴様は辛い思いをすることになるが、せいぜい後悔しないよう選ぶのだな。」
「それでは、皆さんがより良い旅になることを祈って《テレポート》!」
眩しい光が身体中を覆う。
後悔しないように選ぶか。
今回もすごいことを言い残してくれるな。
何気に前書きで時間を使いました笑
次回は水曜日に更新予定です。
感想、アドバイスよろしくお願いします!