「こんなものかしらね」
脈を計り、安定を確認してから近くの椅子に腰をかける。
ふと、外を見るとひと降りいそうな空だった。
あれから三日がたった。
ダクネスやゆんゆんは特に外傷もなくヒールを念のためのかけてすんだ。
ただ、以外にもゆんゆんに大きな怪我がなかったのは驚いた。
とっさに張った結界がダメージを半減させたのだろう。
流石は天才と言われるだけのことはある。
エリスにいたっては少し手こずった。
あの子は霊基の損傷をあまく見積りすぎだ。
気絶したのは本当に運がよかった。
でなければ次の一撃で終わっていただろう。
サツキったら、何がなんでも弱体化させすぎよ。
あの子ったら不器用だから、ここまで深い傷は治しきれない。
本当、私がいたことが運がよかった。
しかし、問題はユウマのほうだ。
目に見える損傷は無いものの、脳に負荷をかけすぎたことで、当初は治すのにかなり手こずると思っていた。
だが、いつこんなことをしたのか、魔術回路が急激に自己回復を始めていたおかげて、治すのは脳だけですんだ。
いや、自己回復というのは少し違う。
正確には混ざりあっていたというべきか。
いったい何をしたら他の世界の未来の自分から魔術回路を複合することができたのだろう。
しかし、最初はサツキの仕業だと思っていたが、よくよく回路を見ていくとあの悪魔の魔力を微弱だが感じることができた。
まさかね……。
ただ、そんなことは問題ではない。
一番の問題は混ざってはいけないものと混ざってることだ。
なんで今まで気づかなかったのだろう。
この様子を見る限り、混ざり始めていたのはデュラハン戦の前からだ。
考えてみればおかしいことばかりだ。
カズマと同じでチート能力もなく、あるとすればウィザードとしてのちょっとした才能くらいだ。
それなのにめぐみんですら一日一発しか撃てない爆裂魔法を何発も撃てるのだ。
普通に考えておかしいが、別にできないわけではない。
方法は二つある。
カズマのドレインタッチで魔力を移すこと。
もう一つは魔力供給をすることだ。
この魔力供給にもやり方はたくさんあるが、エリスが選んだ方法は擬似的な契約状態から魔術回路のパスを繋げる方法だろう。
そのせいで、神の魔力を通し続けたユウマの魔術回路は変質してしまった。
今ユウマは体の半分が、神のものになってしまっている。
簡単にはいえば半神半人という状態だ。
この状態は非常に危ない。
生物の体というものは繊細だ。
異物なんて入ってきたら、拒絶反応を起こす。
それは神だって同じだ。
しかし、神々はその強力な力で抑制することができる。
だが人間は違う。
人間の魔力は他の生物と比べたら弱い方だ。
この中に魔力の中で最も強い神の魔力がはいったらどうなるか。
簡単だ。
あまりの強力さに逆に飲み込まれていき、廃人化が進み最後には人として終わる。
時限爆弾のようなものだ。
それを、ユウマは二つも持ってる。
それは未来の自分の力だ。
これは魔術の使われている世界のユウマが歩んだ抑止の結末の力。
ただの人間の魔力とは力の差が違う。
普通に生きるて普通に魔法を使う分には大丈夫だろう。
だが、情報を引き出そうと酷使していけば、必ず破滅する。
遅かれ早かれ、ユウマは破滅の道を進んでいく。
救いがあるとすれば魔王を倒して、神々に願うしかない。
それまで持つのだろうか。
その時、部屋の入り口が開く。
そういえば、もうそんな時間か。
「アクア先輩」
部屋に入ってから、私の不機嫌さに気づいたのだろう。
本当、この子は勘が良いのか悪いのか。
「安心しなさい。やっと安定してきたわよ。あと少しすれば目を覚ますわ」
私の言葉にパァと表情が明るくなる。
そう、この子は意識が戻ってから、私が治療をしている間、ずっとユウマの身の回りのことをしていた。
すごく心配だったのだろう。
「よかった。それなら安心ですね」
……安心?
その言葉に私は嫌悪感を覚える。
もしかして、この子は気づいてないのか?
ユウマの魔術回路を見た限り、あの神気は確かにエリスのものだった。
なら、気づいてないはずがない。
「エリス、ちょっと聞いてもいいかしら?」
「なんでしょうか?」
「あんた、ユウマとパスを繋いだでしょ」
エリスの言葉が詰まる。
あぁ、当たりだ。
「はい、繋ぎました。でも、それはユウマさんのことを思って……!」
「黙りなさい!!」
エリスの体がビクンとなる。
何がユウマのことを思ってなのか。
この子はそこまで無知だったのか。
私の中に怒りがわいてくる。
「一ついい?神の魔力ってのは人間に毒なの。紅魔族のような強い人々で十回が限度なのに、それをただの人間にしかも常時送り続けるなんて。あんた何をしたか分かってるの?今ユウマは背負わなくていい爆弾を一人で背負っているのよ!」
それを聞いて嘘だと疑っている。
こんなことすら分かっていなかっただなんて。
ありえない。
それでも女神なのだろうか。
「……」
無言で部屋を出ていくエリス。
「うぉっと!おい、エリスどこに。って、アクアどうしたんだよ」
お見舞いに来たカズマが部屋に入ってくる。
何をむきになってしまったのだろう。
ふと、我にかえって入り口の前に落ちたユウマのジャージが目にはいる。
そのジャージはよく見ると糸の始末が下手で、結びも甘い、それでも頑張ってやったのを感じられる。
きっとユウマも喜ぶだろう。
あの子ったら不器用な癖に本当一生懸命に頑張る子だ。
それに比べて私ときたら、勢いで怒鳴ってしまうなんて……。
「うぐ。カジュマ……」
「おい、どうしたんだよいきなり泣き出して」
「私、最低だわ。ちょっとイラッとしただけで怒鳴っちゃうなんて。あの子の気持ちも考えないで強く言っちゃった」
「あーもう泣くな。誰にだってそういう時はあるさ。ここ最近、いつもよりも頑張ってたし。そうだ、なんだ、お前がいつか言ってたマイケルさんの酒、今度買ってきてやるから。そしたら、一緒に飲もうな」
「本当?」
「ああ本当だ」
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ーー
アクア先輩から言葉で私は部屋から飛び出した。
途中カズマさんやイリスさんたちから声をかけられたが、すべて振り切って走った。
シルビアの襲撃で半壊した里の復興作業も、数の減った里人達も全て見ずにただ走った。
そして、ついに疲れて足を止める。
前を見ると復興中の里全体が目に写る。
多くの人を失ったというのに、勢いを止めず作業する人々。
その姿は、あの日見た少年の姿と同じようだった。
……。
頬に水滴が当たる。
ポツリまたポツリと水滴は天から落ちてくる。
そして、少しすると体に雨が打ち付けられていた。
あぁ、寒い。
体温が落ちていき体が冷め、手にはただ冷たい感触だけだ。
あの頃と同じだなぁ。
私にとってここはあの冷たく暗い天界と同じだ。
いや、冷たく暗いなのは天界ではなく私自身だったのだろう。
私はまた一人、大切な人を傷つけた。
本当自分勝手だ。
あのまっすぐな瞳に憧れて、救われたくて、私は彼に酷いことをしてしまった。
これからどうすればいいのだろう。
どうやって彼の顔を見ればいいのだろう。
いや、私にそんな権利はない。
彼を見るどころか側にいることすら、私には許されない。
今振り返ってみれば全て自業自得。
天界を冷たい場所だと思ったもの、死者の怨念に蝕られたのも、彼に顔を合わせずらくなったのも全部私の自業自得だ。
今さら誰かにすがることなどできない。
ならどうするか。
いっそここで……。
「エリス!」
雨の音の中、一つの声が聞こえた。
振り向くとそこには、私の憧れたあの人がいた。
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夢を見た。
それは一人の少女の過去。
怨念を背負い、自己嫌悪に身を蝕まれ、理解者を求めた少女の悲しい嘆き。
驚いた様子のアクアとカズマを置いて、ゆんゆんの家を後に走る。
今なら、正確に強く感じることができる。
そして、走った先に彼女はいた。
「エリス!」
俺の言葉に振り向いた彼女の顔は悲しいものだった。
「近づかないでください!」
悲痛の叫びが雨の音を裂く。
「私、卑怯者なんです。自分さえ良ければ、周りを平気に傷つけてしまう最悪な女なんです。私に近づいたらあなたまで汚れてしまいます」
ただ黙って歩く。
「駄目です本当に。私はあなたが最も嫌う自分勝手な女なんです。幸運の女神なんて名だけで、近づいた人はみんな不幸になっちゃうんです。だから、やめてください」
嗚咽混じりな言葉がむなしく雨の中に響く。
「ああ、わかったよ。もう十分に」
冷えきった体を抱きしめる。
寒気と苦しみの震えが体に伝わってくる。
「エリスが自分勝手なのはよくわかったから。だから、俺はエリスの側にいるよ。約束したろ?何があっても守るって。たとえ、否定されてこの世の全てが敵になっても俺はエリスを守り続けるよ」
それは誓いであり願いだった。
誰かに誉められたくて、誰かのためになろうとした。
でも違った、俺が誰かのためになりたかったのは、昔見たヒーローに憧れたからだ。
ヒーローは自分の正義を貫く。
たとえ、周りから否定されることになっても。
俺はそんな姿に憧れた。
すごい痛々しいことかもしれない。
でも俺は、俺のことを肯定してくれた彼女を、自分を否定する彼女を守りたいと思った。
これが俺の正義<答え>だ。
「私、あなたの側にいてもいいんですか」
「ああ」
これで、後戻りはできなくなった。
でも、後悔なんてない。
なんだって、これが俺の選んだ道なんだから。
「帰ろう」
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<三章エピローグ>
あれからお互いびしょ濡れのまま帰った。
ゆんゆんの家に着くと、心配そうにアクアとカズマが待ってくれた。
そして、アクアとエリスはお互い謝って、仲直りすることができたのだが、怪我明けの俺は、酷く怒られ、ベットの上に戻された。
「さすがに怒りすぎだと僕は思いますよ」
「アクア先輩やイリスさんたちだってすごい心配してたんですから、くみ取ってあげてください」
今は部屋で俺の看病に付き合ってくれてるエリスと二人きりだ。
後にカズマが、俺の分の夕飯を持ってきてくれるそうで、それまで待っている。
「その、直してみたんですがどうですか?」
愛用のジャージー渡される。
アクアのように新品同様の修復状態ではないが、ものすごく頑張ったという感じが伝わってくる。
「ああ、ありがとう。もう、これは死んでも手放さないよ」
「それは言いすぎですよ。そうだ、ユウマさんが寝ている間に作って置いたんです。はい、どうぞ」
そういうと、スプーンですくったハチミツレモンを差し出される。
これって確かに、めっちゃ鉄の味がするやつだよな。
普通のやつよりいっそうキラキラとハチミツが光っている。
せっかくエリスにあーんをしてもらえるのに、断るのはもったいない。
……にがっ!
「あの、エリスさん?このハチミツものすごく美味しいのですが、少し苦い気が」
「実は、このハチミツ。とても珍しいものでして、レバーなどの食材より、含まれる成分がいいと評判なんです!」
あ、なるほど。
鉄分多いのか。
そりゃ、血に似た味だわな。
「へぇー。でもそんなに評判がいいんなら、手に入れるのも苦労したんじゃ」
「そうでもないですよ。たまたま、教団のお手伝いをしてましたら、森で遭遇しまして。二、三発撃ち込んだらすぐに倒せましたんで、そのまま巣を潰したら、お礼にと少々分けてもらえたんです」
わーを、ハチとタイマン張るなんてワイルドー(棒)
それにしても、めぐみんの言っていたあれは、紅魔族だけの話だったんだな。
いやー、身構えて損した。
「実はこのハチミツ以外にも、体を良くする調理法があるのですが、確か……」
「いや、良いんだよ思い出さないで!うん、エリスの料理は美味しいからそのまんまでも十分体にいい!」
「入るぞ~」
扉が開くと、料理を持ったカズマと見舞いに来たイリスとゆんゆんがいた。
「お、カズマありがと。それにイリスとゆんゆんもありがとな。里の復興忙しいのに来てくれて」
「いえいえ、元気そうでなりよりです。里の復興といっても、魔法で片っ端からやってるだけですので。あとで、お父さんも来るのでよろしくお願いします」
「おう、わざわざありがとな」
「ユウマ、食い終わったら呼んでくれ。こっちでまとめて洗っておくから」
カズマとゆんゆんが部屋を出ていくなか、イリスが耳元まで近づいてくる。
「乙女心は大切にですよ」
と、言葉を残しててでいく。
どうやら、イリスにはばればれだったのらしい。
恐ろしい観察力だな。
以上が第三章になりました。
本当は7話くらいで終らすつもりだったのですが、紅魔の里までを長く書きすぎて、いつもと変わらない話数でした。
本当、計画性が無いのはつらい。
次回からの新章はみなさんおまちかねのあのキャラが中心の章です。
とその前に第三章までの設定を一度まとめたものを出したいと思います。
それではまた次回もよろしくお願いします。