ベルセルク王国、その中心と言われる王都の王城に俺たちはいた。
その雰囲気はいつものものとは全く違い、誰もが口を閉ざしてただ待っている。
しかし、例外としてカズマとダクネスだけは違っていた。
王城に入る前、俺は裁判であったことをみんなに話した。
その結果、エリスやゆんゆん、めぐみんは状況を理解し下をうつむき、カズマに関してはずっとイライラしており、ダクネスはその顔を真っ青にしていた。
ちなみにアクアだが、状況を理解しているのかはわからないが珍しく黙っている。
やがて、前の扉が開かれ騎士を連れた、いかにも側近という感じの女性が部屋に入ってくる。
そして最後にいかにも王女様という感じの清楚なドレスを見にまとったイリス改めアイリスが入ってきた。
「ダクティネス卿、この度は王女アイリス様を保護してくださり、誠にありがとうございます」
アイリスのとなりから白いスーツを着た人が前に出て礼を言う。
それに対し、ダクネスは慌ててかえす。
「感謝の言葉。ありがたく頂戴いたしますクレア殿。しかし、今回の件、私よりこの後ろの者を褒めてください。この者たちの力があってこそ、この件が無事にすみましたので」
ダクネスの言葉にクレアさんは俺たちを一通り見回すと口を開く。
「ええ、皆様のことはお伺いさせていただいてます。アクセルの街に滞在し数多の魔王軍幹部と渡り合い、あのデストロイヤーまでも討伐した英雄の方々。議会でも度々話が上がります。これまでの戦果も重ねましてお礼申し上げます」
クレアさんの俺たちに対しての目には確かに尊敬の気持ちが込められていた。
しかし、そんなことは関係ないと口を閉じていた者がその口を開く。
「そんな礼はいい。なぁイリス……、いやアイリス。この状況はなんなんだ?」
今までからは考えられない、怒りを込めた言葉を言うカズマ。
その言葉にうつむいていたアイリスが顔をあげる。
「おい!アイリス様に向かって呼び捨てとは!」
「いいのですよ、クレアはさがって」
クレアさんを下げ、前に出るアイリス。
その姿にいつもの無邪気な面影はなく、王女としての風格を出し、冷静な瞳でカズマを見る。
「お兄……。カズマ様。皆様、今まで黙っていて申し訳ございませんでした。改めて紹介させていただきます。私はベルゼルク王国、第一王女ベルゼルグ・スタイリッシュ・ソード・アイリスです。私のわがままから何まで聞いていただき、また短い間でしたが、皆様と冒険できたことを心から……」
「そんなことどうでもいい!なぁ、アイリス。お前、俺たちと一緒にいたいんだろ?ほら、ユウマも言えよ」
なぁ、とカズマにふられるが俺は何も言えない。
けしてこの状況に混乱しているわけではない。
ただ、あのとき。
あのときのアイリスとの会話が頭によぎって何もいえないのだ。
「私は一国の王女です。父やお兄様、国の者たちが最前線で戦っているのに、私だけがいつまでも楽しんでいる訳にはいかないのです」
その声を震わして立っているアイリス。
今までのアイリスの姿から、こんな苦しそうな姿は考えられないかった。
今すぐ助けたい。
そばによって慰めてあげたい。
しかし、あの時の言葉が俺の足を止める。
『やっぱり、ユウマさんは優しい人です』
あのとき、寂しそうそう言ったアイリスに俺は何をしてされるのか。
『そうだな。俺が仲間だったら、お姫様の手助けをするよ。しっかりと、問題に向き合えるように。自分の気持ちを伝えられるように、全力で手助けをするよ』
……。
「じゃあ、なんでそんな顔してるんだよ」
カズマの言葉にアイリスは自分がどんな表情をしていたのか気づく。
「そっちの都合なんてわからない。でもな、苦しい思いをしている奴がいて、それが妹ならなおさら見捨ててられねぇ。いいか、貴族ども!お前らにアイリスを幸せにできないなら、この俺がかわりにしてやるよ!」
短剣を取り出したカズマに戦闘態勢に入る騎士たち。
「く、さっきから黙って聞いていれば勝手なことを。おい、その野蛮な冒険者を捕らえろ!」
「おい、カズマ!その剣を仕舞うんだ!このまんまじゃ、今度は本当に国家転覆罪になる!」
向こうではクレアさんが、こっちではダクネスが叫んでいる。
カズマに襲いかかる騎士たちを見て、俺が今すべきことは。
「悪い」
カズマのうなじに一撃。
そして、カズマを捕らえようとしていた騎士たちを結界で捕らえる。
「なに!?」
動揺の声を漏らすクレアさん。
「自分の連れが大変失礼なことをしました。悪気があってしたことじゃないんです。どうか、慈悲深き目で見逃してもらってはもらえないでしょうか、アイリス様」
さっきまでの冷静さはどこえ消えたのか動揺を隠せない顔で俺を見る。
これ以上俺たちがここにいてはアイリスの覚悟を鈍らせてしまう。
気絶したカズマを肩で支え背中を向ける。
「お待ちください!……いえ、ごめんなさい……」
今にも消えそうなその声は王女アイリスとしてではなく、一人の少女の声だった。
「大丈夫。約束は守るから」
それだけ残して王城をでる。
カズマはアイリスの本心とは裏腹の言葉に苛立ち、連れ戻そうとした。
だが、それはアイリスにとって何にもならない。
彼女は一定の期間だが国を捨て、自分の好きなように生きた。
だが、彼女の立場からすれば、自由に憧れるのは仕方のないことだ。
しかし、民をまとめる立場に立つものとして、それは愚行だ。
彼女はその事に対しての落とし前をつけないといけない。
だから、だから、俺は……。
彼女を見守ろう。
彼女が助けを求めるなら助け、求めないなら見守る。
それが、仲間として友達として俺のしないといけないことだから。
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こうして一人でここに来るのもいつぶりか。
ここ最近は誰かといるのが当たり前だったため、一人で来ることに懐かしさを感じた。
木製の大きな扉を開けると、鼻については酔いそうになるほど強烈なアルコール臭。
このにおいにしみじみしながら、酒場の席につく。
あのあとテレポートサービスでアクセルに戻った俺たちは、そのまんまカズマの屋敷に行こうと思ったのだが、目を覚ましたカズマに殴られ、別行動になった。
カズマにはカズマの考えがあるのだろう。
どうしてもアイリスを取り戻そうと、屋敷にこもって何かを作っているとめぐみんから教えてもらった。
しかし、それがアイリスに強制をするものなら、今度こそ、決裂することになるかもしれない。
出された水を飲みながらそんなことを考えていると、吐き気が強くなってきた。
王城で魔法を使ってから、頭がギンギンする。
アクアの話しによれば普通の魔法の使用には問題はないとのことだが、正直問題がありすぎる。
たった一回の使用でこんなじめじめとした陰湿な痛みを長時間受けるとか拷問レベルだ。
やっぱり、今日は家に帰って寝るか。
「おっと、珍しい人がいるね」
ふと、帰ろうと席を立とうとした瞬間、後ろから声をかけられた。
「え、クリス?」
「うん、久しぶりだねユウマ君」
目の前に立っていたのは小柄でショートヘヤーの盗賊職の格好をした女性。
そのつやのある銀の髪と特徴的な紫の瞳にエリスの面影を感じることができる。
そう、何を隠そうと彼女はエリスが下界に来てからその意思を持った分霊。
エリスの姉妹のようなものだ。
「ちょうどよかった、君に用事があったんだ。時間も時間だし、私のおごりていいから食事しない?」
頭が痛いが別に断るほどのものでもないので、一緒に飯を食うことにした。
それからしばらくして、出された料理の食べながら、ここ最近の話をした。
どうやら、俺たちの成果は結構広まっているようで話すことは部分部分のものを多くすると、苦笑、驚き、笑いと多種多様な表情を見せてくれた。
逆にクリスの話を聞くと、それは苦労の連続だった。
「まぁ、君たちがあの領主と戦う前に襲撃したんだけど、まさかの悪魔がいてねー。下界にいる私やサツキさんは使える能力が限られちゃうから、対策なしで戦うことになったんだけど、情けないことに大敗。なんとか命からがら戻ってきたけど、襲撃に用意した物は壊されたり奪われたりで、結局一文無しになっちゃってね」
そのあとは天界で溜まった仕事をこなしているサツキさんの変わりに資金を集めながら、今日までやって来たらしい。
「結構苦労したんですね。そういえば今サツキさんは?」
「今も天界で仕事中だよ。本来のエリスの仕事は、その天界に残した権能を受け継いだ私がするべきなんだけど、サツキさんはサツキさんで他にもやりたいことがあるらしいから、変わりにやってもらってるんだ」
そんなことをのほほんと言っているクリス。
あれ?それじゃあクリスは天界だとニートってことじゃ。
「それはまた、なんとも言えないのですが。まぁ、それは言いとして俺への用事って?」
「あぁ、忘れてた。大事な話だから、この事は他言無用でお願いしたいんだけどいいかな?」
「ええ、まぁ、いいですけど」
「ありがと。まず、私たちが神器を集めてるのはしってるよね?」
「ええ、使い手のいなくなった神器を悪用されないようにって」
「そう、そのことで活動してるんだけど、最近、新しい神器の情報を得てね。その神器は王都の王城にあって王女が身に付けるネックレスみたいな物なんだけど実はとてつもなく危険な物で、人と人の魂を入れ換える効果を持ってるんだ」
え!?
「ここんところ少しの間はサツキさんも忙しいから、落ち着いてから取りに行こうと思ったんだけど、行方不明の王女が帰ってきたらしく、いつその神器が害を及ぼすかわからなくなったんだ」
王都、行方不明の王女。
そんなのこの国の王女のアイリスに決まっている。
ネックレス、ネックレス……。
もしかして、今日首につけていたあれか!?
「それで、すぐに取りに行きたいんだけど、私が一人じゃ流石にきついから」
「俺の力を貸して欲しいと」
「ビンゴ!」
……。
正直言って、ここは話に乗ってその神器を取りに行くのが正しいのだろう。
しかし……。
「ごめん、その話はのれない」
「え!?」
予想外の返答に言葉を失うクリス。
確かにアイリスが心配じゃない訳ではない。
だが、今の俺は王族の権限でバニルの契約の事実は書き消してもらっている。
それなのに王城に忍びこんで、もし見つかったとなれば、俺が逆賊かなんかなどと勘違いが強くなり、最悪の場合国家転覆罪。
アイリスへ迷惑がかかってしまう。
「今の俺には変な疑いがかかってるから、怪しいことができないんだ。それに盗賊職じゃないし、冒険者みたいにスキルの代用もできない。アークウィザードではあるけど、もろ戦闘系のスキルしか持ってない俺じゃ足を引っ張るだけになる」
「でも君、時間停止スキルとか、拘束スキル持ってるでしょ?それなら大丈夫だよ」
……。
言葉に詰まる。
確か俺のスキルをクリスに話したことはないはず。
それに時止めはつい最近手にいれたばかりで、知ってる人も少ないはず……。
なんで知ってるの?
「なんで知ってるのって顔してるね。悪いけど、実はさっき権能で君のスキルを把握させてもらったんだ」
「だから、俺にこの話を持ち込んだと?」
「そういうこと。でもそっちにも事情があるみたいだし。……そうだ!じゃんけんしよ!私が勝ったら手伝って!」
じゃんけんかー。
こんな肝心なことをじゃんけんで決めるのはちょっとやだけど。
まぁ、むこうにも譲れないものがあるらしいし、やるだけやってみるか。
「わかった。じゃあ、いくぞ」
「「じゃーんけん、しょい!」」
「……」
……。
「じゃあ、俺の勝ちと言うことでお引き取りください」
「なんでさ!私、これでも幸運の女神の権能をもってるんだよ!エリスとやらない限り負けないはずは」
おっと、それってチートやん。
俺じゃなきゃ、危ないところだった。
「ねぇ、どうして!どうしてー!そうか、まさかエリスの力じゃ」
「いや、多分関係ないかな。一応これでも、ここぞっていう勝負では誰にも負けない運はもってるつもりだよ俺。ここに来る前とかは俺の試合の時は絶対空が晴れたり、雨が降ってても俺がスタートにつくと雨が晴れるっていうことが日常茶飯事だったし、ゲームも例えガチャが糞確率でも、大好きな推しキャラは無課金で引いてきたからね。そのおかげで、現実のチート持ちとか、キャラ愛(運)なってよく言われた」
「後半の方はよくわからないけど、それって無意識で天候操作のスキルを使ってたんじゃ」
「確かにアクアいわく、無意識で魔法を使えるやつはいるみたいだけど、それなら、ここに来たときにスキル欄にそのスキルがあるはずだよ」
ポケットから取り出した冒険者カードを見るがそんなスキルは見当たらない。
「ちょっと見せて。て、なにこれ!?運の表記がハテナじゃん。規格外だなんて私見たことないんだけど」
声をあげるクリスに少し、首をかしげる。
まぁ、規格外っていうわりには先言ったことより運のいいことは起きてないんだけどなー。
それから、しばらくしてカードを返してもらい。
帰ろうと席を立つ。
「それじゃあ、手伝えない変わりに飯代は変わりに払うから」
「もう、私が払うって言ったのに」
じと目で頬を膨らませるクリスの姿は、それはもう完全にエリスでちょっと笑ってしまう。
「なに、笑ってるのさ」
「いや、別に。やっぱりクリスはエリスなんだなーって」
その言葉に照れて頬をかく仕草なんかもそっくりだ。
すると、恥ずかしそうにクリスが手を差し出してくる。
「?」
「ほら、いいから握って!」
言われた通りに出させた手を握る。
するとさっきまでじわじわときていた頭痛がすっとなくなっていく。
「これって?」
「簡単なことだよ。使わない私の権能を上げてこっちがわに寄せただけ、これでもう頭痛の心配はないから」
ギルドの外に出て俺の方を向く。
「それじゃあ、エリスのことは頼んだよ」
それはまるで、大切な妹を見る目だった。
そうか、クリスはエリスと誰よりもずっと一緒にいたんだ。
「ああ、任された」
分かれ道に消えていくクリスの背中を見送り、家に帰る。
星の綺麗な春の夜。
その景色は王城でも同じように見えたのだろうか。
音沙汰無しに一週間間を開けてしまいすいませんでした。
夏休みは投稿ペースがバラバラになると思いますが、一週間に一回は投稿できたらと思います。
今回はちょっとテーマを持って書いたんですがどうでしょうか?
アイリスのパーティーの離脱、カズマとの行き違い、クリスとエリスの別れ。
すべて合わせてこんなタイトルにしてみました。
今回の章は少し短く、一話一話もそんなに長くならないように書きたいと思ってますが、その中で、こんな感じのテーマで書けたらなーと、作家の真似をしてみます。
それでは次回もよろしくお願いします!