「ユウマ殿たちも戦い始めている頃でしょ。アイリス様、そろそろ避難を」
一級物の装備を身に纏ったクレアは険しい表情で言う。
民のためと私の変わりにみんなは戦ってくれている。
本当に私だけが安全な所にいていいのだろうか?
本来、民を守るのは私たち王族の役目、それを放棄して私は。
「アイリス様?」
クレアが不思議そうな顔をする。
そう、私は姫だ。
姫とは国の象徴だ。
しかし、こんな非常事態で避難するのはベルセルク王家として間違っている。
「私は……、私は避難しません」
「アイリス様!?」
「ベルセルク王家は代々先頭に立ち、民を導いてきた者です。父上やお兄様がいない今、それは私の役目。私も戦場に行きます」
「ですが、それでアイリス様の身に何かありましては」
「そこまでにしましょうクレア様」
クレアの言葉を遮るように扉が開かれる。
そこに立っていたのは、クレアと共に私の教育係を勤めていたレイン。
そして、彼女の手に持っているものは。
「どういうことだレイン!その手に持っている聖剣は!」
「見ての通りアイリス様の聖剣です。クレア様もう、いいでしょう。アイリス様のいう通り、ベルセルク王家は代々、民の先頭に立ち先導してきた者。国王様や王子がいない今、それはアイリス様の役目です」
「レイン。お前は姫様に自ら死にに行けと言うのか!」
「そんなつもりはありません。ですが、もし姫様に何か合ったら私が責任を取りましょう。幸い、私の家は小さい、国王様にはクレア様や騎士達を押し切ってアイリス様を出陣させたと伝えます。クレア様には迷惑はかかりません」
「レイン、私はそういうことを言っているのでは」
「アイリス様」
クレアを押しきり私の前に立ったレインは笑顔で言う。
「私は嬉しいのです。いつもご自身のお気持ちを内に隠して我慢なされていたアイリス様が、ご自分の思いを私達に伝えてくださったことが。姫様。行ってください。今は国のことなど忘れ、ご自身のお仲間のために」
差し出された聖剣を受け取る。
どうやら、私の考えはレインにはお見通しだったようだ。
「ありがとうレイン。行って参ります!」
「どうかご武運を」
私は振り返ることなく、城内を抜け出した。
さっきまで快晴だった空はいつの間にか気味悪い雲に包まれ、焦げくさい臭いが鼻につく。
皆さん、どうかご無事で
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私はどこで道を踏み外したのだろう……。
次々と瀕死の重症となっていく冒険者たちを飛び越え、襲いかかってくる獣の頭をあしらう。
『たとえ、否定されてこの世の全てが敵になっても俺はエリスを守り続けるよ』
私はこの言葉に安堵し、自分を嫌悪した。
本来守る側の私が守られる側に立つなんていけないことだ。
それも、よりにもよって一人の青年の一生をかけて。
……本当に最悪な女神だ。
女神としての責務より、彼に救われることを望んでいる。
ぶつぶつと考えながら、次から次へと襲ってくる首を凪ぎ払う。
切っても切っても次の首が襲ってきて、その間に自己再生を繰り返してくる。
正直言って鬱陶しい。
何が、神を弾圧した獣か。
ただでさえ、気分が良くないのに、さらに害してくる。
返り血は白かった私の服を汚し、生臭さが覆う。
「《スターバースト》!!」
打ち終わった後に気づく後悔。
積み重なったイライラと、早く終わって欲しいという焦りに、5本の頭が重なった瞬間、聖槍の最大火力をぶつけた。
半分以上の頭が無くなり、場が見やすくなった瞬間、それに気づくことができた。
自らの頭が一瞬にして溶けたことにより、ターゲットを私に変えたのか、はたまた、最初から私を狙っていたのか。
残った3本の頭は、他の冒険者を攻撃する道順として、その最後を私にたどり着くようにしていた。
「しまった……!」
一撃にかけた魔力の多さの余り、反応が遅れる。
そうしているうちに、冒険者たちを噛み砕いた3つの頭は、いつの間にか私の退路を塞ぎ、八方から鋭い牙を光らせる。
ああ……。
ユウマ……さん。
「《固有時間制御・四倍速》……!!」
それは一瞬のことでした。
体の自由を奪われ、獣の口に落ちていくはずだった私を、恋しくなるような温もりが覆う。
「ユウマさん……?」
「《全剣連続投射》《仮・壊れた幻想》!!」
連続投射された短剣は獣の頭に突き刺さり、次々と爆発していく。
「言ったろ?何があっても守るって」
聞きたかった言葉に私は、心のそこから安堵する。
やっぱり、私はダメな女神のようです。
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地上に降り、エリスをカズマの元に避難させたのを見送った後、再び獣に向き合う。
ほぼ、同時にすべての頭を破壊したことによって、回復が遅れているのだろう。
すでに、動きを止め、首の根元から新たな頭を生やそうとしている。
「おーーいユウマ!こっちの避難は終わったあとは頼む!!」
カズマの声を合図にめぐみんと合流を果たす。
「こんな地獄絵図な状況で、女を口説くとは、頭がどうかしているのでしょうか」
「ふん、ぬかせ!俺は俺で、約束を果たしてるだけだ」
「ずいぶんのいいようじゃないですか、それで失敗したら後で笑われものですよ」
「お前こそ緊張のしすぎで狙いを外すなよ」
「な、なにおう!」
安い挑発の言い合いをしながら、短剣を獣に向ける。
人類最強の魔法。
これを二つも当てれば、流石に消しとんでくれるだろう。
……それにしてもだが。
今になってアクアの言葉を思い出す。
武器の召喚、爆裂魔法、共にあわせて三回が限度。
もしやぶれば、ドカンといくとか。
昨夜の再インストールだけでも、意識が飛びかけたのに、使用制限のかかってることをやったらどうなるのか。
考えるだけでも、恐ろしい。
しかし、今は不思議と戸惑いがない。
使った後にどうなるのか、そんなこと考えることなく、詠唱を唱える。
「「黒より黒く、闇より深き漆黒に我が深紅の混淆を望みたもう。覚醒のとき来たれり。無謬の境界に落ちし理。無行の歪みとなりて現出せよ!!」」
詠唱の一つ一つを口ずさむごとに、フル稼働を始めた魔術回路は悲鳴を上げる。
あぁ、駄目だ。
これ以上は飛ぶ。
無くなっちゃいけない大切な何かがぶっ飛ぶ。
ーーそれでも。
「燃えろ燃えろ燃えろ。我が力の奔流に望むのはすべてを飲み込む焔の陽炎!」
身体を流れる魔力はたった一ヶ所の小さな場所に集まり。
「見るがいい!」
「朽ち果てろ!」
すべてが吹き飛んだ。
「「《終焔双極爆裂魔法》!!」」
ーー焔を纏った破壊の光は獣めがけて一直線に飛んでいき、その体を飲み込みはぜた。
その威力は確かなもので周りの木々をまでも飲み込み、気づけば山火事となっていた。
しかし。
「嘘だろ……」
それはカズマか誰かの声だった。
消えかかる意識の中で、必死に前を見る。
しかし、災厄と言われたそれは確かにそこに健在のままだった。
「まさか、あの爆裂魔法を受けてまでも倒しきれないなんて……」
「逃げましょ!ほら、カズマ、ダクネス!突っ立ってないで、めぐみんとユウマを拾って!撤退よ!」
終わった。
確かに体のすべての魔力を使った一撃だった。
文字通りの人類最強の攻撃魔法だったはず。
だが、結果はこの有り様だ。
倒し切ることはなく、最悪なことに、首が完全復活していた。
「クギガ■□□□ーー!!」
到底人智では理解できない、鳴き声と共に視界が光る。
そして、目を開くと辺りは一面火の海とかしていた。
幸い、俺たちの場所までは届かなかったのだろう。
爆風で身体を吹っ飛ばされただけで、打ち付けられた痛み以外、特に変化はない。
「うぅ、目が、目が……!」
「痛いよぉ、誰か。母さん」
耳につく、人々の呻き声。
目を開き、最初に見えたものは、皮膚の溶けた元冒険者だった何かだった。
しかし、それを見てもなお、何も感じない。
いや、感じないのではなく、感じられないのだ。
この地獄にいて、あるのはただの絶望。
厄災(あれ)を倒せなかったことへの絶望が、身体を締め付ける。
「大丈夫ですかユウマ」
「あぁ、なんとか。とりあえず、お前は起き上がらない方がいい。最悪な状況だ」
なんとか、めぐみんの安全を確認し状況を整える。
とりあえず、めぐみんが無事ということはエリスたちも大丈夫だろう。
俺の魔力は全快。
短剣は残り12本。
爆裂魔法はあれには効かない。
倒すことができるとすれば《因果を絶ち悪を切り裂く正義の剣》のみ。
しかし、何故か使用できない。
しかも、あの厄災ときたらもう一撃、今度は王都内を狙うつもりらしい。
流石に打つ手なしだ。
「ちっ。結局このざまかよ」
詰めが甘いと今まで何度言われたか。
それなのにこの絶体絶命の状況でもやってしまうとは。
何にも言えない。
すっと目を閉じて、途切れかけの意識を起こす。
とりあえず、ここから逃げるしかない。
めぐみんを担いで、カズマたちと合流。
ゆんゆんのテレポートでアクセルに戻って対策を練って。
途切れかけの意識で何とか考えたのに、体が動かない。
その時だった、地べたを這う身体を持ち上げられる。
顔を起こすと、透き通るような綺麗な金髪が俺の目映る。
「アイリス?」
「お疲れ様ですユウマさん。他の方々は城壁付近で保護させてもらっていますのでご安心を」
岩に身体を預けながら、アイリスを見る。
「ま、待ってアイリス!一人であれと戦うなんて」
「大丈夫です。ユウマさんや皆さんの頑張りは無駄にはしません。どうか見守っててください」
アイリスは優しく微笑むと、鞘から聖剣を抜き構える。
すると、炎に焼かれ無かった草木から光が溢れ出す。
それは生命の光というものか。
瞬く間に聖剣を包み始める。
アイリスの持つ神器。
それは彼の王が持ったとされる聖剣のレプリカ。
さりとて、レプリカであってもその剣はオリジナルと同格の在り方を持つという。
ラストファンタズム。
それは人々の思いを詰め込んだ最後の幻想。
その光は星の息吹き。
流れるのは命。
説明の通り、これ自体が『人』の全てである。
生命の焼けた臭い、崩れた城壁。
人々の失望と苦痛が交えた中、これでもかと物を破壊し尽くす厄災に、一つの光を小さな背中が背負い立つ。
「束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流」
焦がされた焼け野はらを生命の風が通る。
「七星の導きに従い、今、その全てを解き放とう。十三拘束《強制》解放」
風に纏われた聖剣はその姿を現す。
「今、常勝の王は高らかに、手に執る奇跡の真名を謳う」
くどいようだが、もう一度言う。
神器とは、俺たちの世界の英雄達の武器や道具を神々が模範したレプリカ。
その力は到底オリジナルには届かないし、もし届いたとしても完全にそれになることはない。
ーーだが、例外もある。
それは……
「其はーー」
命の暖かさを纏った聖剣。
それは彼の王の聖剣とは違った光を放ち、たった一つの厄災を捉え。
「《永久に輝く勝利の剣》(セイクリト・エクスカリバー)!!」
光は大地を削り、すべての負という負を、厄災と共に飲み込んでいく。
ーーやがて、空を覆っていた雲を吹き飛ばし、青空が枯れた大地を照らし始める。
レプリカのはずだったその剣はその時一つのオリジナルとなった。
青年はその瞬間を見届け、少女は満足げに空に笑った。
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〈第四章エピローグ〉
かくして、突如として現れて国を騒がせた厄災は小さな王女によって討たれた。
短時間で、ひとつの戦争並みの被害出した戦いであったが、国民は誰一人として失った恨みをぶつけることなく、王女を称え、魔王軍をよりいっそう嫌悪した。
「アイリス様!よくぞご無事で!」
王城を飛び出してアイリスに飛び付くクレアさんを、誰もが笑いながら見ていた。
「一時はどうなるかと思いましたけど、ユウマさんもめぐみんも無事でよかった」
「そうよ、ゆんゆんてばめぐみんを探しにいきたいって、顔をくしゃくしゃにして言ってたわよ」
「ちょっとアクアさん!」
「ほーう。自分の仲間より私の心配をするとは、ユウマ少しは怒っていいのですよ」
「いいや、怒らねぇーよ。親友を一番心配するなんて当たり前だろ?」
「ちょっとユウマさんまで!」
顔を真っ赤にさせるゆんゆんを見て楽しんでいると。
「ユウマさん、少し」
エリスに呼ばれ、その場から少し離れた場所に移動する。
どうしたのだろうか?
「その、さっきはありがとうございます」
「さっきも言ったろ?何があったっても守るって。安心してくれ、これからもしっかり守るから」
「ユウマさん……」
「ん?」
「本当に私は、あなたの命を張るまでに守る価値があるんですか?」
「命を張る価値って。そんなの大有りに決まってるだろ。だって……」
「な~にを二人でやってるんですかね。今回の主役はアイリスですよ?そんなところで営んでないで、少しは場をわきまえたらどうですか」
また、空気を読まずにめぐみんが現れる。
こいつはいつも、肝心なところで!!
「こんの、めぐみんーー!!」
「おっと、これはいけませんね」
流石にこれはまずいと、すでに逃げ始めるめぐみん。
「おま、待てこの!畜生」
「ふふふ。めぐみんさんの言う通りです。今はアイリスちゃんのところにいましょう」
「……はぁ。そうだな」
ため息ひとつつけて、アイリスのところへ向かう。
そうだ、アイリスの勇気がなければ今馬鹿なことをやることだってできなかったんだ。
今日はおもいっきり遊んであげよう。
その後、一段落つけてから王城の一室に通され、そこで、アイリスはクレアさん並びに王城の人々に思いを告げた。
の、だが、なんと城の人たちはアイリスの気持ちに気づいていたのか、それをこころよく受け入れ、俺たちとまた魔王退治することとなった。
ちなみに、クレアさんだが最後まで駄々をこねアイリスを引き留めようとしていたが、見てられないと思った教育係のレインさんに鎮められていた。
「ふう、何とか荷物はまとめ終わったな。それじゃあレインさんお願いします」
「ええ、かしこまりました。どうかアイリス様をお願いします。それでは」
「あ、忘れ物をしましたので先に行っててください」
「え、ちょアイリス……。わかった。レインさん」
「はい。《テレポート》!」
光に包まれ、視界が暗くなったと同時に場面が切り替わる。
気がつけば、そこはいつもの街並みが広がっていた。
どうやら、アクセルは特に何もなかったようだ。
「アイリス様」
「ありがとうレイン。私のわがままを聞いてくれて」
予想外の言葉にレインは微笑みながら私を見る。
「確かに、一国の王女が城を空けるのはあってはならないことです。しかし、国を救った英雄が冒険者たちを導き魔王に立ち向かうとなれば、民も理解してくれましょう。幸い、ジャスティン王子が急きょ城に戻られることになりましたので城のほうもなんとかなりました」
そう、一線で戦っていた兄上は、魔王軍との戦いの過激化にともない、城に戻ることになった。
本来なら、そんな中城を出ることは禁じられるのだが、今回の件や同行するパーティーが多くの幹部を討ち取った成績を持つということで、ある条件の中、同行が許された。
私は、その事をほほえましく思いながら魔方陣に立つ。
「アイリス様。アイリスはユウマ殿のことを」
「いえ、レイン。私が好きなのはあくまでもお兄様です」
私が異性として好きなのはあくまでもお兄さまである、カズマさんだけ。
しかし
「私はユウマさんに憧れたんです」
自分を犠牲にしても大切なものを守る生き方に、そのまっすぐな背中を心の底から尊敬し、憧れたのだ。
だから、私もあの人に救いを求めたのだ。
「そうですか。それではアイリス様。よい旅を」
綺麗な光の粒に身を包まれ、体が軽くなる。
さぁ、次の冒険は何でしょうか。
投稿の期間が空いてしまってすみませんでした。
どうしてもうまくまとまらず、ずるずるも引っ張ったらもう10月。
計画なく進めるからこういうことになると、身をもって理解しました。
次回からはもうすこし計画的にやってきたいです。
一応、次回の章は完全オリジナル展開、ユウマたちだけで展開していきます。
カズマたちサイドはぜひ、本家様を読んでください。
基本的にこの小説は本家様の流れに沿っているので、ここで書かかれなかった部分は本家様を読んでいただくとわかってもらえると思います。
そして、一応今回の章の解説として、アイリスのユウマの関係せいです。
アイリスは一応、誰よりも先にユウマの歪みに気づいてはいたんです。
ですが、結局深いところまでは解っておらず、というよりユウマを理解しきれなかったんです。
憧れは理解より程遠い存在。
二人の関係はまさにこの言葉でした。
ということで3章はこれで終わりです。
やっと折り返しという感じです。
あと40話くらいかけて終わらせたいと思ってます。
マイペース投稿になりますが、どうぞよろしくお願いします。