この素晴らしい仲間達に救済を!   作:よっひ。〜

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第38話 厄災の獣

 

 

 

 ラストファンタズム。

それは人々の思いを詰め込んだ最後の幻想。

その光は星の息吹き。

流れるのは命。

説明の通り、これ自体が『人』の全てである。

 

 

 

 生命の焼けた臭い、崩れた城壁。

人々の失望と苦痛が交えた中、これでもかと物を破壊し尽くす厄災に、一つの光を小さな背中が背負い立つ。

 

 

「束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流」

 

 

 焦がされた焼け野はらを生命の風が通る。

 

 

「七星の導きに従い、今、その全てを解き放とう。十三拘束《強制》解放」

 

 

 風に纏われた聖剣はその姿を現す。

 

 

「今、常勝の王は高らかに、手に執る奇跡の真名を謳う」

 

 

 神器とは、俺たちの世界の英雄達の武器や道具を神々が模範したレプリカ。

その力は到底オリジナルには届かないし、もし届いたとしても完全にそれになることはない。

ーーだが、例外もある。

それは……

 

 

「其はーー」

 

 

 

 

 

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 王城の大きな食堂でも、普段となんら変わりなく賑やかな食事をしながら、俺はちらっとエリスを見る。

やはり、さっきのことで吹っ切れてないのか、一人元気なく、時々ちょっかいをかけてくるアクアを適当にやり過ごしている。

あのとき言ったことを冷静に思い返してみる。

エリスは女神、普段は人を見守る立場であり、個よりも全を優先しなければならない。

あぁ、分かってる、分かってるさ。

それでも、たった一人に全てを背負わすのはひどい話ではないか。

アイリスにしろそうだ。

世界とは残酷だ。

誰かが幸せでいるには誰かが負を背負わないといけないらしい。

本当は腹立たしい。

 

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

 

 行き当たりのない愚痴をひとりで考えていると、隣に座っていたゆんゆんが気になったのか声をかけてくる。

 

 

「いや、大丈夫。大丈夫だよ。ほら、せっかく久しぶりにアイリスと話せるんだから、たくさん話してあげないと。お互い寂しかったんだろ?」

 

 

 気遣ってくれたのはうれしいが今は一人で考えたかった俺は、話題の先をアイリスに変える。

やっぱり顔にでてしまっていたのだろうか。

こういう場で関係のないことを考えているのは無礼なものだとは分かっている。

だが、やっぱり考えずにはいられないのだ。

 

 

 結局、朝食が終わるまでエリスとは話すことができなかった。

昼の面会までのフリーの間、俺はこのぶつけることのできない、モヤモヤはらすため、直接エリスともう一度話そうと思った。

無意識の中、焦って早く歩いていたのか、それなりに広く距離のある通路を抜けて、俺はエリスの部屋の前に立っていた。

まずは何を話すべきか。

言いたいことたくさんあるのに纏まらない言葉を精一杯まとめて決心がつく。

そして、ドアのぶに手をかけたときだった。

 

『緊急ーー!!緊急ーー!!』

 

 突然の騎士たちの声にそんなこともする時間を潰され、俺は広間に向かった。

 

 

 

 

 

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「ただちに全騎士団の集結とギルドへの要請を済ませろ」

 

 

「了解!」

 

 

 白スーツことクレアさんの指示と騎士たちの声や音が行き交う広間は、一種の戦場と化していた。

 

 

「クレアさん、どうしたんですか」

 

 

「おお、ユウマ殿!本来は客人にこんなことを頼むのは無礼極まりないと分かっています。しかし、今王都は緊急事態にあります。どうかお力をお貸しください」

 

 

 クレアさんの頼みで集合をかけられた俺たちは、まさに軍隊指令部という部屋に連れられていた。

 

 

「率直にいいます。ただいまの状況は最悪、国の全滅もありえます」

 

 

「うん、帰りましょ!」

 

 いつものように敗北主義を掲げ始めたアクアを無理やり引っ張りとどまらせるカズマ。

さすがの状況なので、そのワンシーンは軽くするされる。

 

 

「おい、騎士団長」

 

 

「はい、対象はつい先程、なんの前触れもなく現れ破壊行動を開始し始めました。カテゴリーとしては討伐指名手配クラス。姿、形からして、アクセル近郊に封印されているクローズヒュドラに酷似する点が多く、現状ではクローズヒュドラの亜種のような物だと推定。また、その出現からの推測として何らかの自然現象ではなく、テレポートを使用した魔王軍からの差し金だと推測しております」

 

 

「クローズヒュドラか……。また厄介なものが」

 

 

「そうですね。さすがに紅魔属の我々でも直接は見たことはありません。これは最悪撤退も」

 

 

「そうよ、そうよ。さすがのクローズヒュドラ相手じゃ、私のリザレクションだって辛いわ!生きていればやり直すことなんていくらでもできるんだし、逃げましょ、ね!」

 

 

「いいや、やるぞ」

 

 いつも以上に弱気なアクアを押し退けて、カズマが言う。

 

 

「そのヒュドラが魔王軍の差し金なら、もし逃げたとして、退路になにも仕掛けていない訳がない」

 

 

「袋のネズミってやつか」 

 

 

「あぁ、それなら黙ってやるしかないだろ?俺はやるよ。大切な妹の国が危ないって言うんだ、兄として人肌脱ぐのが当たり前だろ」

 

 

「ということだ、アクア。カズマのいう通り、逃げ場なんて無いんだ。すまないが、付き合ってくれ」

 

 

 ダクネスの言葉についに自分達のたち意味を理解したアクアは、やけくそになってしまった。

 

 

「助力感謝する。私も、本当なら戦場に出たいが、騎士をまとめて王城を守る義務があります。ダクティネス卿、指揮はまかせても?」

 

 

「いえ、私は守ることしかできません。指揮はカズマに任せてください」

 

 

「この男にですか?」

 

 

「カズマの実力は確かなものです。あの機動要塞のときも指揮はカズマのものでした。絶対に期待に応えてくれますよ」

 

 

「ええ、姑息な手を考えるのはカズマにとって朝飯前です」

 

 

「お前ら、それ絶対誉めてないだろ?」

 

 

「「そんな訳……」」

 

 

 ダクネスもめぐみんも目を反らす。

いくらなんでもこれはかわいそうだ。

 

 

「でしたら、私も!」

 

 

「うんうん、アイリスちゃんは待っていて。だってアイリスちゃんお国に大切な人だもん」

 

 

「ええ、そうです。何かあっては遅くなってしまいますから、終わるまで待っていてくださいね」

 

 

 どうしても行きたがる、アイリスに諭すゆんゆんと

エリス。

そう、何かがあっては遅い。

いくら、幸運値の高いパーティーでも不幸が起きないという確証はない。

なるべく、不確定要素は減らさないといけない。

 

 

「仲間を信じてくれよ」

 

 

 そんな気休め紛いな言葉を、アイリスに言う。

気休め、そうあくまでも自分に対してのだ。

仲間を選ばなかった俺に対しての……。

 

 

 

 

 

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 王城の魔法使いにテレポートで送ってもらい、やって来たのは王都の外壁。

目を開けるより先に鼻についた焦げ臭さに、これまで以上にない恐怖を感じた。

 

 

 燃え盛る森に、灰とかした野原、冒険者達の嘆き声に無差別に攻撃されたモンスター達の腐敗臭。

戦場とかしたその場所はまさに地獄絵図。

朝の青空はどこかへ消え、灰色の雲が一面をおおっていた。

 

 

「なんだよ、あれ……」

 

 

 震えるカズマの声の指した方向にいる何か。

黒い煙を纏い、冒険者達の攻撃を受けながらも、何ともないように進み続けるそれは、この世のものとは思えないものだった。

 

 

「あれが、クローズヒュドラなのか……?」

 

 

「いえ、違います、あんなものはこの世界には存在しません!」

 

 

 ダクネスの疑問を全力で否定するエリス。

この世界を担当していて、誰よりも詳しいはずのエリス出すら知らない怪物。

その見た目は7の首を持ったヒュドラそのものなのだが、何かが違う。

 

 

「ヤマタノオロチなのか?」

 

 

「いや、ヤマタノオロチは杯なんか持ってなかったはずだ、あれは……」

 

 

 真ん中の頭に乗っている杯。

俺は、確かにあれを知っている。

たしか、

 

 

「バビロンの大淫婦。あんた達の世界の宗教における悪魔。666の獣。その名は……」

 

 

 遠い記憶の奥、昔遊んだゲームの敵キャラで、趣味で調べたことがあった。

もしかしたら、違うかもしれない。

何度、そう思ったか。

だが、今現実に俺達の前にいて、アクアが語ったそれは、確かにあれと一致していた。

ーー最悪だ。

なんてものをこの世界に召喚してくれたのか。

あれは、チートを持ってない俺らにはかなり厳しい、生きて帰ることができたら、ラッキーというくらいのものだ。

そう、なぜならあれは

 

 

「マザーハーロト」

 

 

 7つの頭を持つ獣。

その背中には杯を持った、淫婦を乗せている。

のだが……、

 

 

「いや、アクア。マザーハーロトは確か、背中に淫婦を乗せているはずだ。つまり、あれってまだ不完全なのか?」

 

 

「そんなの知らないわよ。そもそも、あんた達の世界の、それも宗教で人が勝手に考えた怪物が、この世界にいるのがおかしいのよ」

 

 

「いや、多分、あれの知識を持ってたの送ったのお前」

 

 

 そんな、カズマの言葉をスルーして、ゆんゆんの襟を掴んむ。

 

 

「いいから逃げるわよ!あんなのとまともに戦うなんで馬鹿よ馬鹿!ゆんゆん!あんたテレポート持ってるでしょ?それでアクセルまで」

 

 

「私は逃げないぞ」

 

 

 剣を地面に差し、遠くの敵を睨みながらダクネスは言う。

 

 

「私はこのベルセルク王国の懐刀。決死の覚悟で冒険者達が戦っているのに、私は逃げるわけにはいかない!逃げるなら、お前たちだけで逃げればいい」

 

 

「ダクネスったら、こんなときに。下手した死んじゃうかもしれないし、何より、あんなのに殺されたら死体だって原型をとどめてるか分からないんだから、助けることだって」

 

 

「構わない。今、騎士としての矜持を捨てて逃げくらいなら、私はここで朽ち果てた方がましだ!!」

 

 

 逃げ腰のアクアから遠くの敵に向き直る。

口では言ったものの、体はらしくなく震えている。

その様子を見て、カズマはダクネスの肩に手を置く。

 

 

「たく、しょうがねぇーな!お前は頑固だからな。退路も考えていたが、逃げるのはやめだ。取って置きの策を出してやるよ!」

 

 

 吹っ切った笑顔で言うと、アクアの首根っこを掴みながら言う。

 

 

「今、俺の考えられる全ての作戦だ。めぐみん!ユウマ!」

 

 

「おう」

 

 

「は、はい?」

 

 

「この二人の爆裂魔法をぶちこんで一発でけりをつける」

 

 

 いたってシンプルだ。

人類の持てるすべての火力を二つぶちこむ。

もし、これで生き残られたら、もうお手上げ状態だろう。

 

 

「待ってください。そのマーザーハロトっていうのはわかりませんが。元となったクローズヒュドラには高い自己再生能力があります。もし一本でも首が残ったらすぐ……」

 

 

「大丈夫だ。うつ前にある程度場を整える。エリス、ゆんゆんは全力の攻撃でダメージを稼いでくれ、ダクネスは攻撃が当たっても火力不足だから、前衛を守ってくれ。もし、死人がでたらすぐアクアのところへ。そして、アクア。お前は何がなんでもめぐみんを守れ!俺はいい感じのところで、バインドを放って、首をまとめる」

 

 

 カズマのメンバーの適正を細かく把握して出された作戦には、いつも感服させられるものだ。

ゆんゆんもなるほどと納得している様子。

 

 

「それとユウマ。悪いが、爆裂魔法をうつ直前まで攻撃に参加してくれ。二人だけじゃ、少し辛いかもしれないからな」

 

 

「あぁ、了解。合図は任せるから、その時が来るまでできるだけのことはやっとく」

 

 

 さぁ、戦いの準備は終わった。

それぞれ、思いはバラバラだが、目標は一つ。

王都にせまる厄災を討つこと。

いつだって、怪物や悪、人類の敵は人間がけりをつける。

決戦の時だ。

 

 

 

 

 




というわけで、次回がこの章の最終話です。
時間をかけた割には戦いまで終わらせられなくてすいません。
今月は忙しいので、次の章に入れたらいいなという感じでやっていくので、マイペースな更新速度ですが、どうか見守ってください

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