馬車に揺られて1週間がたった。
夏の暑さを照りつける太陽を恨みながらも、馬車の中でとろけている俺たち。
砂糖水と適度な栄養によってなんとか調子を取り戻しつつある師匠を交互に看護しながらも、1週間の馬車生活に名残り惜しく外の景色を眺める。
ベルセルク王国と隣国の境にある小さな街。
世界最大のダンジョンのある街につくのにあと一日というところだ。
「んっ。……あれ、ここは?」
「あ、店主さん!おはようございます」
「イリスさん?おはようございます。……あれ、私は確かバニルさんの光線を受けて」
1週間の眠りからついに師匠が目を覚ます。
どうやら、バニルに攻撃された所で完全に記憶が止まってるようだ。
「お久しぶりです師匠」
「あら、ユウマさん。お久しぶりですね。それにしても、ここは?」
とりあえず殺人光線を食らったところから説明をした。
そんでもって、アイリスのこと、世界最大ダンジョンの攻略またはレベリングを課せられたことも。
「そんなことがあったんですか。それにしてもイリスさんがあのアイリス様だったなんて」
「様は止めてください。どうか、今まで通りに接してもらえれば」
「そういうことで師匠。手伝ってくれないでしょうか」
「ええ、いいですよ」
「「あ、あっさり!」」
「世界最大ダンジョン、別名最果てのダンジョン。私も普段ここにアイテム回収に来るんですよ。一応、ダンジョン内はそれなりに攻略してきたつもりです。まかせてください」
師匠は前は凄腕の冒険者と聞いていたが、まさかお散歩感覚で最大のダンジョンにアイテム回収に来るなんて。
やっぱり、俺たちとはレベルが違い過ぎる。
「ユウマさーん!そろそろ席の交代の時間ですよー」
「見張りお願いします」
とここで馬車の外で見張りをしていたエリスとゆんゆんが入ってくる。
「ウィズさんもう体は大丈夫なんですか?」
「ええ、この程度なら全然です。バニルさんには徹夜で2週間もアイテム作成をさせられていたので多少の無理は無理になりません。今までお世話をしていただいた分、見張りは私もします」
「そ、それは助かりますが。……あの悪魔そこまで性根の腐ったことを。帰ったらやきいれます」
「おーい。そこ、どうせ遊ばれるんだから変なこと言わない」
と言うわけで、馬車の外に出る。
森を抜け広い高原を進む馬車は、一面緑に囲まれていた。
「爽やかですねー!」
「いえ、暑いです。師匠はなんでそんなに涼しくいられるんですか?」
「私はリッチーなので体温が冷たいんですよ。これくらいの暑さだと清々しくなるくらい」
どうやら、死者の体とは相当冷えるらしい。
するも冬は固まるくらい寒いのか?
「とはいえ、私は既に死んだ身です。体温と言えるものがないんですよ」
どこか寂しそうに遠くを眺める師匠。
やはり、人肌が寂しくなることがあるのだろうか。
「ユウマさんは私に聞きたいことがあったのではないんですか?」
「あ、やっぱりバレてましたか」
「ええ、私もいろんな方々と会ってきましたからね。それなりに人の考えは分かります」
「そうなんですか。じゃあ。えっ、〈 因果を絶ち悪を切り裂く正義の剣〉ってわかりますか?」
俺の言葉に少し動揺する師匠。
そして、覚悟を決めたかのように口を開く。
「はい。これでも魔導を極めようとした身です。その剣にかんしてはそれなりに理解はしています」
「そうですね。なんと話すべきか、最強の幻想と言ってわかりますか?」
「確か、星が作った神造兵器。それの最高傑作だったとか」
「そうです。それが最強の幻想〈 ラストファンタズム〉ですが、〈 因果を絶ち悪を切り裂く正義の剣〉は少し違うんです」
「少し違う?」
「はい。〈 因果を絶ち悪を切り裂く正義の剣〉は星が造ったものではなく人の想いが造ったものです」
人の想い。
あの剣を握ったときに感じた光。
それは人々の望んだ、求めた正義だった。
「そのため、あの剣は選ばれた人間にした使えないんです」
「選ばれた人間」
「そう、正義を求める人間じゃないといけないんです。私もかつて一度だけかの剣を担う権利を得ました。ですが条件は満たせませんでした」
「私は仲間を救うために戦い、この身になりました。その正義はきっとあの剣を使うの相応しいものだったのでしょう。しかし、私はそれを得ると共に人であることを捨てたんです。だから、あの剣を担うことはありませんでしたし、その性能を理解することはできませんでした」
師匠がリッチーになった理由。
それはかつてアクセル近隣の廃城で戦ったデュラハンの呪いから仲間を助けるためだったらしい。
何かを救おうとする気持ち、それことがあの剣を担う権利。
そして、人々の想いを背負うために人間でなくてはいけない条件。
「あなたがその想いを捨てない限り、人々の正義はあなたに力を貸します」
「でも、あれっきりあの剣を使えなくて」
「それは、相手が絶対悪ではないからだと思います。あの剣は正義の象徴。人々に仇なす絶対悪にしか向けることができないんです」
なるほど、なんとなく理解はできた気がする。
あの時あの獣に剣を向けられなかった理由、あの獣自体、根から人を恨み呪うものではなかった。
だから、使うことができなかったのだ。
「そんなに詳しくはわかりません。ですが、一つあなたが思った正義は誰がなんと言おうと正しいということです。絶対に捨てないでください」
いつもからは考えられない真剣な師匠の眼差し。
その目にはたしかな彼女自身が抱いた正義があった。
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時刻は夕暮れ時。
世界最大ダンジョンのある街、近くにある海小屋に俺たちは寝泊まりの準備をしていた。
あれから、師匠とは魔法のことについてさらに詳しく教えてもらっていた。
しばらくして、海が見えてきたことでみんなの気分は最高潮。
アイリスをはじめ、エリスやゆんゆん、さらには後ろをつく他の馬車に乗っている人達までも大きな歓声をあげていた。
基本的に馬車の運転手が中心となって夕飯から寝泊まりの準備をしてくれたおかげで、乗客は夕飯までの間フリーの時間が与えられた。
「それにしても、広いなー」
海近くの宿泊施設にて有名な温泉があるとして、せっかく来てみたが、あまりの広さに俺一人ではもったいないくらいだ。
ちなみに、この温泉は混浴なため、エリス達を誘うのも……。
いや、それは確実に殺される。
風呂に入りながら見る夕日と海は格別だ。
心身ともにリフレッシュできる。
この世界にきてはつめこみすぎたスケジュールばかりで、正直意志に体ついてくるか不安だったが。
意外となんとかなるものだ。
それにしても、温泉は素晴らしい。
この1週間、ちゃんとした宿泊施設に止まってはいたが、湯船がなかったぶん、リラックスはできなかった。
「あ〜づかれたー」
「あら、先客がいたの」
突然の声に体が固まる。
この声は女性だ。
「そんなに、固まらなくても。こういう場所は気持ちを和らげるとこでしょ?」
「ええ、そ、そうっすよね。……!!」
振り向くとそこにいたのは、ピンク髪のナイスバディのお姉さんだった。
もう一回言う、ナイスバディだ。
「そんなに見つめられると、少し困ってしまうのだけど」
「あ!え、すいません」
「以外とピュアなのね。お姉さん、そういう子好きよ」
なんというべきか、圧倒的大人の色気!
今までの18年間でただの一度の感じたことのなかった、圧倒的な色気だ。
「うふふ。それにしてもここの景色は最高でしょ?アルカンレティアや紅の里とかいろんな所を巡ったけと、ここに勝る所をなかったわ」
「お姉さんは温泉が好きなんすか?」
「えぇ、大好きよ。ほら、生きているといろいろと大変じゃない?そんなときこうして温泉に入ると心身ともに休めるじゃない」
なんだろう。
この人から仕事に疲れた社畜の感じがするのだが。
それにしても、長く入り過ぎた。
そろそろ出ないと。
「よく理解できます。って、そろそろ自分上がりますね」
「あら、せっかくお話できたのに。まぁ、でも仕方ないわよね。あなた名前はなんというの?」
「ユウマです。ただのしがないアークウィザードやってます」
「その年でアークウィザードって立派じゃない。私はウォルバク。またどこかの温泉で会いましょ」
軽く一礼して温泉を出る。
いろいろとやばかったが、なんとか静かでいてくれた俺の相棒にはさすがとしか言えない。
「温泉か。たまにはいいよな」
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それから、夕飯を食べてすぐに寝床についた。
ここ最近は、毛布で雑魚寝だったのだが、今回の場所ではなんと全員分のベットがあるということでパーティでまとまった部屋だったが、満足に眠りにつくことはできた。
風の音がする。
自分の呼吸と自然の音以外なにも聞こえない。
鼻には何かが燃えた臭いがつく。
すでに人の生活の営みは消え、その存在も確認できない。
それなのに、空はきれいに青く澄み渡っている。
何かの戦争後なのか。
自分の意思では止まる事の無い足。
片手には銃を持っている。
ああ、これはきっとこの銃の記憶なのだろう。
選択肢を謝った俺の辿った未来。
望んだものを手に入れられたのに、全てを手放した愚かな選択の結末。
いくら進んでも、いくら辺りを見回しても誰もいない。
あるのは瓦礫の山と自分だけだ。
エリスは、アイリスやゆんゆんはどうしたのだろう。
カズマ達は師匠はどこに居るのだろう。
ただ虚無感だけが心を蝕んでいく。
ーー。
「うわ!」
慌てて目を開けるとそこは宿泊施設の部屋の天井。
月明かりが部屋の中を薄く照らし、波と鈴虫の音が聞こえる。
周りには仲間たちが。
……エリスの姿だけ見当たらない。
どこへ行ったのだろうか。
扉の方から風を感じる。
よく見れば少し開けっ放しだ。
案の定というべきか。
空の月と星の輝きに照らされて、エリスは海を眺めていた。
「眠れなかったんですか?」
「いや、ちょっと嫌な夢を見て起きちゃった」
横に並んで海を見る。
思い出せば、海を見るのは何年ぶりか。
だいぶ前すぎて覚えていない。
だけど、海、月や星はあの世界とは特に変わらない。
「星が綺麗ですね」
「海も綺麗だよ」
「ふふ、ですね」
その晩は二人で夜空の写る海を眺めた。
日々の辛さを今だけ忘れて。
きっと明日にはまたドタバタするのだろう。
そんなことにお互い備えて、ただ静かに眺めていた。
最後の選択肢には特に深い意味はありません。
どちらを選んでもbadendにはならないのでご安心お。
今後もこんな感じにちょくちょく好感度の選択肢を挟みます。
終わりが見えたときに詳しいことは説明しますので、その時までどうかお楽しみに!