「何度言ったら分かるのだ、この駄目店主!!」
毎回毎回同じことの繰り返しに、呆れを越えた怒りは周りの家々に響いた。
という状況を店の扉の前で見ている俺とエリス。
「……、あの」
「いや、言わなくていい。うん、いつものことだ。ちょっと深呼吸して」
空気を大きく取り込んで、1、2。
よし、行くか。
呼吸をおいて扉を開ける。
その時だった。
「ええい!今日という今日は容赦せぬぞ、馬鹿店主!《バニル式殺人光線》!」
「ウギャーー」
「うおっと、危ね!」
乱射され、流れ弾として飛んできた殺人光線を結界で弾く。
名前からして当たってたら死んでいただろう。
ちらっとこちらを見たバニルは、俺がかわすこと前提で乱射したらしい。
「おっと、らっしゃいお客様。そちらの客人もまた華やかな姿であるではないか。フハハハハ!」
さっきのやり取りはどこかえと、パッと切り替えて対応してくるバニルはいきなり笑い始める。
そちらの客人……?
「ええ、おかげさまでおろしたばかりの服がボロボロになってしまいました。弁償してもらいましょうか。あなたの命で」
いつの間にか取り出した聖槍を構えながら、バニルに微笑みかけるエリス。
もちろん目は笑ってない。
「ストップ!ステイ!ステイだエリス!喧嘩を売るために来たんじゃない」
「いえ、私は喧嘩を売られたほうです」
「うむ、我輩は別に悪気があったわけではない。ただ少し、質素であったため付け加えてやっただけだ」
「止めろバニル。あんたも油を注ぐな」
いがみ合う二人を止めながらも倒れこんだ師匠を起こす。
さすがリッチー、焦げてはいるが元から死んでいるからか、戦闘不能なだけで消えてはいない。
「それにしても坊主よ。今からでも遅くはない。選択肢を変えるがよい。我輩が手伝ってやる」
「せっかくのお誘いだが、選択肢は変えないし、あんた、前に選択肢は変えられないって言ってなかったか?」
「冗談だ。その通りだ選択肢は変えられぬ。それにお主はいろいろ手遅れだからな」
「?」
アクアにしろバニルにしろ、最近は特にその事について言ってくる。
どういうことなのか?
何度か質問したことがあるがいつも適当なところではぐらかされるので、もういいやと個人的には思ってきているのだが。
「まぁよい。そのうちわかることだ。それでだが、坊主。お主が言おうとしている用件だが一つ条件がある」
仮にも見通す悪魔。
俺がここに来た理由などとっくに見通し済みらしい。
「また、勝手に見通しのか。まぁ、あまりいい気分はしないが条件って?」
「なぁに簡単だ。今回の冒険、そこのうつけ店主を連れていってくれればよい」
「「なっ!」」
まったく予想外の条件に、エリスまでも驚いている。
師匠ことウィズさんは仮にもこの店の店主。
それを厄介ばらいするとはなんと言ったらいいのか。
「別に引き取れとはいってもおらぬ。ただ少しの期間この店から遠ざけてくれればよいのだ」
「でも、師匠はこの街の冒険者の中では人気者中の人気ものだ。それなのに当分いなくなったらどうなることか」
「そこは安心するといい。我輩が化ければいいからな」
なるほど、どうやら本当に師匠は厄介ばらいのようだ。
「勘違いするでない坊主。このままでは我輩が夢を叶える前に人類が滅んでしまう。いくら貯めても、すぐにゴミに変えられ、仕舞いには家賃まで払えていない。進んだと思えば、振り出し以下に戻される我輩の気持ちを分かってくれ」
どうやら相当心にきているらしい。
七大悪魔のメンタルをブレイク近くまで持っていける師匠の才能にはある意味驚かされ、バニルに同情してしまう。
「わかった、引き受けるよ。エリス、悪いけど師匠のことは頼む。それで、例の物だけど」
くたくたになった、体で奥の部屋に取りに行くバニル。
一応、なんでここに今日来たのかについて話すとしよう。
簡単にまとめると武器のオーダーメイドをしたのだ。
以前、シルビア戦でインストールした武器の中にあるコルトパイソン。
この銃の弾をオーダーメイドしたのだ。
剣と魔法のファンタジー世界に科学の産物を使うのは少々気が引けるのだが、俺がインストールできる回数は2回。
安全を考えれば1回だけ。
しかもこの回数は爆裂魔法の回数も含まれている。
そのため、今ある武器でなんとか戦えないか模索した結果、このコルトパイソンを使用することにした。
「ほれ、坊主。例の品だ」
バニルに渡された箱を早速開ける。
その中には水晶のように透き通った、銃弾が10発綺麗に並ばれていた。
「お主の体を用いて作った最低限の物だ。さすがにこれ以上を作るなら、お主の肋骨が必要になるぞ」
起源弾。
これが今回バニルに頼んで作ってもらった弾丸だ。
名前の通り、生物の一部を触媒として作り、その触媒となった生物の起源を発現させる弾だ。
正直最初は短剣にこの仕組みを導入をしようと考えたのだが、俺の技術や知識では到底できなかったためバニルに頼んだのだが、俺の差し出した触媒で短剣を作るとさらに使用できる本数が少なくなってしまうことから、弾丸にしたのだが。
それでも10発が限度らしい。
「いや、これで充分だよ。数には限りがあったほうが、丁寧に使おうと思えるからね」
「しかし、お主の世界には物騒なものが溢れているようだな。それを作って国に売れば我輩の夢もすぐに叶えられるのだがな」
「あんたは戦争を起こしたいのかよ!」
「冗談である。ほれ、さっさと行くといい。そこの脳筋女神がが今にでも我輩に攻撃を仕掛ける目になっておる」
とまぁ、さすがにこれ以上いるとエリスがヤバイので店を出る。
目的の物も手入れ、そろそろ時間的にもいい。
それじゃあ、乗り場にでも行くとするか。
脳筋女神を連れて旅立った背中を扉越しに見送る。
ここ最近は貧乏店主もこき使っていたのだから、まれには外に出すのも悪くはないだろう。
我輩からしても貧乏店主がいないだけで金を貯めることができてよいことだ。
「選択肢は変えない、か」
本当、どこまで似ているのだろうか。
あやつを見ていると、懐かしいことを思い出させてくる。
「何かを救うには何かを捨てるしかない。小を取るか大を取るか、正義とはいつもそういうものだ」
あやつは自分が破綻していることに気づいているのだろう。
しかし、徐々にその傷が広がっていることにまだ気づいてはいないようだ。
「壊れきるのが先かそれとも」
本当にあの女神を救ってしまうのだろうか?
どちらにしろ、結末にたどり着く際にはやつは……。
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ここに来るのも二度目になる。
アクセルの街で多分二番目に人の多い場所。
それがこの乗り場だ。
「おーい、ユウマさーん!こっちですよ」
声をする方を見ると、まとめた荷物を足下に置いてアイリスとお菓子食べているゆんゆんがこちらを呼んでいる。
「お、悪いな乗車券の確保なんてやらせちゃって。それにしても、うまそうなの食ってるな」
「ゆんゆんさんのおごりなんです。ユウマさんには食べさせてあげません。あ!エリスさん食べますか?」
なにやら俺に意地悪なアイリス。
それにしても、エリスへのなつき度はなかなかのものだ。
「駄目だよアイリスちゃん。ユウマさんにもわけないと。ユ、ユウマさん……。私の食べませんか?」
「あぁ、いいよ俺は。せっかく自分のこづかいで買ったんだから、自分で食べないと。もったいないぞ」
実はちょっぴり、このゆんゆんとアイリスが手にしているお菓子、クレープのようなものに興味があった。
だが、今はこの雰囲気だけでお腹一杯だ。
「あれ?その背中の方は魔道具店の店主さんでは?」
「これにはいろいろあってだな。とりあえず、その話は後でにして師匠も今回は同行することになったよ」
「その、なんだかウィズさん、今にも消えそうですよ」
「あ、マジだ!エリス、水と砂糖頂戴!とりあえず、乗って手当てしよう。ゆんゆんはその乗車券を運転のおじさんに渡してくれ」
バニル式殺人光線が相当の威力だったのか、とっとと乗車して師匠もの手当てをすることにした。
「それじゃあ、乗りましたね?……出発!」
運転のおじさんの掛け声とともに馬車が動き始める。
「おーい、ユウマ!」
客席から顔を出すと、そこには祭りの実行委員として準備に来ていたカズマが手をふっていた。
街をながられる川を越え、アクセルの門を出る。
まだ、どこかの爆裂狂に穴あけされてない野原が一面に広がっている。
こうして見ていると、アクセルの外に冒険として出るのは初めてなことに気づく。
今まではカエルの討伐やら、デュラハン退治、テレポートでアルカンレティア、バニルの背中に乗って王都など、ゆったりと馬車に乗って旅なんてことはなかった。
これが、剣と魔法の世界での冒険。
誰もが一度でも子供の頃憧れたもの。
新鮮さと期待を持って馬車は進んでいく。
目指すは世界最大のダンジョン。
ベルセルク王国と他国の境界にある小さな街。
話によるとこのダンジョンを観光地として栄えているらしく、初心者上がりから国のトップ冒険者などが集まってるらしい。
最近ははりつめてばかりで、少しはリラックスして観光でもしたいものだ
ザスニーカーとこのすば15巻の影響で、書くことができました。
いやー、15巻のカズアク尊い。
そういえば、エリスの頬に傷があったのはなんででしょうか?
作画ミスなのか、隠す意味が無くなったからか。
とりあえず、あの一枚絵は最高でした。