ピピピピ ピピピピ
「ん、あ」
ピピピピ ピピピピ カチャ
携帯に手を差しのばしてアラームを切る。
うっすらと開けた目で横を見れば、窓から光が漏れていた。
「朝か」
ーー
眠気覚ましも兼ねて、水をおもいっきり顔にかける。
力加減はそれなりにしているので、かけた水は床に落ちることなく洗面器に収まる。
秋の冷えた水のおかげで、ぼんやりした意識は一気に覚醒する。
いつぶりだろうか、俺は夢を見ていた気がする。
しかし、困ったことに内容が一つも思い出せない。いや、思い出せないというより、何かが阻んで出てこないのだ。
ふと、時計に目を向ける。
時刻は8時をまわっていた。
「……。やば!」
大会明けとあって、朝練はないが学校はある。
いつもより、一時間も多く眠れたことはありがたいのだが、時間も時間で親はおろか弟までも先に学校に行っていた。
そんなかんなで、制服をきてネクタイを結んでブレザーとバックを自転車に投げ入れる。
誰もいない家の中に、俺一人のドタバタとした音が響いた。
「主将様は足が速くても、時間には置いていかれるのな」
「へいへい、言ってろよ」
時速20kmの猛ダッシュでママチャリを走らせ、チャイムがなると同時に校舎に入り、終わると共に教室に流れ込んだ。
幸い、今日は職員会議が長ぴいてるらしく、担任は来ていない。
おかげさまで、おしゃべり相手が欲しかったのか、クラスの部員にちょっかいをくらう始末だ。
「チャイムがなったらオンユアマーク。いい流しになったよ」
「いやいや、オンユアマークじゃ、まだセット状態だろ」
「細かいことはどうでもいい。俺は長距離選手だ」
俺の屁理屈に呆れたご様子。
話を昨日の大会に変えてくる。
「それにしても、大会新ねぇー。朝もギリギリに来るやつが」
「エナジードリンクと根性があればだせる!俺が示したんだからな。それにお前達もリレーで決勝残っただろ?来年はいきなり、県大会からスタート。他の学校からすれは、地区予選で自分の種目に集中できるのは羨ましいだろ」
「それもそうだけど。俺たちはリレーだから県に行けたんだ。お前と違って、個人で勝負ができるほど強くはない。あーあ、せめて0.1でも時を止められればな〜」
「時止め……か」
その時、何かが頭の中を通る。
あれ?俺は。
「全員席につけー。出欠とるぞ」
「俺戻るは」
「お、おう」
やっと来た先生の言葉にタチ歩いていた奴らは席に座る。
それにしても、今日は一段と薬品臭い。
生徒に対して無愛想な先生だが、理科の専門分野は別。
しかも、自前で薬品を買っちゃうくらい、理科の教科を溺愛している。
今日も朝早くから実験の準備をしていたのだろう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「悠真、今日は走ってから帰るだろ?」
ただただ眠たい授業が終わり、帰りの支度をしていると部長の赤城が、横からやってくる。
「あー、そういえば、昨日大会だった分今日は休みか」
どうしようか。今日はなんか頭が回らないから帰ろうと思っていたのだが。
「悪い。今日は帰らせてくれ。日をまたいだ三試合がずいぶんと体にきたらしくて、体がギブなんだ」
「前日までゲームやってたからだろ。まぁ、昨日は珍しくマジだったからな。ゆっくり休んでくれ」
一声返事をして学校を出る。
陸上部が活動してないこともあって、いつもはかつかつな校庭も、今日はなんだか物寂しい。
なんだ、この物足りなさは。
いつもは漂っている汗臭さが今日は全くしない。
なぜだか、少し寂しいな。
時刻は六時を回った頃だ。
学校帰りの学生たちに仕事帰りの大人たち。
駅のダブルデッキはそれなりに人混みができていた。
暇だからといって来てみたが、これといって面白いことなどない。
缶コーヒーを飲みながら電車を見る。
思ってみれば、小さい頃はよくここに来て電車を見ていた。
子供あるあるの電車派か車派ってやつで、俺は電車派だったのだ。
だが、歳を重ねるごとにここで電車を見る機会は減っていき、いつの間にか見にこなくなっていた。
そして、俺は陸上を始め、ただひたすらに走り続けた。
七年間だ。
きっかけは単純、徒競走が得意だったからだ。
それでいて、認めて欲しくて、ただ褒めて欲しくて走った。
一度、陸上から離れた時期もあった。
だが、あいつに誘われてまたやり直した。
祭 祥也。
俺を認めてくれたあいつの夢を叶えるために走った。
しかし、結果は最悪だった。
俺があいつの夢を潰す終わり方だった。
結局のところ、俺はあいつをやり直す理由にしていたのだ。
気づかないとこらで、俺は周りに褒めて欲しいがためにやっていたのだ。
本当にクズだ。
『もう、無理をしないでください』
『いいんですよ。私が許します。あなたの失敗を。私が認めます。あなたの努力を。だから……』
彼女は言った、もう休んでいいと。
俺の全てを認めて、安らぎをくれた。
あぁ、なんてことを忘れていたのだろう。
あの時、守ると誓った少女の、慈悲深い笑みを。
まるで星々のように輝いた銀髪を。
嬉しい時のはにかむ笑みを。
そうだ、これは……。
「悠真?」
突然の呼びかけに、振り向く。
使い込んだウインドブレーカーとボロボロのカバン。
そこに立っていたのは。
「祭……」
今回は淡々と悠真だけで話をやりました!
エリスたちの活躍を期待していた皆様には謝罪します。
一応、次回はラグクラフト戦決着です。
夢だと気づいた悠真の前に現れた祭。
悠真は無事に夢から目覚めることはできるのか!
次回もよろしくお願いします!