この素晴らしい仲間達に救済を!   作:よっひ。〜

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第47話 選んだ道は

「祭……」

 

 

 目の前にいる青年に俺は何度会いたいと願ったか。

会ってもう一度話したい。

お前の背中を追って走っていたということ。

約束を守れなかったことを謝りたいこと。

好きな人ができて、その人を守りたいということ。

些細なことから大きなことまで、機会があるのなら話したかった。

 

 

「どうしたんだよ。今にも泣きそうな面して。お前そんな柄じゃねぇーだろ」

 

 

 変わらない。

二年前と何一つも変わらない声と練習終わりの汗とシャンプーの混じった匂い。

俺はそのことに安堵と違和感を感じた。

 

 

「いや、何でもないさ。本当久しぶりだなこうやって会うのは。二年ぶりか?」

 

 

「そうだな。最後に会ったのは中学の卒業式だな。隣の地区なのにここまで会わないのも珍しいよな」

 

 

「どうせだし、ちょっくら話さないか」

 

 

「あぁ」

 

 

 流れに合わせて軽く返事をする。

見慣れた風景、聞き慣れた生活の音。

つい半年前までは当たり前だったのに、今は全てが懐かしく思える。

 

 

「それで、どうなんだよ。来年はインターハイ、狙えるんだろ?」

 

 

「ん、あ、あぁ」

 

 

「どうした、まだ疲れ残ってんのか?」

 

 

「いや、残ってはないよ」

 

 

 これは夢だ。

昨日というのは、俺が死んだあの試合の日のことだろう。

半年という時間のせいで少し記憶が断片的なんだが。

それにしても、なんだろうこの違和感は。

景色も音も鮮明で、それなのに何か足りない。

薬品の匂い、シャンプーの匂い……。

 

 

「まさか……」

 

 

「どうした?」

 

 

 何かあったのかと不思議そうに俺を見る。

気づいてしまった、違和感の原因を。

この世界に、この夢に足りないもの。

それは……。

 

 

「なぁ、祭。腹へったな」

 

 

「そうだな、たい焼きの匂いがこんなにすれば、さすがに小腹も空くか」

 

 

 それは、においだ。

俺はこの夢の中で二つしか匂いを感じてない。

一つは担任の薬品。

二つは祭の匂い。

あからさまにこの二人からしか匂いを感じないのはおかしい。

夢からの覚める方法がないはずがない。

あるとすれば。

 

 

ラグクラフトを倒すこと。

現実のラグクラフトを倒しても、この夢は覚めない。

これはお約束事だが、夢の中は、夢の中のボスを倒さないといけない。

そして、ラグクラフトの可能性があるのは。

担任か祭。

 

 

「どうしたんだよ、黙りこんで。そんなに腹減ってるのか?」

 

 

 この祭がラグクラフトなのかもしれない。

最悪な場面だけが、頭の中に入ってくる。

 

 

「なぁ、悠真」

 

 

「え?」

 

 

 祭の呼びかけに俺は顔を振り向く。

祭はただ安心したという顔をしている。

 

 

「よかった」

 

 

「お前、変わったよな」

 

 

「俺が変わった?」

 

 

「あぁ、昔のお前さ。他人の評価ばっか気にして、何て言うのかな。自分がないっていうのか」

 

 

 眉を細めて、昔のことを振り返る祭。

 

 

「でも、今日のお前は違った。今のお前には、自信がある。覚悟がある。そんなしっかりとした目をしているんだ」

 

 

 それは、五年間隣にいた友だから言えた言葉だった。

確信を持った。

だから、俺は言葉を出すことができた。

 

 

「なぁ、祭。実はさ、俺、好きな人ができたんだ」

 

 

「面倒見がよくて、しっかりもの。それなのにまれにどっか抜けるところがあって。誰にでも慈悲深いけど、怒るとめちゃくちゃ恐くて。でも、どこか弱々しいんだ」

 

 

「俺さ、その人のこと見てると守りたいと思うんだ。誰よりも近くで、どんなものを敵に回そうと。その人のことはこの手で守りたいんだ」

 

 

 突然のことに、困惑することもなく。

祭は静かに、俺の話を聞いた。

 

 

「だから、ごめん。俺、お前との約束守れない」

 

 

 ずっと謝りたかったこと。

やっと言うことができて、俺は頭を下げた。

 

 

「行けよ。待ってるんだろ?その人が」

 

 

「祭?」

 

 

「お前が、自分からそんなこと言ってくるなんて、思ってもみなかった。いつも、他人の意見ばかり優先してたお前が」

 

 

「行けよ。ちゃんと守ってこい。自分で決めたんなら、最後まで突き通せ!」

 

 

 力強い声に背中を押され、気がつけば、走り出していた。

 

 

「本当、おかしいよな。夢なのに、本当にあいつと話しているみたいで。なぁ、悠真」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 もう、振り返ることはない。

押された勢いのまま、ただひたすらに走った。

ーーそして

 

 

「ほう、まさか夢から気づくとは」

 

 

 市と市を繋ぐ大橋。

その真ん中にやつはいた。

 

 

「さすがは、幹部を四人も倒したパーティーのリーダー。夢だと自覚した上、私を見破るとは。つくづく私は運に好かれてない」

 

 

「運?違うね。あんたが正体を隠す術は充分あったはず。現実〈リアル〉の人間に匂いがつくんなら、沢山の人間をこの夢に閉じ込めればよかったんだ。それも俺以外の抗魔力の低いやつを閉じ込めれば完璧。あんたの実力がなくて一人しか取り込めないのか、慢心したのか」

 

 

「私が慢心した?力が足りない。フハハハハ。面白いことをいうね」

 

 

 何がおかしいのか。

突然とち狂ったように笑い始める。

 

 

「確かに君は強い。それなりに頭も回るようだ。けれど、一つ勘違いをしている」

 

 

「……」

 

 

「これは君の夢ではない。私が君に夢を見せているのだ」

 

 

 他者に夢を見せるんじゃなく、自分の夢の中に閉じ込めるということか。

それなら、この夢に他の人間が入ってくるのも理解できる。

 

 

「私はもとより戦闘は苦手だ。そもそも本職は諜報。魔王様にもそれを買われて幹部にさせてもらっている」

 

 

「だが、この世界では、夢では別だ。なりたいもの、自身の能力をはね上げることなど容易にできる。さぁ、私が主役の、私の世界の中で君は私に勝てるかな?」

 

 

 夢とはそもそも、自分に都合のいいものだ。

現実にできないこと、なれないものになれるのが夢だ。

ーーだが

 

 

「それがどうしたんだ?」

 

 

「!?」

 

 

「これはお前の夢だ。だけど、俺が何もできないわけがないだろ?」

 

 

「何を勘違いしている。私が貴様に制限をかけてないとでも思ったか」

 

 

 試しにスキルを唱えるが使用できない。

 

 

「よかった。気づかれてなくて」

 

 

「なに?」

 

 

 再インストール

ーー分析終了

ーー解凍完了

ーー摘出完了

ーー具現化開始

〈因果を絶ち悪を切り裂く正義の剣〉

 

 

「なんだ。その剣は……」

 

 

 俺の右手に現れた剣に動揺を表す。

 

 

「なんで。そう思うだろ。祭と話させてくれたお礼だ。教えてやるよ。俺はこの剣に魂の契約をしてるんだ。だから、俺が呼び出そうと思えばどこにでも呼び出せる。例え、夢の中でもこいつを縛ることはできない。人を守ろうとする、この象徴はな」

 

 

「人理の護り手か……」

 

 

「その通り。それにしても、夢の中でよかった。夢の中なら、現実の本体には損傷が入らないからな」

 

 

「貴様!!」

 

 

「こいよ。手加減はいないでやるよ」

 

 

 杖から放たれた炎の弾丸。

そのすべてを紙一重でかわす。

 

 

 ーー甘い。

戦闘は下手だといっていたが、ここまで下手だとは。

攻撃がどこに来るのか、杖の方向を見ていれば容易にわかる。

正直言ってど素人。

 

 

「クッ」

 

 

 魔術回路はフルスロットルだ。

調子は最高だ。

魔力のほとんどを足に集中させる。

筋肉の伸び縮みに魔力のバネを加える。

地面からの反発も抜群。

 

 

「カースドライトニ……!!」

 

 

「遅い。〈因果を絶ち悪を切り裂く正義の剣〉!!」

 

 

 呪文が終わる前に、光を溜めた究極の一撃を、相手の胴体に叩き込む。

 

 

「なぜだ。なぜ私の計画は……。魔王様。魔王様ーー!!」

 

 

「興味ないな。魔王とか。でも、あいつに合わせてくれたことには感謝してるよ。例え夢でも」

 

 

 ラグクラフトが消えると共に世界が光の粒となりかすれてゆく。

切り捨てたものに後悔はある。

でも、選んだことに間違えない。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

〈悠真が夢からの目覚める少し前〉

 

 

「呆気なかったですね」

 

 

「まさか、一撃で沈んでしまうとは。なにはともあれ、ウィズさんが来てくださったおかげで助かりました」

 

 

「いえいえ、たまたま通り過ぎただけですので」

 

 

 ウィズさんに背負われたゆんゆんさんは、恥ずかしさのあまりか、背中に顔を埋める。

 

 

「本当にすいません……」

 

 

 悠真さんが眠らせられてから、真っ先に戦闘体勢に入ったのはゆんゆんさんでした。

なのですが、あまりに意気込み過ぎたため、魔力がオーバーロード。

そのままバンと、倒れてしまいました。

幹部自体は攻撃がバレバレで、左右からの、アイリスの〈永久に輝く勝利の剣〉と私の〈スターバースト〉で簡単に沈んだので問題はなかったのですが。

悠真さんとゆんゆんさんをどうやって運ぶか問題になり、困った時にウィズさんが通りかかってくれました。

 

 

「それでは、私はギルドに報告してきますね」

 

 

「そんな、申し訳ないですよ」

 

 

「いえ、皆さんお疲れですし。商会の寄り道になりますので」

 

 

 そういって、ゆんゆんさんを下ろすとウィズは行ってしまいました。

 

 

「私はもう大丈夫なので、二人は休んでてください。悠真さんを先に寝かせてきますね。……軽っ!」

 

 

「お願いします」

 

 

 悠真さんのあまりの軽さに驚いたのか、信じられない様子で担いでいきます。

 

 

「ふぅー」

 

 

「相当疲れてるんですね」

 

 

 微笑みながら私を見てくるアイリスちゃん。

その目はどこか見透かしている様子で。

 

 

「エリスさん必要以上に魔力消費してますよね」

 

 

「どうして、それを?」

 

 

「前々から怪しいと思ってました。悠真さん。爆裂魔法を使っても、平然に魔法を使うんですもん」

 

 

 どうやら本当にお見通しのようです。

 

 

「アイリスちゃんの目には敵いませんね」

 

 

「はい、これでもいろんなものを見てきたので」

 

 

 誇らしげに胸を張る、その姿は年相応の子で、とてもその背に重たいものを持っているとは思えない。

 

 

「エリスさん。悠真さんのこと好きなんですよね」

 

 

「え!?」

 

 

 突然の爆弾発言に思考が停止する。

 

 

「そうではないと、釣り合わないじゃないですか。人、一人分の魔力を肩代わりするなんて、普通じゃ考えられませんもん」

 

 

「それに、好きな人にしかキスなんかしません」

 

 

「あ、あれは!」

 

 

 本当に何もかもお見通しで……。

 

 

「もう少し、素直になってあげないと。悠真さん可哀想ですよ」

 

 

「は、はい」

 

 

 末恐ろしいお姫様です。

本当……。

もう少し素直ですか。

そうですね。

頑固だったのは私のほうだったみたいです。

 

 

 

 




投稿開始から一周年。
皆さんのおかげでなんとか、エタらず更新してこれました!
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本当にありがとうございました!
来年も、エタらないよう頑張りますのでよろしくお願いします。
それでは、良いお年を!

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