事の発端は朝まで戻る。これから一日が始まるという街に、一つの爆発音が響いた。
負傷者の数は街の人口の二割を超え、正門側の建物は木っ端微塵に吹き飛んでいた。
爆発の規模から爆裂魔法による可能性が大。その犯人の予想として、最近第一戦線の砦を爆破テロしていた魔王軍幹部、邪神ウォルバクが挙げられた。
「事態は既に最悪な状態に……か」
王都からの緊急外号から目を離し、辺りを見渡す。
現在、俺はギルドの椅子に座っているのだが、周りはあわあわとしている。怪我人の治療に、壊された壁の修復を呼びかけるギルドの役人たち。みんながみんな死に物狂いで動いている。
なんで、こんな状況になったのか。そもそも、街の二割を一瞬にして飛ばすとかなんだよ。ほぼ魔王軍で確定じゃないか。それにしても、なぜ魔王軍が王都じゃなくてここに?魔王軍幹部を倒してきたパーティーがいるから?ここアクセルが冒険者育成の始まりの街だから?王都の姫様がいるから?
考えること全てが答えな気がする。そもそも、今この国全体が打倒魔王のムードになっている。その中でも特に強いのが王都だ。つまり、王都には戦力が集中している。
それでいて、こっちのアクセルは幹部を倒したくらいで特に強いパーティーが沢山いるわけではない。しかも、ここを落とせば姫を人質にできるとともに冒険者を育成できなくさせれる。
あれ?結構やばくない。
「おーい、人運んできたぞ!」
「こっちはもう虫の息だ!プリーストを回してくれ」
「人を置ける場所なんてないわ!」
ギルドの中はもう地獄絵図。あっちこっちで叫びの声が上がっている。
「ユウマさん?大丈夫でしょうか」
「お前顔色悪いぞ」
「え」
突然役人のお姉さんとカズマに声をかけられる。そう、俺は今ギルドの奥で作戦会議をしているのだ。
「えっと、今の説明リピートお願いします」
「わかりました。現在、アクセルは正門側が壊滅状態に、幸い時期が時期なのでモンスターが入ってくることはありません。しかし、危険なのは変わりなく、攻撃が爆裂魔法だったとすると、また明日以降またいつ爆撃があるか。残念ながら、王都からここまでには早くても三日はかかります。増援が来るまで持つのは」
「この際逃げるとかないですか?」
これにはカズマもギブアップのようだ。思考を放棄している。
「残念だけどそれは無理だな。テレポート使えるのこの街に二人くらいしかいないし。歩いて逃げるにも負傷者運んだりせるのに時間とられて、その隙に襲われるに決まってるからな」
「頼むから現実を押し付けないでくれ」
「悪かった」
部屋の中は既にお通夜状態。外の悲鳴、罵声が響く。そんな中、申し訳のない顔で役人のお姉さんが口を開く。
「その、非常に言いづらいのですが。王都からの増援がくるまでの間、お二人方にどうにかしてもらえないでしょうか……」
「……」
「つまり、死ねと」
「おい、カズマ」
「ユウマ、俺たちは確実に死ぬぞ。今までは他の冒険者がいたり、戦えなくはない相手だった。でも今回は別だ。王都の軍を一人で相手できる上、爆裂魔法持ちでしかも邪神だ。俺たちは確実に死ぬ」
「……」
言われてみればカズマの意見はもっともだった。確かに今までの相手はごり押しが効いたり、弱点があった。しかし、今回はそういう次元の話じゃない。相手のレベルが違いすぎるのだ。王都には俺たちとは違ってマジのチートをもらって無双している冒険者だっている。そいつらが加わっている王都軍ですら、噂の邪神と互角という。
正直言って無理ゲーだ。
「ん、王都からの通信。……え?」
ファックスのような魔道具から出てきた紙を片手に固まるお姉さん。その表情は深刻で、この状態に更に追い討ちをかけるものだった。
「王都に魔王の娘率いる魔王軍が接近。これより緊急戦闘配備につくため、増援は不可能……」
それは、このアクセルの街の終わりを意味するものだった。
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「疲れましたー」
「怪我人が多くて看護大変だったね」
看護であちこっちを回っていたゆんゆんとアイリスはソファーの上でばたりと倒れる。二人とも相当こき使われたのだろう。もう一歩も動けないという感じだ。
「二人ともお疲れ様です。ユウマさんも作戦会議お疲れ様です。どうぞハーブティです」
「ありがとう。エリスこそ回復スキル使いまくってたんだから、しっかり休んでてくれよ」
じゃあと笑顔で返したあと、エリスもまた二人の倒れこんでるソファーに倒れる。三人とも街のために必死に頑張ってくれた。それに比べて俺はどうだ。策の一つ、アイデアすら出せずに諦めている。彼女たちは自分にできることを精一杯探してやっているのに。
「三人は休んでてくれ。少し外に言ってくる」
考えているのが馬鹿らしくなる。家を飛び出して、例の場所を目指す。そう、この街には一人いた。邪神相手でも張り合える奴が。
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「時期に来るとは思っていたが、我輩の予想より少し早かったな坊主」
エプロン姿でにやけた表情を浮かべながら、仮面悪魔は言った。
「要件は分かっている。が、お主の言葉で聞こう」
「この街で邪神相手にタイマンを張れるのはあんただけだ。頼む、結界魔法の全てを俺に教えてくれ」
ついに笑いを堪えることができなくなったのか、その甲高い声を人気の少ない通り全体に響かせる。
「フハハハハ!我輩に事の始末を頼むのではなく、教えを乞うか。……そのボロボロな身体で。傑作だな!フハハハハ!」
「ああ」
「覚悟はあるようだな。しかし、あの愚か者の曇りなき眼と言うのも、とんだ節穴のようだ」
「お主はあの馬鹿女神にこう言われただろう。あと二回が限度」
バニルが細かいことまで理解していることに、今さら驚きなどしない。だが、アクアの言っていることが間違えだと言う理由がわからない。
「別に間違えではない。確かに二回使える。そして二回目を使った瞬間にお主の精神が死ぬ」
「ああ、アクアからそう言われている」
「ゴリラに囲まれていると、どうやら同じ脳筋馬鹿になってしまうのか」
「どういうことだよ」
「どういうことも何も、まだ分からぬのか?」
バニルが何を言いたいかよくわからない。
あと二回が限度それに変わりはないだろう。
「仕方がない。ここまで言えば分かるだろう。二回目で精神が死ぬ。つまりあと一回は体は耐えられるのだ」
体は……。
なるほど、そういうことか。
「やっと分かったか。まぁ、こんなこと考えることもなかろう。そもそも、お主の身体は既にお主のものではなくなっている」
「未来で得ただろうお主の力と、自分勝手な馬鹿の力がぶつかりあって、とっくの前にお主の力は消滅している。そして、次に魔力の大量消費を行えば、二つの魔力はお主の体の支配権を得ようとぶつかり合いが始まる。そして最後の二回目でついに力に耐えきれなくなり、体が崩壊する。だが、」
「その前に俺の精神が崩壊する」
「そうだ。何しろ、人の身に過ぎた物が体全体を埋め尽くしているのだ。今でも耐えているのが奇跡なのに、その二つがぶつかり合ったりすれば精神が死なない訳がない」
その仮面を困らせながら、バニルは言う。
「精神と言うのは身体より脆い。些細なことで壊れてしまうからな」
どうして、もう少し自分を大切にできないか。普段気遣う事をしない悪魔にここまで言わせるほど、俺は頑固らしい。
「そらでも、教えを乞うのか?」
葛藤など、とうに放棄したさ。
「ああ、何がなんでも守りたい人がいるから」
悪魔は声に出さず笑った。そこに哀れみなどない。単純に嬉しかったように俺には見えた。
「いいだろう。我の全てを最短で教えてやる。報酬は高くつくぞ」
「安心してくれ。報酬は邪神討伐の懸賞金。これを全部やる」
本当に馬鹿な男だ。惚れた女の居場所のためにここまでやるのだからな。
「悪魔の契約は絶対だ。簡単には死なせぬぞ」
次回はカズマサイドで話を進めます。
ついに現れた最後幹部たち相手にどのような戦いをするのか。
どうぞお楽しみに!