この素晴らしい仲間達に救済を!   作:よっひ。〜

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第53話 針鼠のジレンマ

 

 

 

 

 

 体内を駆け巡る血に魔力を混ぜながら酸素とともに循環させる。脳に、肺に、心臓に身体中の臓器よいう臓器に隅から隅まで魔力が染み渡っていく。

おかしな感覚だ。例えるなら水の中に浮かんでいるとき、まるで自分が水と一体になっているような感覚で、そのまま流されていくような。

 

 

「そこまでだ」

 

 突然の制止に魔力を止める。目を開けてバニルを見るが、どうやら不服なようだ。

 

 

「馬鹿者、そのまま流されるやつがどこにいる!」

 

「いや魔力と一体になれて言ったのはそっちだろ」

 

 なにが納得できないのだろう。魔法の威力を上げるには魔力を常に身体中に満たしておくよう言ってきたのはバニルのほうからだったはずだが。……あ。

 

 

「やっと思い出したか。お主の体はお主以外の魔力が二つも混じっている。つまり魔力に流されれば、お主は戻ってこれなくなるのだぞ」

 

 

 言われて気づく事の重大さだが、あの魔力はなんというか心地のいい、受け入れ包み込んでくれるもので消して悪い印象は受けなかった。

 

 

「まぁよい。オマケのようなもので教えたことだ。今後気を付けるんだな」

 

「ああ、わかった」

 

「二日でやれることはした。あとはお前さん次第ということだ。せいぜい限界まで足掻いてみろ。さすればまともな結末を迎えられらだろう」

 

 

 珍しく激励の言葉を残して仮面の悪魔は去っていく。

やれることはやった。一つの魔法を残して結界魔法のほとんどを修得することができた。

 しかし、この二日間襲撃が無かったことは奇跡としかいえない。いつくるかわからない襲撃にかなり焦ったが、これならなんとかなりそうだ。

 

 

 

 

 

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 家に帰るとエリスが一人ソファーの上でノックダウンしていた。たぶん重傷者の手当てに一段落ついたのだろう。朝から晩までつきっきりで治療していれば流石に女神でも疲れるのだ。

 

 

「あ、ユウマさんお帰りなさい。お昼のご用意します」

 

「疲れているだろ?俺が変わりにやるよ」

 

 エプロンに手をかけた瞬間、おもいっきりソファーの方へ引っ張られる。

 

 

「ユウマさん」

 

「どうした?どこか悪いの……!?!?」

 

 

 ぬくもりが身体中を包み込む。突然のことで少しパニックったが、エリスの手を感触を感じて気づいたか。小さく繊細で綺麗だった指先が紙で切った傷あとと、なんどもなんども絞った濡れタオルのせいでしわしわになっていた。

 

 

「えへへ。私、頑張りました」

 

「ああ。本当に頑張ったよ。ごめんな無理ばかりさせて」

 

「大丈夫ですよ。ユウマさんも頑張っていますから。街を救うためにいつも夜遅くまで修行しているの私知ってますから」

 

 

 胸が温かくなった。誰かに褒めてもらう感触、認めてくれるうれしさ。そのすべてが愛おしく、泣きたくなるくらい温かいものだった。

 

 

「そういえば、ゆんゆんとアイリスはどこに?」

 

「二人ならカズマさんに呼ばれて屋敷にいます。なにやら大がかりな計画らしくて」

 

 

 カズマはカズマでしっかりと考えていたんだ。この街を守るため。みんな、できることを精一杯探してやったいたのだ。俺もなにがなんでと成功させなければならない。

 

 

「二人には内緒で外食をしようか。エリスの食べたいものを食べに行こう」

 

 

 少し間が空いたあと、彼女はにこやかに笑って言った。

 

 

「では、ピザでお願いします!」

 

 

 

 

 

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「いやー、食った食った。それにしても久しぶりだったなレストランでの飯なんて」

 

「そうですね。いろいろな大変でしたから」

 

 

 思い返してみればここ最近は騒がしい日が続いていた。世界最大のダンジョン、魔王軍幹部ラヴクラフト、アクア祭、襲撃。ほとんどが戦いの日々でアクア祭はつかの間の休みだった。

 

 

「今度はみんだで食べに来たいな。」

 

「ゆんゆんさんにアイリスちゃんはもちろん、カズマさんや先輩たちも呼んで大勢で。考えただけでも楽しいですね」

 

 

 この戦いが終わったら。そんなフラグを建てるようなことはあまり言いたくないが、せめて少しでも穏やかな日常に戻れたら。またみんなで集まって楽しみたい。血なまぐさい戦いや、面倒な事はすべて忘れて、そんな日を迎えられたら。

 

 

「もし、ここでウォルバクを討ち取ったら、あとは魔王だけになるんですよね」

 

「そうだな。何だかんだ他の幹部は倒したし、王都が魔王軍と交戦してるということは、魔王討伐もすぐそばまできてるしな」

 

 

 考えてみればエリスを天界に返すことから始まった魔王退治も、もう終盤戦を迎えている。終わりがすぐそば、あとは突っ切るだけなんだ。今がどうしようもないピンチでもそう考えるだけで少し心が軽くなる。

 

 

「ユウマさん」

 

「なに?」

 

 

 他愛のない言葉が一つ一つ重なる。

 

 

「私あなたが好きです。何気ない横顔やふざけてるときの姿。真剣な眼差しから声の一つ一つが。あなたのすべてが好きです」

 

 

 言葉が震えている。その姿は何かに怯えているようで。

 

「私怖くて、ユウマさんが戦う度にボロボロになっていくことが。外見が変わらずとも、内から壊れていってるようで、いつか本当にそのまま消えて無くなっちゃうと考えるよ、夜も寝付けなくて。だから……」

 

 

 無理をしないで。エリスの言いたいことは痛いほど伝わってくる。でもだ、無理をしないで勝てたことなんて今まで一つもなかった。俺にできることの常に一段二段だって飛び越えてやってきた。その結果が身体に巻き付いた時限爆弾のような魔力だ。

あと二回。それですべてが無くなる。けれどだ

 

 

「無理はするよ。今までだってそうだったし今回の相手はそれこそシルビアやマザーハーロット以上だ。無理をしないと勝てない。いや無理をしても勝算は低い」

 

 

 分かってる。どれだけ無謀な戦いか。シルビアの時はバックアップをとってくれる仲間がいたし、マザーハーロットのときは相手を上回る聖剣をもつアイリスがいた。でも今回は違う。カズマたちにはまだ話していないが今回のプランは俺とウォルバクの一騎打ちだ。バニルの話しによればウォルバクは邪神としての権能のほかに大量の眷属を召喚できる。この処理はめぐみんの爆裂魔法やアイリスの聖剣でも足りない。だから、眷属の足止めはアイリスたちに任せて、ウォルバクを真っ正面からなるべく早く倒す。幸い、こっちには〈因果を絶ち悪を切り裂く正義の剣〉と爆裂魔法がある。最悪、相討ちを覚悟しての戦いだ。

 

 

「大丈夫。だって俺には幸運の女神がついているんだから」

 

そう本当にこの一言に尽きるのだ。

 

 

「絶対に君のそばからいなくならない。最後まで守りつづける」

 

 

 

 

 駄目だ。私はユウマさんのこの表情に弱い。揺るがない決意と優しさが込められた顔。私が彼の中で一番好きなこの表情は、弱虫な私を前に導いてくれる。

 

 

「私だって絶対に離れません」

 

 

 いつの間にか落ち始めていた太陽は、夕陽となってオレンジの光で私たちを照らす。

彼と始めていたこの世界に降りたときに感じた、冬へ向かう秋の冷たい風が、素肌を優しく撫でた。

 

 

 

 

 

 




次回は閑話になります。とある先輩女神と後輩女神の話です。私なりの解釈が入りますが、どうぞお楽しみください。
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