前回かいたチトユーの続き。恋人になったならデートしなきゃですよねぇ!?

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少女終末デート

 

 

 

「ねぇちーちゃん」

「なに」

「デートしよう」

 

 ユーリの爆弾発言に、チトはケッテンクラートのアクセルを思い切り捻りこんでしまい、一瞬でトップスピードになって爆走。ガタガタと派手に散乱した瓦礫を吹き飛ばしたのち、豪快に急停車した。おかげでユーリは荷台で派手にシェイクされて目を回した。

 

「お前……いきなりなんだ」

「いやさ、私たちって晴れて『恋人』になったじゃん? 確か恋人って、『デート』っていうのをするって前ちーちゃん教えてくれたじゃん?」

「まぁ、そうだけど」

「じゃあしよう」

「なんでそうなる」

 

 いや、言わんとしていることはチトだって分かる。しかしそれにしてもいかんせん唐突過ぎてどう対処したらいいのかが分からない、というのが本音だ。

 

「するにしても、どこに行くんだよ」

「うーん。ここじゃないどこか」

「毎日してるだろ、それ」

「そだね。む、ということは。私たちは毎日デートをしていたってこと?」

「……ややこしくなるからやめよう。というか、私たちが毎日移動しているのはデートとは言えないだろ」

 

 チトはため息を吐くと、エンジンを再始動させて再び発進する。

 

「じゃあ、どうしたらデートになるの?」

「どうしたらって……そうだな、つまりいつもとは違う場所に出かけるとか、そんな感じのことだと思う。私たちは毎日上を目指してるだろ。いわばこれが日常。その日常から少し離れたようなことをしに行くのが、デートったやつだな」

「なるほどー。でも、例えばなにをしたらデートになるのかはわからないね」

「それは……」

 

 そう言われてチトは言葉に詰まった。チトの中で、デートと言うものは好きな人と娯楽を楽しむものだと理解はしている。

 しかし、この大規模な破壊によって廃墟と化した街に、娯楽ができるような場所はあるのだろうか。あったとしても、まともに機能するかどうか怪しいところだった。

 

『デート……フタリデ……ウマイモノヲクウコト』

 

 ユーリが首から下げているラジオから、何者かの声が響く。にょき、とユーリ胸元から謎の生物『ヌコ』が現れた。

 

「おお! ヌコいいことを言うね。確かにそれは特別なことだ!」

「ご飯なら毎日食べてるだろ」

「違うよちーちゃん、ご飯を食べるというのは生きるための特別なこと。そして美味いものを食べるのはもっと特別なことなんだよ」

『オイシイモノヲ……タベテコソノ……ジンセイ』

「その通り! つまりおいしいご飯を食べたらデート、だからちーちゃんご飯を食べよう!」

「さっき食ったから却下」

 

 うえぇ、とユーリは荷台で饅頭のように潰れる。ヌコもユーリの動きをそっくり真似してぺたりと荷台にへばり付いた。

 

「なぁユー。デートしたいっていうけどさ、してどうするのさ」

「んー。ちーちゃんともっと仲良くなりたいかな」

「これ以上に?」

「うん。もっともっとどこまでも」

「……そう」

 

 そういわれると少しばかり気恥ずかしくなった。『あの一件』からもう幾分か時間が経ち、チトとユーリの関係は今までのバディスタイルを保ちつつ、新しいものへと確実に変化していた。そして気づけばヌコが増えていてそれなりに賑やかになり、階層都市を進む日々を送っている。

 

「もっとちーちゃんと仲良くなれたら、どんなことが起きるんだろうね。もう口も体も重ねたから次は一つになるのかな」

 

 こいついらんことを言う。そう思いながらチトはユーリの重ねる発言はスルーし、さっさと次の段階に引きこむ。

 

「私を丸飲みにするとか言いだすなよ」

「するわけないじゃん」

「どうだか」

「少しずつ大事に保存しながら食べる」

「サイコ過ぎる」

『ナマデイッキ……サイコウ』

「頼む、そろそろおぞましい気がしてきた」

 

 物理的に食べられるのは何としてでも御免被る。チトは後ろでじゃれ合う二人を横目に見ながらケッテンクラートを走らせる。実際のところ、チトだってこの都市を彷徨う日常とは違うこと、つまりデートに近いものをユーリとはしてみたいとは思っている。

 二人で古代人の痕跡を見付け、それが何なのかを考えてみたり触れてみたり、そう言ったことは時折ある。だが、それはどちらかというと生き残るために情報を集め、その最中に触れるものだから俗にいう『デート』とは言えないのではと思う。

 いわば、自分たちがしているのは生きるための義務、『仕事』ということになるのだろう。そうなればデートと言うものは、何も気にせず『遊ぶ』ことをすればいいのではないかとチトは結論付けた。

 

 とすれば、必要なのは『遊ぶ場所』である。それも子供の頃の自分たちがしていた雪合戦やかくれんぼとは全く違うようなことができる場所、である。

 

 そして、チトは自分が読んだ本の中に、それに当てはまりそうな物があったのを思いだした。

 

「そういえばさ、ユー。本で見たんだけど、昔は遊園地っていう遊ぶ場所があったらしいぞ」

「ゆーえんち?」

「遊ぶための乗り物が置いてある場所だって」

「へー。どんな風に遊ぶの?」

「よく分からないけど……本によると、カップみたいな乗り物に乗ってグルグル回ったり、レールの上を高速で走る列車みたいなのに乗ったり、動物を模した乗り物に乗ったりするらしいよ」

「なんでカップに乗るの?」

「私にもわからないよ。でも、昔の人はそんな場所でたくさん遊んでいたらしいよ」

「じゃあ、この町のどこかにもあるのかな」

「それはわからないけど、そこで遊べたらデートってことになるかもね」

「よし、探そう!」

 

 ふんすと鼻を鳴らすユーリ。チトは言うだろうなとは思っていたが、その気合の入り方からしてかなり本気だということが伺えた。

 

「んなこと言っても、この都市の広さだって尋常じゃないんだから、そう簡単に見つからないだろ。探しても燃料切れでの垂れ死ぬよ」

「ちぇー。ちーちゃんとデートしたいなー。実はすぐ近くにゆーえんちあったりしないかなー」

 

 ぶーぶーと不満を垂らすユーリ。そんな都合のいいところにあるわけない堂。チトはそう思いながら適当なところでハンドルを切る。

 

 けど、実を言うとチトも、もし叶うのであれば一度でいいから行ってみたかった。

 

 

 

 

「ねぇちーちゃん」

「なんだ」

「変なところに来たね」

「うん」

「あそこに大きなカップみたいなものがあるね」

「そうだね」

「遠くにはレールみたいなのがグルグル回ってるね。列車が走れそうな」

「本当にね」

「向こうには、動物みたいな置きものがあるね」

「全くだ」

「で、この看板に書いてる文字はなんていうの?」

 

 ユーリは文字が大きく描かれた看板を指さす。チトはその文字を目で読み、頭で読み上げ、そしてユーリに聞こえるように言葉にした。

 

「……ゆうえんち」

「あったね、ゆーえんち」

「都合よすぎだろ」

『ヨノナカ……ワリト、セマイ』

 

 そういうわけで、二人は幸運にも行先で遊園地を見付けることに成功したのである。

 

「よし、ちーちゃんデートだ」

「いやいやいや待て待て」

 

 都合が合えば即実行に移すユーリであるが、都合がよすぎると思考が追いつかなくなるがチトである。

 

「よく考えろ。するにしたってかなり昔の施設だぞ。動くかどうかもわからないのに遊ぶって言ったって」

 

 事実そうだ。電気が生き残っている箇所があるとはいえ、この施設が稼働するかなんて保証は一切ないのだ。仮に稼働したとしても、自分たちにはこれをどう動かすかなんて分からない。下手すれば何か危険なことに巻き込まれる事だってあり得る。

 

 すると、突如としてチトの目に光が突き刺さり、思わず瞼を閉じる。ゆっくりと薄目を開けてみると、死んでいたかと思われていた遊園地の電源が点灯していた。一体なぜ?

 

『ウゴク、ウゴク』

 

 見るとヌコが主電源らしき機械に貼り付いて何やら操作をしているようだった。

 

「動くって、ちーちゃん」

「万能すぎだろ、ヌコ……」

 

 電気の生きている遊具の数々、そして期待に胸膨らませ、目を輝かせるユーリ。チトは色々と突っ込みたいところ、考えたいことがあったのだが。

 

「…………わかったよ。してやるよ、デート」

「わーい! ちーちゃんとデートデート!」

 

 心底嬉しそうに喜ぶユーリを見ていると、全てがどうでもよくなった。

 

 

 

 

「で。どうやってデートしよう」

「何も考えて無かったのか」

 

 二人はとりあえずこの遊園地なる施設で遊んでみることにしたのだが、いかんせんどうしたらいいのか分からないのが現状だった。

 

 一先ず、目と鼻の先にあった大きなカップに向かい合う形で座ると、チトとユーリはじっくり考えることにした。

 

「私たちが乗ってるこれさ、ちーちゃんが言ってた大きいカップだよね。これなんの意味があるんだろう」

「たぶんどうにかしたら動くんだろうけど、それにしてもさっぱり分からん」

「きっとあれだよ。この真ん中の丸いテーブルにお茶を置いて飲むんだよ」

 

 ふむ、なるほどとチトは唸る。人が乗れるカップ、その真ん中に丸いテーブル。もしかしたらお茶を楽しむためにこういった装飾をしているのかもしれない。

 

「あ、でもこれが回るっていってたから、回ったときお茶飛び散って大変だよね」

「自分で言っておいて自分で否定するのか」

 

 チトは目の前の丸いテーブルをノックしてみてる。コンコンとそれなりに頑丈そうな金属音。机にもちょうどいい高さ。果たしてこれをどうしたら遊ぶのか。

 

『コレ……ウゴカス』

 

 すると、ヌコが少し離れた箱のような建物の中にいた。動かす? チトがそう思った瞬間、ジリリリリとベルの音が鳴り、ゴウンとカップが動きだした。

 

「おっと」

「おお、動いた!」

 

 ヌコが電源を入れたことにより、二人の乗っているカップが周りのカップと共に回転を始める。なるほど、動くとこうなるのか。チトはグルグルと回る景色を眺める。

 しかし、こういってはあれだが何か地味である。確かに動くとさっきよりは面白い。が、刺激を感じるほどではない。例えるならケッテンクラートに乗って風を切っているときと同じような感じだ。

 

「なんか、地味だね」

「うん。こんなものなのかな」

「……もしかして、これテーブルじゃないのかな」

 

 ユーリは目の前の丸いテーブルを両手で持って回してみた。少し錆ついて固かったが、ぎぃ、と音を立ててテーブルが回る。

 すると、わずかだが自分の乗っているカップその物が回った。ユーリは何か手ごたえを感じ、力いっぱい回してみる。今度はさっきよりも勢いよく回った。

 

「おお! 回る回る!」

「ほ、本当だ。回るってこういうことだったんだ」

「いよっしゃー!」

 

 コツをつかんだユーリは、真ん中のテーブル改め、身を乗り出してハンドルを思い切り回転させる。

 

「うひょー! なにこれウケる!」

「ちょ、ユー……これ早すぎ……」

「んまだまだぁ!」

 

 危険を感じ始めているチトをよそに、ユーリはありったけの力を込めてハンドルを回転させる。その勢いはダイレクトにカップへと伝わり、回転数が一気に増していく。

 しかしチトにとってはたまったものではない。視界が残像となり、どうにか自分の置かれている状況を理解しようと景色を追いかけるが、目が全く追いついていない。たまらず叫ぶ。

 

「ユー! 止めて、無理止めて!」

「止め方分かんねぇ!」

「あ゛――――!!」

 

 ユーリの回転数がとんでもないことになり、チトは完全に目を回す。そしてユーリも自信が目を回していることですら楽しくなり、一心不乱にハンドルを回す。そしてその遠心力でチトの体がずるずると引きずられ、一瞬で吹き飛ばされてユーリの頭に激突し、その衝撃でユーリはようやくハンドルを回すのを止めた。

 

『ヌイ、オワリ』

 

 一定時間経過し、カップが停止する。ヌコが見てみると、チトとユーリは体が重なる形で目を回していた。

 

「ふへ、ふへへ……世界が回ってるー」

「うっぷ……ユー、後で覚えて……ろよ」

 

 チトはどうにか立ち上がろうとするが、世界がグルグルと回っていてどこが水平なのか、自分がまっすぐ立っているのかわからず、ぐらりと体が傾いてユーリの上に倒れこんだ。

 

「あでっ。ちーちゃん痛い」

「うっさい……うぷ、立てない……回しすぎだよバカ」

「えへへ、ごめんごめん。でも楽しかったね」

 

 若干目を回しながらも、ユーリは満足そうな顔で言う。ようやく視界を取り戻したチトは、元に戻ったら一発殴ろうと思っていたが、ユーリの笑顔を見たらやる気が一気に消えた。

 

「……まぁ、刺激的だったよ」

 

 

 

 

「よし次だ!」

 

 と、ユーリは意気込んで次なる乗り物を目指す。その乗り物を見てチトは顔が引きつるのを隠しきれなかった。

 

「あれ……乗るのか」

「乗る」

「危ないだろ、どう見ても」

 

 チトは目の前にそびえる曲がりくねったレールを見てげんなりする。恐らく列車のようなものに乗るのだろう。レールをスタート地点から追いかけると、長い長い坂道を上り、高いところまで行ったと思ったらほぼ垂直にレールが落下しており、その先で正気とは思えない角度の連続カーブ、そして宙返りなどなど。二人はそれがジェットコースターという絶叫マシンだということはもちろん知らない。

 

「じゃ、ヌコ動くか試してみてくれる?」

『ヌイッ』

 

 ヌコがユーリの首からするりと降りると、乗り物に向かって走っていく。おいおい冗談だろ、お前はあれに乗るつもりか? チトは若干後ずさりしながら問いかける。

 

「いや待て、絶対危ないって。あれはきっと遊び道具じゃなくて誰かを懲らしめるための乗り物だよ」

「スリルもまた娯楽だよ」

「お前の頭の中どうなってんだよ、ほんとに」

「ん、見る?」

 

 がぽ、とユーリはヘルメットを脱ぐ。いやそうじゃないとチトが突っ込みを入れようとしたところ、ゴウンと何かが作動し、チェーンが擦れるような音が響いた。

 

「お、動くっぽいね」

 

 ユーリが目を向けると、ちょうど列車のようなものが動きだし、坂道をガラガラと音を立てて登っているところだった。見てみるとその角度も結構な角度で、自分はもうあそこでギブアップしたくなるに違いないと察する。

 

 やがて坂道のてっぺんにまで到着した無人の列車は、坂道を重力に従って急降下。一瞬姿が見えなくなったと思ったらおぞましい角度のカーブを次々に突破し、宙返り。目にもとまらぬ速さでグルグルと走り回り、そしてスタート地点に戻っていった。

 

 それから少しして、ヌコが戻ってくる。

 

『イジョウナシ』

「だって。いこっか」

「お前本当に頭どうかしてるだろ! やだ!」

「行こうよ行こうよ、私がいるから大丈夫だって」

「いーやーだー!」

 

 こうなったら走ってでも逃げる。一歩踏み出そうとした瞬間にチト手首をユーリが掴む。やばい、こうなったら本当にやばい。ユーリの馬鹿力に勝てないのは、チトが一番よく知っていた。

 

「待て、ユーリっ、ちょっと、ほんとにっ!」

「まぁまぁそう言わず、デートを楽しもうよ」

「いやー! 死にたくない、本当に!!」

 

 ずるずると引きずられ、どうにか足を踏ん張って耐え凌ごうとするがやはり無理だった。というか、最終的にチトはユーリにお姫様抱っこされる形で連行され、あっという間にコースターに乗せられてしまった。

 

『アンゼンバー、サガル』

 

 ヌコがそういうと、二人の体は太い棒でがっちりと固定される。恐らくこれで乗った人が落ちないようにするのだろうが、それにしたってチトは自分が刻一刻と死に迫っている気がしてならず、今回ばかりはユーリを恨んだ。

 

「まって……本当に、まって」

「何とかなるって。ヌコあとよろしくー」

『ヌイ』

 

 ゴウン、とコースターが進み始める。チトはついに始まったと体が震える。ユーリの顔を見てみると、わくわくした顔をしていてこいつの頭のねじを締めなおして、ネジ固定剤で二度と抜けなくなるようにしてやりたかった。

 

 気づけば坂道を急角度で登り始め、周りを見ると着実に高さが増していてチトの恐怖は一気に駆け上がる。たまらずユーリの腕にしがみついた。

 

「ちーちゃん、大丈夫だよ」

 

 すると、ユーリがチトの手袋を外した。こんな時にいったい何を? そう思っていると、ぎゅっと手を握られてチトは思わず顔を上げる。

 

「ユー……」

「なんか起きたら、その時はその時だよ」

「あ゛ーーーー!!」

 

 絶望を言い渡されたチトは本日二度目の絶叫。刹那、二人の体を強烈な浮遊感が襲う。チトは眼前に迫る地面を見て死を覚悟するも、直後に急旋回。強烈な重力が襲い掛かり、ユーリの手を握る力が強くなる。それに答えるかのように、ユーリの手がそれ以上の力で握り返してきた。

 

 宙返り、再び急上昇に急降下。チトの体は人生で類を見ない程上下左右に振り回され、何か起きるたびにユーリがケラケラ笑っていて、無性に腹が立ったが次の急降下でその考えも吹き飛んだ。

 

「いやぁあーーーーっ!!」

「あははは、ちーちゃんのそんな声初めて聴いたー!」

「絶対後で殴るーーっ!!」

 

 そうして、チトとユーリはトンネルゾーンの中へと消えていき、その中からも一人の少女の絶叫と、一人の少女の笑い声が響き続けた。

 

 

 

 

「ちーちゃん、ごめんってば」

 

 コースターは無事にスタート地点に戻り、ユーリは意気揚々と降り立ったが、高所から体を振り回されたチトにとってはたまったものではなく、腰が完全に抜けて立ち上がることができなくなっていた。結局行きも帰りもユーリに抱っこされて運ばれ、今は近場のベンチの上で休んでいる。

 

「ほんとに……二度と乗らないから」

「私は楽しかったけどね」

「お前と私を一緒にするなよこの体力お化け」

「がおー」

 

 両手で怪獣のポーズをするユーリだったが、チトはため息を吐いて無視することにした。

 

「……ごめんね」

「ん」

 

 ちらりとユーリの表情を伺うと、心配そうに自分の顔を覗き込んでいる。ああ、これは反省している時の顔だ。少し寂しそうな顔でじっとユーリは見つめてくる。

 

(まったく……そんな顔されたら)

 

 はぁ。チトは再びため息を吐いて問う。

 

「楽しかった?」

「え? うん、楽しかったよ」

「そう。ならいいよ」

 

 チトはゆっくりと体を起こし、大きく伸びをする。幾分か体の調子も戻ってきた事だし、軽くストレッチをしながらユーリの方に目を向ける。

 

(許すしかないだろ)

 

 ユーリの笑顔を見れれば、満足だった。そう思ったところでチトは理解する。そうか、相手の楽しそうな表情を見ることができる。これは自分にとっても幸せなことだ。デートというものは、お互いが幸せになっていくために必要な事なのだ。

 

 それも、いつもの毎日ではきっと経験できないことをしてからこそ、感じることのできるのだ。

 

「じゃあさ、ちーちゃん。次はどれにする?」

「とりあえず優しい感じのやつで」

「ヌコ、どれならちーちゃんが大丈夫そうな奴かわかる?」

『アノノリモノハ……ヤサシイ』

「よし来た。行こっか」

 

 ベンチからストンとジャンプし、チトの手を握ると、今度は少しゆっくり目でのペースで歩きだす。意外としっかりと気遣ってくれていることに、チトは感心し、そして自分が大切にされていることを改めて感じて嬉しくなった。

 

「ユー」

「ん、どしたのちーちゃん。やっぱりまだ動けない?」

 

 ジェットコースターに乗せたことを少し気にしているのだろう。ユーリは立ち止まって振り返り、チト様子を伺う。その仕草がいつもよりかわいく見えてしまう。きっと、いつもと違う体験をしたからだ。

 

「いや。もっと遊ぼうな」

 

 その言葉を聞き、ユーリは満面の笑みで頷いた。

 

 

 

 

 その後、二人は作動する遊具に片っ端から乗っては遊びを繰り返し、食堂の跡地でご飯を食べてからまた遊びの繰り返しだった。動物を模した乗り物はグルグルと回転するだけだったが、音楽が流れたりして意外と楽しかったし、幽霊が出てくるという建物ではチトの絶叫が響き渡り、その度にユーリに抱きついて最後はおんぶされながら出てきたし、流れる川に船で乗って遊覧……かと思いきや最後の最後で急降下して飛び込むしで、正直チトは心臓に悪いものが多い気がした。

 

 だが。その全てを楽しんでいるユーリはやっぱり可愛くて、怖かったりしたけれども、ユーリがいれば安心できたし、なんだかんだで思い返してみると自分も楽しんでいたことにチトは気づく。

 

(デートって、いいものだな)

 

 ベンチに座り、休憩がてら水を飲みながらチトは思う。周囲を見回すと階層都市の隙間が赤く染まっており、夕暮れが近いことを知らせている。そうだ、薄暗いから忘れていたけど、今はまだ日が出ていたんだな。チトはユーリに次はどうするかを聞く。

 

「ユー、結構乗ったけど次はどうする? そろそろ日が沈むけど」

「それなら、最後にあれ乗らない?」

 

 ユーリが指さす方向を見てみると、一際目立つ丸いものがあった。その先端にはゴンドラがぶら下がっていて、よく見るとゆっくりと回転しているのがわかった。そう、観覧車である。

 

「あれ、か」

 

 チトは少しばかり体が震えた。言わずもがな、てっぺんまで行くと相当な高さがあるからだ。確か読んだ本では、あれはゆっくりと上まで登り、景色を楽しむものだとあった。

 こんな階層都市でいったい何の景色を楽しむのだろうかと思ったが、普段見ない景色を見るのも悪くないだろうとチトは思いなおす。なに、さっきのジェットコースターに比べたら可愛いものだ。それに、ユーリが望むのなら叶えてやるのが相棒、恋人の義務だ。

 

「やっぱり怖い?」

「大丈夫だよ。さっきのに比べたらね。ヌコ、安全点検よろしく」

『ワカッタ』

 

 三人は観覧車にたどり着くと、ヌコが早速基盤の方へと滑り込み、チトとユーリはどうやって乗るのかを調べる。調べる、といっても動いているゴンドラの扉を開けるだけでいいと分かったから、シンプルな造りに感謝する。

 

『モンダイナイ』

「よっしゃ。あ、でもヌコばかりに機械任せちゃってるよね。一緒に乗る?」

 

 ユーリが手を出し、おいでと言う。そういえばヌコは一度も一緒に乗り物に乗らず、ずっと機械の見張りをしてくれている。さすがにそればかりでは申し訳立たないし、チトもそうした方がいいだろうと思う。

 

 しかし、ヌコは首を横に振って言った。

 

『オジャマハ……シナイシュギ』

「……うん、ありがと」

 

 どうやら気を使ってくれているようだ。ならばその言葉に甘えて、あとで大きめの弾丸を食べさせてやろうとチトは決める。

 

「ヌコありがとうねー」

『イッテラッシャイ』

 

 二人はゴンドラに乗ると、扉を閉めて向かい合う形で座る。ゆっくりとゆっくりと観覧車は回転し、ゴンドラに乗った二人を上へと連れていく。

 

 しばし二人は窓の外の景色に目を向ける。階層の隙間から覗く太陽は少しばかり都市の水平線に沈んでいて、真っ赤な空が覗いていた。昇降機から振り落とされて見た夕日も、こんな赤い空だったとチトは思いだす。

 

 それから四分の一ほど上り終えると、下の階層都市が見えるようになる。電気が生きているのか、街灯が点灯してキラキラと星のように輝いていた。二人は思わず声を漏らした。

 

「すごい……星空みたいだ」

「高いところじゃないとわからないね」

「地上の星、ってやつかな」

「ちーちゃんって結構ロマンチストだよね」

「だめか?」

「ううん。ちーちゃんのそういうところ好きだよ」

「なっ!」

 

 突然の告白にチトはユーリの顔を見てしまう。彼女は朗らかな笑みで

チトのことを見つめていた。それがたまらなく綺麗で、チトは自分の顔が真っ赤になっていくのが手に取るように分かった。

 

「ばか、いきなりなに言ってるんだ」

 

 赤くなっている顔を見られたく無くて、チトは思わずヘルメットを深くかぶってそっぽを向いてしまう。ユーリは微笑みながら言葉を重ねる。

 

「そっち行っていいかな」

「な、なんでだよ」

「だめ?」

 

 あーもう。またそんな顔をする。そんな顔でそんな寂しそうに聞かれたら、断れないじゃないか。チトはユーリに対して甘くなっている自分に気付く。いや、もしかしたらずっと前からそうなってたのかもしれない。自分が見ないふりをしようとしていただけで。

 

「……いいよ」

「ありがとね。よっと」

 

 ユーリがゆっくりと立ち上がり、一歩進む。すると重心が移動したことでぐらりとゴンドラが揺れ、チトは冷や汗をかく。だがユーリの方はバランスを崩しそうになっていて、これはまずいと脳内で警鐘が鳴り響く。

 

「おっとと」

「うわ、ユー危ない!」

 

 ユーリはチトにぶつかりそうになったが、両手を広げて回避しようとする。チトも衝撃を和らげようと手を広げてユーリを受け止め、二人は抱き合う形になった。

 ほんの一瞬二人で見つめ合い、チトはドキリとする。とても近い。でもこれくらいの近さは過去で幾度となくあった。

 しかし、チトの心臓はこれまでにないくらい脈打っていて、思わずごくりと唾を飲みこんでしまった。この喉の渇きが激しくなるような感覚をチトは知っている。どうしようもなく、どうしようもなく口が寂しい。どうして自分がこうなったのか、そこはやたらと冷静に理解できた。

 

 ユーリが、欲しいのだ。

 

 チトは無意識のうちにユーリの頬に手を置く。モチモチで柔らかいほっぺだ。いつまでも見とれていたい、いつまでも触っていたい大切な人の頬が、とにかく愛おしかった。

 

 手を滑らせ、首元に触れる。ユーリは心地よさそうに目を細め、しばしされるがままになる。それからユーリもチトの頬に手を置き、耳元をそっと撫で、チトはくすぐったくて声を漏らす。

 

「んっ」

「ちーちゃん可愛い」

「……うっさい」

 

 お返しだと、チトは髪の毛をくしゃり、と撫でる。癖毛の金髪が夕日の光に反射して透き通るように美しかった。

 

 もっと見たい。ヘルメットやフードの中に隠すのは、もったいない。チトはユーリのヘルメットに手を伸ばして外し、そのままフードの中に隠れていたユーリの髪の毛をすべてさらけ出す。ユーリの無防備な髪の毛がはらり、と舞い降りてその動きでチトは自分の胸が高鳴るのを感じた。

 

 それを見て、チトは急に自分のヘルメットが鬱陶しくなった。ああ、もう邪魔だ。手袋もいらない。半ば乱暴にヘルメットと手袋を外す。

 コン、と二人のヘルメットがぶつかり、まるでそれを待っていたかのようにユーリが額をくっつけてきた。

 

「ちーちゃん欲しがりだね」

「なんのこと」

「直接触りたいんでしょ」

「お前だって手袋ずっと外してるだろ」

「ばれた?」

 

 当り前だろう。チトは思わず微笑んでしまう。考えていることは結局同じで安心した。

 

「……ユーリ」

 

 自分でも驚くくらい甘い声が出た。普段なら絶対に出ないような猫なで声。欲しい。ユーリが、欲しい。喉がカラカラで口が寂しい。おいしそうな唇が目の前にある。

 

「ちーちゃん」

 

 そして、ユーリの口から漏れる彼女の甘い声。

 

 もう、我慢できなかった。

 

 観覧車がてっぺんに到達するのと、太陽の半分が水平線に沈むのと。

 

 二人の少女の唇が重なるのはほぼ同時だった。

 

「……っはぁ」

 

 どれくらいしていたかはわからない。一秒か、十分か永遠か。でも、観覧車が下りに入ったばかりだったから、意外と短かった事だけはわかった。

 

 少し離れた先にいるユーリは、夕日のせいなのかそれとも照れているからなのか、顔が赤くなって目が少しとろりとしていた。ああ、なんて美しいんだろう。チトは夕日に映える彼女の笑みがたまらなく愛おしくて、涙が浮かんでいることに気付く。

 

「夕日が目に染みた?」

 

 ユーリが少し皮肉っぽく聞いてきた。こいつ、私の思ってることわかっているくせに。でも、それでこそユーリだとも思う。チトは涙を拭いながらその挑発答える。

 

「ああ、そうだよ。まったくいい景色だな」

「そうだね」

 

 改めてユーリはチトの隣に座り、下っていく景色を目に焼き付ける。光の王様の太陽は眠るように沈み、ちっぽけな街灯たちが暗くなる世界を必死に照らし出そうと光り輝く。その光の集合体は、昼にしか現れることのできない太陽では、決して表現できない世界を描いていた。

 

「ユー。楽しかったよ」

「ほんと?」

「うん。デートって大事だな」

「じゃあ、またどこかにデートに行こうか」

「遊園地はもう無いかもしれないけどね。でも、日常から離れて二人で過ごすっていうのは、案外簡単にできるかもしれない」

 

 太陽が水平線の彼方へと消えていく。二人はその姿をじっと見届ける。空が、町が夜を迎え入れる。その一秒一秒が切なくて、尊くて、少し寂しくなる。でも、握りあった相棒の手はとても温かかった。

 

 それさえあれば、どんな切なく、尊い世界も美しく見えるに違いない。チトは、そう思った。

 

 

 

 

「いやー、遊んだ遊んだ」

「宿泊施設があって助かったな。水も補給できたし」

 

 水の入ったタンクを荷台に置き、チトとユーリはそれぞれ運転席と荷台に乗りこむ。少し遅れてヌコがぴょんとユーリの胸に飛び込み、くるりと首に巻き付いた。

 

「そういえばさ、ちーちゃん」

「んー?」

「あのでっかくて丸い奴に乗ったとき、私はちーちゃんの好きなところ言ったけど、ちーちゃんは私に言ってくれて無いよね」

「んな……」

「ちーちゃんは私のどこが好きなの?」

 

 くるりとユーリが体の向きを変えて問いかける。ああもう思いださせるな。あの時は勢いというかそんな気分というか、不思議な気分で普段出さないところが出てしまって今にして思えば恥ずかしくて仕方がなかった。

 

「……いや、だな」

「ないのー?」

「そ、そんなこと……」

 

 そんなことない、と言いたい。ユーリの好きなところは数え切れないほどある。でも、恥ずかしいし言ったらからかわれるに決まってる。チトは首を振ってあえてつっけんどんな声で返事した。

 

「ない。そんなことない。でも言わない」

「うえー!?」

「さっさと行くぞ」

 

 ケッテンクラートのエンジンを始動させ、発進。トトトトト、と聞きなれたエンジン音が耳を包んだ。

 

「一個でいいからいいなよー、不公平だよー」

「言わない」

『フコウヘイダー』

「ヌコが言っても言わない」

「レーション一本あげるから」

「いらない」

「教えなよってー」

「ない」

「照れなくてもいいんだよー?」

「ない、ない、なーい」

 

 

 

 

 

少女終末デート 了

 


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